『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第20講】
売れない株を金に換える五つのルート
― 少数株主側・総論:情報収集が全ルートの出発点になる ―
「亡くなった父から、叔父が経営する会社の株を8%相続しました。配当は一度もなく、決算書も見たことがありません。叔父に『買い取ってほしい』と言ったら『額面で引き取る』と言われました。この株は、本当にそれだけの価値しかないのでしょうか」
「元勤務先の株を5%持っています。退職して10年、総会の通知だけが毎年届きます。会社は業績が良いと聞きますが、株を売る方法がありません。インターネットで『非上場株式を買い取ります』という業者を見つけました」
「兄と私で会社の株を60対40で持っています。兄は役員報酬を年3,000万円取りながら、配当はゼロです。私は会社に関わっていません。何ができますか」
この講の結論
ここからは視点を変え、少数株主の側から非上場株式を見ていきます。非上場会社の少数株主の多くは、配当はゼロか僅少、役員報酬という果実にもあずかれず、譲渡制限のため売却先も見つからない、という「塩漬け」の状態に置かれています。他方で、その株式の実質的な価値は、会社の成長とともに確実に膨らんでいます。この価値を現実の金銭に換える適法なルートは、大きく五つあります。①会社・オーナーへの任意の買取交渉、②譲渡承認請求から売買価格決定へ、③組織再編等をとらえた株式買取請求、④会社側のスクイーズアウト・自己株式取得への対応、⑤少数株主権の行使と解散の訴えによる圧力です。
どのルートを選ぶかは、持株比率、会社の財務状況、相続や組織再編といったイベントの有無、かけられる時間とコスト、そして税務で決まります。見落とされがちですが、情報収集が全ルートの出発点です。決算書すら持っていない少数株主は、まず計算書類の閲覧(会社法442条3項)や会計帳簿閲覧請求(433条)で会社の実力を把握するところから始めます。株式の価値が分からないまま交渉のテーブルに着くことは、値札のない店で買い物をするのと同じです。そして「あなたの非上場株式を買い取ります」と謳う業者への売却という六つ目のルートには、売買契約自体が無効とされた裁判例(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)があり、第26講で一回分を使って扱います。
1少数株主の現実 ― 配当なし、売り先なし、発言力なし
本連載の第Ⅱ部から第Ⅳ部までは、主として会社側・後継者側の視点から、株主管理・株式集約・相続の実務を見てきました。第Ⅴ部では、同じ道具を反対側から見ます。非上場会社の少数株主が、自分の株式をどう扱えるのか、という視点です。
非上場会社の少数株主が置かれている状況は、三つの「ない」で表せます。第一に、配当がない。中小企業の多くは配当を行わず、利益は内部留保されるか、役員報酬として支配株主側に流れます。第二に、売り先がない。株式に譲渡制限がかかっており(会社法107条1項1号)、市場もなく、会社に関係のない第三者が少数株式を買うことはまずありません。第三に、発言力がない。株主総会の決議は多数決で決まり、少数株主が反対しても結果は変わりません。株式は「持っているだけの財産」になり、これを「塩漬け株」と呼ぶことがあります。
ところが、この塩漬けの株式の実質的な価値は、会社の成長とともに膨らんでいます。第2講で見たとおり、非上場株式には「四つの値段」があり、税務上の配当還元価額が額面程度であっても、会社の純資産や収益力に基づく実質的な価値はその数倍から数十倍になることがあります。少数株主が「額面で引き取る」という会社側の提示に応じるとき、その差額は支配株主側に移転しています。
図解A 塩漬け株の構造 ― 価値は膨らみ、現金にはならない
図解A 「売れない」のではなく、「売る方法を知らない」ことが多い
会社側から見れば、少数株主が権利を行使せず、株式を持ち続けてくれる状態が最も都合がよく、株式の買取りを求められても額面程度での買取りにしか応じない、という対応がよく見られます。長年権利を行使してこなかった少数株主に対しては、「株式を持ち続けてもらっても支障はない」という認識が会社側にあるからです。この認識を変えるのが、少数株主権の行使と換価ルートの選択です。
2換価五ルートの全体像
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| ルート | 仕組み | 価格の基準・期間の目安 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 1 任意の買取交渉 | 会社・オーナー・後継者に株式の買取りを申し入れ、合意で売買する | 価格は交渉次第。数か月。情報と代替案がなければ「額面で」と足元を見られる | 本講第3節、第12講(会社側の視点) |
| 2 譲渡承認請求→売買価格決定 | 譲受人候補を立てて譲渡承認を請求。会社が不承認なら会社または指定買取人が買い取る義務を負い、価格は協議または裁判所の決定(136条〜144条) | 実質価値ベース。裁判所は「一切の事情」を考慮し、非流動性ディスカウントを行うことがある(最決令和5年5月24日)。裁判所の決定まで1年以上かかることが多い | 第21講、第4講 |
| 3 反対株主の株式買取請求 | 会社が組織再編・事業譲渡・譲渡制限の新設・株式併合などを行うとき、反対株主が「公正な価格」での買取りを請求(116条、182条の4、469条、785条、797条、806条) | 「公正な価格」。非上場会社の合併に反対した株主の買取請求について非流動性ディスカウントを否定した判例(最決平成27年3月26日)。会社側のアクションを待つ受動的ルート。価格決定まで1年以上 | 第22講 |
| 4 スクイーズアウト・自己株式取得への対応 | 会社側から株式等売渡請求・株式併合・自己株式取得を仕掛けられたとき、価格決定の申立てや売主追加請求で価格を争う | 交渉・価格決定次第。会社側が動いた場合に限られるが、期限を守れば裁判所が価格を決める | 第14講、第12講 |
| 5 少数株主権の行使と解散の訴え | 帳簿閲覧・株主提案・検査役・代表訴訟・役員解任の訴えなどで会社の私物化を正し、最終的には解散の訴え(833条)も。会社側に「買い取ったほうが早い」と判断させ、和解へ | 直接の換価手段ではないが、和解による買取りに至ることが多い。解散の訴えは要件が厳格で認容例は少ない | 第7講、第8講、第23講、第24講 |
図表1 換価五ルートの全体像 ― 単独で使うことは少なく、組み合わせて進める
五つのルートは排他的ではありません。実務では、ルート5の情報収集と権利行使で会社の実力と問題点を把握し、それを背景にルート1の交渉を行い、交渉が決裂すればルート2の譲渡承認請求に進む、という流れが典型です。ルート3と4は会社側のアクションを待つ受動的なルートですが、その機会が来たときに期限を落とさないための準備が必要です。
3ルート1 任意の買取交渉 ― 「足元を見られない」ための三つの条件
最も基本的なルートは、会社・オーナー・後継者への任意の買取りの申し入れです。手続が要らず、合意さえできれば数か月で現金になります。問題は価格です。第12講で見たとおり、会社側は「いくらで買えるか」を第一に考え、税務上の評価額(配当還元価額)や額面を提示してきます。少数株主が情報を持たず、代替案も持たなければ、その価格で売るか売らないかの二択に追い込まれます。
足元を見られないための条件は三つです。第一に、株式の価値を知っていること。会社の計算書類(442条3項)を取得し、簿価純資産法で概算し、可能なら会計帳簿の閲覧(433条。3%以上)や私的鑑定で実質的な価値を把握します(第3講)。第二に、代替案を持っていること。「合意できなければ譲渡承認請求に進み、裁判所に価格を決めてもらう」という道があることを、会社側が理解している状態で交渉に入ります。第三に、売主側の税務を理解していること。買主が会社か個人かで手取りが大きく変わり(みなし配当課税。第13講)、相続で取得した株式なら3年10か月の特例があります。「会社が買うなら価格をこれだけ上げてもらわなければ、個人が買う場合と同じ手取りにならない」という主張は、税務を理解していなければできません。
会社側はなぜ買い取るのか 会社側にとって、少数株主の株式を買い取る動機は、株式の分散防止、少数株主権の行使からの解放、M&Aや事業承継の準備です(第12講)。少数株主側は、会社側のこの動機を理解した上で、「今、この価格で買い取ることが会社にとっても合理的である」という形で提案を組み立てます。相続直後(会社法162条・措法9条の7で会社が買いやすい時期)、M&Aの準備が始まった時期、事業承継で後継者への集約が必要な時期は、少数株主側の交渉力が高まる時期です。
4ルート2 譲渡承認請求 ― 会社に買取義務を生じさせる正攻法
任意の交渉が決裂したとき、少数株主が自ら主導権を持って進められる唯一のルートが、譲渡承認請求です。譲渡制限株式の株主は、譲渡の相手(譲受人候補)と株式数を明らかにして、会社に譲渡の承認を請求することができ、あわせて、会社が承認しない場合には会社または指定買取人がその株式を買い取ることを請求できます(136条、138条1号)。会社が承認しない旨の決定をすれば、会社自身が買い取るか(140条1項)、指定買取人を指定して(同条4項)買い取らせなければなりません。売買価格は協議で定め、協議が整わなければ、会社の買取通知の日から20日以内に裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(144条1項・2項)。
このルートの要点は、会社に「承認するか、買い取るか」の二択を強制できることです。会社が承認すれば、譲受人候補に株式を売却できます。承認しなければ、会社または指定買取人に買取義務が生じ、価格は最終的に裁判所が決めます。会社が請求から2週間以内に不承認の通知をしなければ承認したものとみなされ(145条1号)、不承認の通知から40日以内に会社が買取通知をしなければ、やはり承認したものとみなされます(同条2号)。会社側の対応の遅れは、すべて少数株主側に有利に働きます。
価格については、裁判所は「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情」を考慮して決定します(144条3項)。裁判例の傾向は第4講で詳しく見たとおりで、継続企業では収益還元法・DCF法と純資産法の折衷が多く、少数株式について非流動性ディスカウントを施すことが認められています(最決令和5年5月24日)。それでも、税務上の配当還元価額や額面と比べれば、大幅に高い価格になるのが通常です。裁判所の決定までには1年以上かかることが多く、鑑定費用も生じますが(第25講)、会社側が「裁判所に行かれるより任意で買い取ったほうが安い」と判断して、申立ての前後で和解に至ることも少なくありません。手続の詳細と戦い方は第21講で扱います。
5ルート3 会社のアクションをとらえる ― 反対株主の株式買取請求
会社が一定の重要な行為をするとき、それに反対する株主には、会社に対して自己の株式を「公正な価格」で買い取ることを請求する権利が与えられています。対象となる行為は、全株式への譲渡制限の新設や一部の種類株式への譲渡制限・全部取得条項の設定(116条1項1号・2号)、株式併合で端数が生じる場合(182条の4)、事業譲渡等(469条)、吸収合併・吸収分割・株式交換(消滅会社等は785条、存続会社等は797条)、新設合併・新設分割・株式移転(806条)などです。
このルートの特徴は二つあります。第一に、受動的であること。会社側がこれらの行為を行わなければ、権利は発生しません。第二に、価格面で有利であること。買取請求の価格は「公正な価格」であり、譲渡承認請求の「売買価格」(144条)とは概念が異なります。組織再編に伴う買取請求の「公正な価格」は、その組織再編がなければ株式が有していたであろう価格を基礎とし、シナジーの分配も考慮するという判例法理が上場会社の事案で形成されており(第22講)、非上場会社の合併に反対した株主の買取請求について、最高裁は収益還元法で算定した価格に非流動性ディスカウントを行うことはできないと判断しています(最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁)。少数株式であることを理由とする減額が制限される方向にあるということです。
反対株主となるには、株主総会に先立って反対の通知をし、かつ総会で反対の議決権を行使する必要があり(議決権のない株主は不要)、買取請求は効力発生日の20日前から前日までなど、法定の期間内に行わなければなりません。価格の協議が効力発生日から30日以内に整わなければ、その後30日以内に裁判所に価格決定を申し立てます(117条2項など)。会社から組織再編や定款変更の招集通知が届いたら、これらの期限を確認することが、少数株主側の最初の仕事になります。詳細は第22講で扱います。
6ルート4 排除されるときに増額を狙う ― スクイーズアウト・自己株式取得への対応
会社側が少数株主の排除を仕掛けてくる場面も、少数株主にとっては換価の機会です。第14講で見た特別支配株主の株式等売渡請求(179条以下)と株式併合(180条以下)では、少数株主は株主の地位を保つことはできませんが、裁判所に価格の決定を申し立てて「公正な価格」を求めることができます。会社側が税務上の評価額のような低い対価を設定していれば、価格決定で大幅な増額が命じられる可能性があり、決定価格には法定利率の利息が付きます。
また、会社が特定の株主から自己株式を取得しようとするとき、他の株主には自分も売主に加えることを求める権利(売主追加請求権。160条3項)があります(第12講)。会社がオーナー一族の株式を会社の資金で買い取ろうとする場面で、少数株主がこの権利を行使すれば、同じ条件で自分の株式を会社に買い取らせることができます。定款で排除されていない限り(164条)、会社側がこの請求権の存在を見落としていることも珍しくありません。
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| 会社側のアクション | 少数株主の対応 | 期限 |
|---|---|---|
| 特別支配株主の株式等売渡請求(179条) | 売買価格決定の申立て(179条の8)。対価が著しく不当なら差止め(179条の7) | 取得日の20日前の日から取得日の前日まで |
| 株式併合によるスクイーズアウト(180条) | 総会前の反対通知+総会での反対→端数株式の買取請求(182条の4)→価格決定の申立て(182条の5) | 買取請求は効力発生日の20日前から前日。申立ては効力発生日から30日の協議期間後30日以内 |
| 特定の株主からの自己株式取得(160条) | 売主追加請求(160条3項)で同条件での買取りを求める | 総会の日の5日前(非公開会社の一定の場合は3日前)まで(施行規則29条) |
| 組織再編・事業譲渡・譲渡制限新設(116条等) | 反対通知→総会で反対→買取請求→価格決定の申立て | 買取請求は効力発生日の20日前から前日。申立ては効力発生日から30日の協議期間後30日以内(第22講) |
図表2 会社側のアクションと少数株主の対応・期限 ― 通知が届いた日に確認する
7ルート5 少数株主権の行使と解散の訴え ― 圧力から和解へ
第7講・第8講で会社側の視点から見た少数株主権は、少数株主側から見れば、会社の私物化を正し、会社側に「買い取ったほうが早い」と判断させるための道具です。同族会社や閉鎖的な会社では、支配株主側による利益相反取引、過大な役員報酬、株主総会の不開催など、会社法が求める手続に従わない業務執行が見られることがあります。少数株主が権利を行使してこれを正すことは、健全な経営の実現につながるだけでなく、支配株主側に対して、責任追及を避けるため、また今後の株主対応の手間と費用を避けるために、株式の買取りに前向きになる動機を与えます。権利行使を契機として、株式の買取りを内容とする和解が成立することは、実務上少なくありません。
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| 権利 | 必要な持株・条文 | 少数株主側の使い方 |
|---|---|---|
| 計算書類・議事録・株主名簿の閲覧 | 1株。442条3項、318条4項、125条2項 | 会社の実力と株主構成を把握する最初の一歩。総会に出席し、質問(314条)する |
| 会計帳簿の閲覧謄写請求 | 議決権または発行済株式の3%。433条 | 「株式の適正な価格を算定するため」という理由で請求できる(最判平成16年7月1日)。役員報酬・関連取引の実態を把握 |
| 株主提案・総会招集請求 | 1%(取締役会設置会社)・3%。303条、305条、297条 | 配当議案の提案、役員解任議案、取締役の説明を求める場を作る |
| 総会検査役・業務検査役の選任申立て | 1%・3%。306条、358条 | 総会手続の記録、業務・財産の調査。不正の疑いがある場合の強力な情報収集手段(企業内部紛争36講・第19講) |
| 取締役の違法行為差止め・株主代表訴訟 | 1株。360条、847条 | 利益相反取引・過大報酬の是正と責任追及(同・第20講〜第23講) |
| 役員解任の訴え | 3%。854条 | 解任議案が否決された日から30日以内。不正の行為等が要件(第23講) |
| 解散の訴え | 10%。833条1項 | 「やむを得ない事由」が必要で認容例は少ない。デッドロック等の限定場面(第24講)。認められれば会社は消滅するため、交渉材料としての意味が大きい |
図表3 少数株主権の階段 ― 換価の直接手段ではないが、和解への道を開く
ルート5には注意点があります。権利行使は、それ自体が目的ではなく、出口(株式の買取り)への手段です。権利行使を繰り返すだけで出口を設計していないと、会社側との対立が深まり、時間と費用がかかる一方で、株式は塩漬けのまま残ります。第7講で会社側に「出口を見据えよ」と述べたことは、少数株主側にも同じように当てはまります。どの権利をどの順序で行使し、どの時点で買取りの提案を出すか、を最初に設計しておく必要があります。また、権利行使を「会社を困らせる」ことだけを目的として行えば、433条2項の拒絶事由(第7講)や権利濫用の主張を招き、かえって不利になります。
8ルート選択の判断軸 ― 持株比率×会社の状況×時間軸×税務
五つのルートのどれを、どの順序で使うかは、四つの軸で決まります。
図解B ルート選択の四つの判断軸
図解B 四つの軸を埋めてから、最初の一手を決める
四つの軸を踏まえた典型的な進め方を示します。持株3%以上で、会社に分配可能額があり、相続直後であれば、①計算書類と帳簿閲覧で価値を把握し、②相続税の申告期限後3年以内に会社が買い取れば双方に税務上の利益があることを示して任意交渉を行い、③決裂すれば譲渡承認請求に進む。持株3%未満で情報が乏しければ、①計算書類の閲覧と総会での質問で情報を集め、②私的鑑定または簿価純資産法で概算し、③任意交渉から譲渡承認請求へ。会社が組織再編を予定しているなら、反対株主の買取請求の期限を最優先で管理する。いずれの場合も、業者への売却(六つ目のルート)は、大阪高裁の判決(第26講)を踏まえれば、選択肢として推奨できません。
「六つ目のルート」の危うさ 近時、「あなたの非上場株式を買い取ります」と謳う業者への売却が宣伝されています。しかし大阪高裁は、そのようなビジネスモデルの一類型について、業者による譲渡制限株式の譲受けが弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)に違反し、売買契約自体が無効であると判断しました(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)。売ったはずの株主の地位が復活し、受け取った代金の清算問題まで生じかねません。また、業者に売却しても譲渡制限株式である以上、会社の承認がなければ会社に対して譲渡の効力を主張できず(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)、業者が譲渡承認請求をして会社が買い取ることになれば、その価格は業者の取得価格とは無関係に決まります。第26講で一回分を使って扱います。
PRACTICE NOTE
少数株主の初動・情報収集チェック
少数株主からご相談を受けたとき、当事務所が最初に確認する項目です。この表が埋まらなければ、どのルートも選べません。
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| 確認項目 | 入手方法 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| ① 自分の株式の確認 | 株券(株券発行会社か登記で確認)、株主名簿の記載(125条2項で閲覧)、取得の経緯(相続・贈与・出資・売買)、取得費(第13講) | 自分が株主名簿上の株主か、名義書換が済んでいるか、相続なら準共有か(第16講)、税務上の取得費 |
| ② 会社の基本情報 | 登記事項証明書(誰でも取得可)、定款(31条2項) | 取締役会設置か、監査役設置か、株券発行会社か、譲渡制限の承認機関、売渡請求条項・種類株式・売主追加請求権排除の定めの有無 |
| ③ 株主構成 | 株主名簿の閲覧謄写(125条2項。理由の明示が必要) | 支配株主の持株比率(90%以上ならスクイーズアウトの可能性)、他の少数株主の存在(共同での権利行使) |
| ④ 会社の財務 | 計算書類の閲覧・謄本交付(442条3項)。3%以上なら会計帳簿(433条) | 純資産・利益・分配可能額・役員報酬・関連取引。簿価純資産法による概算 |
| ⑤ 株式の価値 | 簿価純資産法による概算→必要に応じて公認会計士等による私的鑑定(第3講) | 交渉の基準となる価格帯。裁判所の価格決定の見通し(第4講) |
| ⑥ 会社側の状況 | 登記の変更履歴、業界情報、取引先・従業員からの情報、株主総会での質問(314条) | M&A・事業承継・相続・組織再編の予定。会社側の買取動機の有無と時期 |
| ⑦ 自分の税務 | 取得費、他の所得、相続取得なら相続開始日と申告期限(第13講) | 買主別の手取り。3年10か月の特例の期限 |
| ⑧ 期限の確認 | 届いている通知(招集通知・組織再編・株式併合・売渡請求・自己株式取得)の内容 | 反対通知・買取請求・価格決定申立て・売主追加請求の期限(図表2) |
③と④で、会社が閲覧を拒む場合があります。株主名簿と計算書類は1株でも閲覧でき、会社が正当な理由なく拒めば過料の対象になり(976条4号)、閲覧を命じる裁判も可能です(第7講)。「決算書を見せない会社」という事実そのものが、後の交渉や裁判で少数株主側の材料になります。
実務チェック
- 自分が株主名簿上の株主として記載されているか、株券発行会社なら株券を持っているか、相続で取得した場合に遺産分割と名義書換が済んでいるかを確認したか。
- 登記事項証明書と定款を取得し、承認機関・売渡請求条項・種類株式・売主追加請求権の排除の有無を確認したか。
- 計算書類を取得し、簿価純資産法で株式の価値を概算したか。3%以上なら会計帳簿の閲覧謄写請求を検討したか。
- 買主が会社か個人かによる手取りの違い、相続取得株式の3年10か月の特例を理解した上で、交渉の価格を設計したか。
- 任意交渉が決裂した場合の代替案(譲渡承認請求)を、交渉前に準備し、会社側に理解させているか。
- 会社から届く通知(組織再編・株式併合・売渡請求・自己株式取得)の期限を、受け取った日に確認する体制があるか。
- 少数株主権の行使について、出口(買取り)に向けた順序と時期を設計しているか。行使のための行使になっていないか。
- 株式買取業者への売却を検討している場合、大阪高判令和6年7月12日の判断と、譲渡制限株式の譲渡には会社の承認が必要であることを理解しているか。
よくある質問
叔父の会社の株を8%相続しました。叔父は「額面で引き取る」と言います。それだけの価値しかないのでしょうか。
そうとは限りません。額面や税務上の配当還元価額は、株式の実質的な価値とは別のものです(第2講)。まず、計算書類(決算書)の閲覧・謄本の交付を会社に請求してください(会社法442条3項。1株でも請求できます)。純資産額を発行済株式数で割れば、簿価純資産法による概算が出ます。8%を持っていれば、「株式の適正な価格を算定するため」という理由で会計帳簿の閲覧謄写も請求できます(433条、最判平成16年7月1日)。価値を把握した上で交渉し、合意できなければ譲受人候補を立てて譲渡承認請求を行い、会社が不承認なら会社または指定買取人に買取義務が生じ、価格は最終的に裁判所が決めます(136条〜144条。第21講)。相続で取得した株式を会社に売る場合、相続税の申告期限後3年以内なら税務上の特例(措法9条の7)があり、会社側にも162条の特則があるため、この時期は双方にとって合意しやすい時期です(第13講)。
元勤務先の株を5%持っています。「非上場株式を買い取ります」という業者に売ってはいけませんか。
推奨できません。第一に、大阪高裁は、株式買取業者が譲渡制限株式を買い取り、会社に対して権利を行使して換価するというビジネスモデルの一類型について、弁護士法73条に違反し売買契約自体が無効であると判断しました(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁)。無効であれば、あなたは株主の地位に戻り、受け取った代金の清算が問題になります。第二に、譲渡制限株式である以上、会社の承認がなければ業者は会社に対して株主であることを主張できません(最判昭和48年6月15日)。第三に、業者があなたから買い取る価格は、業者が後に会社との交渉や価格決定で得ようとする価格から業者の利益を差し引いたものですから、あなた自身が譲渡承認請求から価格決定に進んだ場合より低くなるのが通常です。業者に売ることで得られる「手間の省略」は、自分で弁護士に依頼して同じ手続を進めることで代替できます。第26講で詳しく扱います。
兄が60%、私が40%です。兄は役員報酬を年3,000万円取り、配当はゼロです。何ができますか。
40%の持株は、少数株主権のほぼすべてを行使できる水準です。第一に情報収集として、会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法433条)で役員報酬の決定過程と関連取引を把握します。第二に、株主総会で配当議案を提案し(303条・305条)、役員報酬について説明を求めます(314条)。役員報酬の総額は株主総会の決議事項ですから(361条1項)、決議を経ていなければ問題になります。第三に、報酬が著しく過大で会社に損害を与えていれば、株主代表訴訟(847条)で兄の責任を追及する余地があります(企業内部紛争36講・第21講)。第四に、これらを背景に、株式の買取りを提案します。40%の株式は、兄にとって特別決議を単独で通せない原因ですから、兄側にも買い取る動機があります。合意できなければ譲渡承認請求(第21講)へ。40%で50対50に近い構成では、解散の訴え(833条)の「やむを得ない事由」が認められる余地も、事案によっては生じます(第24講)。権利行使は出口(買取り)に向けた手段として設計します。
会社から「合併するので株主総会を開く」という通知が届きました。私は反対です。株を買い取ってもらえますか。
もらえます。吸収合併の消滅会社・存続会社の株主は、反対株主として会社に自己の株式を「公正な価格」で買い取ることを請求できます(会社法785条、797条)。反対株主となるには、株主総会に先立って会社に反対の通知をし、かつ総会で反対の議決権を行使する必要があります(議決権のない株主は不要)。買取請求は効力発生日の20日前の日から前日までに行い、価格の協議が効力発生日から30日以内に整わなければ、その後30日以内に裁判所に価格決定を申し立てます。「公正な価格」は譲渡承認請求の「売買価格」とは異なる概念で、組織再編がなければ有していた価格を基礎にシナジーの分配も考慮されるという判例法理があり、少数株式であることを理由とする減額が制限される方向にあります。会社側のアクションを待つ受動的なルートですが、価格面では有利です。通知が届いた日に、反対通知・買取請求・申立ての期限をカレンダーに入れてください。第22講で詳しく扱います。
会社が決算書を見せてくれません。株主なのに何も分からない状態です。どうすればよいですか。
株主は、1株でも、計算書類(貸借対照表・損益計算書等)と事業報告・附属明細書の閲覧および謄本の交付を、営業時間内いつでも請求できます(会社法442条3項。謄本の交付には会社の定めた費用の支払いが必要)。株主総会議事録(318条4項)と株主名簿(125条2項。請求理由の明示が必要)も同様です。会社が正当な理由なく拒めば、取締役等は100万円以下の過料の対象になり(976条4号)、閲覧を命じる裁判を求めることもできます。請求は書面(内容証明)で行い、拒否された経過を記録しておきます。「株主に決算書を見せない会社」という事実は、後の交渉・調停・価格決定手続で、会社側の姿勢を示す材料になります。3%以上を持っていれば、さらに会計帳簿の閲覧謄写請求(433条)ができます(第7講)。情報がないまま「額面で売れ」という提案に応じることが、最も避けるべき選択です。
おわりに ― 値札のない店で買い物をしない
非上場株式の少数株主は、「売れない株」を持たされていると思い込んでいることが多くあります。しかし会社法は、少数株主が株式を金銭に換えるための複数のルートを用意しており、そのどれも、会社の実力を知ることから始まります。決算書を取得し、株式の価値を把握し、買主別の手取りを計算し、代替案を持って交渉のテーブルに着く。それだけで、「額面で引き取る」という提案の意味が変わります。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、少数株主の側から、情報収集(閲覧請求・帳簿閲覧)、株式の価値の把握(税理士・公認会計士との協働)、任意交渉の代理、譲渡承認請求と売買価格決定の申立て、反対株主の株式買取請求、スクイーズアウトへの対応、少数株主権の行使と和解の設計まで、換価に至る全工程をお引き受けしています。第21講から第24講で、各ルートの戦い方を順に扱います。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 会社法〔e-Gov法令検索〕31条2項、107条1項1号、116条、117条、125条2項、136条〜145条、160条、162条、164条、179条以下、180条以下、182条の4・182条の5、297条、303条、305条、306条、314条、318条4項、358条、360条、361条、433条、442条3項、461条、469条、785条、797条、806条、833条、847条、854条、976条4号
- 租税特別措置法〔e-Gov法令検索〕9条の7、39条
- 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないとした判例
- 最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁譲渡制限株式の適正な価格を算定する目的での会計帳簿閲覧謄写請求は拒絶事由に当たらないとした判例
- 最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁非上場会社の吸収合併に反対した株主の株式買取請求(785条)について、収益還元法で算定した価格に非流動性ディスカウントを行うことはできないとした判例
- 最決令和5年5月24日判タ1514号33頁譲渡制限株式の売買価格決定において非流動性ディスカウントを行うことができるとした判例(第4講)
- 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁株式買取業者による譲渡制限株式の譲受けを弁護士法73条違反により無効とした判決(第26講)
- 加藤真朗編著『非上場株式の相続と会社法』(新日本法規、2025年)第6章、同編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日