第32講承継・退出・再発防止
経営する側と、しない側
資本構成・経営参加・相続の調整
この講の結論
兄弟や親族が株式を分け合う会社では、働いている人への報酬と株主への利益配分、会社としての経営判断と家族としての希望が、同じ人の中で重なります。経営を担う兄が報酬を受け取り、経営に関わらない妹が配当も情報も受けられないという状態が続けば、不信は「性格の問題」ではなく制度の問題として蓄積します。この講の要点は三つです。報酬、配当、会社の留保は根拠の異なる別の項目であり、それぞれを説明できるようにすること。50対50や60対40という持株比率が定款と機関設計のもとで何を意味するかを確かめ、膠着と次の相続に先回りして手を打つこと。そして共同保有を続けるなら、対立したときの決め方を株主間契約と定款で合意しておくことです。紛争が必ず資本関係の解消に至るわけではなく、情報と役割の合意で共同保有を続けられる会社も少なくありません。
人間関係と制度の両方を見る
親族間の不信は、性格の問題だけに還元しても、持株比率の問題だけに還元しても解決しません。誰がどれだけ経営に貢献してきたか、誰の生活が会社に依存しているか、親がどのような約束をしていたか、誰が情報を持ち誰が持っていないか、株式がどのような経緯で相続されたかを整理し、それぞれを法的に実現できる条件に置き換えていきます。「兄が会社を私物化している」という不満は、法的には、報酬の決定手続(第21講)、利益相反取引(第22講)、情報の開示(第18講)という別々の問題に分解されます。
少数株主の希望も一様ではありません。「経営に参加したい」「報酬の根拠を知りたい」「配当を受けたい」「株式を売って手を引きたい」は異なる希望であり、それぞれに対応する手段が異なります。経営に参加したい人に買取価格を提示しても解決せず、退出したい人に取締役の席を用意しても解決しません。当事者ごとに、経営への参加の希望と経済的な希望を分けて聞き取ることが、設計の出発点です。
50対50と60対40
株式を兄弟で半分ずつ持つ会社では、両者が対立すれば株主総会の決議が成立しません。普通決議は、定款に別段の定めがない限り、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で成立します(309条1項)。普通決議の定足数は定款で排除することもできますが、役員の選任・解任の決議は、定款でも定足数を議決権の3分の1未満に引き下げることができません(341条)。50対50の会社では、双方が出席すれば50%は過半数に達せず、役員の選任も解任も可決されません。他方、定款で定足数を3分の1に引き下げていれば、一方が欠席したときは出席した50%だけで定足数を満たし、出席者の過半数で役員を選任できてしまいます。定款の定足数の定めを確認したうえで、欠席ではなく出席して反対することが、膠着状態での自衛策になります。双方が出席し続けて対立すれば役員の改選ができず、任期満了により退任した役員は、法律または定款で定めた員数を欠く限り、後任が就任するまで権利義務役員として職務を続けます(346条1項)。ただし、総会が止まっても会社の業務がすべて止まるわけではありません。既に選任されている代表取締役の業務執行権限、取締役会の構成、定款の定足数の定めによって、日常の業務は続きます。第25講で見たとおり、近年の裁判例は、役員の改選ができないというだけでは解散の要件を満たさないとする一方、事業を失って損失が続く会社では解散を認めています。50対50の膠着は、解散ではなく株式の買取りや会社の分割(第33講)で解消するのが通常の道筋です。
60対40では、多数派は普通決議を単独で成立させ、取締役の選任・解任も単独で決められます(341条。ただし監査役の解任は特別決議を要し、正当な理由のない解任は損害賠償の問題を残します。309条2項7号、339条2項)。しかし、定款の変更、事業譲渡、非公開会社における募集株式の第三者割当て、合併などの特別決議は、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要ですから(309条2項)、40%側が出席して反対すれば阻止できます。ここで重要なのは「出席して」という条件です。特別決議の定足数は定款で3分の1まで引き下げられますから、40%側が欠席すれば、60%側だけで定足数を満たし、出席者の全員の賛成で可決されることがあります(第14講)。欠席しても反対にはならず、かえって多数派を自由にします。40%側が阻止できるのは、その議案について議決権を行使できることが前提であり、種類株式や属人的定め(109条2項、第31講)があれば計算が変わります。
報酬と配当を説明できるようにする
経営に従事する株主は役員報酬を受け取り、経営に関わらない株主は配当か株式の売却によってしか経済的な利益を得られません。この構造自体は違法ではありませんが、報酬は職務の対価であり、配当は株主に対する利益の分配であって、同じ基準で決めるものではありません。報酬は定款または株主総会の決議で定めた枠の中で職務の内容と会社の業績に照らして決まり(361条)、配当は分配可能額の範囲で株主総会が決めます(454条、461条)。経営する側が報酬を上げて配当をしなければ、経営に関わらない側は会社の利益から何も受け取れず、その状態が続けば、第21講で扱った過大報酬の問題や、株主の情報取得と役員責任の追及に発展します。
経営する側に求められるのは、会社の資金需要、報酬の水準と根拠、分配可能額、設備投資の計画、親族への支払の内容を、株主に説明できるようにしておくことです。無配と高額の報酬が続いていることが、直ちにすべての報酬を違法にするわけではありませんが、説明できなければ不信は消えません。経営に関わらない側に求められるのは、報酬の高さだけを問題にするのではなく、職務の実態と会社の業績に照らした相当性を問うことであり、配当を強制する権利はない(第21講)ことを前提に、配当方針の合意や株式の買取りという現実的な出口を検討することです。
親族役員・従業員の地位
親族の会社では、役職と実態がずれていることが珍しくありません。「専務」と呼ばれていても株主総会で取締役に選任されていなければ会社法上の取締役ではなく、逆に、登記上は取締役でも実態は従業員として働いている人もいます。親族を役員から外しても、使用人としての雇用契約が残っていれば、その解消には労働法の規律が及びます。役員でも従業員でもないのに給与を受け取っている親族がいれば、その支払の根拠が問われます。選任と就任承諾、雇用契約、勤務の実態、報酬と賃金の区分を確認し、本人の地位に応じた処遇を検討します。親族だから解雇が自由になることも、勤務の実態がない給与が当然に認められることもありません。役員と従業員の区別は補講2で扱います。
情報取得から解決へ
経営に関わらない親族株主が最初に使う手段は、株主総会での質問と、会議の目的事項に関する取締役等の説明義務(314条)、計算書類等の閲覧(442条)、会計帳簿の閲覧請求(433条)、必要に応じて検査役の選任(358条)です。会計帳簿の閲覧請求と検査役の申立てには、議決権または株式の100分の3以上の保有という要件がありますから、相続で持株が分散している場合は、親族株主が共同して請求することも検討します。これらは適法な権利の行使であり、会社の側が「親族なのに会社を攻撃している」と受け取る必要はありません。情報を得た後に、違法な支出があれば役員責任の追及(第23講)へ、違法とまではいえないが不公平であれば報酬・配当方針の見直しへ、それも折り合わなければ退出の条件の交渉へと、段階を分けて進めます。
会社の側も、請求者が親族で会社と対立しているという理由だけで一律に拒絶しないことが重要です。要件を満たす会計帳簿の閲覧請求を会社が拒めるのは433条2項の事由がある場合に限られ、拒絶が不当であれば仮処分と訴訟で強制されます(第18講)。定期的な決算の説明や、報酬と配当の方針の書面での提示といった任意の情報提供で解消できる不信と、法的な争点として残る問題を分け、前者は早く解消しておく方が、後者の交渉も進めやすくなります。
次の相続で株式が分散する
兄弟姉妹が分け合っている株式は、次の相続でそれぞれの配偶者や子に移り、株主の人数と利害はさらに増えます。相続した株式は遺産分割までは準共有となり、権利行使者を定めて会社に通知しなければ原則として議決権を行使できず(106条)、権利行使者の決定は持分の価格の過半数によります(民法252条1項、最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁。第14講)。名義書換が済んでいない相続株式、遺言の有無、遺留分(民法1042条、1046条)、定款に定めがあれば相続人等に対する売渡請求(会社法174条〜177条)を、要件と資金を踏まえて検討します。非公開会社が相続人から相続した株式を取得する場合、その相続人が当該株式について株主総会で議決権を行使していない限り、他の株主に売主追加請求の機会を与える手続(160条2項・3項)は不要です(162条)。ただし、株主総会の特別決議(156条、160条1項、309条2項2号)と分配可能額の範囲内であること(461条)は必要で、当該相続人はその決議で議決権を行使できません(160条4項)。
経営を担う者に株式を集め、経営に関わらない親族には他の財産や、配当を優先し議決権のない種類株式(108条1項1号・3号)で経済的な公平を図る設計もあります。ただし、他の相続人の遺留分、株式の評価、税務、そして本人の同意を無視して実現できるものではありません。株式を均等に分けることが公平だという感覚は自然ですが、均等に分けた結果として誰も決められない会社になれば、株式の価値そのものが失われます。均等にするかどうかは、会社の事業と家族の事情に即して決めるべき問題であり、どちらかが一律に正解というものではありません。
共同保有を続ける場合のルール
親族での共同保有を続けるなら、対立が起きたときの決め方を、対立が起きる前に合意しておきます。株主間契約で取り決める主な項目は次のとおりです。
表は横にスクロールできます。
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 情報 | 決算の説明の時期と方法、月次または四半期の定期報告、株主からの質問への回答期限 |
| 報酬・配当 | 報酬の決定機関と基準(職務と業績への連動)、配当の方針(利益の一定割合など)、事業資金の留保との関係 |
| 意見の対立 | 協議の期間、中立的な第三者(顧問税理士、弁護士、調停)の関与、事前協議を要する重要事項の範囲 |
| 退出 | 売却先(他の株主か会社か)の優先順位、評価の方法、資金の手当て、支払条件と分割の可否 |
| 相続 | 承継の方針、遺言との整合、相続時の買取りの合意、名義書換の手続 |
株主間の議決権に関する合意は、一般に有効と解されています(東京高判平成12年5月30日判時1750号169頁)。ただし、合意は当事者である株主の間で効力を持つにとどまり、会社を拘束するものではないため、合意に反する議決権の行使によって成立した決議は、原則としてそれだけでは取消しの対象になりません。もっとも、株主全員が合意の当事者である場合には、定款違反に準じて決議の取消しを認める余地があるとした裁判例があり(東京高判令和2年1月22日金判1592号8頁)、親族の会社ではこの場面が現実に生じ得ます。合意の履行を裁判で強制できるかについて、裁判例は、法的な拘束力を生じさせる意思が明確な株主間契約であれば議決権行使の履行を命じる判決や仮処分が可能であるとの一般論を示しつつ、昭和40年代に結ばれた取締役選任の合意については、法的効力を付与する意思を認定できず紳士協定的なものにとどまり、当事者の死亡によって効力が消滅したとして履行の強制を否定しました(東京地判令和元年5月17日金判1569号33頁、その控訴審である前掲東京高判令和2年1月22日)。親族間の合意を将来の世代まで機能させたいなら、拘束の期間と承継の扱いを契約に明記し、定款で対応できる事項(役員選任権付種類株式、属人的定め、譲渡制限、売渡請求)は定款に落とし込むことが有効です。共同保有が難しい場合は、株式の売買や事業の分離(第33講)を検討します。逆に、情報と役割の合意で継続できるなら、資本関係の解消だけを正解にする必要はありません。
PRACTICE NOTE
経営する兄と、経営しない妹
【設例】兄と妹が株式を50%ずつ持ち、兄だけが常勤で代表取締役として経営し、妹は会社に関与していない会社があります。兄は「自分が働いて稼いでいるのだから報酬は当然」と考え、妹は「会社の半分は自分のものなのに何も受け取っていない」と考えています。どちらの言い分にも一理ありますが、法的には、兄の役員としての職務の対価(報酬)、株主への利益の分配(配当)、そして会社の事業に必要な留保は、根拠の異なる三つの項目です。
解決の方向は二つあります。一つは共同保有を続ける方向で、兄の報酬を職務と業績に連動する基準で株主総会が決め、配当の方針を合意し、妹に定期的な決算の説明と情報提供を約束する形です。兄の報酬を過大にして利益を一方に移す方法も、妹に勤務の実態のない給与を払って配当の代わりにする方法も、会社法と税務の両面で問題を残します(第21講、第24講)。もう一つは、妹の株式を兄または会社が買い取って資本関係を解消する方向で、この場合は、価格の算定方法(関連連載の非上場株式27講・第3講)、資金の手当て、支払の時期と分割、支払の保証を伴う具体的な条件にします。50対50である以上、どちらの方向も相手の同意なしには実現しませんから、情報の開示から始めて、信頼の回復と条件の交渉を並行させます。
実務チェック
- 当事者ごとに、経営への参加の希望と経済的な希望を分けて聞き取り、対応する手段を選ぶ。
- 持株比率を、定款の定足数、341条の役員選任要件、種類株式や属人的定めの有無に当てはめて、実際に何ができるかを確認する。
- 報酬・配当・親族への支払の根拠と手続を整理し、株主に説明できる状態にする。
- 親族の役員と従業員の地位を、選任・雇用契約・勤務実態で確認する。
- 次の相続による分散と退出の資金を早期に検討し、共同保有を続けるなら株主間契約と定款で対立時の決め方を定める。
よくある質問
弟を役員から外せば、少数株主としての問題も終わりますか。
終わりません。役員から外しても、株主としての議決権、計算書類や会計帳簿の閲覧請求、株主総会での質問、代表訴訟などの権利はそのまま残ります。弟が使用人を兼ねていれば、その処遇は労働法の問題として別に残ります。役員の交代は経営の問題を整理するにすぎず、株主としての関係は、株式の買取りか共同保有のルールで別に整理する必要があります。
公平のために株式を均等に相続させるのは間違いですか。
一律に間違いとはいえません。ただし、均等に分けると意思決定が膠着しやすく、経営に参加する人としない人の間で利益の配分をめぐる不満が生じやすくなります。均等に分けるなら、情報の提供、報酬と配当の方針、退出の条件を株主間契約と定款で一体として設計しておくことが条件です。経営者に株式を集め、他の相続人には別の財産や議決権のない株式で公平を図る方法も、遺留分と評価と本人の同意を確認したうえで検討します。
兄弟で「重要なことは相談して決める」と口約束していますが、法的な効力はありますか。
株主間の議決権に関する合意は有効と解されていますが、口約束では内容も範囲も立証できず、拘束力を生じさせる意思が明確な契約でなければ履行の強制は認められにくいというのが裁判例の傾向です。事前協議を要する事項の範囲、協議の手続、違反した場合の効果、相続人への承継を書面にし、役員選任権付種類株式や譲渡制限など定款で対応できる事項は定款に定めておきます。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、108条1項1号・3号、109条2項、156条、160条、162条、174〜177条、309条1項・2項、314条、339条2項、341条、346条1項、358条、361条、433条、442条、454条、461条
- 民法〔e-Gov法令検索〕252条1項、1042条、1046条
- 最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁〔裁判所ウェブサイト〕共有株式の議決権行使は、株式の処分や内容の変更に当たるなど特段の事情のない限り、持分の価格に従いその過半数で決するとした判例
- 東京高判平成12年5月30日判時1750号169頁株主間の議決権拘束合意の有効性を一般論として認めた裁判例
- 東京地判令和元年5月17日金判1569号33頁、東京高判令和2年1月22日金判1592号8頁(同一事件の第一審と控訴審)法的効力を生じさせる意思が明確な株主間契約については議決権行使の履行を強制する裁判が可能であり、株主全員が当事者である場合には合意に反する決議の取消しを認める余地があるとの一般論を示しつつ、当該事案の取締役選任合意は紳士協定的なものにとどまり当事者の死亡で効力が消滅したとして履行強制を否定した裁判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日