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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第7講】

少数株主は「少数」でも強い ― 帳簿閲覧請求・株主提案への正しい対応:3%で帳簿が見られ、1%で提案ができる ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第7講】

07第Ⅱ部 会社の守り編 ― 株主管理と予防設計第7講

少数株主は「少数」でも強い
― 帳簿閲覧請求・株主提案への正しい対応:3%で帳簿が見られ、1%で提案ができる ―

「5%しか持っていない叔父から、内容証明で『会計帳簿と総勘定元帳を見せろ』という請求が届きました。理由は『株式の適正な価格を知るため』と書いてあります。何を見せなければならないのですか。見せたくないのですが」

「株主総会の6週間前に、株主から『取締役を1人追加せよ』という株主提案が届きました。うちは取締役会設置会社で、この株主は1.5%しか持っていません。無視してよいですか」

「逆の立場です。父から相続した株を会社が買ってくれません。決算書すら見せてもらえないのですが、何か手はありますか」

この講の結論

「3%しか持っていない株主は何もできない」という認識は誤りです。会社法は、持株比率に応じた段階的な権利を少数株主に与えており、議決権または発行済株式の3%で会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法433条1項)、取締役会設置会社でも議決権1%で株主提案(303条2項)ができます。公開会社でない会社では、これらの多くに「6か月前から」という保有期間の要件がありません(303条3項、297条2項、847条2項など)。

会社が閲覧を拒めるのは、433条2項に列挙された五つの拒絶事由に当たるときだけで、拒絶事由の存在は会社が主張・立証しなければなりません。最高裁は、株式を売るために適正な価格を知りたいという理由での帳簿閲覧請求を、原則として拒めないとしています(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁)。感情的に突っぱねると、閲覧を命じる仮処分・判決、過料(976条4号)、そして「会社は何かを隠している」という相手方の武器を生みます。会社側の正しい対応は、株主資格と請求理由を確認し、拒絶事由を法的に検討し、開示の範囲と方法を主導することです。少数株主側から見れば、これらの権利は「売れない株」を交渉のテーブルに乗せるための、法律が用意した正攻法です。

1少数株主権の階段 ― 1株・1%・3%・10%で何ができるか

株主総会の決議は多数決で決まりますから、過半数を持たない株主は、会社の意思決定を自分の思うとおりに動かすことはできません。しかし会社法は、多数決から漏れる株主のために、「決める権利」とは別に「調べる権利」「問う権利」「裁判所に持ち込む権利」を用意しています。これらの多くは、一定の持株比率を条件として与えられており、実務では「少数株主権」と呼ばれています。

第5講で見た株主名簿の閲覧謄写請求(125条2項)や、定款・株主総会議事録・計算書類の閲覧(31条2項、318条4項、442条3項)は、1株でも持っていれば行使できる単独株主権です。持株比率が上がるごとに、行使できる権利は強くなっていきます。全体を一枚の表にすると、次のようになります。

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必要な持株行使できる主な権利条文公開会社でない会社での保有期間要件
1株でも
(単独株主権)
定款、株主名簿、株主総会議事録、計算書類等の閲覧・謄写(名簿は請求理由の明示が必要)31条2項、125条2項、318条4項、442条3項なし
取締役会議事録の閲覧・謄写(権利行使のため必要なとき。監査役設置会社等では裁判所の許可が必要)371条2項・3項なし
株主総会での議案提出(動議)、株主総会決議の取消し・無効・不存在の訴え304条、830条、831条なし
株主代表訴訟の提起請求847条1項なし(847条2項。公開会社では6か月)
取締役の違法行為の差止め360条1項なし(360条2項。公開会社では6か月)
取締役会非設置会社での株主提案(議題の追加・議案要領の通知請求)303条1項、305条1項本文なし
議決権1%以上
(または300個以上)
取締役会設置会社での株主提案(議題の追加・議案要領の通知請求)。総会の8週間前まで303条2項、305条1項ただし書なし(303条3項、305条2項。公開会社では6か月)
株主総会の招集手続・決議方法を調査する検査役の選任申立て306条1項なし(306条2項。公開会社である取締役会設置会社では6か月)
議決権3%以上
(または発行済株式3%以上)
会計帳簿・これに関する資料の閲覧・謄写請求433条1項なし(公開会社でも保有期間要件はない)
株主総会の招集請求(応じなければ裁判所の許可を得て自ら招集)297条1項・4項なし(297条2項。公開会社では6か月)
業務・財産の状況を調査する検査役の選任申立て358条1項なし(公開会社でも保有期間要件はない)
役員解任の訴え(解任議案が否決された日から30日以内)854条1項なし(854条2項。公開会社では6か月)
議決権10%以上
(または発行済株式10%以上)
会社の解散の訴え833条1項なし

図表1 少数株主権の階段(いずれも定款でこれを下回る割合・期間を定めることができる)

この表を会社側の目で読むと、「うちの株主構成では、誰がどの段まで登れるのか」が一目で分かります。たとえば発行済株式の4%を持つ株主がいれば、その株主は会計帳簿を見る権利と、株主総会の招集を請求する権利を持っています。二人の株主が合わせて3%になれば、共同して請求することもできます。少数株主側の目で読むと、自分の持株で何が請求できるのかの地図になります。

とりわけ実務上の影響が大きいのは、3%で行使できる会計帳簿閲覧謄写請求です。計算書類(決算書)は集計後の数字にすぎませんが、会計帳簿には取引の一件一件が記録されています。誰にいくらの報酬が支払われ、どの関連会社とどんな取引があり、どの経費がどこに流れたかが、帳簿を見れば分かります。少数株主側にとっては、①株価算定の基礎資料の入手、②役員の利益相反取引や過大報酬の発見、③交渉圧力の形成という三つの役割を一度に果たす道具であり、株式の買取りを求める準備行為として使われることも珍しくありません。本講の中心もここに置きます。

2持株比率の数え方 ― 議決権ベースと発行済株式ベース、定款、保有期間

図表1の「3%」には、実は二つの数え方があります。会社法433条1項は、「総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主」または「発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主」と定めており、どちらか一方を満たせば足ります。議決権のない株式(議決権制限株式)を持つ株主でも、株式数で3%に達していれば請求できるという趣旨です。分母となる「総株主の議決権」からは、株主総会で議決権を行使できる事項がまったくない株主の議決権が除かれ、「発行済株式」からは自己株式が除かれます。

三つの補足があります。第一に、これらの割合は定款で引き下げることができますが、引き上げることはできません(各条の「これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合」という括弧書き)。少数株主の権利を定款で削ることは認められていないということです。第二に、公開会社では多くの権利に「6か月前から引き続き」保有していることが求められますが、公開会社でない会社(全株式譲渡制限会社)ではこの要件が外れます。本連載が対象とする非上場会社の大部分は全株式譲渡制限会社ですから、株式を取得した翌日に権利を行使することも可能です。第三に、会計帳簿閲覧請求と業務検査役の選任申立ては、公開会社であっても保有期間の要件がありません。

図解A 「この株主は3%の壁を越えているか」の判定手順

STEP 1 分母を確認議決権ベース:総株主の議決権数(全事項につき議決権のない株主を除く)株式数ベース:発行済株式総数 − 自己株式
STEP 2 定款を確認433条の割合を定款で引き下げていないか(例:「100分の1」)引き上げる定めは無効
STEP 3 共同行使を確認複数の株主が共同して請求している場合は持株を合算親族グループでの共同請求は実務上多い
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いずれかで3%以上請求権あり。保有期間は問わない(433条)株主名簿上の株主か、名義書換未了かも確認(第5講)
どちらも3%未満433条の請求権なし。ただし1株でもできる閲覧請求(計算書類・議事録・株主名簿)は別途可能1%以上なら株主提案・総会検査役は可能

図解A 持株比率の判定は、分母・定款・共同行使の三点を確認してから行う

持株比率をめぐっては、「請求した後に会社が新株を発行して、請求者の比率を3%未満に落とす」という手が使われることがあります。検査役選任の申立てについて最高裁は、申立ての時点で3%以上を持っていた株主が、その後の会社の新株発行によって3%未満となった場合、会社が申立てを妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情がない限り、申立ては申立人の適格を欠くものとして却下を免れないと判断しています(最決平成18年9月28日民集60巻7号2634頁)。裏を返せば、妨害目的の新株発行であれば特段の事情に当たり、権利は失われません。会計帳簿の閲覧を求める訴訟でも、判決の時点まで要件を維持している必要があると解するのが一般的ですが、請求を妨害するための増資は、その目的自体が新株発行の差止めや無効の争いにつながります(企業内部紛争36講・第15講、第16講)。会社側がこの手段を安易に選ぶべきではない理由です。

3会計帳簿閲覧謄写請求 ― 何が「見られる」のか

433条1項が閲覧・謄写の対象とするのは、「会計帳簿又はこれに関する資料」です。会計帳簿とは、計算書類(貸借対照表・損益計算書など)を作成する基礎となる帳簿で、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳・売掛金元帳などの補助簿がこれに当たります。会計ソフトで記帳している会社では、電磁的記録として存在する仕訳データや元帳データがこれに当たり、その場合は法務省令の方法で表示したものの閲覧・謄写を請求できます(同項2号)。

難しいのは「これに関する資料」の範囲です。会計帳簿の記載の基礎となった資料、つまり伝票、請求書、領収書、契約書などの証憑類がどこまで含まれるかについて、学説には、会計帳簿の作成に直接の材料となった資料に限るという考え方(限定説)と、会計帳簿を理解するのに必要な資料も広く含めるという考え方(非限定説)があります。裁判例には、総勘定元帳・現金出納帳・手形小切手元帳などは対象に含めつつ、法人税確定申告書の控えや預金通帳、契約書は対象に含まれないとしたもの(横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁)があり、実務では限定的に解する裁判例が少なくありません。もっとも、証憑類が対象に含まれるかは、その資料が帳簿の記載の直接の根拠となっているか、請求理由との関連性があるかによって個別に判断されるため、「契約書は一律に見せなくてよい」とまでは言えません。

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資料の種類433条の対象か実務上の位置づけ
仕訳帳、総勘定元帳、補助簿(現金出納帳、売掛金・買掛金元帳、固定資産台帳など)対象(会計帳簿そのもの)請求理由と関連する期間・科目に絞って開示するのが通常。会計ソフトの元帳データも対象
伝票、請求書、領収書、納品書などの証憑類帳簿の記載の直接の根拠となるものは対象に含まれるとする考え方が有力。裁判例の判断は分かれる請求理由との関連性が認められる範囲で開示を検討する
契約書、稟議書、取締役会資料対象外とする裁判例がある。帳簿の記載の基礎とは言いにくいただし利益相反取引の調査を理由とする請求では、契約書の内容が争点になることが多く、取締役会議事録の閲覧(371条)と組み合わせて請求される
法人税確定申告書の控え、預金通帳対象外とした裁判例がある(横浜地判平成3年4月19日)学説には含めるべきとする考え方もある。計算書類(決算書)は442条で1株でも閲覧できる
計算書類・事業報告・附属明細書433条ではなく442条3項の対象(単独株主権)3%未満の株主にも見せなければならない。「決算書すら見せない」対応は法律上成り立たない

図表2 「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲 ― 実務での整理

会社側がまず理解すべきなのは、閲覧謄写の対象は「請求理由と関連する範囲の帳簿・資料」であって、「会社の全帳簿」ではないということです。東京高裁は、株主が不正な会計処理の疑い、不当な賃借料、利益相反取引という三つの理由を挙げて閲覧謄写を求めた事件で、請求理由と関連性のある範囲の会計帳簿等に限って請求が認められるとし、会社がすでに資料を送付して開示していた部分については、さらに他の帳簿の閲覧謄写を求めることは会社の業務遂行を妨げるものとして433条2項2号の拒絶事由に当たると判断しました(東京高判平成28年3月28日金判1491号16頁)。請求理由が具体的であればあるほど、開示すべき範囲もまた具体的に画されるという関係にあります。

少数株主側から見ると、この関係は「何を、なぜ見たいのか」を請求書の段階で明確に書く必要があるということを意味します。次節で扱います。

4「請求の理由」の書き方と審査 ― 二つの最高裁判例

433条1項後段は、閲覧謄写の請求を「当該請求の理由を明らかにしてしなければならない」と定めています。理由の明示が要求されるのは、会社が拒絶事由の有無を判断し、開示すべき帳簿の範囲を特定できるようにするためです。この「理由」をどこまで具体的に書かなければならないか、そして書いた理由が本当かどうかを株主が証明しなければならないかについて、二つの最高裁判例があります。

理由は具体的に ― 最判平成2年11月8日

最高裁は、平成2年の判決で、請求理由は関連する会計帳簿等を特定できる程度に具体的に記載する必要があるという趣旨を示しています(最判平成2年11月8日判時1372号131頁)。「経営状況を知りたい」「株主として当然の権利である」という抽象的な記載では足りず、たとえば「代表取締役に対する報酬額と、その決定手続を確認するため」「○○社との取引が適正な条件で行われているかを確認するため」というように、何を調べるための請求かが分かる書き方が求められます。理由が具体的でなければ、会社は「理由が明らかにされていない」として応じないことができ、少数株主側は請求書を書き直すことになります。

理由を裏づける事実の証明は不要、株式売却のための価格調査は正当な目的 ― 最判平成16年7月1日

他方で、書いた理由を裏づける事実が客観的に存在することまで、株主が立証する必要はありません。最高裁は、平成16年の判決で二つの重要な判断を示しました(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁)。第一に、株主は請求の理由を具体的に記載すれば足り、その理由を基礎づける事実が客観的に存在することについて立証する必要はないこと。第二に、株式の譲渡に会社の承認を要する会社の株主が、株式を譲渡するにあたって適正な価格を算定する目的で会計帳簿等の閲覧謄写を請求した場合、特段の事情がない限り、「株主の権利の確保又は行使に関して調査をするため」の請求であって、拒絶事由には当たらないことです。原審は「株式売却のための価格調査は株主の権利の確保・行使に関する調査ではない」と判断していましたが、最高裁はこれを破棄し、事件を差し戻しました。

この判決は、非上場株式の実務に直結しています。冒頭の相談例のように、「株式の適正な価格を知るため」と理由に書かれた帳簿閲覧請求は、会社が「売却のためなら見せる必要はない」と拒むことができない類型なのです。株式を売りたい少数株主にとって、譲渡承認請求(第21講)や任意の買取交渉(第20講)の前に帳簿を確認する道が、最高裁によって正面から認められていることになります。

図解B 請求理由をめぐる審査の構造

株主側が負うもの①持株要件(3%)の充足②請求理由の「具体的な」記載(最判平2.11.8)― 対象帳簿を特定できる程度に
株主側が負わないもの請求理由を基礎づける事実の客観的存在の立証(最判平16.7.1)「不正の疑い」を証拠で示す必要はない
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会社側が負うもの433条2項1号〜5号のいずれかに当たることの主張・立証立証できなければ「拒むことができない」(2項柱書)
結果拒絶事由なし → 請求理由と関連する範囲の帳簿・資料を開示拒絶事由あり → 全部または一部を拒絶できる

図解B 理由の「具体性」は株主の負担、拒絶事由の「立証」は会社の負担という配分

5会社が拒める五つの場合 ― 433条2項の拒絶事由と裁判例

会社は、株主からの請求が433条2項1号から5号までのいずれかに「該当すると認められる場合」を除いて、閲覧謄写を拒むことができません(同項柱書)。条文の構造上、拒絶事由が認められることの主張・立証責任は会社にあります。五つの事由を順に見ていきます。

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拒絶事由(433条2項)内容実務での典型例・裁判例
1号 権利の確保・行使に関する調査以外の目的株主としての権利(議決権、配当請求権、代表訴訟提起権、株式の譲渡など)の確保・行使に関係のない目的の請求株式売却のための価格算定は「権利の確保・行使に関する調査」に当たり、拒絶事由にならない(最判平16.7.1)。純然たる私的な興味や嫌がらせ目的であることを会社が立証できる場合に限られる
2号 業務遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的会社の業務を妨害し、他の株主全体の利益を害する目的での請求すでに開示を受けた部分についてさらに他の帳簿を求める請求は2号に当たるとした裁判例(東京高判平28.3.28)。短期間に繰り返される広範な請求も問題となる
3号 実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事請求者が会社と競業する事業を自ら営むか、競業する会社の役員・従業員であること競業者に当たるという客観的事実があれば足り、閲覧で得た情報を競業に利用する主観的意図は不要(最決平21.1.15、親会社株主による子会社帳簿閲覧の許可申立ての事案)。近い将来に競業する蓋然性が高い場合も含みうるとした裁判例(東京地決平6.3.4判タ875号265頁)
4号 知り得た事実を利益を得て第三者に通報するための請求帳簿の情報を有償で外部に流す目的情報の転売目的。立証は容易ではない
5号 過去2年以内に、知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがある過去の情報転売の前歴4号と同じく、会社が具体的な事実を立証する必要がある

図表3 433条2項の拒絶事由 ― 会社側が主張・立証すべき五つの類型

実務で争いになるのは、圧倒的に1号と3号です。1号については、前節のとおり、株式の売却準備は正当な目的とされていますから、「株を売りたがっている株主だから見せない」という対応は成り立ちません。会社が1号を主張するには、請求者が株主の権利とは無関係な目的(たとえば、単に社長を困らせる目的、あるいは自分の別の訴訟の証拠集めだけを狙った目的)で請求していることを、具体的な事実で示す必要があります。

3号の競業者要件は、非上場会社の親族間紛争で頻繁に問題になります。兄弟で袂を分かち、弟が同業の会社を立ち上げた後に兄の会社の帳簿を見せろと言ってくる、という場面です。最高裁は、3号の拒絶事由があるというためには、請求者が会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、請求者に、閲覧で知り得た情報を自己の競業に利用する主観的な意図があることは必要でないと判断しました(最決平成21年1月15日民集63巻1号1頁)。この決定は、親会社の株主が子会社の会計帳簿の閲覧謄写を裁判所の許可を得て求めた事案(433条3項・4項)のものですが、拒絶事由の解釈として2項3号にも同じ考え方が及ぶと理解されています。会社側にとっては、「相手が同業者であること」を客観的に示せば足りるという意味で使いやすい拒絶事由ですが、「実質的に競争関係にある」かどうかは、事業内容・商圏・顧客層の重なりを具体的に見て判断されますから、業種が近いというだけで安易に当てはめることはできません。

拒絶が正当でなかったときに会社が負うもの 正当な理由なく閲覧謄写を拒んだ取締役等は、100万円以下の過料の対象になります(976条4号)。それ以上に重いのは、株主が閲覧謄写を求める仮処分や訴訟を申し立て、会社が敗れたときの影響です。裁判所の命令に基づく開示は、任意の開示に比べて範囲も方法も会社の手を離れます。そして紛争全体の中では、「会社は帳簿を見せることを拒み、裁判所に命じられてようやく見せた」という事実そのものが、株式の価格決定や役員責任の追及の場面で、相手方の有力な材料になります。

6会社側の初動 ― 請求書が届いてから回答するまで

少数株主からの帳簿閲覧謄写請求は、多くの場合、内容証明郵便で届きます。届いた日から会社が取るべき手順を、時系列で示します。株主名簿の閲覧請求(第5講)や取締役会議事録の閲覧請求(371条)と同時に届くことも多く、その場合は各請求ごとに要件と拒絶事由が異なることに注意が必要です。

図解C 帳簿閲覧謄写請求を受けたときの会社側の手順

① 株主資格の確認請求者が株主名簿上の株主か。持株が3%以上か(議決権・株式数のいずれか)。共同請求なら合算名義書換未了の譲受人・相続人の準共有株式(106条)は要件を別途検討
② 請求理由の精査理由は対象帳簿を特定できる程度に具体的か(最判平2.11.8)抽象的なら「理由の特定を求める」回答。ただし裏づけ事実の証明は求められない(最判平16.7.1)
③ 拒絶事由の検討433条2項1〜5号に当たる具体的事実があるか。立証できるか「売却目的」は拒絶事由ではない。競業者要件は客観的事実で判断
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④ 開示範囲の画定請求理由と関連する期間・科目・資料の範囲を特定する(東京高判平28.3.28)会計帳簿と証憑類を区別。計算書類は442条で別途開示
⑤ 方法・条件の設計日時・場所・立会い・謄写の方法(コピー、写真撮影、データ提供)・費用・秘密保持第9節PRACTICE NOTE
⑥ 回答書の発出応じる範囲、応じない範囲とその理由(条文・事実)、閲覧の日時場所を書面で回答全面拒絶は仮処分・過料(976条4号)の危険

図解C 「見せるか見せないか」の二択ではなく、「何を、どこまで、どう見せるか」を会社が主導する

この手順の中で最も重要なのは、④と⑤です。会社側の相談を受けると、「見せたくない」という気持ちが先に立ち、拒絶事由を探すことに時間を使いがちですが、拒絶事由が認められる事案は実際にはそれほど多くありません。それよりも、請求理由に照らして開示の範囲を合理的に画し、閲覧の方法と条件を会社が設計して提示することのほうが、会社の利益を守る効果が大きいのです。請求理由と無関係な取引先情報や従業員の給与情報が含まれる帳簿については、関連性がないことを理由に対象から外す、あるいは該当部分を除いて開示するという対応が可能です。

また、請求理由が抽象的である場合には、「理由が明らかにされていない」として応じないことも認められますが、その場合も、どの点が不明確なのかを具体的に示して補正を促す形にすべきです。門前払いの回答は、株主側にとって「会社は隠している」という印象を裁判所に伝える格好の材料になります。

取締役会議事録の閲覧請求が同時に来た場合は、要件が異なります。株主は、権利を行使するために必要があるときは営業時間内いつでも取締役会議事録の閲覧謄写を請求できますが(371条2項)、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社では、裁判所の許可が必要です(同条3項)。監査役を置いていない小規模な会社では、株主は裁判所の許可なしに議事録の閲覧を請求できるということになります。自社がどちらに当たるかを、登記事項証明書で確認しておく必要があります。

7株主提案権 ― 総会前8週間の攻防

帳簿閲覧と並んで、少数株主が会社に対して働きかける手段として使われるのが株主提案権です。株主提案権には三つの内容があります。①一定の事項を株主総会の目的(議題)とすることを請求する権利(303条)、②株主総会の場で議題について議案を提出する権利(304条)、③自分が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載して株主に通知することを請求する権利(305条)です。②は1株でも、総会の当日に行使できる権利ですが、①と③は、取締役会設置会社では総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を持つ株主に限られ、総会の日の8週間前までに請求しなければなりません。公開会社でない会社では、6か月の保有期間要件はありません(303条3項、305条2項)。取締役会を置いていない会社では、①と③も1株から行使できます。

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権利内容要件(取締役会設置会社・非公開)期限
議題提案権(303条)「取締役1名選任の件」「定款一部変更の件」など、総会の目的事項を追加させる議決権1%以上または300個以上(保有期間不要)総会の日の8週間前まで
議案提出権(304条)総会当日、議題について議案(動議)を出す。「候補者としてAを選任する」など1株でも可総会当日
議案要領通知請求権(305条)自分の議案の要領を招集通知に載せさせ、他の株主に知らせる議決権1%以上または300個以上(保有期間不要)総会の日の8週間前まで

図表4 株主提案権の三つの内容(いずれも定款で要件・期限を緩和できる)

会社が株主提案を拒めるのは限られた場合です。第一に、その株主が議決権を行使できない事項についての提案(303条1項括弧書)。第二に、議案が法令または定款に違反する場合。第三に、実質的に同一の議案について、総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(304条ただし書、305条6項)。第四に、取締役会設置会社で一人の株主が提出する議案の数が10を超える場合、超える部分について会社は305条の請求に応じる必要がありません(305条4項。役員の選任・解任議案はまとめて一つの議案と数えます)。この10個の上限は、令和元年改正会社法(令和3年3月1日施行)で新設された規律です。これらに当たらない提案を無視して総会を開けば、招集手続の法令違反として決議取消しの訴え(831条1項1号)の原因になり、議題の追加請求を無視した取締役は過料の対象にもなります(976条18号の2)。

冒頭の二つ目の相談例、「1.5%の株主から総会の6週間前に取締役追加の提案が届いた」という場面で確認すべきことは、まず期限です。8週間前という期限を過ぎた提案には、会社は法律上応じる義務がありません(定款で短縮していない限り)。次に、株主総会の招集通知がすでに発送されているか、議題の追加が物理的に可能かを確認します。期限を過ぎているからといって、その株主が総会当日に304条の議案提出権(動議)を行使することまでは妨げられませんので、当日の議事運営の準備は必要です。詳しい総会当日の攻防は、第8講と企業内部紛争36講・第28講で扱います。

少数株主側から見ると、株主提案は、会社の多数派に自分の存在と主張を「公式に記録させる」手段です。提案が否決されても、提案とその理由が招集通知と議事録に残ること、そして会社が提案を無視すれば決議取消しのリスクを負うことが、その後の交渉の土台になります。

8権利行使の先にある「出口」を見据える

ここまで、帳簿閲覧と株主提案という二つの権利について、会社側の対応を中心に見てきました。最後に視点を一段上げます。少数株主による権利行使の多くは、それ自体が最終目的ではありません。株式を持ち続けても配当はなく、売ろうとしても買い手がいない。その状態から抜け出すために、株式を会社または支配株主に適正な価格で買い取ってもらうという出口に向けた布石として、帳簿閲覧や株主提案が使われるのです。

会社側は、目の前の請求への対応と並行して、「この株主との最終的な着地点はどこか」を早い段階で設計する必要があります。選択肢は大きく三つです。第一に、任意の交渉による買取り(第12講)。帳簿を開示した上で価格交渉に入るほうが、結果として低い価格で合意できることも少なくありません。第二に、株主として残ってもらいながら関係を整える方法。配当政策の見直しや情報提供のルール化で、権利行使の必要そのものを減らす道です。第三に、法的な手段による集約、すなわちスクイーズアウト(第14講)や、相続時の売渡請求(第17講)です。

図解D 少数株主の権利行使と、会社側の「出口」の設計

少数株主の動き帳簿閲覧請求 → 株主提案・招集請求 → 検査役選任・代表訴訟段階を上がるほど会社の負担は増える
その先にあるもの株式の買取り要求(任意交渉・譲渡承認請求・買取請求)第20講〜第22講
会社側が選ぶ出口①任意買取り(第12講) ②関係の整理(配当・情報提供) ③法的集約(第14講・第17講)対症療法の繰り返しが最も高くつく

図解D 個々の請求への対応と、出口の設計は同時に進める

個々の権利行使への対症療法に終始することが、結果として最も高くつきます。閲覧請求のたびに弁護士費用をかけて拒絶の理由を探し、総会のたびに提案への対応に追われ、その間に株主側は帳簿から役員報酬や関連取引の問題点を見つけ、代表訴訟や検査役選任へと段階を上げていく。この流れを断つには、早い段階で出口を決め、そこに向かって手順を組むことが必要です。少数株主側にとっても、権利行使はあくまで出口へ向かう手段であり、「何のために帳簿を見るのか」「見た後に何を求めるのか」を最初に決めておくことが、費用と時間を節約します。

PRACTICE NOTE

開示の範囲・方法・条件をどう設計するか

帳簿閲覧謄写請求に応じることを決めた後、会社が主導すべきなのは開示の「設計」です。法律は閲覧・謄写の権利を認めていますが、いつ、どこで、どのような方法で行うかについての細則は置いていません。株主の権利を不当に制約しない範囲で、会社が合理的な条件を提示することは認められます。当事務所で会社側の回答書を作成する際に検討する項目を、表にまとめます。

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項目設計のポイント注意点
対象の範囲請求理由と関連する期間(事業年度)、勘定科目、資料の種類を特定して列挙する。関連性のない帳簿・資料は理由を付して対象から外す「全部見せない」「全部見せる」の両極を避ける。除外した部分については、なぜ関連性がないかを説明できるようにする
日時・場所営業時間内(433条1項)。本店または帳簿の保管場所。複数日にわたる場合は日程を協議する営業時間内であれば会社は応じなければならない。合理的な理由なく日程を先延ばしにしない
閲覧の方法会社の担当者が立ち会う。原本または会計ソフトの画面・出力帳票を提示する。電磁的記録は法務省令の方法で表示(施行規則226条)立会いは認められるが、閲覧の内容を制約する(メモを禁じるなど)ことはできない
謄写の方法コピーの交付、写真撮影、データ提供のいずれかを協議する。費用は実費の範囲で株主負担とすることが多い謄写を認めながら方法を極端に制限すると、実質的な拒絶と評価されうる
秘密保持取引先名・従業員給与など第三者の情報が含まれる部分について、目的外利用の禁止と秘密保持の合意を求める秘密保持の合意を閲覧の条件とすること(合意しなければ見せない)は、法律上の権利を制約するため慎重に。任意の協力を求める形が基本
回答書の記載①請求の受領日、②株主資格の確認結果、③応じる範囲と日時場所、④応じない範囲とその理由(条文と事実)、⑤連絡窓口回答書は後の仮処分・訴訟で証拠になる。感情的な表現、根拠のない拒絶理由は書かない

回答書の作成にあたっては、「この文書が裁判所に提出されたときにどう読まれるか」を常に意識します。会社が誠実に対応しようとした経過が回答書に残っていれば、仮に一部の拒絶が争われても、会社側の主張は聞いてもらいやすくなります。逆に、期限を守らず、理由を示さず、株主の請求を放置した経過が残れば、開示の範囲は裁判所によって広く画され、その後の紛争でも会社側は不利な立場に置かれます。

少数株主側の実務としては、請求書に「請求の理由」を具体的に書くこと、対象とする帳簿・期間を可能な限り特定すること、そして会社からの回答期限を明記することが基本です。会社が正当な理由なく応じない場合は、閲覧謄写を命じる仮処分の申立て(民事保全法23条2項)と本案訴訟のいずれかを選ぶことになります。仮処分は迅速ですが、保全の必要性(株主総会や譲渡承認請求の期限が迫っているなど)を示す必要があり、事案によっては本案訴訟のほうが確実です。手続の選び方は企業内部紛争36講・第25講に整理があります。

実務チェック

  • 自社の株主のうち、議決権または発行済株式の3%以上を持つ株主(共同すれば3%になるグループを含む)を把握しているか。その株主が帳簿閲覧・招集請求・検査役選任申立てをできることを認識しているか。
  • 定款で少数株主権の要件を引き下げる定めを置いていないか。逆に、要件を引き上げる無効な定めが残っていないか。
  • 帳簿閲覧謄写請求が届いたとき、株主資格の確認、請求理由の精査、拒絶事由の検討、開示範囲の画定、回答書の発出という手順と担当者が決まっているか。
  • 「株式を売りたい株主だから」「同族の争いだから」という理由で閲覧を拒もうとしていないか。それは433条2項の拒絶事由ではない。
  • 取締役会議事録の閲覧請求について、自社が監査役設置会社か(裁判所の許可が必要か)を登記事項証明書で確認しているか。
  • 株主総会の日の8週間前を、株主提案の期限として社内カレンダーに入れているか。提案が届いたときに、要件・期限・拒絶できる場合を判断できる体制があるか。
  • 少数株主との最終的な着地点(任意買取り、関係の整理、法的集約)を検討したことがあるか。個々の請求への対応だけを繰り返していないか。

よくある質問

株主から「株式の適正な価格を知るため」に会計帳簿を見せろと言われました。売却目的なら拒めますか。

拒めません。最高裁は、株式の譲渡に会社の承認を要する会社の株主が、株式を譲渡するにあたって適正な価格を算定する目的で会計帳簿の閲覧謄写を請求した場合、特段の事情がない限り、株主の権利の確保・行使に関する調査のための請求であって、会社法433条2項1号の拒絶事由には当たらないと判断しています(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁)。会社ができるのは、請求理由(価格算定)と関連する範囲の帳簿・資料に開示対象を画し、閲覧の方法と条件を合理的に設計することです。請求者が競業者であるなど別の拒絶事由がある場合は、その事由を会社が立証する必要があります。

会計帳簿の閲覧請求を受けました。法人税の申告書や取引先との契約書も見せなければなりませんか。

会社法433条1項の対象は「会計帳簿又はこれに関する資料」で、仕訳帳・総勘定元帳・補助簿は会計帳簿そのものとして対象になります。証憑類(伝票、請求書、領収書など)は帳簿の記載の直接の根拠となるものは対象に含まれるという考え方が有力ですが、裁判例の判断は分かれています。法人税確定申告書の控えや預金通帳、契約書については、対象に含まれないとした裁判例があります(横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁)。ただし、開示の範囲は請求理由との関連性で画されますから(東京高判平成28年3月28日金判1491号16頁)、利益相反取引の調査を理由とする請求で当該取引の記録が問題になる場合など、個別の事情による判断が必要です。なお、計算書類(決算書)は433条とは別に、1株でも持っていれば閲覧できます(442条3項)。

請求してきた株主は、うちと同業の会社を経営しています。競業者として拒めますか。

拒める可能性があります。会社法433条2項3号は、請求者が「当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するもの」であるときを拒絶事由としており、最高裁は、この事由があるというには請求者が競業者であるという客観的事実が認められれば足り、閲覧で得た情報を競業に利用する主観的意図までは必要でないとしています(最決平成21年1月15日民集63巻1号1頁)。ただし「実質的に競争関係にある」かどうかは、事業内容・商圏・顧客層の重なりを具体的に見て判断されますので、業種が似ているというだけでは足りません。会社側は、競業関係を示す客観的な資料(相手会社の登記事項証明書、事業内容、取引先の重なりなど)を揃えて主張する必要があります。

1.5%しか持たない株主から株主提案が届きました。取締役会設置会社です。応じなければなりませんか。

公開会社でない取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を持つ株主は、保有期間にかかわらず、株主総会の日の8週間前までに議題の追加(会社法303条2項・3項)と議案の要領の通知(305条1項・2項)を請求できます。1.5%であれば要件を満たしますので、8週間前までに届いた提案であれば、法令・定款に違反する議案や、3年以内に10分の1以上の賛成を得られなかった実質的に同一の議案(305条6項)などに当たらない限り、会社は応じなければなりません。無視して総会を開くと決議取消しの訴え(831条1項1号)の原因になります。8週間前を過ぎて届いた提案には応じる義務はありませんが、株主が総会当日に議案を提出すること(304条)は妨げられません。

少数株主の立場です。父から相続した株を会社が買ってくれず、決算書も見せてもらえません。何ができますか。

まず、計算書類(決算書)は1株でも持っていれば閲覧・謄写できます(会社法442条3項)。株主名簿・株主総会議事録も同様です(125条2項、318条4項)。相続による株式の取得は名義書換の前でも会社に対抗できますが、遺産分割が終わっていない場合は準共有株式として権利行使者の指定・通知が必要になる点に注意が必要です(106条、第16講)。持株が3%以上であれば、「株式の適正な価格を算定するため」という理由で会計帳簿の閲覧謄写を請求できます(433条1項、最判平成16年7月1日)。これらの情報を基礎にして、任意の買取交渉(第20講)、譲渡承認請求と売買価格決定の申立て(第21講)、あるいは会社の組織再編などがあれば反対株主の買取請求(第22講)という出口に進むことになります。会社が正当な理由なく閲覧を拒めば、閲覧謄写を命じる仮処分や訴訟を申し立てることができます。

おわりに ― 「見せない」より「見せ方を決める」

少数株主権への対応で会社側がしばしば誤るのは、「見せるか見せないか」の二択で考えることです。会社法は、拒絶事由のない請求を拒む選択肢を会社に与えていません。会社に与えられているのは、請求理由に照らして開示の範囲を合理的に画し、方法と条件を設計する裁量です。この裁量を早い段階で使い、あわせて少数株主との最終的な着地点を描くことが、紛争を長引かせない唯一の道です。

少数株主の側にとっても、本講で扱った権利は、「売れない株」を持ち続けるしかない状態から抜け出すための、法律が正面から認めた手段です。理由を具体的に書き、対象を特定し、出口を決めてから使えば、これらの権利は交渉を動かす力になります。

明徳法律事務所(大阪市西区)では、会社側からは帳簿閲覧謄写請求・株主提案・招集請求への回答書作成と開示設計、少数株主側からは請求書の作成と仮処分・訴訟の対応、そして双方の立場からの出口戦略の設計をお引き受けしています。

次回 第8講「株主総会が戦場になる日」では、少数株主権の階段をさらに登った先にある、株主総会の招集請求、総会検査役、委任状勧誘の攻防を扱います。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕31条2項、106条、125条、297条、303条〜306条、318条4項、358条、360条、371条、433条、442条3項、830条、831条、833条、847条、854条、976条4号・18号の2
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕226条(電磁的記録に記録された事項を表示する方法)
  • 民事保全法〔e-Gov法令検索〕23条2項(仮の地位を定める仮処分)
  • 最判平成2年11月8日判時1372号131頁会計帳簿閲覧謄写請求の理由は、関連する帳簿等を特定できる程度に具体的に記載する必要があるとした判例
  • 最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁請求理由を基礎づける事実の客観的存在の立証は不要であり、譲渡制限株式の適正な価格を算定する目的での閲覧謄写請求は、特段の事情がない限り拒絶事由に当たらないとした判例
  • 最決平成18年9月28日民集60巻7号2634頁検査役選任申立て後の新株発行により申立人の持株が3%未満となった場合、会社が申立てを妨害する目的で新株を発行したなどの特段の事情がない限り申立ては不適法となるとした判例
  • 最決平成21年1月15日民集63巻1号1頁競業者であることを理由とする拒絶事由は、請求者が競業者であるという客観的事実があれば足り、主観的意図は不要とした判例(親会社株主による子会社帳簿閲覧の許可申立ての事案)
  • 東京地決平成6年3月4日判タ875号265頁近い将来競業関係に立つ蓋然性が高い場合の競業者要件に関する裁判例
  • 東京高判平成28年3月28日金判1491号16頁閲覧謄写の対象は請求理由と関連性のある範囲の会計帳簿等に限られ、すでに開示を受けた部分について更に他の帳簿の閲覧謄写を求めることは433条2項2号に当たるとした裁判例
  • 横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲について、法人税確定申告書控え等を対象外とした裁判例
  • 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、同編著『非上場株式の相続と会社法 ― 評価・遺産分割・換価・経営参加の法律実務』(新日本法規、2025年)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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