紛争予防の最強ツールは定款
ここまで見てきた紛争の多くは、実は定款と株式設計の工夫で予防できます。会社法は非公開会社に対して驚くほど柔軟な設計の自由を認めており、これを使わない手はありません。
図表:予防設計の主なメニュー
| ツール | 内容 | 条文 | 典型的な使い方 |
|---|---|---|---|
| 譲渡制限+売渡請求条項 | 相続人等への売渡請求を可能にする | 107条、174条 | 少数株主側の相続による分散防止(相続クーデターに注意。第17講) |
| 議決権制限株式 | 議決権のない・限定された株式 | 108条1項3号 | 非後継者の相続人には無議決権株式で財産価値のみ承継 |
| 取得条項付株式 | 一定事由発生で会社が強制取得 | 108条1項6号 | 「役員退任時」「死亡時」に会社が取得する設計 |
| 拒否権付種類株式(黄金株) | 特定事項に種類株主総会の承認を要求 | 108条1項8号 | 引退する先代が1株保有し、暴走への歯止めに |
| 属人的株式 | 株主ごとに議決権・配当等を別異に扱う | 109条2項 | 「オーナーが保有する間は1株100議決権」等(登記不要で外部から見えない) |
| 相続人保護とのバランス | 遺留分に関する民法特例(除外合意・固定合意) | 経営承継円滑化法4条以下 | 後継者への株式集中と遺留分紛争の予防(第19講) |
属人的株式という「隠し味」
とりわけ非公開会社ならではの制度が**属人的株式(109条2項)**です。株式の内容ではなく「株主その人」に着目して、議決権や配当について異なる取扱いを定款で定められます。種類株式と異なり登記されないため、対外的に設計が見えないという実務上の妙味もあります。
典型例は、後継者に株式の大半を生前贈与しつつ、先代が保有する少数の株式に複数議決権を認めて経営の実権を維持する設計です。ただし、属人的定めの新設には総会の特殊決議(総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上。309条4項)という極めて重いハードルがあり、また少数株主の締め付けだけを目的とするような濫用的な設計は、決議が無効と判断された裁判例もあるため、目的の正当性・必要性・相当性を意識した設計が必須です。
設計は「誰と一緒にやるか」で決まる
種類株式・属人的株式の設計は、①会社法上の適法性、②税務上の評価への影響(配当や議決権の設計は相続税評価に跳ねます)、③将来の紛争シナリオの想定、の三位一体で行う必要があります。ひな形の流用は、10年後の紛争の種を撒く行為にほかなりません。株主間紛争の「出口」を日常的に見ている弁護士が設計に関与することで、初めて「もめない定款」になります。