「手取り」を決めるのは価格ではなく税金
第12講で見たとおり、株式集約の設計では「誰が買うか」で税負担が激変します。売る側・買う側双方の課税を理解しないまま価格交渉をすることは、値札の桁を読み違えるのと同じです。本講は弁護士の視点から、紛争・集約実務に直結する税務の勘所を整理します(個別の申告・税額計算は必ず税理士にご確認ください)。
図表:売り方別・課税の全体像(個人株主の場合)
| 売却先 | 課税関係 | 手取りへの影響 |
|---|---|---|
| オーナー個人・第三者 | 譲渡所得として申告分離課税 20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税) | 最もシンプル |
| 発行会社(自己株式取得) | 資本金等の額を超える部分はみなし配当(所得税法25条)として総合課税(配当所得)。最高税率帯では約5割超の負担になり得る | 高額売却ほど手取りが激減する危険 |
| 発行会社(相続後の特例) | 相続により取得した株式を、相続開始後3年10か月以内に発行会社へ譲渡した場合、みなし配当課税を適用せず全額を譲渡所得とする特例(租税特別措置法9条の7) | 相続人の会社への売却はこの期間内が圧倒的に有利 |
| (相続税を納めた人の売却全般) | 相続税額の一部を取得費に加算できる取得費加算の特例(租税特別措置法39条。相続開始後3年10か月以内の譲渡) | 譲渡所得をさらに圧縮 |
「3年10か月」は、相続した非上場株式の売り時を決めるマジックナンバーです。遺産分割や価格交渉が長引いてこの期限を徒過すると、同じ価格で売っても手取りが数百万〜数千万円単位で変わることがあります。紛争解決のスケジュール自体を税務の期限から逆算する――これが相続×自社株案件の鉄則です。
「いくらで売買するか」に潜む課税リスク
非上場株式には市場価格がないため、税務上の時価と乖離した価格での売買は、それ自体が課税を生みます。
- 個人間の著しい低額譲渡 → 買主にみなし贈与課税(相続税法7条)
- 個人から法人への時価の2分の1未満の譲渡 → 売主に時価で譲渡したものとみなすみなし譲渡課税(所得税法59条1項2号)。この場面の「時価」の考え方を示すのが所得税基本通達59-6です
- 法人が低額で譲り受け → 法人側に受贈益課税
親族間・同族間だからと安易な価格で動かした株式が、数年後の税務調査で高額の課税を招く例は後を絶ちません。逆に、適正な時価のレンジを立証できる算定資料を整えておけば、課税リスクと紛争リスクを同時に抑えられます。
弁護士と税理士の「合議」が最強の防御
紛争の解決金・和解金の性質決定(譲渡代金か、和解金か)、価格決定手続で決まった価格の課税上の扱い、遺産分割・遺留分の解決と譲渡タイミングの設計――このあたりは法務と税務のどちらか一方では答えが出ません。当事務所は、税理士・公認会計士と協働するのが標準スタイルです。売買契約書に判を押す前に、必ず「手取りシミュレーション」までご確認ください。