ホーム ─ 連載コラム ─ 企業内部紛争36講 ─ 第4講

『企業内部紛争36講 ― 経営権争いの教科書 ―』【第4講】

弁護士選びよりも100倍大切、「証拠」の適切な保全 ― 議事録・メール・資金記録・デジタルデータ―

議事録・メール・資金記録・デジタルデータ

第4講 手元の記録を、裁判で通る証拠にする|明徳法律事務所

第4講全体像と初動

弁護士選びよりも100倍大切、「証拠」の適切な保全

議事録・メール・資金記録・デジタルデータ

明徳法律事務所 弁護士 坂本龍亮読了目安 13分

この講の結論

証拠の強さは、紙か電子かという媒体では決まりません。その資料が何を証明するのか、誰がいつ作ったのか、どうやって手に入れたのか、内容は完全か、他の資料と矛盾しないか。この五つを説明できてはじめて、資料は証拠として働きます。原本と元データを改変せずに保全し、裁判所が時系列を追える形に整理することが、この講で扱う作業です。

証明したい事実から逆算する

証拠集めは、「何を証明したいか」を決めるところから始まります。株主総会の決議が存在しなかったことを争うなら、議事録の記載が不自然だというだけでは足りません。招集通知が発せられたか、出席したとされる人がその日時にどこにいたか、会場は使われていたか、ウェブ会議なら接続の履歴はあるか、当日に関係者の間でどんな連絡があったかを確かめます。会社資金の流用を争うなら、出金の事実に加えて、その出金を裏付ける契約があるか、誰が承認したか、対価となる役務や物品の提供があったか、返済や反対給付があったかを調べる必要があります。

民事訴訟では、裁判所は口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果をしん酌し、自由な心証によって事実を認定します(民事訴訟法247条)。「銀行の記録があれば必ず勝てる」「議事録よりLINEのほうが強い」といった固定的な順位はありません。同じ通帳の記録でも、送金の事実を証明する場面では動かしがたい証拠になり、送金の目的を証明する場面ではほとんど役に立たないことがあります。争点ごとに、その資料が何を示し、何を示さないかを見きわめます。

文書の真正・信用性・法的効力は別の問題

文書を証拠として使うには、まずその文書が作成名義人の意思に基づいて作られたこと(成立の真正)を証明しなければなりません(民事訴訟法228条1項)。私文書に本人または代理人の署名か押印があれば、真正に成立したものと推定されます(同条4項)。さらに最高裁は、文書の印影が本人の印章によって押されたものであれば、反証のない限り、その押印は本人の意思に基づくものと事実上推定するとしています(最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁)。印章が本人のものだと分かれば、本人の意思による押印が推定され、さらに文書全体の真正が推定されるという二段階の推定が働くわけです。

内部紛争でこの推定が問題になるのは、会社の実印や役員の印章を管理していた側が、他の役員の名義で議事録や契約書を作っていた場合です。印影が本人の印章によるものである以上、推定を崩すには、印章が盗まれた、預けた目的を超えて使われた、文書の体裁や内容が不自然であるといった事情を本人の側が示して、推定に疑いを生じさせる必要があります。「印鑑を預けていた」という事情は、預けた目的や範囲によって本人に有利にも不利にも働きますから、誰に、何のために、どの範囲で預けたのかを裏付ける資料が意味を持ちます。

電子データについても、本人だけが行える電子署名が付されていれば、真正に成立したものと推定されます(電子署名及び認証業務に関する法律3条)。もっとも、成立の真正が認められることと、記載内容が事実と一致すること(信用性)、そしてその文書が示す決議や契約が法律上有効であること(法的効力)は、それぞれ別の問題です。真正に成立した議事録に「全員出席で可決」と書かれていても、実際には開かれていない会議であれば決議は存在しませんし、適法に開かれた会議であっても、決議の内容が法令に違反していれば無効です(株主総会決議の内容が定款に違反する場合は取消事由となり、決議取消しの訴えによって争います。会社法830条2項、831条1項2号)。

議事録の検証――作成日と開催日を混同しない

株主総会と取締役会の議事録は、法務省令の定めるところにより作成しなければならず(会社法318条1項、369条3項)、記載事項として、開催の日時と場所、議事の経過の要領とその結果、出席者や議長の氏名などが定められています(会社法施行規則72条3項、101条3項)。取締役会の議事録が書面で作られる場合は、出席した取締役と監査役が署名または記名押印します(会社法369条3項)。株主総会の議事録は総会の日から10年間本店に備え置く義務があり(318条2項)、取締役会の議事録も同様です(371条1項)。

議事録が会議の後日に作成されたというだけで、決議が存在しなかったことにはなりません。実際に開かれ、適法に決議された内容を、後から記録することは普通に行われています。反対に、署名や押印がそろっていても、記載どおりの会議が開かれたとは限りません。確かめるべきは、招集の手続、開催の方法(対面かウェブ会議か書面決議か)、参加者、議案、賛否の数、議事録の作成者、署名や電子署名の経緯です。議決権のある株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば総会の決議を省略でき(319条1項)、定款の定めがあれば、議決に加わることができる取締役全員の同意(監査役設置会社では監査役が異議を述べないこと)で取締役会の決議も省略できますから(370条)、「会議は開かれていない」という指摘に対して、決議省略の要件を満たしていたという反論があり得ることも視野に入れておきます。

取締役会の決議に参加した取締役で、議事録に異議をとどめなかった者は、その決議に賛成したものと推定されます(369条5項)。決議に加わったのに反対の記録を残さなかった場合、後になって「反対していた」と主張するのは難しくなります。

デジタル証拠――画面だけで終わらせない

電子メールは、本文だけでなくヘッダー情報(送信元、送信日時、経由したサーバー)、添付ファイル、前後のやり取りを保存します。チャットやメッセージアプリのやり取りは、その一件だけでなく前後の文脈を含めて残し、送受信者が誰かを特定できる情報も併せて保存します。表示される時刻がどのタイムゾーンによるものかも確認しておきます。

ファイルの作成日時や更新日時は、複製や別の端末への移行によって変わることがあります。ファイルの属性だけを根拠に「この文書は何月何日に作られた」と断定することはできません。ハッシュ値(データから計算される固定長の値)は、保存したデータが取得後に変更されていないことを検証する手がかりになります。ただし、ハッシュ値が一致しても、取得する前の時点でデータが改変されていなかったことまでは証明できません。証明できるのは「取得した時点から変わっていない」ことだけです。

削除されたデータの復元や、改変の痕跡の解析といった専門的な調査(デジタルフォレンジック)が必要な場合は、調査の対象、調査する権限があるか、費用、私的な情報を除外する方法、報告書の形式を先に決めてから依頼します。調査の過程そのものが記録されていなければ、報告書の信用性が争われることになります。

録音・メール・持出しの適法性

会話の当事者が相手に告げずに録音した場合、そのことだけで直ちに違法となったり、証拠として使えなくなったりするわけではありません。裁判例は、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的・肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法で収集された証拠については証拠能力を否定されてもやむを得ないとしつつ、その事案(酒席での秘密録音)では、相手に無断で録音したというだけではその程度には至らないと判断しています(東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁)。もっとも、録音の場所や方法、第三者の秘密が含まれているか、録音を公開したり拡散したりしたかによって、名誉毀損やプライバシー侵害といった別の問題が生じます。編集した抜粋だけでなく全体を保存し、反訳を作るときは時刻と話者を記載します。

会社の資料に職務上アクセスできる立場にあることは、自分の紛争のためにその資料を私的に取得してよいことを意味しません。役職を解かれてアクセス権限を失った後にシステムに入ること、他人のIDとパスワードを使うこと、認証を回避することは、不正アクセス禁止法に触れるおそれがあります(同法2条4項、3条)。紛争と無関係な営業秘密や、従業員・顧客の個人情報を大量に持ち出せば、それ自体が自分に向けられた請求の材料になります。証拠が失われそうなときこそ、適法な取得の方法を急いで検討する必要があります。

相手が持つ資料を得る制度

相手方が会社を管理していて資料を渡さない場合、制度を使って取得する道がいくつかあります。会社法上の閲覧・謄写請求は、株主名簿、計算書類、総会や取締役会の議事録、会計帳簿のそれぞれについて要件が異なり、第18講で整理します。業務の執行に関して不正の行為や法令・定款違反の重大な事実を疑うに足りる事由があるときは、一定割合(原則として3%)以上の株式を持つ株主が、裁判所に検査役の選任を申し立てて、会社の業務と財産の状況を調査させることもできます(358条1項。第19講)。

表は横にスクロールできます。

制度使える場面根拠
証拠保全あらかじめ証拠調べをしておかなければ使うことが困難になる事情があるとき。訴え提起前でも可能民事訴訟法234条、235条、民事訴訟規則153条
文書提出命令訴訟係属中、相手方または第三者が所持する文書について。提出義務の有無が争点になる同法220条、223条
当事者照会訴訟係属中、主張や立証の準備に必要な事項を相手方に書面で照会する。裁判所を介さない同法163条
調査嘱託裁判所が官公署や団体(金融機関など)に必要な調査を嘱託する同法186条
弁護士会照会弁護士が所属弁護士会を通じて公務所や団体に報告を求める。訴訟外でも使える弁護士法23条の2

証拠保全は、会社を無限定に調査する制度ではありません。対象となる証拠と証明すべき事実、そして後に証拠を使うことが困難になる事情を具体的に示す必要があります。「相手が消すかもしれない」という一般的な不安だけでは足りず、改ざんや廃棄のおそれを裏付ける具体的な事情を疎明することが求められます(民事訴訟規則153条)。訴えを起こす前の申立ては、文書を所持する者の居所などを管轄する地方裁判所または簡易裁判所に行います(民事訴訟法235条2項)。

文書提出命令にも限界があります。専ら文書の所持者の利用に供するための文書には提出義務がなく(民事訴訟法220条4号ニ)、最高裁は、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されておらず、開示によって所持者に看過しがたい不利益が生じるおそれがある文書は、特段の事情のない限りこれに当たるとしています(最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁)。会社の内部検討資料には、この類型に当たるとして提出を拒まれるものがあります。当事者が命令に従わない場合、裁判所はその文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができますが(224条1項)、真実と認められるのは文書の記載についての主張であり、その文書で証明しようとしていた事実そのものが真実と認められるのは、相手方が文書の記載について具体的な主張をすることも他の証拠で証明することも著しく困難な場合に限られます(同条3項)。相手方の主張のすべてが自動的に真実になるわけではありません。第三者が従わない場合の制裁は過料にとどまります(225条1項)。

一件一行の証拠一覧を作る

表は横にスクロールできます。

項目記載例・注意点
証拠番号・名称メール一連、通帳の該当頁、招集通知など。一件ごとに番号を付す
証明する事実「6月1日の取締役会に招集されなかった」など、一文で具体的に
作成・取得作成者、作成時期、取得者、取得日時、取得元、取得の方法
原本・保存場所紙の原本、元データ、閲覧用の複製を区別して記載
留意点欠落している部分、編集の有無、日時のずれ、相手方に有利な解釈の余地、個人情報の有無

裁判所に説明するための書面は、時系列表、人物と役職の一覧、議決権の一覧、資金移動の一覧を基本にします。資料を大量に提出するだけでは、重要な事実が埋もれます。自分に不利に見える資料も弁護士に共有し、隠さずに評価してもらうことが、相手方の反論を先読みするうえで欠かせません。

保存と提出を分ける

保存の段階では、改変を防ぐことと後から再検証できることを優先します。提出の段階では、争点との関連性と読みやすさを優先します。この二つは目的が違いますから、同じファイルを両方に使おうとしないことです。

民事訴訟の手続は、2026年5月21日に施行された改正民事訴訟法によって全面的に電子化され、弁護士など委任を受けた訴訟代理人は、訴状や準備書面などをオンラインで提出することが義務づけられています(民事訴訟法132条の11第1項)。証拠も電子データとして提出する場面が増えますが、提出の形式は手続の種類や裁判所の運用によって異なるため、その時点の取扱いを確認します。営業秘密や個人情報が含まれる資料を提出する場合は、訴訟記録の閲覧などを当事者に限定する決定(92条1項)の申立てを検討します。社内での共有も、必要な範囲の者に限定します。

PRACTICE NOTE

証拠台帳の書き方

表は横にスクロールできます。

番号原資料・取得元証明したい事実確認が残る点
E-001会社が保管する送金明細(会計担当者から適法に受領)X社への送金の日時と金額契約の有無、対価の有無、承認の有無
E-002自分が受信した電子メール(元データを保存)相手方が示した指示の内容送信者の権限、前後の文脈、返信の有無
E-003株主として閲覧請求により取得した取締役会議事録議事録に記載された決議の内容実際の開催の有無、出席者、賛否の数

送金明細が証明するのは、まず送金の事実であって、「横領した」という法的評価ではありません。記録が示す事実と、そこから推測している事実を分けて書くほど、次に何を調べるべきかがはっきりします。説明用に編集した資料を作る場合も、原資料には手を加えず、別のファイルとして保存します。

実務チェック

  • 証拠ごとに「この資料で何を示すか」を一文で書く。
  • 切り取った画面だけでなく、前後のやり取りと元データを残す。
  • 保存期限の短いログや映像から先に保全する。
  • 取得の方法が適法かを、取得する前に確かめる。
  • 事実、推測、法的評価を混ぜずに書き分ける。

よくある質問

議事録に押印してしまうと、もう争えませんか。

直ちに争えなくなるわけではありませんが、不利な立場からの出発になります。本人の押印がある議事録は真正に成立したものと推定され(民事訴訟法228条4項)、取締役会の決議に参加して異議をとどめなかった取締役は決議に賛成したものと推定されます(会社法369条5項)。これらの推定を覆すには、押印の経緯や、記載と実際の会議との食い違いを具体的に立証しなければなりません。押印を求められた時点で内容に疑問があるなら、押印せずに異議を記録に残すことが、後の紛争で最も効きます。

証拠を整理するとき、誤字や日付を直してよいですか。

原本と元データはそのまま保存します。説明のための訂正や注記は別の資料として作り、どこを補ったかが分かる形にしてください。原資料に直接手を加えると、たとえ善意の訂正であっても、改ざんを疑われる材料になります。

相手が証拠を消してしまいそうです。どうすればよいですか。

消される前であれば、裁判所に証拠保全を申し立てる方法があります(民事訴訟法234条)。消された後であっても、提出義務のある文書を、相手方の使用を妨げる目的で滅失させた場合には、裁判所はその文書の記載に関するこちらの主張を真実と認めることができます(224条2項)。訴訟が始まる前の廃棄にこの規定がどこまで及ぶかには議論がありますが、少なくとも削除の事実や時期は、相手方の説明の信用性を判断する事情になります。相手方に対し、弁護士を通じて記録の保存を求める通知を出しておくと、その後に削除されたときの評価に影響します。

LINEやチャットのスクリーンショットは証拠になりますか。

なります。ただし、画面の切り抜きだけでは、前後のやり取りが省かれていないか、表示が加工されていないかを相手方から争われます。スクリーンショットに加えて、アプリのトーク履歴の書き出し機能などで元データを保存し、送受信者を特定できる情報と、どの端末からいつ取得したかの記録を残しておきます。

この講の主な根拠条文・裁判例

  • 民事訴訟法〔e-Gov法令検索〕92条、132条の11、163条、186条、220条、223条、224条、225条、228条、234条、235条、247条
  • 民事訴訟規則(平成8年最高裁判所規則第5号)153条(証拠保全の申立ての方式と疎明)。最高裁判所規則はe-Gov法令検索には収録されておらず、裁判所ウェブサイトで閲覧できます
  • 会社法〔e-Gov法令検索〕318条、319条、358条、369条、370条、371条、830条、831条
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕72条、101条
  • 電子署名及び認証業務に関する法律〔e-Gov法令検索〕3条
  • 不正アクセス行為の禁止等に関する法律〔e-Gov法令検索〕2条4項、3条
  • 弁護士法〔e-Gov法令検索〕23条の2
  • 最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁文書の印影が本人の印章によるものであれば、反証のない限り本人の意思に基づく押印と推定され、文書全体の真正が推定されるとした判例
  • 東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁著しく反社会的な手段による人格権侵害を伴って収集された証拠は証拠能力を否定され得るが、相手に無断で録音したというだけではこれに当たらないとした裁判例
  • 最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部への開示が予定されておらず、開示により所持者に看過しがたい不利益が生じるおそれがある文書は、特段の事情のない限り自己利用文書に当たるとした決定(決定当時の条文は220条4号ハ。現行法では同号ニ)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧法下の裁判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。

公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日

企業内部紛争36講 目次へ戻る