第18講資産・支配権・情報
株主が会社に「見せろ」と言える資料の範囲
情報取得権の目的別案内
この講の結論
会社の内部で争いが起きると、経営を握る側は情報を持ち、それ以外の株主は持たないという非対称が生まれます。株主が会社の資料を見る権利は会社法に何種類も用意されていますが、資料ごとに、請求できる人、必要な持株数、理由を示す必要の有無、裁判所の許可の要否、会社が拒める場合が違います。定款、株主名簿、株主総会議事録、計算書類等は、持株数にかかわらず株主なら見られます。会計帳簿とその関係資料は、原則として議決権または株式の3%以上を持つ株主が、理由を具体的に示して請求します。取締役会議事録は、権利行使のために必要であることが要件で、監査役設置会社などでは裁判所の許可が要ります。まず「何を証明したいのか」を決め、その証明に必要な資料を選び、その資料に対応する条文の要件を満たす、という順序で考えます。会社が拒んだときは、閲覧を求める仮処分や本案訴訟、検査役の選任申立てなどに進みます。
目的から資料を選ぶ
株主の情報取得権は、「会社のことを知りたい」という一般的な希望を満たすための制度ではなく、株主が自分の権利を確保し、行使するために必要な資料を見るための制度です。したがって、最初に決めるべきなのは、どの権利を行使するために、何を証明したいのかです。誰が株主なのかを確かめたいなら株主名簿、役員の選任や解任がどのような決議で行われたのかを確かめたいなら株主総会議事録、会社の財政状態や年度の損益を知りたいなら計算書類等、特定の支出が正当な対価だったのかを調べたいなら仕訳帳や総勘定元帳とその根拠となる伝票・契約書、重要な取引に取締役会の承認があったのかを確かめたいなら取締役会議事録というように、目的と資料は対応しています。
計算書類(いわゆる決算書)だけを見ても、個々の取引の相手方や金額、承認の有無までは分かりません。逆に、会計帳簿まで見なくても、計算書類や附属明細書で足りることもあります。計算書類の附属明細書には、有形固定資産・無形固定資産の明細、引当金の明細、販売費及び一般管理費の明細が含まれますから(会社計算規則117条)、たとえば役員報酬や交際費の総額の推移を知りたいだけなら、まず計算書類等の閲覧で目的を達せられる場合があります。証明したい事実に対して、最も要件の軽い資料から順に検討するのが効率的です。
もう一つ意識しておきたいのは、法律上の閲覧・謄写の対象と、任意に提供を求める資料との区別です。会社法が閲覧・謄写の対象として定めているのは、会社に備え置かれ、または作成されている既存の書類や電磁的記録です。株主が希望する形式で新しい分析表を作成して交付する義務まで、会社が当然に負うわけではありません。任意の開示を求めること自体は妨げられませんが、応じないからといって直ちに違法とはならないことを踏まえて、法定の権利と任意の要請とを分けて交渉します。
主要な情報取得権の一覧
株主が使う主な情報取得権を、根拠条文と要件の違いに着目して整理すると、次のようになります。
表は横にスクロールできます。
| 資料 | 根拠 | 請求できる者と要件 | 会社が拒める場合 |
|---|---|---|---|
| 定款 | 31条 | 株主および債権者。営業時間内はいつでも閲覧・謄本交付を請求できる。持株要件なし、理由の明示不要。謄本交付には会社の定めた費用の支払が必要 | 法定の拒絶事由なし(権利濫用の主張は別) |
| 株主名簿 | 125条 | 株主および債権者。請求の理由を明らかにして閲覧・謄写を請求。持株要件なし | 権利の確保・行使に関する調査以外の目的、業務妨害・株主共同の利益侵害目的、利益を得て第三者に通報する目的、過去2年内の通報歴の4つ(3項) |
| 株主総会議事録 | 318条 | 株主および債権者。営業時間内はいつでも閲覧・謄写を請求。持株要件なし、理由の明示不要。本店に10年間備置 | 法定の拒絶事由なし(権利濫用の主張は別) |
| 計算書類等(計算書類、事業報告、附属明細書、監査報告等) | 442条 | 株主および債権者。営業時間内はいつでも閲覧・謄本交付を請求。持株要件なし、理由の明示不要。謄本交付には会社の定めた費用の支払が必要。本店に5年間備置 | 法定の拒絶事由なし(権利濫用の主張は別) |
| 会計帳簿またはこれに関する資料 | 433条 | 総株主の議決権の3%以上または発行済株式(自己株式を除く)の3%以上を持つ株主。請求の理由を明らかにして閲覧・謄写を請求 | 権利の確保・行使に関する調査以外の目的、業務の遂行を妨げ株主共同の利益を害する目的、実質的な競争関係、利益を得て第三者に通報する目的、過去2年内の通報歴の5つ(2項) |
| 取締役会議事録 | 371条 | 株主は権利を行使するため必要があるとき、債権者は役員・執行役の責任を追及するため必要があるときに閲覧・謄写を請求。監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の株主と、債権者は、裁判所の許可が必要。本店に10年間備置 | 許可が必要な会社では、会社またはその親会社・子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは許可されない(6項) |
表のうち、会計帳簿と取締役会議事録以外は、株主であれば持株数を問わずに請求できます。ただし、単元株制度を採用している会社では、単元未満株主の権利を定款で制限できます(189条2項)。定款の閲覧等と株主名簿の閲覧等は定款でも制限できない権利とされていますが(会社法施行規則35条1項1号・3号)、株主総会議事録や計算書類等の閲覧は制限の対象になり得るため、単元未満株主については定款の定めを確認します。また、株主総会議事録や計算書類等は債権者も請求できます。株式買取請求をした株主が、価格の協議が調いまたは価格決定の裁判が確定するまでは、会社から仮払いを受けた後でも318条4項の「債権者」に当たるとした最高裁判決もあります(最判令和3年7月5日[出典])。親会社の株主(親会社社員)は、いずれの資料についても裁判所の許可を得て請求することになります。
電磁的記録で作成されている資料は、会社法施行規則226条が定める方法、すなわち紙面または映像面に表示したものの閲覧・謄写を請求する形になります。会計ソフトのデータだから閲覧の対象にならない、という説明には法律上の根拠がありません。
会計帳簿閲覧の3%要件
会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧・謄写を請求できるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、または発行済株式(自己株式を除く)の100分の3以上の数の株式を有する株主です(433条1項)。二つの基準のどちらかを満たせば足ります。議決権の基準では、株主総会で決議できる事項の全部について議決権を行使できない株主の議決権は分母から除かれます。定款でこの割合を引き下げることはできますが、引き上げることはできません。複数の株主が共同して3%を満たすことも認められています。
公開会社であっても、433条には6か月の保有期間の要件はありません。株主総会の招集請求(297条)や株主代表訴訟(847条)で公開会社の株主に求められる6か月の保有期間と混同しないように注意します。他方で、持株要件は、請求の時点だけでなく、閲覧・謄写が実際に行われるまで(訴訟になれば事実審の口頭弁論終結時まで)満たしている必要があると解されています。途中で3%を下回ると請求は認められなくなるのが原則ですから、株式の一部を手放す予定があるときは、請求と処分の順序を考えます。会社の側が新株発行によって株主の持株比率を3%未満に下げた場合の扱いには争いがあり、そのような発行は第15講で扱う差止めの対象にもなり得ます。
「会計帳簿」とは、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳など、計算書類の作成の基礎となる帳簿を指します。「これに関する資料」とは、伝票、受取証、契約書、請求書など、会計帳簿の記録の材料となった資料をいうと解するのが一般的な理解です。法人税の確定申告書の控えや、契約交渉の経過を示すメールのように、帳簿の記録の直接の材料とはいえない文書まで含まれるかについては学説上争いがあり、裁判例には法人税確定申告書の控えを対象外とした例(横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁)があるなど、限定的に解する立場が有力です。会社の保有する文書なら何でも433条で見られるわけではないことを前提に、目的に必要な資料を帳簿と関係資料の範囲内で特定します。
対象資料の特定と請求理由
会計帳簿の閲覧・謄写請求では、請求の理由を明らかにしなければなりません(433条1項柱書)。最高裁は、旧商法の下で、「新株発行その他会社財産が適正妥当に運用されているかどうかにつき」調査するという程度の理由では具体性を欠くとしました(最判平成2年11月8日判時1372号131頁)。他方で、請求の理由を具体的に記載すれば足り、その理由を基礎づける事実が客観的に存在することの立証までは要しないとしたのが最判平成16年7月1日[出典]です。この判決は、特定の貸付けの妥当性を調べるためという理由について、それに関係する会計帳簿等の閲覧を求める理由の記載として具体性に欠けるところはないと判断しています。
請求理由を具体的に記載する意味は二つあります。一つは、会社が拒絶事由の有無を判断できるようにすることであり、もう一つは、どの帳簿や資料が請求の対象になるのかを画することです。理由と関連しない資料の閲覧は認められませんから、理由の書き方が対象の範囲を決めます。実務では、対象期間、勘定科目、取引の相手方、疑問を持っている取引の内容を示し、それに対応する仕訳帳・総勘定元帳の該当部分と、その根拠となった伝票・契約書・請求書・領収書を特定する形で請求します。逆に、会社の側からは、請求理由と関係のない帳簿まで含めた包括的な請求に対して、関連する範囲に限って応じるという対応が可能です。既に必要な資料の開示を受けた部分について重ねて他の帳簿の閲覧を求めることは、不必要に多数の会計帳簿の閲覧を求めるものとして業務の遂行を妨げる請求に当たるとした高裁判決もあります(東京高判平成28年3月28日金判1491号16頁)。
資料の特定は、請求する側にとっても、後の手続を有利にします。閲覧を求める仮処分や訴訟では、裁判所が主文で対象を特定できる程度に資料を絞り込む必要があり、包括的な請求はそのままでは認められにくいからです。第4講で扱った証拠収集の観点からも、「全部見せろ」ではなく、「この取引に関するこの資料」という請求の方が、拒絶されたときに争いやすくなります。
会社が拒める場合と競業者
会社は、433条2項各号のいずれかに当たることを証明しない限り、会計帳簿の閲覧・謄写を拒めません。拒絶事由は、株主の権利の確保・行使に関する調査以外の目的で請求したとき(1号)、会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求したとき(2号。条文に「または」の語はありませんが、いずれか一方の目的があれば足りると解するのが一般的です)、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、またはこれに従事するものであるとき(3号)、閲覧・謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき(4号)、過去2年以内にそのような通報をしたことがあるとき(5号)の五つです。会社と対立関係にあること、役員の責任追及を検討していること、株式の売却を考えていることは、いずれもそれ自体では拒絶事由になりません。むしろ、役員の責任追及や株主総会での議決権行使のための調査は、権利の確保・行使に関する調査の典型です。
3号の競業者については、最高裁が、条文の文言上、主観的な意図の存在は要件とされていないから、請求者が会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、帳簿を競業に利用する意図があることまでは要しないと判断しています(最決平成21年1月15日[出典]。旧商法の規定に関する判断ですが、現行433条2項3号も同じ文言です)。この決定は同時に、親子で同じ手続により申請したというだけで、一方に拒絶事由があれば他方にも当然にあるとはいえないとして、請求者ごとに個別に判断する姿勢を示しています。下級審には、現に競業していなくても近い将来競業する蓋然性が高い者を含むとした例(東京地決平成6年3月4日判タ875号265頁)や、請求者である完全子会社をその親会社と同視し、親会社の事業が会社の業務と実質的に競争関係にあるか、近い将来競争関係に立つ蓋然性が高いとした例(東京高決平成19年6月27日金判1276号28頁)があります。内紛で退任した役員が同業の会社を設立し、その後も株主として帳簿の閲覧を求める場面は珍しくありませんが、その場合は3号の該当性が正面から争点になります。
拒絶事由がない場合でも、閲覧の日時、場所、方法、複写の範囲、個人情報や取引先の秘密の扱い、弁護士や公認会計士など補助者の同行については、会社と株主の間で調整するのが通常です。閲覧・謄写は会社の営業時間内に行うものとされ、株主が補助者を伴うことは実務上広く認められています。秘密保持の合意や誓約書は実務上有用ですが、法定の要件を置き換えるものではありません。
株主名簿については、平成26年改正前は会計帳簿と同様に競業者であることが拒絶事由とされていましたが、改正により削除されました。現行125条3項の拒絶事由は、権利の確保・行使に関する調査以外の目的、業務妨害・共同利益侵害の目的、利益を得て第三者に通報する目的、過去2年内の通報歴の四つです。委任状勧誘のために株主名簿の閲覧を求めることは、株主の権利の行使に関する調査として認められています(東京高決平成20年6月12日金判1295号12頁)。
取締役会議事録と裁判所の許可
取締役会設置会社は、取締役会の議事録(書面決議による場合は取締役の同意の意思表示を記載した書面等を含みます)を取締役会の日から10年間本店に備え置かなければなりません(371条1項)。株主は、その権利を行使するため必要があるときは、営業時間内はいつでも閲覧・謄写を請求できます(同条2項)。ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社では、裁判所の許可を得なければなりません(同条3項)。債権者は役員または執行役の責任を追及するため必要があるときに、親会社社員はその権利を行使するため必要があるときに、いずれも裁判所の許可を得て請求できます(同条4項・5項)。裁判所は、閲覧・謄写によって会社またはその親会社・子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、許可できません(同条6項)。
ここで注意すべきなのが「監査役設置会社」の定義です。会社法2条9号は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある会社を、監査役設置会社から除いています。中小企業には、監査役を置いていても定款で監査の範囲を会計に限定している会社(389条1項)が多く、その場合は371条3項の適用がなく、株主は裁判所の許可なしに、権利行使のための必要性を示して直接会社に請求できます。監査役がいるから許可が要る、と一律に考えるのは誤りで、定款と登記(会計限定の定めは登記事項です。911条3項17号イ)を確認したうえで、許可の要否を判断します。この登記は平成26年改正で設けられたもので、改正前から会計限定の定めがある会社では登記に反映されていないこともあり得るため、最終的には定款で確認します。
許可が必要な場合の手続は非訟事件で、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます(868条1項)。申立てでは、どの権利の行使のために、どの取締役会の議事録が必要かを具体的に示し、その必要性を疎明します。裁判例には、備置期間の10年を経過した議事録は対象にならず、閲覧を求める議事録が存在することの疎明も必要としつつ、権利行使に関連する事実関係が示されていれば必要性の疎明としては足りるとした例(東京地決平成18年2月10日判時1923号130頁)、株主総会での議案提案や質問のために取締役会の議論の経過を知る必要があるとして、限定された範囲の閲覧・謄写を許可した例(大阪高決平成25年11月8日判時2214号105頁)があります。大阪高裁の決定は、株主が正当な理由なく外部に公表しないとの誓約書を提出していたことなどから、著しい損害のおそれもないと判断しました。他方、株主の個人的な利益のための請求で、企業秘密が含まれることを理由に申立てを却下した例(福岡高決平成21年6月1日金判1332号54頁)もあります。取締役会議事録には、重要財産の処分、多額の借財、利益相反取引の承認など、内紛で問題になる意思決定の記録が残っていますから、第17講や第22講で扱う取引を調べる場面では、会計帳簿と並んで重要な資料です。
拒まれたときの次の手段
会社が閲覧を拒んだときは、まず拒絶の理由を書面で明らかにするよう求め、請求理由の不足や対象の特定の不十分さを指摘されたのであれば、補正した請求を改めて行います。それでも応じない場合の法的手段は、資料の種類によって異なります。会計帳簿、株主名簿、株主総会議事録、計算書類等については、閲覧・謄写を求める仮処分の申立てと本案訴訟が中心になります。閲覧の仮処分は、認められれば本案の目的をほぼ達してしまう満足的仮処分ですから、保全の必要性について通常より高い疎明が求められます。株主総会の期日が迫っていて議決権行使のために資料が必要な場合や、役員の責任追及の時効が近づいている場合などは、必要性を具体的に示す材料になります。取締役会議事録について許可が必要な会社では、上記の許可申立てが手段になります。正当な理由なく閲覧・謄写や謄本の交付を拒んだ取締役等は100万円以下の過料に処せられますが(976条4号)、これは制裁であって、株主が資料を手にする直接の手段ではありません。
帳簿の閲覧を拒まれた場合の別の選択肢が、会社法358条の業務執行検査役の選任申立てです。会社の業務の執行に関し、不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときに、総株主の議決権の3%以上または発行済株式(自己株式を除く)の3%以上(いずれも定款で引き下げられます)を持つ株主が申し立てられます(358条1項)。検査役は裁判所が選任し、会社の業務および財産の状況を調査して裁判所に報告しますから、株主自身が帳簿を読み解くより広く深い調査が期待できる反面、不正等を疑うに足りる事由という固有の要件があり、帳簿閲覧を断られたというだけで選任されるわけではありません。閲覧請求を先に行うことが法定の前提とされているわけでもなく、事案によっては検査役の申立てから入ることもあります。詳しくは第19講で扱います。
資料が改ざんされたり廃棄されたりするおそれがあるときは、民事訴訟法234条の証拠保全の申立てを別途検討します。証拠保全は将来の訴訟で使う証拠を裁判所が事前に調べる手続であり、株主の情報取得権とは要件も効果も異なりますが、内紛の初期段階で電子データの保全が急がれる場面では有力な選択肢です。
PRACTICE NOTE
会計帳簿の請求理由を具体化する
「会社の経理に不正がないか確認するため、全ての会計帳簿を閲覧したい」という請求は、対象も理由も抽象的で、最判平成2年11月8日の基準では具体性を欠くと判断されるおそれがあります。これを、「令和○年○月から令和○年○月までの間に、当社から株式会社Xに対して支払われた業務委託料合計○○円について、役務提供の実態と対価の相当性、取締役会の承認の有無を確認し、取締役の責任追及の要否を判断するため、当該支払に関する仕訳帳および総勘定元帳の該当部分、ならびにその根拠となった契約書、請求書、領収書の閲覧および謄写を求める」という形に組み替えます。期間、相手方、金額、疑問の内容、行使を予定する権利、対象資料が一つずつ対応していれば、拒絶事由の有無も対象範囲も判断でき、拒まれたときにそのまま仮処分の申立書に転用できます。
これは定型句を入れれば足りるという意味ではありません。請求理由に書いた疑問は、決算書の数値の推移、登記、取引先からの情報など、株主が現に把握している事実に基づいている必要があります。基礎づける事実の立証までは求められないとしても、根拠のない理由を並べれば、権利の確保・行使以外の目的での請求だと反論される材料になります。請求後は、何が開示され、何が拒否されたかを資料単位で記録し、開示された資料から新たに生じた疑問については、対象を追加した請求を重ねていきます。
実務チェック
- 証明したい事実から資料を選び、資料ごとに根拠条文と要件を一対一で結び付ける。要件の軽い資料から順に検討する。
- 会計帳簿の請求では、3%の分母(議決権か株式数か、自己株式の除外)と定款による引下げの有無を確認し、請求後の持株比率の維持にも注意する。
- 取締役会議事録は、定款の会計限定の定めと登記を確認して裁判所の許可の要否を判断し、必要な場合は権利行使との関連性と議事録の存在を疎明する。
- 請求書では、対象期間・取引・勘定科目・相手方と、行使を予定する権利を明記し、対象資料を帳簿と関係資料の範囲で特定する。
- 取得した情報は権利行使の目的に限って使い、秘密保持の約束をしたときはそれを守る。目的外の利用は、次の請求の拒絶事由を自ら作ることになる。
よくある質問
1株しか持っていなくても会社の資料を見られますか。
定款、株主名簿、株主総会議事録、計算書類等は、持株数にかかわらず株主であれば閲覧を請求できます。株主名簿については請求の理由を明らかにする必要があります。会計帳簿とその関係資料は原則として3%以上の持株が必要で、取締役会議事録は権利行使のための必要性が要件です。単元株制度を採る会社では、定款や株主名簿の閲覧を除き、単元未満株主の閲覧の権利が定款で制限されていることがあるので、定款を確認してください。
株式を売却するための株価算定を目的に、会計帳簿を請求できますか。
できます。最高裁は、譲渡制限のある株式について、株主が譲渡承認や買取の手続に適切に対処するには、株式の適正な価格を算定するのに必要な会社の資産状態等を示す会計帳簿等の閲覧が不可欠であるとして、そのための請求は特段の事情がない限り権利の確保・行使に関する調査に当たり、拒絶事由に当たらないと判断しています(最判平成16年7月1日)。ただし、対象は価格算定に必要な範囲の資料であり、株価を知りたいという理由で会社の全資料を無制限に見られるわけではありません。非上場株式の評価と株価鑑定については、関連連載の非上場株式27講・第3講をご覧ください。
同業の会社を経営している株主は、株主名簿も見られないのですか。
株主名簿については、競業者であることを理由とする拒絶事由は平成26年改正で削除されており、現在は請求者が競業者であるというだけでは拒めません。他方、会計帳簿については、実質的な競争関係にある事業を営み、またはこれに従事していることが独立の拒絶事由になっており(433条2項3号)、帳簿を競業に利用する意図がなくても拒絶の対象になります。同じ株主でも、資料によって結論が異なります。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、31条、125条、189条、297条、318条、358条、371条、389条、433条、442条、847条、868条、911条3項17号イ、976条4号
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕35条(単元未満株主が行使できる権利)、226条(電磁的記録に記録された事項を表示する方法)
- 会社計算規則〔e-Gov法令検索〕117条(計算書類に係る附属明細書の内容)
- 民事訴訟法〔e-Gov法令検索〕234条(証拠保全)
- 最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁〔裁判所ウェブサイト〕会計帳簿等の閲覧謄写請求の理由は具体的に記載すれば足り、その理由を基礎づける事実が客観的に存在することの立証は要しないこと、譲渡制限株式の株主が株価算定のために行う請求は特段の事情がない限り拒絶事由に当たらないことを判示
- 最決平成21年1月15日民集63巻1号1頁〔裁判所ウェブサイト〕競業者であることを理由とする閲覧謄写の拒絶事由は、請求者が会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、主観的意図を要しないとした決定(旧商法の規定に関する判断)
- 最判令和3年7月5日〔裁判所ウェブサイト〕株式買取請求をした株主は、会社から仮払いを受けた後も、価格の協議が調いまたは価格決定の裁判が確定するまでは株主総会議事録の閲覧謄写を請求できる「債権者」に当たるとした判決
- 横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁法人税確定申告書の控えは「会計帳簿に関する資料」に当たらないとした裁判例
- 最判平成2年11月8日判時1372号131頁会社財産が適正妥当に運用されているかどうかを調査するという程度の記載では、会計帳簿閲覧請求の理由として具体性を欠くとした判例
- 東京高判平成28年3月28日金判1491号16頁請求理由の具体性を認めつつ、既に必要な資料の開示を受けた部分について重ねて他の帳簿の閲覧を求めることは業務の遂行を妨げる請求に当たるとして、対象を限定した裁判例
- 東京地決平成6年3月4日判タ875号265頁、東京高決平成19年6月27日金判1276号28頁近い将来競業する蓋然性の高い者、親会社と一体となって事業を営む完全子会社について、競争関係の拒絶事由を認めた裁判例
- 東京高決平成20年6月12日金判1295号12頁委任状勧誘を目的とする株主名簿の閲覧謄写を認めた裁判例
- 東京地決平成18年2月10日判時1923号130頁、大阪高決平成25年11月8日判時2214号105頁、福岡高決平成21年6月1日金判1332号54頁取締役会議事録の閲覧謄写許可について、必要性の疎明の程度、株主提案のための許可、企業秘密を理由とする却下をそれぞれ判断した裁判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日