中小企業でも広がる持株会、その二面性
従業員持株会は、①従業員の財産形成・帰属意識の向上、②オーナーの相続税対策(同族株主以外が保有する株式は配当還元方式による低評価が可能)、③安定株主の形成、という三つの効能から、非上場の中堅企業でも広く導入されています。法的性質は一般に民法上の組合(民法667条)として設計され、従業員は持株会の持分を通じて間接的に株式を保有します。
しかし設計を誤ると、持株会は少数株主紛争の火薬庫に変わります。典型が退会時の株式買戻しをめぐる紛争です。
「取得価額での買戻し」は有効か ― 最高裁の答え
「退職時には、取得したときと同じ価額で持株会(または指定された者)に売り渡す」――多くの持株会規約に置かれるこの条項について、退職者側から「会社は成長したのに取得価額でしか返ってこないのは不当だ」という争いが繰り返されてきました。
最高裁は、最判平成7年4月25日(集民175号91頁)で、従業員持株制度の趣旨・目的、従業員が制度内容を了解して額面額で取得したこと、相応の配当が実施されていたこと等を踏まえ、取得時と同じ額面額で売り渡す旨の合意を有効と判断しました。さらに**最判平成21年2月17日(集民230号117頁)**も、持株会が額面額で買い戻す旨の合意を有効としています。
もっとも、これらは無条件のお墨付きではありません。判例は、①制度の趣旨・目的の合理性、②取得時の価額と買戻価額の対応関係、③配当実績(保有期間中に相応の利益還元があったか)等を総合考慮しており、配当をほとんど実施していない会社が取得価額買戻しだけを強制する設計は、公序良俗違反(民法90条)の主張を招く急所になります。
図表:持株会設計・運用のチェックポイント
| 項目 | 設計・運用の要点 |
|---|---|
| 規約 | 退会事由・買戻価額の算定方法・手続を明文化(「取得価額」か「配当還元価額」かを明確に) |
| 配当政策 | 継続的な配当実施が買戻条項の有効性を支える(判例の考慮要素) |
| 独立性 | 理事長の選任・運営が会社から独立していること(税務上、持株会経由の株式分散が否認されないためにも重要) |
| 議決権 | 持株会としての議決権行使ルール(理事長への信託・不統一行使)の整備 |
| 入退会管理 | 退職・死亡時の手続フローと期限管理。放置は所在不明株主問題(第15講)の温床に |
相続税対策「だけ」で作らない
持株会をオーナーの相続税評価引下げの道具としてのみ設計すると、配当ゼロ・形骸化した運営・曖昧な規約という三拍子が揃い、退職者との紛争や税務否認のリスクを抱え込みます。持株会は、規約・配当・運営の三点で「従業員の財産形成制度」としての実質を備えて初めて、税務上も紛争予防上も機能します。導入・見直しの際は、労務・税務・会社法を横断する設計レビューをお勧めします。