『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第26講】
株式買取業者のビジネスモデルを裁判所が「違法」と断じた日
― 大阪高裁令和6年7月12日判決の徹底解説:事案・判断枠組み・射程と、少数株主・会社それぞれの実務対応 ―
「インターネットで『非上場株式を買い取ります』という会社を見つけました。会社との交渉が進まないので、そこに売ろうかと思っています。すぐに現金になると言われました。問題ありますか」
「(会社側から)見知らぬ株式買取会社から、うちの少数株主から株を買ったという内容証明が届き、譲渡承認請求と、不承認なら買い取れという請求がされています。承認すればこの会社が株主になり、不承認なら実質価格で買い取れと言ってくるのでしょう。どう対応すればよいですか」
「2年前に株式買取業者に株を売って代金を受け取りました。最近、その業者と会社の間で裁判になり、売買が無効だと判断されたと聞きました。私はどうなるのですか」
この講の結論
非上場株式の実務に携わる者にとって、近年最大級のインパクトを持つ裁判例が、大阪高裁令和6年7月12日判決(判タ1530号86頁。第一審・大阪地裁令和5年12月15日判決)です。少数株主から譲渡制限株式を買い取り、発行会社への譲渡承認請求と売買価格決定の手続を通じて発行会社側に売却し、譲受価格と実質価格の差額を利益とする「株式買取業者」のビジネスモデルの一類型について、弁護士法73条違反を理由に株式売買契約を無効と判断しました。第一審は契約を有効としていましたが、控訴審がこれを覆したものです。
大阪高裁は、業者が公認会計士の算定した実質価格(1株356万4,162円)を認識しながら株主に告げず、その約3分の1(1株120万円)で譲り受けていたこと、譲り受けた株式の約9割で譲渡承認を受けられず売却で終わっており、事業の実態が「株主になること」ではなく「差額を得ること」にあること、承認されないことを織り込んだ事業活動を行っていたことなどを認定し、会社法の売買価格決定手続が株主の投下資本回収を保障する制度であって譲渡制限株式の買取業を想定していないことを踏まえ、本件事業としての売買契約の締結は売買価格に関する紛議を助長し、弁護士法72条の潜脱に当たり、社会的経済的に正当な業務の範囲内とは認められないとしました。少数株主にとっては、「早くて簡単」な換価の対価が、実質価値の3分の1という価格と、契約自体が無効とされ株主の地位と代金清算をめぐる新たな紛争に巻き込まれるリスクであることを、会社側にとっては、業者からの承認請求に言い値で応じる必要はなく、事業実態によっては譲受けの効力自体を争う余地があることを、この判決は示しました。ただし、本判決は個別の事情に基づく事例判断であり、同じ業者が当事者となった別の事案の裁判例も公表されています。すべての買取業者との契約が当然に無効になるわけではありません。
1本判決の位置づけ ― なぜ「近年最大級」なのか
本連載の第Ⅴ部・第Ⅵ部で見てきたとおり、非上場会社の少数株主が株式を換価するには、任意交渉、譲渡承認請求から売買価格決定、組織再編等をとらえた買取請求という会社法上のルートがあり(第20講〜第22講)、いずれも時間と費用と専門知識を要します(第25講)。この負担感につけ込む形で、2010年代以降、「非上場株式を買い取ります」と謳う株式買取業者が登場しました。少数株主から譲渡制限株式を買い取り、自ら発行会社に譲渡承認請求をして、不承認なら会社または指定買取人による買取りと売買価格決定(144条)に進み、実質価格ベースで売却して差額を得る、というモデルです。少数株主には「すぐに現金になる」「面倒な手続は業者がやる」と訴求し、ウェブサイトや著書で広く宣伝されてきました。
会社側にとって、このモデルは深刻な脅威でした。見知らぬ業者が株主になるか、実質価格で買い取るかの二択を迫られ、業者は手続に慣れており、期限管理の一つの失敗でみなし承認を取られる。他方、少数株主側にとっても、業者に売った価格が本来の価値と比べてどうなのかは、株主自身には分かりにくいものでした。
大阪高裁令和6年7月12日判決は、このビジネスモデルの一類型について、業者と株主の間の株式売買契約そのものを弁護士法73条違反で無効としました。会社法の手続の中で価格を争うのではなく、業者が株式を取得する入口を閉ざした判断であり、少数株主向けに広く宣伝されてきたビジネスの根幹に、司法が正面から否定的な評価を下したものです。同時に、この判決は、少数株主の換価ニーズを否定したのではなく、その解決は弁護士に依頼して会社法上の手続で実質価値の回収を図るという本来のルートで行うべきことを示したものと読むことができます。
2事案の概要 ― 40株・4,800万円・実質価格の3分の1
事案を、判決文と公表された紹介に基づいて整理します(当事者は仮称にします)。
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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発行会社(X1社) | 同族経営の非公開会社。全株式に譲渡制限 |
| 売主株主(Y1) | X1社の譲渡制限付き無議決権株式52株を保有する少数株主。会社側との買取価格の協議が調わなかった |
| 買取業者(A社) | 非上場株式の買取りを事業とする会社。ウェブサイト・著書等で買取りを広告 |
| 売買契約 | Y1が52株のうち40株をA社に代金4,800万円(1株120万円)で売却 |
| 業者が把握していた実質価格 | 公認会計士の算定による1株356万4,162円。合意価格はその約3分の1。業者はこの実質価格を株主に告げていなかった |
| 譲渡承認請求 | A社とY1が共同でX1社に譲渡承認請求(137条・138条2号)。不承認の場合は会社または指定買取人による買取りを併せて請求 |
| 会社の対応 | X1社は不承認とし、指定買取人としてX2社を指定(140条4項) |
| 価格協議・価格決定 | X2社とA社の協議は調わず、売買価格決定(144条2項・7項)の申立て |
| 本件訴訟 | X1社・X2社側が、Y1・A社間の売買契約は弁護士法72条・73条違反等により無効であると主張し、株主権の確認等を求めた |
| 第一審(大阪地判令和5年12月15日) | 売買契約の無効を認めず |
| 控訴審(大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁) | 第一審を変更し、売買契約は弁護士法73条に違反し無効と判断 |
| その後 | 上告されたが最高裁で維持され確定したと紹介されている |
図表1 事案の概要 ― 業者は実質価格を知りながら、その3分の1で買い取っていた
数字の意味を確認しておきます。40株の実質価格は、356万4,162円×40株で約1億4,257万円です。業者はこれを4,800万円で買い取っており、会社側が実質価格で買い取れば約9,457万円の差額が業者の利益になる構造でした。株主Y1の側から見れば、自ら弁護士に依頼して譲渡承認請求から売買価格決定に進んでいれば、非流動性ディスカウント等を考慮しても、4,800万円を大きく上回る価格で会社側に売却できた可能性が高い事案です。
3裁判所が認定した買取業者のビジネスモデル
図解A 裁判所が認定したビジネスモデルの構造
図解A 会社法の投下資本回収の手続を、収益実現の道具として組み込んだ構造
裁判所は、この構造を、業者の事業の実態として認定しました。とくに、①で業者が実質価格を認識しながら株主に告げていなかったこと、②で承認されないことが事業の前提になっていたこと、④で株主の地位を取得することではなく差額を得ることが主な事業目的であったことが、後の判断の基礎になっています。
4判断枠組み ― 弁護士法73条と「正当な業務」の例外
弁護士法73条。「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない」と定めます。他人の権利を買い取って裁判手続で実行することを商売にすること、いわゆる「事件屋」的な行為を禁じる規定です。
趣旨と例外。最高裁は、同条の趣旨を、弁護士でない者が権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり紛議を助長したりするほか、弁護士法72条本文(非弁護士の法律事務取扱い等の禁止。その趣旨については最大判昭和46年7月14日刑集25巻5号690頁)の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に対する弊害が生じることを防止することにあると説明し、他方で、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、みだりに訴訟を誘発するなど国民の法律生活上の利益に対する弊害が生じるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同条に違反しないとしています(最判平成14年1月22日民集56巻1号123頁。ゴルフ会員権の預託金返還請求権の譲受けの事案)。債権回収業や不動産の買取りなど、権利を譲り受けて裁判で実行することを含む事業は広く存在しますから、73条は形式的に当てはまれば直ちに違反となる規定ではなく、事業の実態が「正当な業務の範囲内」かどうかで判断されます。
大阪高裁の当てはめの視点。大阪高裁は、この判断枠組みの下で、①権利の譲受けの方法・態様、②権利実行の方法・態様、③業務の内容とその実態を詳細に認定しました。その前提として、会社法の売買価格決定手続の性格を確認しています。同手続は、譲渡制限株式の株主に投下資本回収の手段を保障するための制度であり(この位置づけは最決令和5年5月24日判タ1514号33頁と同じです。第21講)、譲渡制限株式の売買市場や買取業の存在を想定したものではない、という理解です。株主自身が投下資本を回収するための手続を、第三者が権利を買い集めて利益を得る道具として使うことが、制度の想定の外にあるという視点が、以下の認定を貫いています。
5決定打となった認定 ― 四つの事実
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| 認定 | 内容 | 判断における意味 |
|---|---|---|
| ① 制度趣旨との不整合 | 売買価格決定手続は株主の投下資本回収を保障する制度であり、譲渡制限株式の売買市場や買取業の存在を想定していない | 業者が手続を収益実現の道具として利用する構造そのものが、制度の想定外 |
| ② 実質価格の不告知と低廉な譲受け | 業者は公認会計士算定の実質価格(1株356万4,162円)を認識しながら株主に告げず、約3分の1の価格(1株120万円)で譲り受けた | 本来株主に帰属すべき実質的な企業価値の大部分が業者に移転する。譲受けの方法・態様の不当性 |
| ③ 差額目的の事業実態 | 譲り受けた株式の約9割で株主の地位を取得できず売却で終わっており、事業の実態は「株主になること」ではなく「差額を得ること」を目的とする | 権利の実行(買取り・価格決定)が事業の中核。73条の「権利の実行を業とする」に実質的に該当 |
| ④ 承認拒否の誘導 | 会社に内部資料の提供やヒアリングを求める姿勢は、自らが「好ましくない株主」であることを示唆して承認拒否を誘導する事業活動と強く疑われる | 不承認→買取り→価格決定という紛議を、業者が自ら誘発している |
図表2 四つの認定 ― 「正当な業務の範囲内」を否定した根拠
その上で大阪高裁は、本件事業としての売買契約の締結は、株式の売買価格に関する紛議を助長するものであり、本来株主に帰属すべき実質的な企業価値を株主以外の者に移転させ、弁護士法72条の潜脱に当たるもので、社会的経済的に正当な業務の範囲内とは認められないとして、本件売買契約を弁護士法73条違反により無効と判断しました。少数株主に換価のニーズがあること自体は認めつつ、そのニーズは本件事業を正当化しない、と述べている点も重要です。換価のニーズに応える正当な道は、弁護士に依頼して会社法上の手続を進めることであり、業者が権利を買い取って手続を代行することではない、という整理です。
「事件屋」との類似と相違 73条が本来想定していたのは、紛争性のある債権や不動産の権利を安く買い取り、訴訟で回収して差益を得る行為です。株式買取業者の場合、買い取るのは株式という財産で、行使するのは会社法が株主に与えた手続ですから、形式上は「権利の譲受けと実行」に当たります。大阪高裁が重視したのは、業者が買い取っているのが「株主の地位」ではなく実質的には「会社側との価格紛争に持ち込む権利」であり、しかもその紛争が承認拒否の誘導によって業者自身に作り出されている、という点でした。株式の売買という外形の中に、73条が禁じる構造を見たものといえます。
6本判決の射程 ― 事例判断であること、その後の裁判例
事例判断としての限界。本判決は、業者の事業実態、譲受価格と実質価格の乖離、不告知、承認拒否の誘導といった個別の事実を詳細に認定した上での判断です。したがって、株式買取業者との売買契約がすべて弁護士法73条違反で無効になる、という一般的な命題を立てたものではありません。譲受価格が実質価格に近い場合、業者が株主の地位を取得して長期保有することを事業としている場合、承認を得て株主になる例が多い場合などには、判断が異なり得ます。会社側が「業者が相手だから契約は無効」と決めつけて手続を怠れば、みなし承認や144条5項の価格確定という別の失敗を招きます。
その後の裁判例。同じ業者が当事者となった別の事案として、大阪高判令和7年9月4日(資料版商事法務505号31頁。第一審・大阪地判令和6年12月11日)が公表されています。この事案では、業者が少数株主2名から株式を1株500円(会社が提示していた買取価格は1株60円)で譲り受けて共同で譲渡承認請求をしたところ、会社が承認の可否に応答しない旨を回答し、業者が2週間の経過によるみなし承認(145条1号)を主張して株主名簿の名義書換を請求し、会社がこれを拒んだため、業者が株主権の確認等を求めたものです。本判決とは、会社側の対応(不承認と指定買取人の指定か、応答拒否によるみなし承認か)と争点の構造が異なり、買取業者をめぐる裁判例は事案ごとの事情に基づく判断が蓄積されつつあります。
また、業者が譲渡制限株式を買い受けて発行会社の承認を得た事案では、業者が株主権の確認と会計帳簿等の閲覧謄写を求め、その一部が認容された裁判例があります(東京高判令和5年10月26日。上告棄却・不受理により確定)。会社が承認をすれば、業者は正規の株主として第7講で見た少数株主権を行使できるということであり、会社側の「承認する」という選択(第21講)は、業者が相手の場合には慎重に検討する必要があります。
図解B 業者からの譲渡承認請求に対する会社側の帰結の分岐
図解B いずれの分岐でも、2週間・40日の期限管理が前提になる
7少数株主の方へ ― 「早くて簡単」の対価と本来のルート
価格。業者が提示する価格は、業者が後に会社との交渉や価格決定で得ようとする金額から、業者の利益、手続費用、承認されて株主になってしまうリスクの分を差し引いたものです。本件では実質価格の約3分の1でした。第2講の「四つの値段」でいえば、業者の提示価格は税務上の評価額より高いことが多いため、株主には「良い条件」に見えますが、裁判所が決める実質価格と比べれば大幅に低いのが通常です。株主が自ら弁護士に依頼して譲渡承認請求から売買価格決定に進めば(第21講)、費用(第25講)を差し引いても、業者に売るより手取りが多くなる事案が大半です。
契約無効のリスク。本判決のように業者との売買契約が無効とされれば、株式はもとの株主に帰属したままであり、受領した代金は法律上の原因を欠く給付として返還の問題が生じます(民法121条の2)。株主は、代金を返し、株主の地位に戻り、改めて会社との間で換価の手続をやり直すことになります。業者との間で代金の返還額や利息をめぐる紛争が生じることもあり、業者に売却したことで「早く簡単に」終わるはずだった問題が、より複雑な形で戻ってきます。すでに業者に売却した方は、業者と会社の間の紛争の状況を確認し、契約の効力が争われる可能性があるなら、早期に弁護士に相談してください。
本来のルート。裁判所は、少数株主の換価ニーズを否定していません。その解決は、弁護士に依頼して会社法上の手続(任意交渉、譲渡承認請求と売買価格決定、組織再編等の機会をとらえた買取請求)によって実質価値の回収を図るという本来のルートで行うべきことを示しました。「手間の省略」は、業者に株式を売ることではなく、弁護士と公認会計士に手続を委ねることで実現できます。
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| 比較項目 | 業者への売却 | 弁護士に依頼して会社法の手続 |
|---|---|---|
| 受け取る価格 | 業者の「経営判断価格」。本件では実質価格の約3分の1 | 協議または裁判所の決定による実質価格ベース(非流動性ディスカウントの可能性はある。第4講・第21講) |
| 時間 | 契約時に代金受領(早い) | 協議で早期に決着することもあれば、価格決定で1〜2年(第25講) |
| 費用 | 表面上は不要(価格に織り込まれている) | 弁護士費用・算定書費用(差額に比して合理的な範囲で設計) |
| 法的リスク | 契約無効(弁護士法73条)とされれば株主の地位に戻り代金清算 | 会社法上の手続として安定 |
| 税務 | 業者(法人)への譲渡なら譲渡所得 | 買主が会社ならみなし配当、指定買取人なら譲渡所得。相続株式の3年10か月特例(第13講) |
| 会社との関係 | 業者が「好ましくない株主」として登場し、会社との紛争が激化 | 株主自身の投下資本回収として会社側も対応しやすく、和解の余地が広い |
図表3 業者への売却と本来のルートの比較 ― 「早い」以外の項目で本来のルートが優る
8会社側の方へ ― 業者から譲渡承認請求が届いたら
会社側から見ると、業者からの譲渡承認請求は、通常の株主からの請求と同じ会社法の手続に乗っており、期限も同じです。本判決を根拠に「無効だから無視してよい」と考えることは、最も危険な対応です。請求の日から2週間以内に承認・不承認の通知をしなければみなし承認となり(145条1号)、業者が株主になります(大阪高判令和7年9月4日の事案は、会社が応答を拒んだためにみなし承認の成否が争われたものです)。
会社側の対応は、第21講の手続を前提に、次の四つを並行して進めることになります。第一に、期限管理の徹底です。2週間以内の通知、不承認なら40日(指定買取人は10日)以内の供託と買取通知、20日以内の価格決定申立てを、業者相手の場合こそ確実に行います。第二に、三択の再検討です。承認すれば業者が株主になり、帳簿閲覧等の権利行使を受けます。不承認なら会社または指定買取人が実質価格ベースで買い取ることになり、その価格は144条の手続で争います。第三に、業者の事業実態に関する情報収集です。譲受価格、株主に対する説明の内容、業者の他の事案での承認・不承認の実績、業者の広告や著書の内容などは、契約無効の主張の基礎になります。第四に、弁護士法違反の主張の要否と時期です。本判決の事案では、会社側が株主権確認等の訴訟で契約無効を主張しました。売買価格決定の非訟手続の中でも、業者の申立人適格や株主としての地位を争う形で主張することが考えられますが、無効の主張は事例判断に基づくものであり、認められない場合の備え(価格決定手続での評価反論)を並行して進める必要があります。
もう一つの視点は、業者が登場する前の対応です。業者に売却する少数株主は、会社側との価格協議が調わなかった株主です。会社側が少数株主に対して、実質価値から大きく離れた価格しか提示せず、情報も開示しなければ、株主は業者に向かいます。第12講で見た任意の買取りにおいて、税務上の評価額ではなく実質価値を踏まえた価格を提示し、相続直後などの合意しやすい時期をとらえて株式を集約しておくことが、業者の登場を防ぐ最も確実な方法です。
PRACTICE NOTE
買取業者が関与する事案の対応チェック
当事務所が、株式買取業者が関与する事案で、立場ごとに最初に確認する項目です。
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| 局面 | 少数株主側 | 会社側 |
|---|---|---|
| 業者から勧誘を受けた | 提示価格と実質価値の比較(計算書類の取得、簿価純資産の概算、必要なら私的算定。第20講)。業者が実質価値をどう説明しているかを記録する。契約前に弁護士に相談する | ― |
| 業者に売却するか迷っている | 本来のルート(第21講)で得られる価格と費用・期間(第25講)を試算し、業者価格と比較する。契約無効のリスク(本判決)を理解する | 少数株主が業者に向かう前に、実質価値を踏まえた買取提案ができないかを検討する(第12講) |
| 業者から承認請求が届いた | ― | 到達日の記録、2週間の期限、定款の承認機関、供託資金・指定買取人の準備(第21講)。業者の事業実態(譲受価格、広告、他事案の実績)の情報収集を開始 |
| 承認・不承認の判断 | ― | 承認すれば業者が株主になり権利行使を受ける(東京高判令和5年10月26日)。不承認なら買取りと価格決定。契約無効を争う場合も、期限内の手続は並行して行う |
| 価格決定手続 | ― | 評価の主張立証(第3講・第4講・第25講)と、業者の株主としての地位を争う主張の両立 |
| 契約無効の主張 | すでに売却した場合、業者と会社の紛争の状況を確認。無効となれば株主の地位に戻り、代金の返還と再度の換価手続 | 本判決の四つの認定(制度趣旨、不告知と低廉譲受け、差額目的、承認拒否の誘導)に対応する事実と証拠を整理。事例判断であることを前提に、認められない場合の備えを並行 |
| 解決 | 本来のルートでの換価(協議・価格決定・和解) | 株主との直接の和解(業者を介さない解決)の可能性を探る |
業者が関与する事案では、会社側が「業者の言い値で買うか、無視するか」の二択に陥りがちです。実際には、期限を守りながら価格を争い、事業実態次第で契約の効力も争う、という第三の道があり、本判決はその道を開きました。少数株主側にとっては、業者に向かう前に本来のルートの見積りを取ることが、最も費用対効果の高い一歩です。
実務チェック
- (株主側)業者の提示価格を、計算書類に基づく簿価純資産・実質価値と比較したか。業者が実質価値を説明していない場合、その事実を記録したか。
- (株主側)弁護士に依頼して譲渡承認請求から売買価格決定に進んだ場合の価格・費用・期間を試算し、業者への売却と比較したか。
- (株主側)業者との契約が無効とされた場合、株主の地位に戻り代金を返還する結果になることを理解したか。すでに売却している場合、業者と会社の紛争状況を確認したか。
- (会社側)業者からの承認請求について、通常の株主からの請求と同じ期限(2週間・40日・10日・20日)を守る体制をとったか。「無効だから無視」をしていないか。
- (会社側)承認した場合に業者が株主として権利行使することを織り込んで、承認・不承認・指定買取人の三択を判断したか。
- (会社側)業者の事業実態(譲受価格、株主への説明、広告・著書、他事案の承認実績)に関する情報を収集し、本判決の四つの認定と対比したか。
- (会社側)契約無効の主張と、価格決定手続での評価反論を並行して準備したか。
- (会社側)少数株主が業者に向かう前に、実質価値を踏まえた任意の買取提案を行う余地がなかったかを検討し、今後の株主管理に反映したか。
- (双方)本判決が事例判断であり、すべての業者との契約が無効になるわけではないことを前提に対応しているか。
よくある質問
「非上場株式を買い取ります」という業者に売ろうと思っています。何が問題ですか。
二つの問題があります。第一に価格です。業者が提示する価格は、業者が後に会社との交渉や価格決定で得ようとする実質価格から、業者の利益と費用とリスクを差し引いたものです。大阪高判令和6年7月12日の事案では、業者は公認会計士が算定した実質価格(1株356万4,162円)を知りながら株主に告げず、その約3分の1(1株120万円)で買い取っていました。第二に契約の効力です。同判決は、その業者の事業としての売買契約を弁護士法73条違反で無効としました。無効であれば、あなたは代金を返し、株主の地位に戻り、換価の手続をやり直すことになります。裁判所は、少数株主の換価ニーズを否定したのではなく、その解決は弁護士に依頼して会社法上の手続(譲渡承認請求から売買価格決定。第21講)で実質価値の回収を図るべきだと示しました。業者に売る前に、計算書類を取得して株式の実質価値を把握し(第20講)、本来のルートで得られる価格と費用・期間(第25講)の見積りを弁護士から取ることをお勧めします。多くの事案で、費用を差し引いても業者に売るより手取りが多くなります。
(会社側)業者から譲渡承認請求が届きました。この判決があるので無視してよいですか。
無視は最も危険な対応です。業者からの請求も会社法の手続に乗っており、請求の日から2週間以内に承認・不承認の通知をしなければ、譲渡を承認したものとみなされ(145条1号)、業者が株主になります。実際に、会社が応答を拒んだためにみなし承認の成否と業者の株主権が争われた事案があります(大阪高判令和7年9月4日)。まず期限を守ってください。その上で、①承認すれば業者が株主として帳簿閲覧等の権利を行使する(東京高判令和5年10月26日)、②不承認なら会社または指定買取人が買い取り、価格は144条の手続で実質価格ベースになる、③業者の事業実態が大阪高判令和6年7月12日の認定(実質価格の不告知と低廉な譲受け、差額目的、承認拒否の誘導)に近ければ契約無効を争う余地がある、という三つを比較します。③は事例判断に基づく主張であり、認められない場合の備えとして、価格決定手続での評価の主張立証(第3講・第4講)を並行して進めます。業者の譲受価格、株主への説明、広告や著書の内容、他の事案での承認実績などの情報収集を、請求書を受け取った日から始めてください。
2年前に業者に株を売りました。契約が無効になると、私はどうなりますか。
売買契約が無効であれば、株式の所有権は移転しておらず、あなたは法的には株主のままです。受領した代金は法律上の原因のない給付として業者に返還する義務が生じ(民法121条の2)、業者との間でその金額や利息をめぐる調整が必要になります。また、業者と会社の間で進んでいた譲渡承認請求や価格決定の手続は、業者が株主でないことを前提に整理されることになります。あなたは、株主として会社との間で改めて換価の手続(任意交渉、譲渡承認請求)をとることができ、その価格は実質価値ベースで決まりますから、結果として業者に売った価格より多くを受け取れる可能性があります。ただし、代金返還の時期と換価の時期がずれることによる資金の問題、税務上の処理(すでに申告した譲渡所得の修正)などが生じます。業者と会社の間の紛争の状況を確認し、契約の効力が争われる可能性があるなら、放置せず早期に弁護士に相談してください。業者から「契約は有効だから安心してよい」と説明されても、その判断は業者ではなく裁判所がするものです。
この判決で、株式買取業者との契約はすべて無効になったのですか。
なっていません。大阪高判令和6年7月12日は、当該業者の事業実態、実質価格を告げずに約3分の1で譲り受けたこと、譲り受けた株式の約9割で承認を受けられず差額目的の事業であったこと、承認拒否を誘導する事業活動と疑われることなど、個別の事実を詳細に認定した上での事例判断です。弁護士法73条は、他人の権利を譲り受けて訴訟等で実行することを業とする行為でも、弊害のおそれがなく社会的経済的に正当な業務の範囲内にあれば違反しないとするのが最高裁の判例ですから(最判平成14年1月22日)、譲受価格が実質価格に近い、株主の地位を取得して保有することを事業としている、承認を得て株主になる例が多い、といった業者については判断が異なり得ます。実際、同じ業者が当事者となった別の事案(大阪高判令和7年9月4日)では、会社が承認請求に応答しなかったためみなし承認の成否と株主権確認が争われており、事案の構造が異なります。会社側は、業者が相手だからといって手続を怠らず、事業実態の立証を前提に契約の効力を争うことになります。
業者を使わずに、少数株主が自分で実質価値を回収するにはどうすればよいですか。
本連載の第Ⅴ部で扱った手続がそのまま答えです。第一に、情報収集です。計算書類の閲覧・謄本交付(442条3項)で会社の純資産と利益を把握し、3%以上なら会計帳簿の閲覧(433条)も請求します(第7講・第20講)。第二に、任意交渉です。実質価値を踏まえた価格と、合意できなければ譲渡承認請求に進むという代替案を示して、会社・オーナーに買取りを申し入れます(第20講)。第三に、譲渡承認請求です。実際に買う意思と資金のある譲受人候補を立てて承認を請求し、不承認なら会社または指定買取人による買取りと売買価格決定に進みます(第21講)。裁判所は実質価値ベースで価格を決め、その過程で和解が成立することも多くあります。費用と期間は第25講で見たとおりで、対象株式の価値が数千万円以上なら十分に合理的です。業者は、この一連の手続を「株式を買い取る」形で代行し、その対価として実質価値の大部分を取っていました。弁護士に依頼すれば、同じ手続を、株式の所有権を手放さずに、費用を差し引いても手取りの多い形で進めることができます。会社が組織再編や株式併合を行う機会があれば、反対株主の株式買取請求(第22講)も選択肢になります。
おわりに ― 換価のニーズは正当、その担い手が問われた
大阪高裁令和6年7月12日判決は、少数株主の「売れない株」を換価したいというニーズが正当であることを否定していません。問われたのは、そのニーズに応える担い手です。会社法は、株主自身が投下資本を回収するための手続を用意しており、その手続を第三者が権利を買い集めて利益を得る道具として使うことは、制度の想定の外にある。裁判所はそう判断しました。少数株主にとっては、業者に株式を売ることが「早くて簡単」に見えても、その対価は実質価値の大部分と契約無効のリスクであり、本来のルートを弁護士と公認会計士に委ねるほうが、結果として早く、確実で、手取りが多いことがほとんどです。会社側にとっては、業者が登場する前に少数株主と実質価値を踏まえた対話を持つことが、最も確実な防御です。
明徳法律事務所(大阪市西区)では、業者からの勧誘を受けた少数株主のご相談(提示価格の検証と本来のルートの見積り)、業者に売却済みの方のご相談(契約の効力と代金清算・再度の換価)、業者から譲渡承認請求を受けた会社側のご相談(期限管理、三択の判断、価格決定手続、契約の効力を争う訴訟)を、いずれの立場でもお引き受けしています。次回は最終回として、27講全体を振り返り、非上場株式紛争の「勝ち筋」と、弁護士の選び方を整理します。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 弁護士法〔e-Gov法令検索〕72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
- 会社法〔e-Gov法令検索〕136条〜145条、433条、442条3項
- 民法〔e-Gov法令検索〕121条の2(原状回復の義務)
- 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁(第一審・大阪地判令和5年12月15日)株式買取業者による譲渡制限株式の譲受けを事業とする売買契約を弁護士法73条違反により無効とした判決。本講の主題
- 大阪高判令和7年9月4日資料版商事法務505号31頁(第一審・大阪地判令和6年12月11日)同一の株式買取業者が譲渡承認請求に応答しない会社に対しみなし承認を前提に株主権の確認等を求めた事案
- 東京高判令和5年10月26日(上告棄却・不受理。第一審・東京地判令和5年4月18日。資料版商事法務507号に紹介)承認を得て譲渡制限株式を取得した株式買取会社による株主権確認・会計帳簿閲覧謄写請求が一部認容された事案
- 最判平成14年1月22日民集56巻1号123頁弁護士法73条の趣旨と、社会的経済的に正当な業務の範囲内にある場合には同条に違反しないとした判例
- 最大判昭和46年7月14日刑集25巻5号690頁弁護士法72条の趣旨に関する判例
- 最決令和5年5月24日判タ1514号33頁会社法144条2項の手続を株主の投下資本回収の手段の保障と位置づけた判例(第21講)
- 資料版商事法務505号(2026年4月号)裁判動向「株式買取会社が当事者となる譲渡制限株式に係る株主権確認等請求事件」、同508号(2026年7月号)判例評釈(岩城円花)、同507号(2026年6月号)裁判動向
- 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、同編著『非上場株式の相続と会社法』(新日本法規、2025年)第6章
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。事案の当事者は仮称で表記しています。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日