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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第12講】

株式を買い集める技術 ― 任意交渉・自己株式取得の実務と落とし穴:「誰が」「いくらで」「どう」買うかで結果が変わる ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第12講】

12第Ⅲ部 株式集約編 ― 分散した株を取り戻す第12講

株式を買い集める技術
― 任意交渉・自己株式取得の実務と落とし穴:「誰が」「いくらで」「どう」買うかで結果が変わる ―

「株主が12人います。設立時に名前を借りた親戚、辞めた役員、亡くなった株主の相続人。事業承継の前に、後継者に株を集めたい。どこから手をつければよいですか」

「叔父から『株を買ってほしい』と言われました。会社で買えば私の資金は要らないと聞きましたが、税理士は『叔父に不利になる』と言います。何が違うのですか」

「元従業員から1株500円で株を買い取りました。その後、税務署から『時価は1株8,000円。差額は贈与』と指摘されました。安く買えたと思っていたのですが」

この講の結論

分散した株式を集約する王道は、少数株主から任意に買い取ることです。第14講で扱う強制的な手法(スクイーズアウト)に比べて手続コストが低く、感情的な対立も残りにくい。問題は、①誰が買うか、②いくらで買うか、③どう交渉するかの三つに集約されます。

①の受け皿は、オーナー個人・後継者、会社自身(自己株式取得)、持株会社の三つで、手続と税務がまったく異なります。「会社が買えば個人の資金が要らない」という発想は、売主にみなし配当課税(総合課税・最高約55%)を負わせて手取りを激減させ、分配可能額の制限(461条)と他の株主の売主追加請求権(160条3項)という会社法上の壁にも当たります。②の価格は、安すぎれば売主側からの錯誤・詐欺の主張と税務上のみなし贈与・受贈益課税を、高すぎれば買主側の贈与税・寄附金課税を招きます。価格の設計は法務と税務の複合問題で、弁護士と税理士が連携して初めて安全に完結します。③の交渉は、株主名簿の確定から名義書換まで、順序を誤ると一人の株主との合意が他の株主との交渉を壊します。

1集約の基本は「任意の買取り」― 集約手段の全体地図

第Ⅱ部では、株式の分散を防ぎ、分散した株主を管理する「守り」を扱いました。第Ⅲ部では、すでに分散してしまった株式を取り戻す「集約」を扱います。集約の手段は、大きく五つあります。

図解A 株式集約の五つの手段 ― 任意から強制へ

① 任意の買取り(本講)少数株主との合意による売買。買主はオーナー・会社・持株会社合意が前提。手続コスト低、対立が残りにくい
② 相続人等に対する売渡請求(第17講)定款の定めに基づき、相続で株式を取得した者に会社が売渡しを請求相続の場面限定。1年の期限。価格は協議または裁判所
③ 所在不明株主の株式売却(第15講)5年間通知が届かず配当も受領しない株主の株式を競売・売却円滑化法の認定で1年に短縮
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④ 種類株式・取得条項の活用(第9講)取得条項付株式の取得事由の発生、全部取得条項付種類株式の取得事前の設計が必要
⑤ スクイーズアウト(第14講)特別支配株主の株式等売渡請求(90%)、株式併合(3分の2)で少数株主を金銭で退出させる強制的。価格は裁判所の決定に持ち込まれうる

図解A ①で集約できるところまで集約し、残った株主に②〜⑤を検討するのが実務の順序

五つのうち、まず検討すべきは①の任意の買取りです。理由は三つあります。第一に、手続コストが低いことです。スクイーズアウトには株主総会の特別決議、通知・公告、端数処理の裁判所の許可、価格決定の申立てへの対応といった手続が伴い、専門家費用も相応にかかります。任意の買取りは、譲渡承認と売買契約と名義書換で完結します。第二に、感情的な対立が残りにくいことです。強制的に退出させられた元株主は、価格決定の申立てや取消しの訴えで争う動機を持ちますが、合意して売った元株主は争いません。第三に、集約の目標は必ずしも100%ではないことです。特別決議を単独で通せる3分の2、スクイーズアウトの前提となる90%といった節目まで任意で集約できれば、残りは別の手段で処理する道が開けます(第8節)。

ただし任意の買取りには、三つの問いに答える必要があります。誰が買うか、いくらで買うか、どう交渉するか。この三つは互いに連動しており、一つを決めると他の二つの答えが変わります。

2誰が買うか ― 三つの受け皿

買主の選択肢は、(a) オーナー個人・後継者、(b) 会社自身(自己株式取得)、(c) 持株会社・資産管理会社の三つです。それぞれ会社法上の手続と税務が大きく異なります。

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買主会社法上の手続売主の税務買主の税務・資金
(a) 個人
オーナー・後継者
譲渡制限株式なら譲渡承認(136条以下)+売買契約+名義書換(133条)。会社の承認は取締役会または株主総会譲渡所得として申告分離課税(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%)。時価より著しく低い価額なら、差額が買主への贈与(相続税法7条)個人の資金が必要。時価より著しく低く買えば贈与税。相続税評価上は買主が同族株主なら原則的評価方式で評価される株式が増える
(b) 会社
自己株式取得
株主総会の決議(156条)。特定の株主から買う場合は特別決議(160条1項、309条2項2号)+他の株主への通知と売主追加請求権(160条2項・3項)。分配可能額の範囲内(461条)譲渡対価のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当(所得税法25条1項)として総合課税。最高税率は所得税45%+住民税10%(復興特別所得税を含めると約55.9%)。相続取得株式の特例(措法9条の7)で回避できる場合あり会社の資金。個人の資金は不要。取得した自己株式には議決権がなく(308条2項)、他の株主の持株比率が自動的に上がる
(c) 法人
持株会社・資産管理会社
譲渡承認+売買契約+名義書換。買主法人の側で取締役会等の決定譲渡所得(20.315%)。ただし個人が法人に時価の2分の1未満で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなされる(所得税法59条1項2号、所基通59-6)法人の資金(借入れを含む)。時価より低く取得すれば受贈益課税(法人税法22条2項)。後継者が持株会社を通じて間接保有する事業承継の形

図表1 三つの受け皿 ― 手続・売主の税務・買主の税務がすべて違う

実務では、(a)を基本に、資金の制約と税務の見通しに応じて(b)(c)を組み合わせます。(a)は手続が単純で売主の税負担も軽い(20.315%)のが利点ですが、後継者個人に買取資金がないことが多い。(b)は個人の資金が要らないのが利点ですが、後述する三重の制約があり、とくに売主のみなし配当課税が交渉を壊すことがある。(c)は後継者が持株会社を設立し、金融機関からの借入れで株式を買い取り、事業会社からの配当で返済するという事業承継の定型で、売主の税負担は(a)と同じ20.315%で済みます。(c)は資金調達と税務の設計が複雑になるため、税理士・金融機関を含めた検討が必要です。

3会社が買う ― 自己株式取得の手続と三重の制約

「会社が買えばよい」という発想は、株式集約の相談で最初に出てくるものです。会社に資金があり、後継者個人には資金がない場合、会社が少数株主から自己株式を取得すれば、後継者の持株比率は自動的に上がります。自己株式には議決権がないため(308条2項)、分母が減る効果です。しかし、会社による取得には三重の制約があります。

図解B 特定の株主からの自己株式取得 ― 手続の流れ

① 分配可能額の確認取得の対価の総額が、取得の効力発生日の分配可能額を超えてはならない(461条1項3号・2項)制約①:利益剰余金の乏しい会社は買えない。違反すれば取締役等に支払義務(462条)
② 他の株主への通知特定の株主から買う場合、総会の日の2週間前(非公開会社は招集通知の時期に応じて1週間前まで短縮)までに、他の株主に「自分も売主に加えるよう請求できる」ことを通知(160条2項、施行規則28条)制約②:売主追加請求権
③ 売主追加請求他の株主は総会の日の5日前(非公開会社の一定の場合は3日前)までに、自己を売主に加えることを請求できる(160条3項、施行規則29条)請求があれば、その株主からも同じ条件で買わなければならない
▼
④ 株主総会の特別決議取得する株式数・対価の総額・期間(1年以内)と、特定の株主に通知する旨を決議(156条1項、160条1項、309条2項2号)。売主となる特定の株主は議決権を行使できない(160条4項)
⑤ 取得価格等の決定と通知取締役会(非設置会社は取締役)が1株当たりの対価・総額・申込期日を決定し(157条)、特定の株主に通知(158条・160条5項)。条件は均等に
⑥ 譲渡の申込みと取得株主が申込み(159条)、申込期日に会社が承諾したものとみなされ、取得が成立。売主の側でみなし配当課税(制約③)

図解B 三つの制約は①財源、②他の株主の参加、③売主の税務。どれか一つで計画が止まる

制約①の分配可能額は、大まかにいえば剰余金(その他資本剰余金とその他利益剰余金)を基礎に、自己株式の帳簿価額などを控除した額です(461条2項)。純資産が厚くても、資本金や資本準備金が大きく剰余金が薄い会社は、自己株式を取得できません。違反して取得した場合、金銭の交付を受けた株主と職務を行った業務執行者は、連帯して交付額に相当する金銭を会社に支払う義務を負います(462条1項)。

制約②の売主追加請求権は、特定の株主だけを優遇して会社の資金で株式を買うことを防ぐ規定です。オーナーが叔父の株式だけを会社に買わせようとしたところ、他の株主が「自分の株も同じ価格で買え」と請求すれば、会社はそれに応じなければならず、必要な資金も分配可能額も膨らみます。この請求権は定款で排除できますが(164条1項)、株式の発行後にその定款の定めを設けるには、当該株式を有する株主全員の同意が必要です(同条2項)。平時に株主が一致していなければ入れられない定めであり、第9講で見た予防設計の一つに数えられます。なお、相続人その他の一般承継人から、その相続等により取得した株式を会社が買い取る場合は、公開会社でなく、かつその相続人が株主総会でその株式について議決権を行使していなければ、通知と売主追加請求権の規定は適用されません(162条)。相続人から株式を買い取る場面では、この特則によって②の制約を回避できます。

制約③の売主の税務は、次節以下で詳しく見ますが、一言でいえば、会社に売った場合、売主は譲渡益ではなく「配当」として課税され、税率が20.315%から最高約55%に跳ね上がる可能性があるということです。「会社が買えばよい」と考えた会社側が、売主にこの税負担を説明せずに合意し、後に売主が「手取りがこんなに少ないとは聞いていない」と紛争を再燃させる例は、決して珍しくありません。

4いくらで買うか ― 「4つの値段」と税務上の時価

第2講で見たとおり、非上場株式には「4つの値段」があります。額面(資本金等の額を基礎とする数字)、税務上の評価額(財産評価基本通達)、簿価(純資産)、そして裁判所が決める価格(DCF・収益還元・純資産の折衷)です。任意の買取りでは、当事者が合意すればどの価格でも売買自体は有効ですが、税務は「時価」との乖離を問題にします。会社側には1円でも安く買いたい誘惑がありますが、著しく低い価格での買取りは、三つの代償を伴います。

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価格の水準法務上のリスク税務上のリスク
時価より著しく低い(買主に有利)売主が後に錯誤(民法95条)・詐欺(96条)を主張する余地。会社側が情報を独占して価格を提示した場合、説明の不足が争点になる。他の株主への説明がつかず、次の交渉が壊れる個人→個人:差額が買主への贈与(相続税法7条)。個人→法人:時価の2分の1未満なら売主に時価で譲渡したものとみなす課税(所得税法59条1項2号)、買主法人に受贈益課税(法人税法22条2項)。個人→会社(自己株式):同様の問題に加え、他の株主への価値移転が贈与と評価される余地
時価の近傍売主側の錯誤・詐欺の主張は困難。他の株主にも同じ価格を示せる原則として問題なし。ただし「時価」の判定方法(下記)に注意
時価より著しく高い(売主に有利)会社が買う場合、取締役の善管注意義務違反(会社財産の流出)が問題となる余地。他の株主から同価格での買取りを求められる個人→個人:差額が売主への贈与。法人→個人:差額が売主への給与または寄附金として法人側で損金不算入、売主側で所得。会社→株主:他の株主との関係で配当課税の問題

図表2 価格の水準と、法務・税務のリスク ― 「安く買えた」は税務調査で「贈与を受けた」に変わる

税務上の「時価」の判定には、注意すべき最高裁判例があります。所得税基本通達59-6は、個人が法人に株式を譲渡した場合の時価を、財産評価基本通達の評価方法を一定の条件のもとで準用して算定すると定めています。財産評価基本通達では、株式を取得した者が同族株主かどうかで原則的評価方式(高い)と配当還元方式(低い)が分かれますが(第11講)、最高裁は、譲渡所得課税の場面では、相続税・贈与税を前提とする財産評価基本通達をそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に即して、少数株主に当たるかどうかは株式を譲渡した株主(売主)の側で判定すべきであると判断しました(最判令和2年3月24日)。オーナーが配当還元価額で法人に譲渡し、「買主は少数株主だから配当還元方式でよい」と考えていた事案で、売主がオーナー(同族株主)である以上は原則的評価方式による時価を基準にすべきだとされたものです。この判決を受けて、令和2年8月に通達59-6が改正され、判定は譲渡直前の譲渡人の議決権数によることが明記されました。「買主が少数株主だから安く売れる」という理解は、所得税の場面では通用しません。

実務では、税務上の評価額(財産評価基本通達ベース)と実質価値(DCF・時価純資産)の間のどこに着地させるかを、当事者の属性(同族株主か否か)、課税関係(誰が買うか)、交渉力を踏まえて設計します。価格の設計は法務と税務の複合問題であり、税理士が「時価」の幅を示し、弁護士がその幅の中で交渉と契約を組む、という分担で初めて安全に完結します。

5売主の税金が交渉を決める ― 譲渡所得課税とみなし配当課税

売主にとって重要なのは、売買価格そのものではなく、税引後の手取りです。同じ1株1万円で売っても、買主がオーナー個人か会社かによって、売主の手取りは大きく変わります。この違いを理解していない買主側は、交渉の途中で「会社が買う」に切り替えて売主の税負担を跳ね上げ、合意を壊すことになります。

オーナー個人や持株会社に売る場合、売主の譲渡益(売買価格から取得費と譲渡費用を引いた額)は、上場株式とは別の区分の株式等の譲渡所得として申告分離課税され、税率は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です。他の所得の多寡に関係なく、この税率で完結します。

会社に売る場合(自己株式の取得)は、扱いが変わります。売主が受け取る対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、会社の利益の払戻しと見て「配当」とみなされ(所得税法25条1項)、配当所得として総合課税されます。総合課税の税率は他の所得と合算して決まり、所得税の最高税率45%に住民税10%を加えると55%(復興特別所得税を含めると約55.9%)に達します。配当控除による調整はありますが、譲渡所得の20.315%と比べれば、手取りが大幅に減ることは避けられません。利益剰余金の厚い会社ほど、みなし配当の部分は大きくなります。

相続で取得した株式を会社に売る場合の特例(措法9条の7・39条) 相続または遺贈により財産を取得して相続税を納付すべき個人が、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を行わず、対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱う特例があります(租税特別措置法9条の7)。適用を受けるには、譲渡の日までに発行会社に届出書を提出し、発行会社がこれを翌年1月31日までに所轄税務署長に提出する必要があります。あわせて、相続財産を譲渡した場合に相続税額の一部を取得費に加算できる特例(措法39条)も同じ期間内であれば併用できます。相続人から会社が株式を買い取る場面では、第3節で見た162条の特則(売主追加請求権の不適用)と、この税務上の特例が揃うため、「相続から3年」は会社が相続人の株式を買い取る好機になります。詳しくは第13講で扱います。

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買主売主の課税交渉への影響
オーナー個人・後継者・持株会社譲渡所得として申告分離課税20.315%(譲渡益に対して)手取りの予測が立ちやすい。売主に説明しやすい
会社(自己株式取得)資本金等の額を超える部分はみなし配当として総合課税(最高約55.9%)。残りは譲渡所得利益剰余金の厚い会社では手取りが激減。売主への事前説明がなければ紛争の再燃を招く
会社(相続開始から申告期限後3年以内、相続人が売主)措法9条の7の届出により、全額を譲渡所得(20.315%)。措法39条の取得費加算も併用可相続人からの買取りは、会社法上(162条)も税務上も会社が買いやすい時期。期限管理が要

図表3 買主の違いによる売主の税負担 ― 交渉の前に売主の手取りを計算しておく

6交渉の実務 ― 初回接触から名義書換まで

任意の買取りの交渉は、順序が結果を左右します。当事務所が会社側・買主側から株式集約に関与する場合の手順を示します。

第一に、株主構成の確定です。第5講で見た株主名簿の整備が前提になります。誰が何株を持っているのか、名義株はないか、亡くなった株主の相続人は誰か、譲渡承認を経ていない株式はないか。これが確定していなければ、誰と交渉すべきかが分かりません。第二に、集約の目標と優先順位を決めます。100%を目指すのか、3分の2か、90%か。どの株主から交渉を始めるか。一般には、友好的で持株の多い株主から始め、合意の実績を作ってから難しい株主に向かいます。逆に、最も難しい株主が「他の株主がいくらで売ったか」を交渉材料にすることも見据えて、全株主に同一の条件を提示できる価格を設計します。

第三に、価格と買主の設計です。第4節・第5節で見たとおり、税理士に「時価」の幅と売主の手取りを試算してもらい、誰が買うかを決めます。第四に、提示です。書面で、価格の根拠(税務上の評価額、直近の決算数値)、買主、支払条件、譲渡承認の手続、回答期限を示します。価格の根拠を示すことは、後の錯誤・詐欺の主張を防ぐ意味でも重要です。第五に、合意と契約です。株式譲渡契約書には、対象株式の特定、価格と支払方法、譲渡承認の取得を条件とすること、売主が真の株主であることの表明保証、株券発行会社であれば株券の交付、名義書換への協力義務を定めます。第六に、譲渡承認と名義書換です。譲渡制限株式であれば、会社の承認機関(取締役会または株主総会)の決議を経て承認し(139条)、株式取得者と株主名簿上の株主が共同で名義書換を請求します(133条2項)。株券発行会社では株券の交付が譲渡の効力要件です(128条1項。第5講)。

図解C 任意買取りの手順 ― 六つの段階

① 株主構成の確定株主名簿・別表二・議事録・相続関係を照合。名義株・相続未処理・承認漏れを洗い出す第5講・第6講
② 目標と優先順位集約目標(3分の2/90%/100%)、交渉順序、全株主に示せる統一条件第8節
③ 価格と買主の設計税理士が時価の幅と売主の手取りを試算。誰が買うか、資金はどこから第2〜5節
▼
④ 書面での提示価格の根拠、買主、支払条件、承認手続、回答期限を明示口頭の提示は後の争いの種
⑤ 契約対象株式、価格、承認を条件とする旨、表明保証、株券交付、名義書換協力分割払いなら期限の利益喪失条項
⑥ 承認と名義書換承認機関の決議(139条)、共同での名義書換請求(133条)、株券の交付(128条)株主名簿を更新して完了

図解C ①を飛ばして④に進む会社が、⑥で「売主が真の株主ではなかった」問題に直面する

交渉の姿勢についても一言添えます。少数株主の多くは、株式を「売れない財産」として持たされてきた人たちです。配当もなく、会社の情報もなく、株主総会にも呼ばれなかった。その相手に、会社側が突然「株を売ってほしい」と連絡すれば、警戒と不信が先に立ちます。価格の根拠を隠さず、税務上の手取りも含めて説明し、相手が専門家に相談する時間を与えることが、結果的に合意への最短距離になります。「知らないうちに安く買われた」という感覚を残さないことが、集約後の会社の平穏にもつながります。

7落とし穴 ― 錯誤・名義株・株券・承認漏れ

任意の買取りで実際に起きる失敗を、四つ挙げます。

第一に、錯誤・詐欺の主張です。会社側が決算情報を独占し、少数株主には「額面程度の価値しかない」と説明して買い取った後、会社が第三者に高値で売却された、という事案では、売主が錯誤や詐欺、あるいは情報提供義務違反による損害賠償を主張します。価格の根拠を書面で示し、売主が専門家に相談する機会を与えていれば、この主張は退けやすくなります。第二に、名義株です。株主名簿上の株主から買い取ったところ、その株式が実は別の人の出資による名義株で、実質株主が後に権利を主張する、という事態です(第6講)。契約書の表明保証だけでは足りず、①で株主構成を確定する作業が必要です。第三に、株券です。株券発行会社(定款に株券を発行しない旨の定めがない、会社法施行前設立の会社の多くを含みます)では、株券の交付がなければ譲渡の効力が生じません(128条1項)。株券を発行していない株券発行会社では、譲渡の前に株券を発行するか、株券発行の定めを廃止する定款変更(218条)を行う必要があります。第四に、譲渡承認漏れです。譲渡制限株式の譲渡は、会社の承認がなければ会社に対して効力を生じません(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁。第5講)。オーナー個人が買主となる場合も、承認機関の決議と議事録を残す必要があります。「社長が買うのだから承認は当然」として手続を省くと、後に譲渡の効力が争われたとき、承認の事実を証明できません。

8買い集めた後 ― 持株比率の節目と次の一手

集約の目標を決めるには、持株比率の節目で何ができるようになるかを知る必要があります。第7講の少数株主権の階段を、今度は多数派の側から見た表です。

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持株比率(議決権)単独でできること残った少数株主への次の一手
過半数普通決議(309条1項):取締役の選任・解任(341条、339条)、計算書類の承認、剰余金の配当取締役の人事は握れるが、定款変更・組織再編はできない。3%以上の株主には帳簿閲覧・招集請求が残る
3分の2以上特別決議(309条2項):定款変更、事業譲渡、合併等の組織再編、株式併合、全部取得条項付種類株式の取得、特定の株主からの自己株式取得株式併合によるスクイーズアウト(180条、第14講)が可能になる。ただし反対株主の買取請求と価格決定の申立てに対応する必要
4分の3以上かつ総株主の半数以上属人的な定めの新設(309条4項。第9講)—
90%以上特別支配株主の株式等売渡請求(179条以下):株主総会の決議なしに、残りの株主の株式を金銭で取得最も簡便なスクイーズアウト。売渡株主は価格決定の申立て(179条の8)ができる(第14講)
100%すべての決議を単独で。株主間の紛争は消滅相続による再分散の防止設計(第9講・第17講)へ

図表4 持株比率の節目 ― 任意の買取りでどこまで集約するかの目標設定

実務では、任意の買取りで90%まで集約し、応じない株主に特別支配株主の株式等売渡請求を使う、あるいは3分の2まで集約して株式併合を使う、という二段構えが多くなります。ただし、強制的な手法に進むと、価格は裁判所の決定に持ち込まれる可能性があり、任意の買取りの価格と大きく異なる価格が決まれば、先に売った株主との関係にも影響します。強制的な手法を視野に入れるのであれば、任意の買取りの段階から「裁判所が決めるとしたらいくらか」を意識した価格設計が必要です(第4講・第14講)。

PRACTICE NOTE

株式集約の設計シート

株式集約の相談を受けたとき、当事務所が最初に埋める設計シートの項目です。これをすべて埋めてから最初の株主に接触します。

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項目確認・決定すること関連する講・条文
現在の株主構成株主名簿の確定。名義株・相続未処理・承認漏れ・株券の有無。株主ごとの取得経緯と取得価額(売主の譲渡所得の計算に必要)第5講・第6講、121条、128条、133条
集約の目的と目標事業承継か、紛争予防か、M&Aの準備か。目標比率(3分の2/90%/100%)と期限第8節、309条、179条
買主オーナー・後継者/会社/持株会社のいずれか、またはその組合せ。資金の出所(自己資金、借入れ、会社の分配可能額)第2節・第3節、156条〜164条、461条
価格税務上の評価額(原則的評価・配当還元)、簿価純資産、収益価値の試算。全株主に統一して示せる価格と根拠第4節、第2講、所基通59-6、相続税法7条
売主の手取り買主ごとの売主の税負担(20.315%/みなし配当)。相続人が売主なら措法9条の7・39条の期限第5節、第13講
交渉の順序友好的な株主から。難しい株主が使いうる交渉材料の想定。全員同一条件の原則第6節
契約と手続譲渡契約書の条項、承認機関の決議、株券の交付、名義書換、自己株式取得なら総会決議と通知の日程第6節、139条、160条、施行規則28条・29条
応じない株主への次の一手売渡請求(相続時)、所在不明株主の売却、株式併合、株式等売渡請求。その価格見通しと任意買取価格との整合第14講・第15講・第17講
集約後の再分散防止譲渡制限・売渡請求条項・種類株式・株主間契約の整備第9講・第10講

設計シートの中で、最も時間をかけるべきは「現在の株主構成」と「売主の手取り」です。前者が曖昧なまま交渉を始めると、買った後に真の株主が現れます。後者を計算せずに提示すると、売主が税理士に相談した段階で交渉が止まります。

実務チェック

  • 株主名簿が確定し、各株主の取得経緯・取得価額・株券の有無を把握しているか。名義株や相続未処理の株式を洗い出したか。
  • 買主を、オーナー個人・会社・持株会社のどれにするか、税理士と売主の手取りを試算した上で決めたか。
  • 会社が買う場合、分配可能額(461条)を確認したか。他の株主への通知と売主追加請求権(160条2項・3項)の日程を組んだか。定款に164条の定めがあるか確認したか。
  • 提示価格の根拠(税務上の評価額・決算数値)を書面で示せるか。時価との乖離による贈与・みなし譲渡・受贈益課税のリスクを税理士と確認したか。
  • すべての株主に同一の条件を示せる価格設計になっているか。
  • 譲渡契約書に、承認を条件とする旨、表明保証、株券交付、名義書換協力を定めたか。
  • 承認機関の決議と議事録、株券の交付(株券発行会社)、名義書換を漏れなく行ったか。
  • 相続人から買い取る場合、162条の特則と措法9条の7・39条の期限(相続税申告期限後3年)を確認したか。

よくある質問

後継者に資金がないので、会社が少数株主の株を買い取ろうと思います。問題はありますか。

三つの制約があります。第一に、会社が自己株式を取得できるのは分配可能額の範囲内に限られ(会社法461条)、剰余金の薄い会社は買えません。第二に、特定の株主から買う場合は株主総会の特別決議が必要で、他の株主に「自分も売主に加えよ」と請求する権利(売主追加請求権、160条3項)が生じます。この権利は定款で排除できますが(164条)、株式発行後に定めるには株主全員の同意が必要です。第三に、売主の税務です。会社に売った対価のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当として総合課税され(所得税法25条1項)、税率は最高約55.9%に達しうるため、個人に売る場合(譲渡所得20.315%)と比べて売主の手取りが大幅に減ります。この点を説明せずに合意すると、後に紛争が再燃します。相続人から相続後3年以内に買い取る場合は、会社法上(162条)も税務上(措法9条の7)も例外があり、会社が買いやすくなります。

元従業員の株を額面で買い取りました。税務上の問題はありますか。

買主と価格によります。個人(オーナーや後継者)が個人(元従業員)から買った場合、税務上の時価より著しく低い価格であれば、差額が売主から買主への贈与とみなされ、買主に贈与税が課される可能性があります(相続税法7条)。法人(会社や持株会社)が買った場合、時価より低い部分は法人の受贈益として法人税の対象になり(法人税法22条2項)、売主が時価の2分の1未満で法人に譲渡していれば、売主には時価で譲渡したものとみなす課税(所得税法59条1項2号)が生じます。ここでいう「時価」は、所得税基本通達59-6により財産評価基本通達を準用して算定しますが、最高裁は同族株主かどうかの判定を売主の側で行うと判断しており(最判令和2年3月24日)、「買主が少数株主だから配当還元価額でよい」とは限りません。額面での買取りが問題になるかどうかは、その会社の税務上の評価額を計算してみなければ分かりません。

株主が12人います。どの順番で交渉すればよいですか。

まず株主名簿を確定し(第5講)、各株主の持株数・関係・取得経緯を整理します。一般には、友好的で持株の多い株主から交渉を始め、合意の実績を作ります。ただし、全株主に同一の条件を示せる価格を最初に設計しておくことが前提です。ある株主に高い価格を払えば、他の株主もそれを知って同じ価格を求め、最も難しい株主が最後に最も高い価格を要求するという展開になります。逆に、最初の株主に安く売らせた事実は、その株主が後に「知らずに安く売った」と主張する原因になります。価格の根拠を書面で示し、全員に同じ条件で、税務上の手取りまで説明して提示することが、12人全員との合意に至る最短の道です。応じない株主が残った場合の次の一手(第14講・第15講・第17講)も、交渉を始める前に想定しておきます。

亡くなった株主の相続人から株を買い取りたい。何か有利な点はありますか。

二つあります。第一に会社法上、公開会社でない会社が相続人から相続により取得した株式を買い取る場合、その相続人が株主総会でその株式について議決権を行使していなければ、他の株主への通知と売主追加請求権の規定が適用されません(会社法162条)。会社が買う場合の大きな障害が一つ消えます。第二に税務上、相続税を納付した相続人が、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を受けず全額が譲渡所得となる特例(租税特別措置法9条の7、譲渡日までに発行会社への届出が必要)と、相続税額の一部を取得費に加算できる特例(同法39条)が使えます。会社にとって相続人からの買取りは、会社法上も税務上も条件が揃う数少ない機会であり、期限の管理が重要です。第13講と第17講で詳しく扱います。

少数株主の立場です。会社から「株を買い取りたい」と言われました。何を確認すべきですか。

四つの点です。第一に、提示価格の根拠です。税務上の評価額(原則的評価方式か配当還元方式か)、直近の決算書の数値、純資産額を示すよう求めてください。第2講で見たように非上場株式には複数の「値段」があり、会社が示す価格がそのどれに当たるかを知る必要があります。第二に、買主が誰かです。会社が買う場合はみなし配当課税で手取りが減る可能性があり、個人が買う場合は譲渡所得20.315%で済みます。第三に、会社の決算書を確認する権利です。1株でも計算書類の閲覧はでき(会社法442条3項)、3%以上なら「株式の適正な価格を算定するため」という理由で会計帳簿の閲覧謄写を請求できます(433条、最判平成16年7月1日。第7講)。第四に、応じなかった場合に何が起きるかです。相続で取得した株式なら売渡請求(第17講)、多数派が90%以上なら株式等売渡請求(第14講)の可能性があり、その場合の価格は裁判所が決めることになります。提示を受けたら、回答期限内に専門家に相談する時間を確保してください。売る側の戦略は第20講以下で扱います。

おわりに ― 「安く買う」より「もめずに買う」

株式集約の相談で、会社側が最初に口にするのは「いくらで買えますか」です。しかし集約の成否を決めるのは価格の安さではありません。買った株式が本当にその人のものだったか、売主が納得して売ったか、税務調査で贈与と指摘されないか、他の株主にも同じ条件を示せるか。これらを満たさない「安い買取り」は、数年後に紛争として戻ってきます。任意の買取りは、法務と税務の両方を見ながら、全株主に説明できる条件で、順序を守って進める技術です。

明徳法律事務所(大阪市西区)では、税理士・公認会計士と協働して、株主構成の確定から価格と買主の設計、交渉の代理、契約と名義書換の手続、応じない株主への次の一手まで、株式集約の全工程をお引き受けしています。「誰から、いくらで、誰が買うか」の設計図を作ってから、最初の一人に連絡することをお勧めします。

次回 第13講「株を売ったら税金はいくら」では、本講で触れた譲渡所得課税・みなし配当課税・取得費加算・時価の判定を、売主と買主の双方の視点から数字で整理します。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕128条、133条、136条〜139条、156条〜164条、179条、180条、218条、308条2項、309条、339条、341条、442条3項、461条、462条
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕28条(特定の株主から取得する際の通知時期)、29条(売主追加の請求の時期)
  • 所得税法〔e-Gov法令検索〕25条1項(配当等とみなす金額)、59条1項2号(法人に対する低額譲渡のみなし譲渡)
  • 租税特別措置法〔e-Gov法令検索〕9条の7(相続財産に係る非上場株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例)、39条(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
  • 相続税法〔e-Gov法令検索〕7条(低額譲受によるみなし贈与)
  • 国税庁タックスアンサーNo.1477「相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」
  • 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)令和2年8月改正により、同族株主の判定を譲渡直前の譲渡人の議決権数で行うことが明記された
  • 最判令和2年3月24日個人が法人に取引相場のない株式を譲渡した場合の所得税法上の時価について、少数株主に該当するか否かは株式を譲渡した株主の側で判定すべきとし、原判決を破棄差戻した判例
  • 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないとした判例
  • 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、同編著『非上場株式の相続と会社法』(新日本法規、2025年)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。税率・税務上の取扱いは記事作成時点の法令・通達に基づいており、個別の適用は税理士にご確認ください。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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