『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第27講・最終回】
非上場株式紛争の「勝ち筋」と弁護士の選び方
― シリーズ総括:26講を一枚の地図に、期限を一枚の表に、勝敗を分ける三要素と立場別の進み方 ―
「連載を読んで、自分の会社の株主構成に問題があることは分かりました。ただ、何から手をつければよいのか、どの講の話が自分に当てはまるのか、整理がつきません」
「相続した株の件で弁護士を探しています。企業法務を扱う事務所はたくさんありますが、非上場株式の紛争に本当に慣れているかどうかを、どう見分ければよいのでしょう」
「先週、会社から内容証明が届きました。何かの期限が書いてあるようです。まず何を確認すべきですか」
この講の結論
26講にわたって見てきた非上場株式の紛争は、一つの構造に収斂します。市場のない株式に、値段と出口をどうつけるか。会社・オーナー側は株主名簿・名義株・定款・株主間契約・持株会で守り、任意買取・自己株式・スクイーズアウトで集約し、相続では準共有・売渡請求・遺産分割・遺留分に備えます。少数株主側は帳簿閲覧で情報を得、譲渡承認請求・買取請求で換価し、解任・デッドロックで経営権を争います。両者の間にあるのが「1株いくらか」という価格の攻防で、その土俵と理論は最高裁の二つの決定(最決平成27年3月26日・最決令和5年5月24日)が枠を定め、手続の現実は非訟事件のコストと期間が規定し、番外の脅威として株式買取業者を大阪高判令和6年7月12日が退けました。
実務で勝敗を分けるのは三つの要素です。第一に初動の速さ。この紛争は期限のゲームであり、2週間、20日、40日、1年、3か月といった期限を、書面が届いた日に把握できるかで結論が変わります。第二に価格を語る力。最終的な争点はほぼ常に価格に収斂し、評価理論・判例の射程・税務を算定書と証拠で語れるかが問われます。第三に出口の設計力。手続で勝つことと、依頼者の目的(会社を守る、適正な対価を得る、家族関係を壊さない)を達成することは一致せず、手続と交渉と税務を組み合わせた着地を設計できるかが専門家の真価です。弁護士を選ぶ際は、株式価格決定・株主間紛争の実際の経験、企業価値評価への理解と会計専門家との協働、会社法と相続法の双方の実務、予防設計まで一貫して依頼できるか、の四点を確認してください。
126講の地図 ― 会社側・少数株主側・両者の間にある価格
本連載は、第1講で「なぜ売れない株は争いになるのか」を問い、その答えとして、市場のない株式には客観的な値段がなく、譲渡制限のために出口もない、という構造を示しました。以下の26講は、この構造の中で、会社・オーナー側と少数株主側がそれぞれ何を守り、何を求め、その間の価格がどう決まるのかを、順に扱ってきたものです。
図解A 26講の全体地図
図解A どの立場から入っても、最後は「1株いくらか」と「どの手続で」に行き着く
この地図で重要なのは、会社側と少数株主側の道具が同じ条文の裏表であることです。会社側が使う相続人等に対する売渡請求(174条)は、少数株主側から見れば相続クーデターの危険であり(第17講)、少数株主側が使う譲渡承認請求(136条)は、会社側から見れば期限管理と三択の問題です(第21講)。一方の立場だけを知っていては、相手の次の一手は読めません。本連載が両方の立場を並べて書いてきたのは、そのためです。
2第Ⅰ部の要点 ― 値段は四層あり、土俵と理論で決まる
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| 講 | 一文でいえば | 実務で最初に使う場面 |
|---|---|---|
| 第1講 なぜ「売れない株」は争いになるのか | 市場がなく譲渡制限があるため、値段と出口を法と交渉でつけなければならない | 相談の冒頭で、紛争の型(会社側か少数株主側か、相続か)を見定める |
| 第2講 あなたの会社の株には「四つの値段」がある | 額面・税務上の評価額・簿価純資産・裁判所が決める価格は別物で、同じ1株に併存する | 「額面で引き取る」「相続税評価額で」という提示を受けたとき |
| 第3講 DCF・純資産・配当還元 | 評価手法はそれぞれ前提と弱点があり、鑑定書は前提・数値・手法選択の三点でレビューする | 相手方の算定書を受け取ったとき、自派の算定書を依頼するとき |
| 第4講 非上場株式の値段は「土俵」と「理論」で決まる | 144条の売買価格と買取請求の「公正な価格」で非流動性ディスカウントの可否が分かれる(最決平成27年3月26日・最決令和5年5月24日)。裁判例は売主・買主の属性に応じた折衷が多い | どの手続で価格を争うかを選ぶとき、和解の相場を読むとき |
図表1 第Ⅰ部 価格編 ― すべての講の土台
第Ⅰ部が土台である理由は、以後のあらゆる手続が「いくらか」に帰着するからです。税務上の評価額(配当還元価額)が額面程度であっても、裁判所が決める価格はその数倍から数十倍になることがあり、この差を知らないまま交渉に入ることは、値札のない店で買い物をすることに等しい、というのが第Ⅰ部の要点でした。
3第Ⅱ部・第Ⅲ部の要点 ― 守りの設計と株式の集約
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| 講 | 一文でいえば | 鍵となる条文・判例 |
|---|---|---|
| 第5講 紛争は株主名簿から始まる | 株主が誰かを確定できない会社は、どの手続も始められない。名簿・定款・登記の三点を整える | 121条・125条・130条・133条 |
| 第6講 その株、本当にあなたのものですか | 名義株の帰属は「誰が出資したか」で決まり、立証は資金の出所と株主としての実質で行う | 最判昭和42年11月17日、株主権確認訴訟 |
| 第7講 少数株主は「少数」でも強い | 3%で会計帳簿が見られ、1%で提案ができる。会社側は拒絶事由の立証責任を負う | 433条・303条・305条、最判平成16年7月1日、最決平成21年1月15日 |
| 第8講 株主総会が戦場になる日 | 招集・議決権・委任状・検査役の手続を制する側が勝つ。手続の瑕疵は決議取消しに直結する | 297条・306条・310条・831条 |
| 第9講 もめない会社は定款が違う | 種類株式・属人的株式は、非公開会社にだけ許された紛争予防の設計道具。ただし税務と事業承継税制との関係に注意 | 108条・109条2項・111条・322条 |
| 第10講 定款に書けないことは契約で縛る | 株主間契約で「1株いくら」と退出・デッドロック時の処理を先に決める。違反した決議は有効で、効果は違約金と買取りで担保する | 東京高判平成12年5月30日、名古屋地決平成19年11月12日 |
| 第11講 従業員持株会は福利厚生か、火薬庫か | 取得価額での買戻し規約は、配当実績等の条件のもとで有効。設計と運用を誤れば分散株主の製造装置になる | 最判平成7年4月25日、最判平成21年2月17日、評価通達188・188-2 |
| 第12講 株式を買い集める技術 | 「誰が」「いくらで」「どう」買うかで税務と手続が変わる。自己株式取得は財源規制・売主追加請求権・みなし配当が三つの壁 | 156条〜165条・461条、最判令和2年3月24日 |
| 第13講 株を売ったら税金はいくら | 手取りを決めるのは価格ではなく税金。会社が買えばみなし配当(総合課税)、個人が買えば20.315%、相続株式は3年10か月の特例 | 所得税法25条、措法9条の7・39条、所基通59-6 |
| 第14講 少数株主を「合法的に」排除する | スクイーズアウトの争点は「排除できるか」ではなく「いくら払うか」。手法ごとに要件と価格決定の入口が異なる | 179条〜179条の10、180条〜182条の6、234条・235条、最決平成28年7月1日 |
| 第15講 連絡のつかない株主をどうするか | 所在不明株主の株式は5年(特例で1年)の要件を満たせば売却・買取りができる | 196条〜198条、経営承継円滑化法12条・15条 |
図表2 第Ⅱ部 株主管理編/第Ⅲ部 株式集約編 ― 会社側の守りと集約
4第Ⅳ部の要点 ― 相続が株式を分散させる四つの局面
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| 講 | 一文でいえば | 鍵となる条文・判例 |
|---|---|---|
| 第16講 社長が亡くなった日、株はどうなる | 遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の準共有。権利行使者を決めなければ議決権は使えず、会社は止まる | 106条・民法898条、最判平成9年1月28日、最判平成27年2月19日、最大決平成28年12月19日 |
| 第17講 「相続クーデター」を防げ | 相続人等に対する売渡請求は分散防止の道具だが、後継者自身の株式にも向く刃。1年の期限と価格決定20日 | 174条〜177条(176条1項・177条2項)、175条2項 |
| 第18講 遺産の中に非上場株式があったら | 遺産分割の評価は「相続税評価額」ではなく時価。後継者への集約と代償金の設計が本体 | 民法906条・907条・909条、家事事件手続法194条・195条、最決平成24年1月26日 |
| 第19講 後継者に株を集めたら弟から請求書が届いた | 遺留分は相続開始時の時価で計算され、会社を大きくした後継者ほど請求額が膨らむ。円滑化法の除外・固定合意が予防策 | 民法1042条〜1048条、円滑化法4条〜10条、最決平成16年10月29日 |
図表3 第Ⅳ部 相続編 ― 会社側にも少数株主側にもなる局面
第Ⅳ部は、会社側と少数株主側の区分が最も流動的な領域です。後継者は会社側ですが、遺留分を請求される側でもあり、後継者以外の相続人は少数株主側ですが、遺産分割では株式の帰属を争う当事者です。相続をきっかけに株式が分散し、その後の20年にわたる紛争の種になる、という経路を断つには、遺言・株主間契約・売渡請求条項・円滑化法の合意を、相続が起きる前に組み合わせておく必要があります。
5第Ⅴ部・第Ⅵ部の要点 ― 少数株主の戦い方と手続の現実
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| 講 | 一文でいえば | 鍵となる条文・判例 |
|---|---|---|
| 第20講 売れない株を金に換える五つのルート | 任意交渉・譲渡承認請求・買取請求・スクイーズアウト対応・少数株主権の五つ。情報収集が全ルートの出発点 | 442条3項・433条、136条〜144条 |
| 第21講 譲渡承認請求という正攻法 | 会社に「承認か買取りか」の二択を迫る唯一の能動的ルート。2週間・40日・10日・1週間・20日の期限と供託が急所 | 136条〜145条、施規24条〜26条、最決令和5年5月24日、最判平成5年3月30日 |
| 第22講 会社が動いた瞬間がチャンス | 組織再編・事業譲渡・株式併合等に反対すれば「公正な価格」で退出できる。事前通知+総会反対+20日間の窓 | 116条・182条の4・469条・785条・797条・806条、最決平成23年4月19日、最決平成24年2月29日、最決平成27年3月26日 |
| 第23講 役員のクビをめぐる戦い | 解任はいつでもできるが、正当な理由がなければ残存任期分の報酬が損害賠償になる。任期設計は解任コストの設計 | 339条・341条・332条・854条、最判昭和57年1月21日、東京地判平成27年6月29日 |
| 第24講 50対50で会社が止まった | 交渉・圧力・解散の三段階。解散の訴えは業務そのものの著しい停滞がなければ棄却される傾向にあり、使わないために持つ武器 | 833条・346条2項、大阪高判令和4年3月24日、東京高判令和5年3月9日、東京高判令和6年10月9日 |
| 第25講 裁判所に値段を決めてもらうといくらかかるのか | 手数料1,000円の非訟事件が、鑑定・弁護士費用・時間で数百万円と数年を要する。コストは交渉材料になる | 868条〜873条、非訟事件手続法26条・30条・49条・65条 |
| 第26講 株式買取業者のビジネスモデルを裁判所が「違法」と断じた日 | 実質価格を告げずに3分の1で買い取り差額を得る業者の売買契約は弁護士法73条違反で無効。換価の担い手は弁護士と会社法の手続 | 弁護士法72条・73条、大阪高判令和6年7月12日、最判平成14年1月22日 |
図表4 第Ⅴ部 少数株主・経営権紛争編/第Ⅵ部 実戦編
6勝敗を分ける三要素 ― 初動・価格・出口、そして全期限一覧
第一に、初動の速さ。非上場株式の紛争は期限のゲームです。会社側の2週間・40日・10日、株主側の20日と1週間、買取請求の20日間の窓、売渡請求の1年、遺留分の1年、決議取消しの3か月、解任の訴えの30日。どれか一つを落とせば、価格が桁で変わり、あるいは権利そのものが失われます。書面が届いた日に、その書面がどの手続の起点で、何日後に何をしなければならないかを把握できるかが、結論を変えます。26講に散在した期限を、一枚にまとめます。
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| 手続 | 誰の期限 | 期限・起算 | 根拠・講 |
|---|---|---|---|
| 譲渡承認請求:承認・不承認の通知 | 会社 | 請求の日から2週間以内。なければみなし承認 | 139条2項・145条1号(第21講) |
| 譲渡承認請求:会社の買取通知+供託書面交付 | 会社 | 不承認通知の日から40日以内 | 141条・145条2号・施規26条1号(第21講) |
| 譲渡承認請求:指定買取人の買取通知+供託書面交付 | 指定買取人 | 不承認通知の日から10日以内 | 142条・145条2号(第21講) |
| 譲渡承認請求:株券の供託 | 株主 | 供託書面交付の日から1週間以内 | 141条3項(第21講) |
| 譲渡承認請求:売買価格決定の申立て | 株主・会社(指定買取人) | 買取通知の日から20日以内。なければ1株当たり純資産額×株数で確定 | 144条2項・5項(第21講) |
| 反対株主の株式買取請求:反対通知 | 株主 | 株主総会に先立って | 785条2項1号イ等(第22講) |
| 反対株主の株式買取請求:請求 | 株主 | 効力発生日の20日前の日から前日まで。新設型は通知・公告の日から20日以内 | 116条5項・182条の4第4項・469条5項・785条5項・797条5項・806条5項(第22講) |
| 反対株主の株式買取請求:価格決定の申立て | 株主・会社 | 効力発生日から30日以内に協議不成立→その後30日以内 | 117条2項・786条2項等(第22講) |
| 全部取得条項付種類株式:取得価格決定の申立て | 株主 | 取得日の20日前の日から前日まで | 172条1項(第14講) |
| 株式等売渡請求:売買価格決定の申立て | 売渡株主 | 取得日の20日前の日から前日まで | 179条の8第1項(第14講) |
| 自己株式の特定株主からの取得:売主追加請求 | 他の株主 | 株主総会の日の5日前まで(定款で短縮可) | 160条3項・施規29条(第12講) |
| 相続人等に対する売渡請求 | 会社 | 相続等があったことを知った日から1年以内 | 176条1項(第17講) |
| 相続人等に対する売渡請求:価格決定の申立て | 会社・相続人 | 売渡請求の日から20日以内。なければ売渡請求は失効 | 177条2項・5項(第17講) |
| 所在不明株主の株式売却 | 会社 | 通知が5年以上到達せず配当も5年間受領されない。円滑化法の特例で1年 | 197条、円滑化法15条(第15講) |
| 株主提案(議題・議案要領の通知請求) | 株主 | 株主総会の日の8週間前まで(定款で短縮可) | 303条2項・305条1項(第7講) |
| 株主による総会招集:裁判所の許可 | 株主 | 請求後遅滞なく招集手続がとられない、または請求から8週間以内の日を会日とする招集通知がない場合 | 297条4項(第8講) |
| 株主総会決議取消しの訴え | 株主等 | 決議の日から3か月以内 | 831条1項(第8講・第23講) |
| 役員解任の訴え | 3%以上の株主 | 解任議案が否決された総会の日から30日以内 | 854条1項(第23講) |
| 遺留分侵害額請求 | 遺留分権利者 | 相続の開始および侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年 | 民法1048条(第19講) |
| 相続税の申告・納付 | 相続人 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 | 相続税法27条(第13講・第18講) |
| 相続株式の発行会社への譲渡(みなし配当の特例) | 相続人 | 相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から3年10か月) | 措法9条の7(第13講) |
図表5 全期限一覧 ― 書面が届いた日に、この表のどの行かを確認する
第二に、価格を語る力。最終的な争点はほぼ常に「1株いくらか」に収斂します。評価手法の選択(第3講)、ディスカウントの可否と判例の射程(第4講)、売主・買主の属性、税務上の手取り(第13講)を、算定書と証拠で裁判所と相手方に語れるか。会社法の知識だけでも、会計の知識だけでも足りない複合領域であり、公認会計士・税理士との協働が前提になります。
第三に、出口の設計力。訴訟や非訟で「勝つ」ことと、依頼者の目的を達成することは、必ずしも一致しません。会社を守りたいのか、適正な対価を得て離脱したいのか、家族関係を壊さずに終わらせたいのか。目的から逆算して、手続と交渉を組み合わせ、税務まで見据えた着地を設計できるかが、専門家の真価です。第24講の解散の訴えや第23講の解任の訴えが「使わないために持つ武器」であったように、手続は目的のための手段であり、手続のための手続になった瞬間に、費用と時間だけが積み上がります。
7立場別の進み方 ― 会社側・少数株主側・相続人
図解B 立場別の進み方
図解B 三つの立場は固定ではなく、一人の相談者が複数の立場を持つことが多い
8この分野の弁護士の選び方 ― 四つの確認事項
非上場株式・少数株主の紛争は、企業法務の中でも特殊な領域です。一般的な契約書のレビューや労務、上場会社のガバナンスの経験とは、必要な知識と勘所が異なります。弁護士を選ぶ際に確認をお勧めする点は四つです。
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| 確認事項 | なぜ重要か | 確認の仕方(質問の例) |
|---|---|---|
| ① 株式価格決定・株主間紛争の実際の取扱経験 | 144条の売買価格決定、買取請求の価格決定、株主権確認訴訟、解任の訴え、解散の訴えは、手続の型と裁判所の傾向を知らなければ期限と主張立証を誤る。一般的な企業法務の経験とは別物 | 「売買価格決定や買取価格決定の申立てを、株主側・会社側それぞれで扱った経験はありますか」「鑑定が行われた事案の経験はありますか」 |
| ② 企業価値評価への理解と会計専門家との協働 | 争点は価格に収斂する。DCF法・純資産法・配当還元法の前提と弱点を理解し、算定書を読み、公認会計士・税理士と対等に議論できなければ、価格を語れない | 「算定書のどこを見て、どう反論しますか」「協働している公認会計士・税理士はいますか」「税務上の手取りまで含めて設計しますか」 |
| ③ 会社法と相続法の双方の実務経験 | 非上場株式の紛争の多くは相続を契機とし、準共有・遺産分割・遺留分と会社法の手続が交錯する。片方だけでは設計できない | 「準共有株式の権利行使者、売渡請求、遺留分の除外合意を扱った経験はありますか」「家庭裁判所の遺産分割手続と会社法の手続をどう並行させますか」 |
| ④ 予防設計まで一貫して依頼できるか | 紛争の解決後、同じ構造が再発しないように、定款・種類株式・株主間契約・事業承継スキームを整える必要がある。紛争と予防の両方を知る者でなければ、実効性のある設計はできない | 「解決後の再発防止として、定款や株主間契約の設計まで依頼できますか」「事業承継税制や円滑化法の合意を扱った経験はありますか」 |
図表6 弁護士を選ぶ四つの確認事項 ― 「企業法務ができる」と「非上場株式の紛争ができる」は別
もう一つ、付け加えるなら、会社側と株主側の両方の相談を受けている弁護士かどうかです。片方の立場しか扱わない事務所は、相手方の次の一手を読む機会が限られます。本連載が両方の立場を並べて書いてきたのは、実務でも両方を扱っているからであり、相手方がどの講の手を打ってくるかを予測できることが、初動と出口の設計の精度を上げます。
PRACTICE NOTE
初回相談に持参する資料
当事務所が、非上場株式に関する初回のご相談で、可能な範囲でお持ちいただくようお願いしている資料です。すべてが揃わなくても相談は始められますが、揃っているほど初回に踏み込んだ見通しをお伝えできます。
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| 資料 | 何が分かるか | 入手方法 |
|---|---|---|
| 届いた書面(内容証明・招集通知・通知書)と封筒 | どの手続の起点か、期限はいつか(図表5)。到達日の証明 | 手元。封筒・配達記録も捨てない |
| 登記事項証明書(履歴事項全部証明書) | 取締役会・監査役の有無、株券発行会社か、発行済株式数、種類株式、役員と任期、譲渡制限の承認機関 | 法務局・登記情報提供サービスで誰でも取得可 |
| 定款 | 承認機関、売渡請求条項、種類株式・属人的株式、任期、売主追加請求権の排除、定足数 | 株主は閲覧・謄写を請求できる(31条2項) |
| 株主名簿(またはその写し) | 株主構成、持株比率、名義株の疑い、相続未分割の株式 | 株主は閲覧・謄写を請求できる(125条2項。理由の明示) |
| 直近3期分の計算書類(決算書)・法人税申告書 | 純資産・利益・分配可能額・役員報酬・関連取引。簿価純資産法による概算と評価の見通し | 株主は計算書類の閲覧・謄本交付を請求できる(442条3項)。3%以上なら会計帳簿(433条) |
| 株主間契約・持株会規約・株式譲渡契約書 | デッドロック条項、買取価格の定め、譲渡制限との整合 | 手元 |
| 相続関係資料(戸籍・遺言・遺産分割協議書・相続税申告書・財産評価明細) | 準共有の状態、株式の帰属、相続税評価額、3年10か月の期限、遺留分の計算基礎 | 手元・税理士 |
| 会社側との交渉の記録(提示価格・メール・議事録) | 会社側の姿勢、提示額と実質価値の差、情報開示の有無 | 手元。時系列で整理 |
| 株券(株券発行会社の場合) | 株主であることの証明、供託・提出の準備 | 手元。紛失なら株券喪失登録(第5講) |
相談の際に最初に確認するのは、「今日、この書面の期限は何日後か」です。期限があるなら、その日までに何をするかを決め、それから全体の設計に入ります。期限を落としてから設計しても、選べる手続の幅は狭くなっています。
実務チェック ― 27講の総まとめ
- 自社(または自分が株主である会社)の株主名簿・定款・登記の三点を確認し、株主が誰かを確定できるか(第5講・第6講)。
- 株式の「四つの値段」のうち、いま自分が見ているのはどれか。裁判所が決める価格の見通しを持っているか(第2講〜第4講)。
- 届いた書面が、図表5のどの手続の起点で、期限は何日後かを把握したか。
- 会社側なら、少数株主からの請求に対する承認・買取り・指定買取人の三択と、期限管理の体制があるか(第21講)。組織再編の前に反対株主の買取請求リスクを見積もったか(第22講)。
- 少数株主側なら、計算書類・会計帳簿で会社の実力を把握し、代替案(譲渡承認請求)を持って交渉に入っているか(第20講・第21講)。業者に売る前に本来のルートの見積りを取ったか(第26講)。
- 相続が関わるなら、準共有の権利行使者、売渡請求の1年、遺産分割の評価、遺留分の1年、3年10か月の特例を時間軸に置いたか(第13講・第16講〜第19講)。
- 取締役の解任・辞任が関わるなら、任期と339条2項のリスク額、正当な理由の証拠、株主としての地位が残ることを整理したか(第23講)。
- 50対50なら、出口(残るか離脱か)を先に決め、交渉・圧力・解散の順序で設計したか(第24講)。
- 価格決定の手続に乗せる前に、費用・期間・和解の下限を試算したか(第25講)。
- 解決後の再発防止として、定款・種類株式・株主間契約・遺言・円滑化法の合意を設計したか(第9講〜第11講・第19講)。
よくある質問
非上場株式の問題で弁護士に相談する前に、まず自分で何を確認すればよいですか。
三つです。第一に、届いている書面があれば、その到達日と記載された期限を確認してください。譲渡承認請求の2週間・40日、価格決定の20日、買取請求の20日間の窓、売渡請求の1年、決議取消しの3か月など、非上場株式の紛争は期限で結論が変わります(本講図表5)。第二に、登記事項証明書と定款、株主名簿、直近の計算書類を手元に揃えてください。株主が誰か、承認機関はどこか、株券発行会社か、純資産はいくらかが分かれば、初回の相談で見通しを立てられます(本講PRACTICE NOTE)。第三に、自分の目的を言葉にしてください。会社を守りたいのか、適正な価格で株式を手放したいのか、経営に参加したいのか、家族関係を壊さずに終わらせたいのか。目的が違えば、選ぶ手続と着地が変わります(第20講・本講第6節)。この三つが揃っていれば、初回相談の密度が大きく変わります。
「企業法務に強い」と謳う事務所は多いのですが、非上場株式の紛争を任せられるかはどう見分けますか。
本講第8節の四つの確認事項を、具体的な質問の形で尋ねることをお勧めします。①「売買価格決定や買取価格決定の申立てを、株主側・会社側それぞれで扱った経験はあるか」、②「相手方の株価算定書をどう読み、どう反論するか。協働する公認会計士・税理士はいるか」、③「準共有株式の権利行使者や売渡請求、遺留分の除外合意など、相続と会社法が交錯する事案の経験はあるか」、④「解決後の再発防止として定款や株主間契約の設計まで依頼できるか」。これらに具体的な経験と手順で答えられる弁護士であれば、この分野の実務を知っています。あわせて、会社側と株主側の両方の相談を受けているかも確認してください。片方しか扱わない事務所は、相手方の次の一手を読む機会が限られます。企業法務の経験が豊富であっても、非上場株式の価格決定や株主間紛争の実務は別の領域であり、上場会社のガバナンスや契約実務の知識では代替できません。
会社側と少数株主側の両方から相談を受けているとのことですが、利害が対立する立場を同時に扱うことに問題はないのですか。
同じ会社の会社側と少数株主側を同時に受任することは利益相反であり、行いません(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。本連載で「両方の立場から」と述べているのは、異なる事案において、会社側の依頼を受けることも、少数株主側の依頼を受けることもある、という意味です。このことが実務上重要なのは、相手方の手の内が読めるからです。会社側の依頼で少数株主からの譲渡承認請求に対応した経験は、少数株主側の依頼で請求書を作るときに、会社側がどこで期限を落としやすく、どの情報を出し渋り、どの価格で和解に動くかを予測する材料になります。逆もまた同じです。非上場株式の紛争は、条文の裏表を両側から見た者が、初動と出口の設計で優位に立つ領域です。
紛争になる前に、会社として今からできることは何ですか。
第Ⅱ部から第Ⅳ部の予防策を、優先順位をつけて実行することです。第一に、株主名簿・名義株・定款・登記を整え、株主が誰かを確定します(第5講・第6講)。第二に、分散している少数株主との対話を始め、実質価値を踏まえた価格で任意の集約を進めます(第12講・第13講)。相続直後の3年10か月や事業承継の準備期は、双方が合意しやすい時期です。第三に、定款に売渡請求条項(第17講)や種類株式(第9講)を入れるか、株主間契約でデッドロック条項・退出時の価格を定めます(第10講・第24講)。第四に、オーナーの相続に備えて、遺言で後継者に株式を集め、他の相続人には代償金や種類株式で対応し、遺留分については円滑化法の除外合意・固定合意を検討します(第18講・第19講)。第五に、従業員持株会があれば規約と運用を点検します(第11講)。これらは、紛争が起きた後では相手方の同意が得られず実行できないものばかりです。対立が生じていない今が、最も安く、最も確実に設計できる時期です。
この連載の内容は、いつの時点の法令・裁判例に基づいていますか。今後変わる可能性はありますか。
本連載の各講は、公開日(2026年8月24日)時点の法令と、改訂日(2026年9月22日)時点で確認した裁判例・公表資料に基づいています。条文はe-Gov法令検索で、裁判例は裁判所ウェブサイトの全文または判例集の巻号頁で確認し、確認できなかった出典は記載していません。今後変わり得る点として、第一に、非上場株式の価格決定をめぐる裁判例は現在も蓄積が続いており(第4講・第24講の近時の高裁判決など)、第二に、株式買取業者をめぐる裁判例は事案ごとの判断が積み重なる途上にあり(第26講)、第三に、税務上の評価(第2講で触れた通達の見直しの動き)や法定利率の改定など、価格と手取りに直結する制度が変わる可能性があります。重要な法改正や上級審の判断が出た場合には、該当する講に追記し、改訂日を更新します。個別の事案については、その時点の法令・裁判例に基づく検討が必要ですので、ご相談ください。
結びに ― 明徳法律事務所より
「売れない株」は、法律が売却を禁じているのではなく、値段と出口を誰も設計していないから売れないのです。本連載は、その設計に必要な道具を、会社側と少数株主側の両方から、条文と裁判例と手続の現実に基づいて並べてきました。26講のどこから読み始めても、最後は同じ場所に行き着きます。株式が誰のものかを確定し、その値段を複数の物差しで測り、期限を落とさず、目的から逆算して手続と交渉と税務を組み合わせる。それが、非上場株式紛争の「勝ち筋」です。
明徳法律事務所(大阪市西区江戸堀)は、非上場会社の株主間紛争・取締役間紛争、事業承継、相続と自社株式が交錯する案件を中核業務とする法律事務所です。代表弁護士の坂本龍亮(大阪弁護士会。大阪公立大学法学部非常勤講師)は、加藤&パートナーズ法律事務所で会社内部紛争の実務に携わった後、2024年に当事務所を開設し、『株主管理・少数株主対策ハンドブック』『非上場株式の相続と会社法』『弁護士・公認会計士の視点と実務 中小企業のM&A〔第2版〕』『リーガル・フロンティア 取締役の辞任と解任』の各共著、株主間紛争・事業承継に関するセミナー登壇を継続しています。質権が設定された振替株式に対する差押えと換価命令による回収を実現するなど、非上場株式の「換価」に関する困難案件にも一貫して取り組んできました。
会社側・株主側のどちらの相談もお受けしているからこそ、相手方の次の一手が読める。それがこの分野における当事務所の強みです。非上場株式に関するお悩みは、紛争が形になる前の段階から、どうぞご相談ください。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 会社法〔e-Gov法令検索〕31条2項、106条、116条、117条、125条2項、136条〜145条、160条、172条、174条〜177条、179条の8、197条、297条、303条、305条、339条、433条、442条3項、785条、786条、806条、831条、833条、854条ほか各講記載の条文
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕24条〜26条、29条
- 民法〔e-Gov法令検索〕898条、1042条〜1048条
- 租税特別措置法〔e-Gov法令検索〕9条の7、39条
- 相続税法〔e-Gov法令検索〕27条
- 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律〔e-Gov法令検索〕4条〜10条、12条、15条
- 弁護士法〔e-Gov法令検索〕25条、72条、73条
- 最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁、最決令和5年5月24日判タ1514号33頁価格決定における非流動性ディスカウントの可否(第4講・第21講・第22講)
- 大阪高判令和6年7月12日判タ1530号86頁株式買取業者の売買契約を弁護士法73条違反により無効とした判決(第26講)
- 各講に記載の裁判例出典は各講の「主な根拠条文・裁判例・資料」欄をご覧ください
- 加藤真朗編著『株主管理・少数株主対策ハンドブック』(日本加除出版、2022年)、同編著『非上場株式の相続と会社法』(新日本法規、2025年)、同編著『弁護士・公認会計士の視点と実務 中小企業のM&A〔第2版〕』(日本加除出版、2023年)、近藤光男・加藤真朗編著『リーガル・フロンティア 取締役の辞任と解任』(商事法務、2025年)
条文のリンクは法令本文へ移動します。本連載の各講は公開日時点の法令と改訂日時点で確認した裁判例・資料に基づいており、一般的な情報提供を目的とするものです。個別の事案については、その時点の法令・裁判例に基づく検討が必要です。
公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日