『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第8講】
株主総会が戦場になる日
― 招集請求・検査役・委任状の攻防:「手続を制する側が勝つ」総会の実務 ―
「先代の弟である取締役と決裂しました。彼は親族を合わせて35%を持っています。来月の定時総会で彼を再任しないつもりですが、向こうも何か仕掛けてくると思います。何に気をつければよいでしょうか」
「株主から内容証明で『取締役解任の件を目的とする臨時株主総会を招集せよ』という請求が来ました。無視していたら、裁判所から書類が届きました」
「総会当日、相手方の株主が弁護士を代理人として連れてきました。定款には『代理人は株主に限る』と書いてあります。入場を断ってよいですか」
この講の結論
非上場会社の株主総会は、平時には形式的な手続にすぎません。しかし株主間の対立が表面化した瞬間、総会は経営権を争う主戦場に変わります。会社法は、攻める側には株主提案権(303条・305条)、総会招集請求権(297条)、総会検査役の選任申立て(306条)という三つの道具を、守る側には議長の権限(315条)と説明義務の限界(314条)を与え、そして双方に対して決議取消しの訴え(831条)という結果の判定手続を用意しています。
紛争総会は「多数派が勝つ」単純な多数決ではありません。招集通知の漏れや期間不足、取締役会決議を欠く招集、代理人の不当な排除、議決権数の誤認定といった手続の瑕疵は、そのまま決議の取消しにつながり、役員選任決議が取り消されれば経営体制そのものが覆ります。手続を制する側が勝つ。これが紛争総会の唯一の原則です。多数派であっても、招集通知の発送前から弁護士を関与させ、時系列で手続を管理する必要があります。少数派にとっては、多数派の手続ミスこそが最大の武器です。
1「シャンシャン総会」が一変するとき ― 紛争総会の構造
非上場会社の大多数では、株主総会は年に一度、決算の承認と役員の選任を数分で終える儀式です。招集通知を出さない、議事録だけを作る、そもそも開いていない、という会社も少なくありません(この状態の危険は企業内部紛争36講・第12講で扱っています)。平時にはそれで表面上の問題は起きません。株主全員が経営陣と一体だからです。
この前提が崩れるのが、株主間の対立です。兄弟間の経営方針の不一致、先代の死亡による相続人の登場、退任した役員の株式の残存、株式買取業者への譲渡。きっかけは様々ですが、対立が表面化した瞬間から、株主総会は「誰が取締役になるか」を決める唯一の法定の場として、経営権を争う主戦場になります。取締役の選任・解任はいずれも株主総会の決議事項であり(329条1項、339条1項)、多数派は総会で少数派の取締役を解任でき、少数派は総会の手続の瑕疵を突いて多数派の選任決議を覆すことができます。
図解A 平時の総会と紛争総会 ― 同じ手続が違う意味を持つ
図解A 紛争総会では、平時に誰も見ていなかった手続の一つひとつが争点になる
本講では、この三つの局面に沿って、攻める側と守る側の双方の視点から実務を整理します。前講(第7講)で扱った帳簿閲覧請求と株主提案権は、この構図の「総会前」に位置づけられます。
2攻める側の三点セット ― 提案権・招集請求・総会検査役
会社法が少数株主に与えている、総会に働きかけるための道具は三つあります。
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| 道具 | できること | 要件(公開会社でない取締役会設置会社) | 条文 |
|---|---|---|---|
| ① 株主提案権 | 会社が招集する総会に、取締役の選任・解任などの議題を追加し、自分の議案の要領を招集通知に載せさせる | 議決権1%以上または300個以上。保有期間不要。総会の日の8週間前まで | 303条2項・3項、305条1項・2項 |
| ② 総会招集請求権 | 会社に臨時株主総会の招集を請求し、会社が応じなければ裁判所の許可を得て自ら総会を招集する | 議決権3%以上。保有期間不要 | 297条1項・2項・4項 |
| ③ 総会検査役の選任申立て | 総会の招集手続と決議方法を調査する検査役を、総会に先立って裁判所に選任してもらう | 議決権1%以上。保有期間不要。会社自身も申し立てられる | 306条1項・2項 |
図表1 攻める側の三点セット ― 定款で要件を緩和することはできるが、厳しくすることはできない
三つの道具は役割が異なります。①は「会社が開く総会」に乗る方法で、定時総会の時期が近いときに使います。②は「自分で総会を開く」方法で、会社が総会を開かない、あるいは自分の議題を取り上げない場合の正面ルートです。③は勝敗を直接左右する道具ではなく、総会の手続を中立的な第三者に記録させることで、後日の決議取消しの訴えに備える証拠保全の道具です。実務では、①または②で総会を実現し、③で当日の手続を固定する、という組合せで使われます。
いずれについても、公開会社でない会社では「6か月前から引き続き」という保有期間の要件がありません(297条2項、303条3項、305条2項、306条2項)。株式を取得したばかりの相続人や譲受人でも、持株比率さえ満たせば直ちに行使できるということです。会社側は、「最近株主になった者だから」という理由でこれらの請求を拒むことはできません。
3招集請求から「株主が開く総会」まで ― 297条4項の実務
総会招集請求権は、少数株主が「取締役解任の件」「取締役選任の件」を正面から総会の議題にするための道具です。手順は法律で細かく決まっています。
まず株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(議題)と招集の理由を示して、総会の招集を請求します(297条1項)。議題は、その株主が議決権を行使できる事項に限られます。請求は書面で行うことが法律上要求されているわけではありませんが、後の裁判所への許可申立てで請求の事実と日付を証明する必要があるため、実務では内容証明郵便で行います。
会社がこの請求を受けた場合、取締役会設置会社では取締役会で招集を決定し(298条4項)、招集通知を発します。会社が請求に応じないとき、具体的には、①請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合、または②請求の日から8週間以内の日を総会の日とする招集通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(297条4項)。許可の申立ては、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対する非訟事件として行います(868条1項)。裁判所は、請求の要件(持株比率、議題の明示、会社の不応答)を審査し、許可の決定をします。
図解B 招集請求から株主招集総会までの流れ
図解B 会社が請求を無視すると、総会の主導権が株主側に移る
会社側にとって重要なのは、招集請求を「無視する」という選択が最悪であることです。無視すれば、裁判所の許可を経て株主が自ら総会を招集し、その総会では招集した株主側が議長を務めることが多く、議事の主導権を失います。しかも297条の規定により招集された総会では、決議によって会社の業務および財産の状況を調査する者を選任することができます(316条2項)。請求に応じて会社が招集すれば、少なくとも日程・場所・議長を会社側が決められます。請求の要件に疑問がある場合(持株比率が3%に足りない、議題が議決権を行使できない事項である、など)は、その点を書面で指摘して回答すべきであり、放置すべきではありません。
少数株主側にとっては、招集請求は取締役の解任を総会に持ち込む正面ルートですが、多数派でなければ解任決議は成立しません。それでも招集請求には意味があります。解任議案が総会で否決された場合、その役員の職務執行に不正の行為や法令・定款違反の重大な事実があれば、否決の日から30日以内に、3%以上の株主は役員解任の訴えを提起することができます(854条1項)。総会での否決は、この訴えの前提要件になっているのです。役員解任の訴えは第23講で扱います。
4総会検査役 ― 双方が使う「裁判所の目」
総会検査役は、株主総会の招集の手続と決議の方法を調査するために、総会に先立って裁判所が選任する第三者です(306条1項)。申立てができるのは、会社自身と、議決権の1%以上を持つ株主です。公開会社でない取締役会設置会社では保有期間の要件はありません(同条2項)。申立てがあれば、裁判所は不適法として却下する場合を除いて検査役を選任しなければならず(同条3項)、実務では弁護士が選任されます。検査役の報酬は会社が支払い、その額は裁判所が定めることができます(同条4項)。
検査役は、必要な調査を行い、その結果を書面または電磁的記録で裁判所に報告します(同条5項)。具体的には、招集通知の発送状況、出席株主と議決権数の確認方法、委任状の処理、議事の進行、採決の方法と結果を、総会に立ち会って記録します。録画や録音を行うのが通常です。裁判所は、報告を受けて必要があると認めるときは、取締役に対し、一定期間内に株主総会を招集すること、または調査結果を株主に通知することを命じなければなりません(307条1項)。
検査役の選任は、勝敗を直接動かす手続ではありません。しかし紛争総会では、双方が申し立てを検討する価値があります。少数株主側にとっては、多数派が招集手続や採決を恣意的に運営することを牽制し、後日の決議取消しの訴えの証拠を中立的な立場から確保する手段です。会社側にとっては、「手続は適正に行われた」ことを第三者に記録させることで、後日の取消しの訴えを封じる手段になります。手続に自信のある会社ほど、検査役の立会いは有利に働きます。逆に、検査役の立会いを恐れる会社は、その手続にどこか問題があると自覚しているということです。
総会検査役と業務検査役は別の制度です 306条の総会検査役は「総会の手続」を調査します。これに対して358条の検査役(業務検査役)は、業務執行に不正の行為や法令・定款違反の重大な事実を疑う事由があるときに、会社の「業務および財産の状況」を調査するもので、議決権または発行済株式の3%以上の株主が申し立てます。名前は似ていますが、目的も要件も違います。業務検査役は、帳簿閲覧(433条)よりもさらに踏み込んだ調査手段として、少数株主側の武器の階段の上位に位置します(企業内部紛争36講・第19講)。
5招集手続の急所 ― 取締役会決議・通知期間・通知漏れ
守る側の生命線は、招集手続の完璧性です。招集の手続や決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正であるときは、決議取消しの訴えの原因になります(831条1項1号)。非上場会社で実際に争われる招集手続の瑕疵は、ほぼ次の五つに集約されます。
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| 瑕疵の類型 | ルール | 裁判例と実務上の帰結 |
|---|---|---|
| 取締役会の決議を経ない招集 | 取締役会設置会社では、総会の日時・場所・議題などの決定は取締役会の決議によらなければならない(298条4項)。代表取締役が独断で招集することはできない | 取締役会決議を欠き、かつ招集期間も不足していた総会について、最高裁は瑕疵が重大であるとして裁量棄却を認めず、決議を取り消した(最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁)。対立している取締役を取締役会に呼ばずに招集を決めることは、取締役会決議自体の瑕疵になる |
| 招集通知の期間不足 | 公開会社でない会社では総会の日の1週間前まで(書面投票・電子投票を採用する場合は2週間前まで)に通知を発する。取締役会非設置会社では定款でさらに短縮できる(299条1項) | 期間が2日足りなかった事案で、最高裁は決議取消しを認めた(前掲最判昭和46年3月18日)。「発する」日が基準であり、到達日ではない。発送日を証明できる方法(特定記録・配達証明)で送る |
| 一部の株主への通知漏れ | 株主名簿上のすべての株主(議決権のない株主を除く)に通知を発する(299条1項)。名簿上の住所に発すれば到達したものとみなされる(126条) | 通知を受けなかった株主だけでなく、適法に通知を受けた他の株主も、その瑕疵を理由に決議取消しを請求できる(最判昭和58年6月7日民集37巻5号517頁)。株主名簿の整備(第5講)が招集手続の前提 |
| 通知の方法・記載事項の不備 | 取締役会設置会社では書面(承諾を得て電磁的方法)で通知し(299条2項2号)、日時・場所・議題を記載する(同条4項、298条1項)。取締役会設置会社では通知に記載のない議題は決議できない(309条5項) | 口頭や電話での招集は取締役会設置会社では違法。議題の記載漏れがあれば、その議題は決議できない |
| 招集手続を省略できる場合 | 株主全員の同意があれば招集手続なしに開催できる(300条)。株主全員が出席した総会は、招集手続に瑕疵があっても有効(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁) | 紛争状態では全員同意も全員出席も期待できない。「毎年書面だけで済ませてきた」会社が対立発生後に同じ方法をとれば、決議は取消し・不存在の対象になる |
図表2 招集手続の五つの急所 ― 平時に見過ごされてきた瑕疵が、紛争時にそのまま取消事由になる
これらの瑕疵について、会社側が「軽微な違反だ」と主張することは、ほとんど通りません。裁判所は、違反する事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないと認めるときに限って請求を棄却できますが(831条2項、裁量棄却)、最高裁は、招集期間の不足と取締役会決議の欠如という瑕疵について、決議の結果に影響がなかったとしても瑕疵が重大であるとして裁量棄却を認めませんでした(前掲最判昭和46年3月18日)。「結果は変わらなかったはずだ」という反論は、手続の瑕疵に対しては無力だと理解しておく必要があります。
取締役会設置会社では、招集を決定する取締役会そのものの適法性も問われます。対立している取締役に取締役会の招集通知(368条)を出さずに総会の招集を決めれば、取締役会決議が無効となり、それに基づく総会招集も瑕疵を帯びます。「あの人を呼ぶと話が進まない」という理由で取締役会から外すことは、紛争総会では致命的な誤りです。取締役会の手続は企業内部紛争36講・第9講に整理があります。
6委任状の攻防 ― 代理人資格・弁護士の代理出席・撤回
株主は、代理人によって議決権を行使することができます(310条1項)。この場合、株主または代理人は、代理権を証明する書面(委任状)を会社に提出しなければならず、代理権の授与は総会ごとに行う必要があります(同条1項・2項)。会社は、総会に出席できる代理人の数を制限することができます(同条5項)。委任状は総会の日から3か月間本店に備え置かれ、株主は理由を明らかにして閲覧謄写を請求できます(同条6項・7項)。
紛争総会では、双方が他の株主から委任状を集めることになります。上場会社の委任状勧誘に適用される金融商品取引法の規制(194条)は、金融商品取引所に上場されている株式を対象としており、非上場会社には及びません。したがって非上場会社の委任状勧誘には、様式や情報開示についての法定のルールがなく、その分、委任状の有効性が個別に争われることになります。争点は主に三つです。
争点① 代理人資格を株主に限る定款規定と、弁護士の代理出席
多くの非上場会社の定款には、「株主は、当会社の議決権を有する他の株主を代理人として、その議決権を行使することができる」という規定があります。最高裁は、この規定を、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨の、合理的な理由による相当程度の制限として有効と認めています(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)。他方で、法人株主の職員や、地方公共団体の職員が代理人として出席した事案では、代理人が株主でないことを理由に議決権行使を拒むことは定款規定の趣旨に反しないとし、決議を有効としました(最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁)。定款規定は「攪乱の防止」という目的の範囲で機能するものであって、株主の議決権行使の機会を奪うためのものではない、という考え方です。
この延長線上で、近年の非上場会社の紛争で最も多く争われるのが、弁護士の代理出席です。株主が病気や遠隔地居住で出席できず、弁護士を代理人として送り込んだところ、会社が「代理人は株主に限る」との定款規定を理由に入場を拒む、という場面です。下級審の裁判例は分かれています。弁護士による代理行使の拒否を違法としたもの(神戸地尼崎支判平成12年3月28日判タ1028号288頁、札幌高判令和元年7月12日金判1598号30頁)、拒否を適法としたもの(宮崎地判平成14年4月25日金判1159号43頁)の両方があります。近時の東京地裁は、株主13名の非公開会社で、健康上の理由で出席できない株主が弁護士を代理人としたところ会社がこれを拒否した事案について、定款規定を理由に弁護士の代理出席を拒否することは、会社の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情のない限り310条1項に違反するとして、決議を取り消しました(東京地判令和3年11月25日判タ1503号196頁)。
会社側の実務としては、弁護士の代理出席を一律に拒むことは、決議取消しのリスクを自ら作ることに等しいと考えるべきです。相手方の弁護士が総会に入ることを嫌う気持ちは理解できますが、弁護士は依頼者である株主の意思に従って行動する義務を負う専門家であり、「攪乱」の主体とみなすことは裁判所に受け入れられにくくなっています。少数株主側の実務としては、代理出席の申出を総会前に書面で行い、拒否された場合の記録を残すことが、後の取消しの訴えの準備になります。
争点② 白紙委任状と賛否の指示
非上場会社の委任状には、代理人欄が空白のもの、議案への賛否の指示がないもの(いわゆる白紙委任状)が多く見られます。代理人欄が空白の委任状は、誰が代理人かを証明する書面としての機能を欠くため、会社が代理人を確認できなければ受理を拒む理由になり、逆に会社側が都合のよい者を代理人として補充すれば、その処理の適法性が争われます。賛否の指示がない委任状については、代理人が自らの判断で議決権を行使することになりますが、株主の意思に反する行使であったかどうかが後に争われる余地があります。会社が委任状の様式を用意する場合には、代理人欄、議案ごとの賛否欄、指示がない場合の扱い(例:「賛否の指示がない場合は各議案に賛成するものとして取り扱う」)を明記するのが実務です。
争点③ 重複する委任状と撤回
同じ株主から、双方の陣営に委任状が出されていることは珍しくありません。委任は撤回できますから、後の日付の委任状が優先するのが原則ですが、日付が同じ、あるいは日付の記載がない委任状が二通ある場合には、会社は株主本人の意思を確認する必要があります。株主本人が出席した場合には、本人の議決権行使が委任状に優先します。これらの処理を総会当日に議長が独断で行うと、恣意的な運営として決議の方法の著しい不公正(831条1項1号)を問われかねません。事前に受付での確認手順を決め、判断に迷う委任状は総会検査役の立会いのもとで処理し、その経過を記録することが必要です。
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| 場面 | ルール・裁判例 | 実務対応 |
|---|---|---|
| 定款で代理人を株主に限定している | 合理的な制限として有効(最判昭43.11.1)。ただし法人株主の職員による代理は拒めない(最判昭51.12.24) | 定款規定の存在を招集通知や委任状様式に明記する。規定の趣旨は「攪乱防止」であることを理解しておく |
| 株主が弁護士を代理人として出席させようとする | 裁判例は分かれるが、非公開会社で特段の事情なく拒否した決議を取り消した裁判例がある(東京地判令3.11.25) | 一律の拒否は避ける。委任状の真正と本人の意思を確認した上で出席を認めるのが安全 |
| 白紙委任状が提出された | 代理権を証明する書面の要件(310条1項)を満たすかが問題。賛否の指示がない場合の扱いは事前の明示が必要 | 会社の委任状様式に代理人欄・賛否欄・指示なしの場合の扱いを明記する |
| 同一株主から双方の陣営に委任状が出ている | 委任は撤回可能。後の日付が優先。本人出席は委任状に優先 | 受付手順を事前に決め、判断に迷う場合は本人確認。検査役の立会いのもとで処理し記録する |
| 代理人の数 | 会社は代理人の数を制限できる(310条5項) | 「代理人は1名」という制限は一般的。事前に告知する |
図表3 委任状をめぐる争点と裁判例
7総会当日 ― 議長の権限、説明義務、採決と記録
総会当日の運営を法律上支えているのは、議長の権限です。議長は総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を持ち、その命令に従わない者その他総会の秩序を乱す者を退場させることができます(315条)。定款で「社長が議長を務める」と定めている会社が多く、その場合は会社側が議事進行の主導権を持ちます。ただし、議長の権限は議事の「整理」のためのものであって、少数株主の質問を封じたり、動議を無視したり、採決を省略するためのものではありません。議長権限の濫用は、決議の方法の著しい不公正として取消事由になります。
取締役・監査役は、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、必要な説明をしなければなりません(314条本文、説明義務)。ただし、その事項が総会の目的事項に関しないものである場合、説明することにより株主の共同の利益を著しく害する場合、その他法務省令で定める正当な理由がある場合は、説明を拒むことができます(同条ただし書)。法務省令が定める拒絶できる場合は、①説明のために調査が必要な場合(株主が相当の期間前に質問事項を通知していた場合や、調査が著しく容易な場合を除く)、②説明により会社や第三者の権利を侵害する場合、③実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合、④その他正当な理由がある場合です(会社法施行規則71条)。紛争総会では、少数株主側が事前に質問状を送ってくることが多く、その場合①の「調査が必要」という拒絶理由は使えません。事前質問への回答準備が必要になります。
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| 局面 | 守る側(議長・会社)の対応 | 攻める側(少数株主)の動き |
|---|---|---|
| 受付・入場 | 株主名簿と照合し、委任状の真正と代理人資格を確認。確認手順を事前に文書化し、判断に迷う場合の処理を決めておく | 代理出席の申出を事前に書面で行い、拒否の記録を残す。同伴者(弁護士)の傍聴の可否も事前に確認 |
| 開会・定足数 | 出席株主の議決権数を確定して宣言する。基準日(124条)を定めている場合はその日の名簿株主で数える | 議決権数の算定の根拠(名義株、準共有株式の権利行使者の指定、譲渡承認の有無)に異議を述べ、記録に残す |
| 質問・説明 | 説明義務(314条)に誠実に応じる。拒絶する場合は施行規則71条のどの事由に当たるかを明示する | 事前質問状を送り、当日は質問と回答を記録する。説明拒否は取消事由の候補 |
| 動議 | 手続的動議(議長不信任、休憩、延期・続行など)は採決する。議題に関する修正動議は304条の議案提出権として扱う | 議長不信任動議、延期・続行の動議(317条)、調査者選任の動議(316条)などを適時に出す |
| 採決 | 賛否の議決権数を明確に数え、結果を宣言する。拍手だけの採決は紛争総会では避ける | 採決方法に異議を述べ、賛否の数の確認を求める |
| 記録 | 議事録(318条、施行規則72条)を正確に作成する。録音・録画・速記を併用し、検査役が選任されていればその報告と整合させる | 自らも録音を行い(会社が禁止する場合は異議を記録)、閉会後速やかに議事録の閲覧を請求する(318条4項) |
図表4 総会当日の局面ごとの対応 ― 双方の動きを知ることが準備になる
採決については、非上場会社の平時の総会で行われてきた「異議ありませんか ― 異議なし ― 拍手」という方式を、紛争総会で使ってはいけません。決議の成立には、出席株主の議決権の過半数(普通決議、309条1項)や3分の2以上(特別決議、同条2項)という要件があり、賛否の議決権数を確定できない採決は、決議の方法の法令違反を問われます。挙手や投票用紙で賛否を数え、その数を議長が宣言し、議事録に記載します。
記録について付言すると、株主総会議事録は施行規則72条の記載事項(日時・場所、議事の経過の要領と結果、出席役員、議長、作成者など)を備えなければならず、10年間本店に備え置き、株主・債権者は営業時間内いつでも閲覧謄写を請求できます(318条2項・4項)。紛争総会の議事録は、後日の訴訟で最も基本的な証拠になります。実際の経過と異なる議事録を作成することは、それ自体が争いの原因になり、決議不存在の主張(830条1項)の根拠にもなります。
8総会後 ― 決議取消しの訴えと「3か月」の管理
総会が終わっても、紛争総会は終わりません。決議の効力は、決議取消しの訴え(831条)、決議無効確認の訴え・決議不存在確認の訴え(830条)によって争われます。このうち紛争総会で圧倒的に多く使われるのが決議取消しの訴えです。
取消事由は三つです。①招集の手続または決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正なとき(831条1項1号)、②決議の内容が定款に違反するとき(同2号)、③特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき(同3号)。本講で見てきた招集手続の瑕疵、代理人の不当な排除、説明義務違反、採決方法の不明確さは、すべて1号に当たります。訴えは、株主・取締役・監査役などが、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(同項柱書)。この期間を過ぎると、取消事由があっても決議は争えなくなります。会社側は、総会の日から3か月間、訴状が届くかどうかを見守ることになり、少数株主側は、この期間内に訴訟の準備を終えなければなりません。
図解C 総会後の時間軸 ― 3か月と登記
図解C 「3か月」は攻める側の期限であり、守る側の観察期間でもある
会社側の実務で見落とされがちなのが、瑕疵の連鎖です。招集手続に重大な瑕疵のある総会で選任された取締役が取締役会を構成し、その取締役会の決議で次の総会を招集した場合、その次の総会の決議も、正当な招集権者による招集を欠くものとして不存在とされることがあります(最判平成2年4月17日民集44巻3号526頁)。一度手続を誤ると、その後の総会がすべて揺らぐ危険があるということです。逆に、取締役選任決議の取消しを求める訴訟の途中で、その取締役が任期満了で退任し、後任者が適法に選任されれば、特別の事情がない限り取消しを求める利益は失われます(最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁)。会社側にとっては、瑕疵のある選任決議を争われた場合、適法な手続で改めて総会を開き直すことが、有力な対抗手段になります。
決議を争う三つの訴え(取消し・無効確認・不存在確認)の使い分けと訴訟の実際は、企業内部紛争36講・第13講で扱っています。
PRACTICE NOTE
紛争総会・時系列チェックポイント
対立局面の総会運営で、当事務所が会社側から関与する場合に確認する項目を、時系列で整理します。少数株主側から関与する場合は、この表の「守る側の急所」を、そのまま「攻める側が突く点」として読み替えます。
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| 時期 | 守る側の作業と急所 | 攻める側の武器 |
|---|---|---|
| 総会の2〜3か月前 | 株主名簿の確定(第5講)。名義株・準共有株式(106条)・譲渡承認未了株式の議決権の扱いを決める。基準日を設けるなら公告または定款の定め(124条3項)。定款の議長・代理人・招集期間の規定を確認 | 帳簿閲覧請求(433条・第7講)、株主名簿の閲覧謄写(125条)で株主構成を把握。委任状の収集開始 |
| 8週間前まで | 株主提案(303条・305条)の受付期限。届いた提案の要件審査と招集通知への記載 | 株主提案権の行使。取締役解任・選任の議題と議案要領の通知請求 |
| 招集の決定 | 取締役会の適法な招集(368条)と決議(298条4項)。対立する取締役も必ず招集する。議題・日時・場所を決定 | 取締役会の招集漏れ・決議の瑕疵を記録。招集請求(297条)の検討 |
| 招集通知の発送 | 1週間前まで(書面投票採用なら2週間前まで)に、全株主へ書面で発送(299条)。発送日を証明できる方法で。委任状様式を同封するなら代理人欄・賛否欄・指示なしの扱いを明記 | 通知の到達日・記載事項を確認し、期間不足・記載漏れを記録。総会検査役の選任申立て(306条)。事前質問状の送付 |
| 総会前1週間 | 議事進行シナリオと想定問答の作成。受付手順(名簿照合、委任状確認、代理人資格の判断基準、判断に迷う場合の処理)の文書化。録音・録画の準備。検査役との打合せ | 代理出席の申出を書面で。委任状の最終確認。出席株主の議決権数の見込みの確定 |
| 総会当日 | 図表4の各局面。採決は議決権数を数えて宣言。動議は採決。説明拒絶は施行規則71条の事由を明示。すべてを記録 | 動議、質問、異議の申述をすべて記録に残す。採決方法・議決権数への異議 |
| 総会後2週間 | 議事録の作成(施行規則72条)。変更登記(915条1項)。検査役報告の内容確認 | 議事録の閲覧謄写請求(318条4項)。取消事由の整理と訴訟準備 |
| 総会後3か月 | 決議取消しの訴えの提訴期間の終了を確認。提訴があれば、瑕疵の程度に応じて応訴か総会のやり直しかを判断 | 3か月以内に決議取消しの訴えを提起。必要に応じて職務執行停止の仮処分 |
この表の「守る側の作業」の大半は、法律の知識より段取りの問題です。しかし段取りの一つひとつが法定の要件に対応しており、どれか一つを落とせば決議全体が揺らぎます。招集通知の発送前、できれば取締役会の招集前の段階から弁護士を関与させるべき理由はここにあります。総会当日に弁護士を呼んでも、それまでの手続の瑕疵は治りません。
実務チェック
- 株主名簿は確定しているか。名義株、亡くなった株主の準共有株式、譲渡承認を経ていない株式の議決権の扱いを、総会前に決めているか。
- 総会の招集は取締役会の適法な決議によっているか。対立している取締役にも取締役会の招集通知を出しているか。
- 招集通知は、全株主に、書面で、法定の期間(1週間または2週間)を守って「発送」しているか。発送日を証明できるか。
- 定款の代理人資格の規定を確認しているか。弁護士の代理出席を一律に拒否する方針をとっていないか。
- 委任状の様式に、代理人欄・議案ごとの賛否欄・指示がない場合の扱いを明記しているか。重複する委任状の処理手順を決めているか。
- 事前質問状が届いた場合の回答を準備しているか。説明を拒絶する場合の根拠(施行規則71条)を整理しているか。
- 採決は議決権数を数えて宣言する方式にしているか。録音・録画と議事録作成の体制を整えているか。
- 決議の日から3か月の提訴期間と、2週間の登記期限をカレンダーに入れているか。
よくある質問
3%の株主から臨時株主総会の招集請求が届きました。応じなければどうなりますか。
会社が請求の後遅滞なく招集の手続を行わず、または請求の日から8週間以内の日を総会の日とする招集通知を発しない場合、請求した株主は裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(会社法297条4項)。株主が招集した総会では、招集した株主側が議長を務めることが多く、会社は議事の主導権を失います。その総会では会社の業務・財産の状況を調査する者を選任する決議もできます(316条2項)。請求の要件(議決権3%以上、議題の明示)に疑問がある場合はその点を書面で指摘し、要件を満たしている場合は会社が自ら招集して日程・場所・議長を確保するほうが、会社にとって有利です。放置することが最も不利な選択です。
定款に「代理人は株主に限る」とあります。相手方の株主が弁護士を代理人として出席させようとしています。断れますか。
断ることには決議取消しのリスクがあります。代理人資格を株主に限る定款規定自体は、総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防ぐための合理的な制限として有効です(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)。しかし裁判例は、この規定を「株主の議決権行使の機会を奪うためのもの」とは解しておらず、非公開会社で健康上の理由から出席できない株主の弁護士による代理出席を会社が拒否した事案では、特段の事情のない限り会社法310条1項に違反するとして決議が取り消されました(東京地判令和3年11月25日判タ1503号196頁)。弁護士の代理出席を認めた裁判例と拒否を適法とした裁判例の両方がありますが、会社側の安全な対応は、委任状の真正と株主本人の意思を確認した上で出席を認めることです。
招集通知が1週間前に届いていない株主が一人いますが、その株主は反対派ではありません。問題になりますか。
問題になります。招集通知は総会の日の1週間前まで(書面投票を採用する場合などは2週間前まで)に「発する」必要があり(会社法299条1項)、一部の株主への通知漏れや期間不足は招集手続の法令違反として決議取消事由になります(831条1項1号)。通知を受けなかった株主が反対派でなくても、他の株主がその瑕疵を理由に決議取消しを請求することができます(最判昭和58年6月7日民集37巻5号517頁)。また、招集期間の不足について、最高裁は「決議の結果に影響がなかった」という理由での裁量棄却を認めていません(最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁)。通知は株主名簿上の住所に発すれば到達したものとみなされますので(126条)、発送日を証明できる方法で全株主に送ることが重要です。
総会検査役を選任されると会社に不利ですか。
手続が適正に行われる会社にとっては、むしろ有利です。総会検査役(会社法306条)は総会の招集手続と決議方法を調査して裁判所に報告する中立の第三者で、その報告は後日の決議取消しの訴えで「手続は適正だった」ことを示す証拠になります。会社自身が申し立てることもできます。報酬は会社負担で、裁判所が額を定めることができます(同条4項)。検査役の選任を嫌う会社は、手続のどこかに自信のない部分があるということであり、その部分を総会前に是正することが先です。なお、業務・財産の状況を調査する358条の検査役(業務検査役)は別の制度で、こちらは不正の行為などを疑う事由がある場合に3%以上の株主が申し立てるものです。
少数株主の立場です。総会で取締役解任議案が否決されました。もう何もできませんか。
選択肢は残っています。第一に、否決された総会の招集手続や決議方法に瑕疵があれば、決議の日から3か月以内に決議取消しの訴えを提起できます(会社法831条)。第二に、解任の対象とした役員の職務執行に不正の行為または法令・定款違反の重大な事実があれば、否決の日から30日以内に、議決権または発行済株式の3%以上を持つ株主は役員解任の訴えを提起できます(854条1項。第23講)。第三に、その役員の行為によって会社に損害が生じていれば、株主代表訴訟(847条)で責任を追及できます。第四に、これらの権利行使と並行して、株式の買取りを求める交渉に進む道があります(第20講以下)。総会での否決は、次の手続の前提要件を満たしたという意味を持ちます。
おわりに ― 総会屋対策ではなく、株主間紛争としての総会実務
株主総会の運営については、上場会社向けの総会屋対策や議事運営マニュアルが多く出ています。しかし非上場会社の紛争総会は、それらとは異質です。相手は素性の知れない総会屋ではなく、持株比率を持ち、会社の内部事情を知り、弁護士を付けた株主です。金融商品取引法の委任状規制は及ばず、定款と会社法の条文、そして裁判例だけがルールです。そこでは、多数派であることは勝利を保証せず、手続の完璧性だけが決議を守ります。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、会社側の総会運営(招集手続の設計、招集通知・委任状様式の作成、議事進行シナリオと想定問答、当日の立会い、議事録作成)と、少数株主側の総会対応(招集請求・株主提案・検査役選任申立て、代理出席、当日の異議と記録、決議取消しの訴え)の双方をお引き受けしています。総会の日程が決まったら、招集通知を出す前にご相談ください。
- 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、124条、125条、126条、297条〜300条、303条〜307条、309条、310条、314条〜318条、329条、339条、358条、368条、830条、831条、838条、847条、854条、868条、915条
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕71条(取締役等の説明義務の拒絶事由)、72条(株主総会の議事録)
- 金融商品取引法〔e-Gov法令検索〕194条(上場株式についての議決権代理行使の勧誘の規制)
- 最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁議決権行使の代理人資格を株主に限る定款規定を、合理的な理由による相当程度の制限として有効とした判例
- 最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁取締役会の決議を欠き招集期間も不足していた総会について、瑕疵が重大であるとして裁量棄却を認めなかった判例
- 最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁取締役選任決議の取消訴訟中に後任者が選任された場合、特別の事情がない限り訴えの利益が失われるとした判例
- 最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁法人・地方公共団体である株主の職員による代理出席を、代理人を株主に限る定款規定に反しないとした判例
- 最判昭和58年6月7日民集37巻5号517頁一部の株主への招集通知漏れを理由に、他の株主も決議取消しを請求できるとした判例
- 最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁株主全員が出席した総会は招集手続の瑕疵があっても有効とした判例
- 最判平成2年4月17日民集44巻3号526頁不存在の決議で選任された取締役が構成する取締役会の招集による総会の決議も不存在とした判例
- 神戸地尼崎支判平成12年3月28日判タ1028号288頁、宮崎地判平成14年4月25日金判1159号43頁、札幌高判令和元年7月12日金判1598号30頁弁護士による議決権の代理行使の拒否の適否について判断が分かれた下級審裁判例
- 東京地判令和3年11月25日判タ1503号196頁非公開会社が定款規定を理由に弁護士の代理出席を拒否したことを、特段の事情のない限り310条1項に違反するとして決議を取り消した裁判例
- 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日