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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第13講】

株を売ったら税金はいくら ― みなし配当・取得費加算・時価のワナ:手取りを決めるのは価格ではなく税金 ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第13講】

13第Ⅲ部 株式集約編 ― 分散した株を取り戻す第13講

株を売ったら税金はいくら
― みなし配当・取得費加算・時価のワナ:手取りを決めるのは価格ではなく税金 ―

「会社から『1株1万円で1,000株、1,000万円で買い取る』と言われました。個人が買うのと会社が買うのとで、私の手取りが変わると聞きました。いくら違うのですか」

「父の株を相続しました。相続税は払いました。会社は『いつでも買い取る』と言っていますが、急ぐ必要はありますか」

「弟から株を買うことになりました。税理士は『時価は1株3万円』と言いますが、弟は『1万円でいい』と言っています。安く買って問題はありませんか」

この講の結論

第12講で見たとおり、株式の売買では「誰が買うか」で売主の税負担が激変します。個人に売れば譲渡所得として20.315%の申告分離課税で完結しますが、発行会社に売ると、対価のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当として総合課税され、高所得者では実効税率が5割近くに達します。売る側・買う側双方の課税を理解しないまま価格交渉をすることは、値札の桁を読み違えるのと同じです。

相続で取得した株式には、相続開始から3年10か月という期限があります。この期間内に発行会社に売ればみなし配当課税を受けず(租税特別措置法9条の7)、相続税額の一部を取得費に加算できる(同法39条)。遺産分割や価格交渉が長引いてこの期限を過ぎると、同じ価格で売っても手取りが数百万円単位で変わることがあります。紛争解決のスケジュール自体を税務の期限から逆算する、これが相続と自社株が交わる案件の鉄則です。そして、非上場株式には市場価格がないため、税務上の時価と乖離した価格での売買は、それ自体が課税を生みます。本講は弁護士の視点から、紛争・集約の実務に直結する税務の勘所を整理します。個別の申告・税額計算は必ず税理士にご確認ください。

1「手取り」を決めるのは価格ではなく税金

非上場株式の売買交渉では、当事者の関心は「1株いくらか」に集中します。しかし売主が最終的に手にする金額は、価格から税金を引いた残りです。そして非上場株式の税金は、価格が同じでも、買主が誰か、売主がどのように株式を取得したか、いつ売るかによって、大きく変わります。同じ1,000万円の売買で、売主の手取りが約800万円になることも、約600万円になることもあります。

図解A 同じ「1,000万円で売却」でも手取りが変わる三つの要因

要因① 誰が買うか個人・法人が買主 → 譲渡所得(20.315%)。発行会社が買主 → みなし配当(総合課税)第2節・第4節
要因② どう取得したか取得費が高ければ譲渡益は小さい。相続取得なら相続税額の一部を取得費に加算できる第3節・第5節
要因③ いつ売るか相続開始から3年10か月以内なら、発行会社への売却でもみなし配当課税を受けない特例第5節
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さらに ― 価格そのものが課税を生む税務上の時価と乖離した価格で売買すると、差額が贈与・みなし譲渡・受贈益として課税される第6節・第7節
結論価格交渉の前に「買主別・時期別の手取り」を試算する。売買契約書に判を押す前に、手取りシミュレーションを確認する第9節

図解A 弁護士が価格を、税理士が手取りを、同時に設計する

2売り方別・課税の全体像(個人株主の場合)

個人の株主が非上場株式を売却する場合の課税を、売却先別に一覧にします。

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売却先課税関係手取りへの影響
オーナー個人・後継者・第三者(個人)譲渡益に対して、株式等の譲渡所得として申告分離課税20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)最もシンプル。ただし時価より著しく低い価格なら買主に贈与税(相続税法7条)
持株会社・他の法人譲渡所得20.315%。ただし時価の2分の1未満で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなされる(所得税法59条1項2号)売主の課税は個人買主の場合と同じ。「時価」の判定に注意(第6節)
発行会社(自己株式取得)対価のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当(所得税法25条1項)として配当所得・総合課税。資本金等の額に対応する部分と取得費の差が譲渡所得利益剰余金の厚い会社ほどみなし配当が大きい。高所得者では実効税率が5割近くに。会社は20.42%を源泉徴収
発行会社(相続後3年10か月以内、相続税を納付した相続人)みなし配当課税を適用せず、全額を譲渡所得とする特例(措法9条の7)。取得費加算の特例(措法39条)と併用可相続人が会社に売るなら、この期間内が圧倒的に有利

図表1 売却先別の課税の全体像 ― 発行会社に売る場合だけ、課税の種類が変わる

3譲渡所得課税の基本 ― 20.315%、取得費、損失の扱い

個人が株式を譲渡して得た所得は、他の所得と分離して課税されます(申告分離課税)。非上場株式は「一般株式等」に区分され、譲渡益(譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用)に対して、所得税15%、復興特別所得税0.315%(所得税額の2.1%)、住民税5%、合計20.315%の税率がかかります(租税特別措置法37条の10)。給与や事業の所得がいくらあっても、この税率は変わりません。

取得費は、その株式を取得するために支払った金額です。設立時に出資した株式なら払込金額、買い取った株式なら買取価額、相続や贈与で取得した株式なら被相続人・贈与者の取得費を引き継ぎます(所得税法60条1項)。取得費が分からない場合、譲渡価額の5%を取得費とすること(概算取得費)が認められていますが、設立時の払込金額が判明している非上場株式では、通常は実額の方が有利です。

損失の扱いには注意が必要です。一般株式等の譲渡損失は、同じ年の他の一般株式等の譲渡益としか通算できず、上場株式等の譲渡益や配当、給与所得などとは通算できません。翌年以降への繰越しもできません。非上場株式を取得費より安く売った場合、その損失は税務上ほとんど使えないということです。

4みなし配当課税の仕組み ― なぜ会社に売ると税金が跳ねるのか

株主が発行会社に株式を売る(会社から見れば自己株式の取得)と、株主が受け取る金銭のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、会社が利益を株主に払い戻したものと見て、「配当」とみなされます(所得税法25条1項5号)。これがみなし配当です。株主は株式を「売った」つもりでも、税務上は「配当を受けた」ことになります。

計算の構造を、例で示します。資本金等の額が1株500円、株主の取得費が1株500円(設立時に出資)、会社が1株1万円で1,000株を取得する場合、株主が受け取る1,000万円は、①資本金等の額に対応する部分50万円(500円×1,000株)と、②それを超える部分950万円に分かれます。②の950万円がみなし配当です。①の50万円と取得費50万円の差額がゼロですから、譲渡所得は生じません。つまりこの株主は、1,000万円の売却代金のうち950万円について、配当所得として課税されます。

非上場株式の配当所得は、上場株式のように申告分離課税を選ぶことができず、給与など他の所得と合算する総合課税になります。総合課税の所得税率は5%から45%までの累進税率(課税所得4,000万円超で45%)で、住民税10%が加わります。配当所得については配当控除(所得税は配当所得の10%、課税総所得金額1,000万円超の部分は5%。住民税は2.8%・1.4%)による調整がありますが、それでも高所得者の実効税率は譲渡所得の20.315%を大きく上回ります。

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課税総所得金額所得税率配当控除適用後の概算実効税率(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)譲渡所得20.315%との比較
330万円超〜695万円以下20%約17.4%(所得税20%−配当控除10%、住民税10%−2.8%、復興税分)譲渡所得より軽い
695万円超〜900万円以下23%約20.5%ほぼ同じ
900万円超〜1,000万円以下33%約30.7%1.5倍
1,000万円超〜1,800万円以下33%約37.2%(配当控除は5%・1.4%に)1.8倍
1,800万円超〜4,000万円以下40%約44.3%2.2倍
4,000万円超45%約49.4%2.4倍

図表2 みなし配当の限界税率の目安(各所得帯の上乗せ部分に適用される税率。基礎控除等は考慮せず、復興特別所得税は所得税額の2.1%として計算した概算)

この表から分かるのは、みなし配当課税が常に不利とは限らないことです。他に所得のほとんどない退職者や高齢の株主が、少額の株式を会社に売る場合、みなし配当の実効税率は20%前後にとどまり、譲渡所得課税と大差ありません。逆に、現役の役員や高額の給与所得がある株主が、利益剰余金の厚い会社にまとまった株式を売る場合、みなし配当の大部分に40%台の税率がかかります。「会社に売ると損」と一律に言えるわけではなく、売主の所得と売却額を見て判断する必要があります。

会社側の実務にも影響があります。会社は、みなし配当の部分について、非上場株式の配当として20.42%(所得税20%・復興特別所得税0.42%)の源泉徴収をし、翌月10日までに納付しなければなりません。売主に支払う金額は、売買代金からこの源泉税を差し引いた額になります。また、会社は株主に対して、みなし配当の金額を通知する必要があります。「1,000万円で買い取る」と合意した会社が、支払時に源泉徴収で約194万円を差し引くことを売主に説明していなければ、ここで紛争が再燃します。

5相続後「3年10か月」の二つの特例

相続によって非上場株式を取得した相続人が、その株式を発行会社に売る場合には、みなし配当の不利を回避できる特例があります。あわせて、相続税額の一部を取得費に加算できる特例もあり、この二つは同じ期限で動きます。

図解B 相続から「3年10か月」のタイムライン

相続開始被相続人の死亡。株式は相続人の準共有(第16講)遺産分割・売渡請求(第17講)はここから動く
10か月後 相続税の申告期限相続税の申告・納付。取得費加算の特例には「納付すべき相続税額があること」が要件申告期限までに遺産分割が終わらないと配当還元・特例の適用関係が複雑化
申告期限の翌日以後3年を経過する日までこの日までに発行会社へ譲渡すれば、①みなし配当課税なし(措法9条の7)、②取得費加算(措法39条)相続開始から通算で約3年10か月
▼
期限内に売れば売却代金の全額が譲渡所得(20.315%)。取得費には相続税額のうち株式対応分を加算でき、譲渡益が圧縮される
期限を過ぎると発行会社への売却は通常のみなし配当課税。取得費加算もなし。同じ価格でも手取りが数百万円単位で変わりうる

図解B 「3年10か月」は、相続した非上場株式を会社に売るときのマジックナンバー

特例① みなし配当課税の特例(租税特別措置法9条の7)

相続または遺贈により財産を取得し、その相続について納付すべき相続税額がある個人が、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を行わず、対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱います。適用を受けるには、譲渡の日までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、発行会社がこれを譲受けの日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長に提出する必要があります。届出を忘れると特例は使えません。

特例② 取得費加算の特例(租税特別措置法39条)

同じ期間内に相続財産を譲渡した場合、相続税額のうちその財産に対応する部分を取得費に加算できます。加算額は、相続税額に「譲渡した株式の相続税評価額 ÷ その相続人の相続税の課税価格(取得財産の価額に相続時精算課税適用財産と一定の贈与財産を加えた額)」を乗じた金額で、譲渡益を超える場合は譲渡益が上限です。相続税を多く払った相続人ほど、この加算の効果は大きくなります。確定申告書に計算明細書を添付して適用を受けます。

二つの特例が揃う「3年10か月」の期間は、第12講で見た会社法上の特則(162条。相続人からの自己株式取得には他の株主の売主追加請求権が適用されない)とも重なります。会社にとっては相続人の株式を買いやすく、相続人にとっては税負担が最も軽い期間です。遺産分割や価格交渉が長引くと、この期間を過ぎてしまいます。相続と自社株が交わる案件では、紛争解決のスケジュールを、この期限から逆算して組む必要があります。遺産分割協議がまとまらないまま期限が迫るなら、株式だけを先に一部分割する、価格に争いがあるなら期限内に譲渡して価格の調整は別途行う、といった工夫が必要になります。

6時価と乖離した売買が生む課税 ― 誰と誰の取引かで「時価」が変わる

非上場株式には市場価格がありません。だからこそ、税務上の時価と乖離した価格での売買は、差額について課税を生みます。どのような課税が生じるかは、売主と買主が個人か法人かの組合せで決まります。

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売主 → 買主時価より著しく低い価格時価より著しく高い価格「時価」の判定基準
個人 → 個人差額が売主から買主への贈与とみなされ、買主に贈与税(相続税法7条)差額が買主から売主への贈与。売主に贈与税財産評価基本通達(相続税・贈与税の評価)。取得者(買主)が同族株主かどうかで原則的評価方式か配当還元方式かが決まる
個人 → 法人時価の2分の1未満なら、売主は時価で譲渡したものとみなされ譲渡所得課税(所得税法59条1項2号、みなし譲渡)。買主法人は差額が受贈益(法人税法22条2項)差額は法人から売主への給与(売主が役員・従業員)または寄附金。法人側は損金不算入の問題所得税基本通達59-6。財産評価基本通達を準用するが、①同族株主の判定は譲渡直前の譲渡人の議決権数で行う、②中心的な同族株主なら「小会社」として評価、③土地・上場株式は時価、④法人税額等相当額を控除しない
法人 → 個人差額は法人から個人への給与(役員・従業員)または寄附金。個人側に所得法人に譲渡益。個人側は高額部分が法人への寄附と見られる余地法人税基本通達9-1-13・9-1-14(売買実例、純資産価額等。財産評価基本通達の準用と同様の条件)
個人 → 発行会社みなし配当課税に加え、他の株主への価値の移転が問題となる余地。法人側は資本取引他の株主との関係で、超過部分が売主への配当・給与と見られる余地みなし配当の計算は実際の対価で行う。時価との乖離は別途問題になる

図表3 売主・買主の組合せ別の課税と「時価」の判定基準

この表で最も重要なのは、右端の列です。「時価」の判定基準が、取引の当事者によって変わります。個人間の贈与税の場面では、財産評価基本通達により、株式を取得した者(買主)が同族株主かどうかで評価方式が決まります。買主が少数株主であれば配当還元方式で低い時価になり、オーナーが少数株主である親族に低い価格で売っても、贈与税の問題は生じにくいことになります。

しかし個人から法人への譲渡では、判定の基準が変わります。所得税基本通達59-6は財産評価基本通達を準用しますが、最高裁は、譲渡所得課税の場面では相続税・贈与税を前提とする財産評価基本通達をそのまま用いることはできず、少数株主に当たるかどうかは株式を譲渡した株主(売主)の側で判定すべきであると判断しました(最判令和2年3月24日)。オーナーが自分の支配する法人に配当還元価額で株式を譲渡し、「買主は少数株主だから配当還元方式でよい」と考えていた事案で、売主がオーナー(同族株主)である以上は原則的評価方式による時価を基準にすべきだとされたものです。この判決を受けて令和2年8月に通達が改正され、同族株主の判定は「株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定する」ことが明記されました。オーナーが持株会社に株式を移す事業承継の場面で、この基準を誤ると、みなし譲渡課税と受贈益課税が同時に発生します。

「親族だから」「身内の会社だから」が最も危ない 親族間・同族間の株式移動は、価格を当事者の都合で決めやすいために、税務上の時価との乖離が生じやすい場面です。数年後の税務調査で高額の課税を指摘される例は後を絶ちません。逆に、適正な時価のレンジを立証できる算定資料(税理士による評価明細、直近の決算書、評価方式の選択理由)を売買時に整えておけば、課税リスクと、第12講で見た錯誤・詐欺の主張という紛争リスクを、同時に抑えることができます。

7買う側の税務 ― 個人・法人・発行会社

買主の側にも課税と事務があります。個人が買主の場合、時価より著しく低い価格で買えば差額が贈与税の対象になることは前節のとおりです。加えて、買主がオーナー一族であれば、買い取った株式は相続税評価上、原則的評価方式で評価される株式として買主の相続財産に加わります。配当還元方式で低く評価されていた少数株主の株式が、オーナーの手に戻った瞬間に高い評価に変わる。株式集約は、集約する側の相続税を増やす方向に働くということです。

法人(持株会社など)が買主の場合、時価より低く取得すれば差額が受贈益として法人税の課税所得になり、時価より高く取得すれば差額が寄附金または給与として扱われます。持株会社が金融機関からの借入れで株式を取得し、事業会社からの配当で返済する事業承継の定型では、取得価額の妥当性と借入金の返済計画を、税務と資金の両面から設計する必要があります。

発行会社が買主の場合(自己株式の取得)、会社にとって自己株式の取得は資本取引であり、損益は生じません。ただし、会社にはみなし配当部分の源泉徴収義務(20.42%)と納付、株主への支払通知、そして会社法上の分配可能額の確認(461条)と手続(156条以下。第12講)が伴います。源泉徴収を怠れば、会社が納付義務を負い、不納付加算税の対象にもなります。

8紛争解決の場面の税務 ― 価格決定・和解金・遺留分

紛争の解決によって株式が動く場面では、税務が後から問題になることがあります。法務と税務のどちらか一方では答えが出ない論点を、三つ挙げます。

第一に、裁判所の価格決定を経た売買です。譲渡承認請求に伴う売買価格の決定(会社法144条)や、相続人等に対する売渡請求に伴う価格決定(177条)で裁判所が決めた価格による売買は、税務上は通常の株式の譲渡です。買主が会社であればみなし配当課税が生じ、相続人が売主で3年10か月以内であれば措法9条の7の特例が使えます。裁判所が決めた価格であっても、税務上の時価との関係が問題になることは基本的にありませんが、価格決定に長い時間がかかれば、3年10か月の期限を過ぎてしまうことがあります。

第二に、和解金・解決金の性質です。株主間紛争の和解では、「甲は乙に解決金として○円を支払い、乙は保有株式を甲に譲渡する」という条項がよく見られます。この金銭が株式の譲渡代金であれば譲渡所得、それとは別の損害賠償や慰謝料であれば別の課税関係になります。和解条項の書き方が課税関係を左右するため、和解の前に税理士の確認を経て、譲渡代金とそれ以外の金銭を区別して記載する必要があります。

第三に、遺留分侵害額請求と株式です。令和元年7月施行の民法改正により、遺留分侵害額請求権は金銭債権になりました(民法1046条)。後継者が株式を相続し、他の相続人から遺留分侵害額の請求を受けた場合、後継者は金銭を支払う義務を負います。この金銭の支払に代えて株式を渡すことは、代物弁済に当たり、後継者が消滅した債務の額で株式を譲渡したものとして譲渡所得課税を受けます(所得税基本通達33-1の6)。「株を渡して遺留分の話を終わらせる」という解決は、後継者に思わぬ譲渡所得税を生じさせます。遺留分と非上場株式の問題は第19講で扱います。

PRACTICE NOTE

手取りシミュレーションの手順

売買契約書に判を押す前に、当事務所が税理士と共同で行う手取りシミュレーションの手順です。売主側・買主側のどちらから関与する場合も、同じ表を埋めます。

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手順確認すること資料・根拠
① 売主の取得の経緯設立時出資か、買取りか、相続・贈与か。取得費はいくらか。相続取得なら相続開始日・申告期限・納付した相続税額払込証明、譲渡契約書、相続税申告書。所得税法60条
② 株式の税務上の評価額原則的評価方式(類似業種比準・純資産)と配当還元方式の両方を算定。売主・買主それぞれが同族株主かどうか財産評価基本通達178以下。第2講
③ 買主候補ごとの「時価」個人間なら買主基準(財産評価基本通達)、個人→法人なら譲渡人基準(所基通59-6)、法人が売主なら法基通9-1-14最判令和2年3月24日、令和2年8月通達改正
④ 買主候補ごとの売主の税額個人・法人買主:譲渡所得20.315%。発行会社:みなし配当(資本金等の額を確認)と総合課税・配当控除・源泉徴収20.42%。売主の他の所得を加味所得税法25条、措法37条の10。図表2
⑤ 相続取得株式の期限相続開始から3年10か月の期限内か。措法9条の7の届出、措法39条の加算額の試算タックスアンサーNo.1477、No.3267
⑥ 買主の課税と資金個人買主の贈与税リスク、法人買主の受贈益、発行会社の分配可能額と源泉徴収事務相続税法7条、法人税法22条2項、会社法461条
⑦ 手取りの比較表買主候補ごとに、売主の手取り・買主の負担・課税リスクを一枚に並べ、当事者双方に提示この表が価格交渉の土台になる
⑧ 契約書への反映価格の根拠、源泉徴収の扱い、届出書の提出、税務上の説明を受けた旨の確認条項第12講の契約条項

⑦の比較表を当事者双方に示すことには、紛争予防上の意味があります。売主が「手取りがこんなに少ないとは知らなかった」と主張する余地をなくし、買主が「安く買えた」と思っていた取引が税務上は贈与だった、という事態を避けることができます。価格の合意と税務の説明は、同じテーブルで同時に行うべきものです。

実務チェック

  • 売主が誰に売るか(個人・法人・発行会社)によって、譲渡所得課税かみなし配当課税かが変わることを、売主・買主の双方が理解しているか。
  • 発行会社が買う場合、資本金等の額を確認してみなし配当の金額を試算したか。売主の他の所得を踏まえた実効税率を計算したか。源泉徴収20.42%の事務と支払額への影響を説明したか。
  • 相続で取得した株式を売る場合、相続開始から3年10か月の期限内か。措法9条の7の届出書を譲渡日までに会社に提出する段取りができているか。措法39条の取得費加算を試算したか。
  • 売買価格が税務上の時価とどの程度乖離しているか、税理士の評価明細で確認したか。個人→法人の譲渡では譲渡人基準で同族株主を判定したか。
  • 買主側の課税(贈与税、受贈益、寄附金)を確認したか。
  • 和解で株式が動く場合、和解条項で譲渡代金とそれ以外の金銭を区別して記載したか。
  • 遺留分侵害額の支払に代えて株式を渡す案が出ている場合、後継者の譲渡所得課税を説明したか。
  • 売買契約書に、価格の根拠と税務上の説明を受けた旨の確認条項を入れたか。

よくある質問

会社に1株1万円で1,000株を売ります。個人に売る場合と、手取りはどれくらい違いますか。

取得費が1株500円、会社の資本金等の額も1株500円と仮定すると、個人に売った場合の譲渡益は950万円で、税額は20.315%の約193万円、手取りは約807万円です。会社に売った場合、対価1,000万円のうち資本金等の額を超える950万円がみなし配当となり、給与など他の所得と合算して総合課税されます。会社は支払時に20.42%(約194万円)を源泉徴収します。最終的な税額は売主の他の所得によって変わり、他に所得がほとんどなければ配当控除後の実効税率は20%前後で個人に売る場合と大差ありませんが、課税総所得が1,800万円を超える所得帯では40%台になり、手取りは600万円を下回ることがあります(1,800万円超の所得帯で約580万円、4,000万円超で約530万円の概算)。売主の所得を踏まえた試算が必要です。なお、この株式を相続で取得して相続税を納付しており、相続開始から3年10か月以内であれば、届出により全額を譲渡所得(20.315%)として扱う特例(措法9条の7)が使えます。

父の株を相続しました。会社は「いつでも買い取る」と言っています。急ぐ必要はありますか。

あります。相続税を納付した相続人が、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始から約3年10か月)に、相続した非上場株式を発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を受けず全額が譲渡所得として20.315%で課税される特例(租税特別措置法9条の7)と、相続税額の一部を取得費に加算できる特例(同法39条)が使えます。この期限を過ぎると、会社への売却は通常のみなし配当課税となり、取得費加算もなくなります。同じ価格でも手取りが数百万円単位で変わることがあります。措法9条の7の適用には譲渡日までに会社への届出書の提出が必要ですので、期限の管理と手続を税理士に確認してください。遺産分割が長引いている場合は、株式だけを先に分割する方法も検討に値します。

弟から株を買います。税理士は時価1株3万円と言いますが、弟は1万円でよいと言っています。安く買っても問題ありませんか。

個人間の売買で、税務上の時価より著しく低い価格で株式を譲り受けた場合、差額は弟からあなたへの贈与とみなされ、あなたに贈与税が課される可能性があります(相続税法7条)。個人間の贈与税の場面で「時価」は財産評価基本通達により算定され、あなた(買主)が同族株主かどうかで原則的評価方式か配当還元方式かが決まります。あなたがオーナー一族(同族株主)であれば原則的評価方式による時価(税理士の言う3万円)が基準になり、1万円との差額2万円×株数が贈与とみなされるおそれがあります。「弟がよいと言っている」ことは税務上の判断に影響しません。適正な時価のレンジを税理士に算定してもらい、その範囲内で価格を決めることが、贈与税のリスクと、将来弟が「安く売らされた」と主張するリスクの両方を抑えます。

後継者の私が株を相続し、妹から遺留分の請求を受けています。株を一部渡して解決してはいけませんか。

できますが、税金が生じます。令和元年7月施行の民法改正後、遺留分侵害額請求権は金銭の支払を求める権利です(民法1046条)。金銭の支払に代えて株式を渡すことは代物弁済に当たり、あなたは消滅した遺留分侵害額を対価として株式を譲渡したものとして、譲渡所得税の課税を受けます(所得税基本通達33-1の6)。株式の取得費は被相続人の取得費を引き継ぎますから、設立時の出資額が低い会社では大きな譲渡益が生じます。妹の側は、渡された株式を遺留分侵害額で取得したことになります。金銭で支払う資金がない場合には、会社が株式を買い取る(3年10か月以内なら措法9条の7の特例が使える可能性)、持株会社を通じて資金を調達するなどの方法と比較して、税負担の総額が最も小さい解決を選ぶ必要があります。第19講で詳しく扱います。

株主間の争いを和解で終わらせます。「解決金」として金銭を受け取り、株式を渡す予定です。税金はどうなりますか。

和解金の性質によって課税が変わります。受け取る金銭が実質的に株式の譲渡代金であれば譲渡所得(買主が会社であればみなし配当)として課税され、それとは別に損害賠償や慰謝料としての性質を持つ部分があれば、別の課税関係になります。和解条項に「解決金」とだけ書かれていると、その全額がどの所得に当たるかを後から説明する必要が生じ、税務署の判断と食い違う危険があります。和解の前に税理士の確認を経て、株式の譲渡代金とそれ以外の金銭を条項上で区別し、譲渡代金の1株当たりの額も明記することが、税務と紛争の再燃の両方を防ぎます。相手方が会社であれば源泉徴収の扱いも和解条項に入れておくべきです。

おわりに ― 弁護士と税理士の「合議」が最強の防御

紛争の解決金の性質、価格決定手続で決まった価格の課税、遺産分割・遺留分の解決と譲渡のタイミング、集約する側の相続税への影響。これらは法務と税務のどちらか一方では答えが出ません。価格を決めるのは弁護士の仕事、税金を計算するのは税理士の仕事、と分けてしまうと、その間に「手取り」が落ちます。当事務所では、非上場株式の売買・集約・紛争解決に関与する案件では、税理士・公認会計士と協働するのを標準としています。

明徳法律事務所(大阪市西区)では、売主側・買主側・会社側のいずれの立場からも、買主別・時期別の手取りシミュレーションを踏まえた価格交渉、契約書の作成、和解条項の設計をお引き受けしています。売買契約書に判を押す前に、必ず手取りの数字をご確認ください。

次回 第14講「少数株主を『合法的に』排除する」では、任意の買取りに応じない株主が残ったときの最終手段、スクイーズアウトの選択肢と価格のルールを扱います。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。税率・控除・特例は記事作成時点の法令・通達に基づく概算であり、基礎控除その他の個別事情は考慮していません。個別の申告・税額計算は必ず税理士にご確認ください。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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