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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第21講】

譲渡承認請求という正攻法 ― 会社法144条・売買価格決定の戦い方:会社に「承認か買取りか」の二択を迫る手続と、期限・供託・価格の急所 ―

『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第21講】

21第Ⅴ部 少数株主・経営権紛争編 ― 戦い方の技術第21講

譲渡承認請求という正攻法
― 会社法144条・売買価格決定の戦い方:会社に「承認か買取りか」の二択を迫る手続と、期限・供託・価格の急所 ―

「父から相続した会社の株12%を、会社に買い取ってほしいと申し入れましたが、『額面でなら』と言われて話が止まりました。売る先が会社しかないのに、会社が買わないと言えば、この株は永久に売れないのですか」

「知人が『それなら私が買ってもいい』と言ってくれています。譲渡制限がついている株ですが、会社に譲渡の承認を求めたら、会社はどう動くのでしょう。承認されなかったら終わりですか」

「(会社側から)先週、株主から内容証明で『株式譲渡承認請求書』が届きました。譲受人は聞いたこともない会社です。取締役会でどう決めればよいのか、期限はいつまでか、承認しなければ会社が買わなければならないと聞きましたが、資金の手当てはどうすれば」

この講の結論

譲渡制限株式は「譲渡が禁止された株式」ではありません。株主は、譲受人候補と株式数を明らかにして会社に譲渡の承認を請求でき、あわせて「承認しないなら会社または指定買取人が買い取れ」と請求することができます(会社法136条、138条1号ハ)。会社は請求から2週間以内に承認・不承認を通知しなければ承認したものとみなされ(145条1号)、不承認なら会社または会社が指定する買取人が買い取る義務を負い(140条)、価格は協議で決まらなければ裁判所が決めます(144条)。これが、少数株主が自ら主導権を持って進められる唯一の換価ルート、譲渡承認請求です。

この手続は「期限の塊」です。会社側の2週間・40日・10日、株主側の20日と1週間、どれか一つを落とすと結果が数千万円単位で変わります。買取通知が届けば売買は成立し、株主は価格を見てから撤回することができません(143条)。価格は裁判所が「一切の事情」を考慮して決めますが、それは当事者が出した証拠と評価理論の勝負です。少数株主側は、請求書を出す前に想定価格レンジと税務、譲受人候補の実在性まで設計しておく必要があり、会社側は、請求書が届いた日から動き始める時計を止めずに、承認・会社買取・指定買取人の三択を短期間で決める必要があります。どちらの立場でも、初動の巧拙がすべてです。

1譲渡制限は「禁止」ではない ― 投下資本回収の保障という制度趣旨

株式は自由に譲渡できるのが原則です(会社法127条)。日本の株式会社の大多数は、定款で「株式の譲渡による取得には会社の承認を要する」と定めており(107条1項1号、2条17号)、この定めのある株式を譲渡制限株式と呼びます。株式会社約253万社のうち上場会社は3,716社にとどまるとされ(前田・後掲論文。2020年9月時点)、非上場会社のほとんどが全株式に譲渡制限を設けています。

ここで押さえておきたいのは、譲渡制限の目的です。それは、会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐことであって、株主を会社に縛りつけることではありません。株主には退社の制度がありませんから、譲渡制限のある株式でも、株主が投下した資本を回収する道は保障されなければならない。会社法はそのために、株主が会社に承認を求め、会社が承認しなければ会社側が買い取る、という仕組みを用意しました(136条〜145条)。最高裁は、会社法144条2項の売買価格決定の手続を「株式会社が譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合に、譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたもの」と位置づけています(最決令和5年5月24日判タ1514号33頁)。

この制度趣旨は、手続のあらゆる場面で解釈の指針になります。会社が承認を渋る、期限を守らない、供託を惜しむ、といった対応は、いずれも「投下資本の回収を妨げる」方向に働くため、法はみなし承認という強い効果で会社側に義務を履行させています。

図解A 譲渡制限株式の「譲渡」をめぐる基本ルール

承認のない譲渡の効力会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁
会社は誰を株主と扱うか承認のない譲渡があっても、会社は譲渡人を株主として扱う義務を負う最判昭和63年3月15日判時1273号124頁
承認が要らない場合会社への譲渡(136条括弧書)、相続等の一般承継(134条4号)、一人会社の株主による譲渡(最判平成5年3月30日民集47巻4号3439頁)、定款でみなし承認を定めた場合(107条2項1号ロ)特例有限会社は株主間の譲渡がみなし承認(整備法9条1項)
承認されない場合の出口会社または指定買取人による買取り+裁判所による売買価格の決定140条〜144条。本講の主題

図解A 「売れない」のは譲渡先が見つからないからであって、法律が売却を禁じているからではない

実務上重要なのは、承認のない譲渡は「会社に対して」効力がない、という点です。譲受人は会社に名義書換を求めることができず(134条)、株主総会にも出られず、配当も受けられません。他方、譲渡人と譲受人の間では売買は有効に成立しているので、代金を受け取った譲渡人が株主のまま残るという、ねじれた状態が生じます。第26講で扱う株式買取業者の問題は、このねじれの上に成り立っていました。少数株主が株式を現金に換える正攻法は、このねじれを作らず、会社の承認を求める手続に乗せることです。

2手続の全体像 ― 請求から価格決定までの流れとスケジュール

手続は、①株主の請求、②会社の承認・不承認の決定と通知、③不承認の場合の買主(会社か指定買取人か)の決定、④供託と買取通知、⑤売買価格の協議、⑥協議不成立なら裁判所への価格決定申立て、⑦決定・代金支払・名義書換、という順に進みます。それぞれに法定の期限があり、会社側が期限を落とせば承認したものとみなされ、株主側が期限を落とせば低い価格で確定するという設計です。

図解B 譲渡承認請求から売買価格決定までの流れ

① 株主の譲渡承認請求譲渡する株式数、譲受人の氏名・名称を明らかにし、不承認の場合は会社または指定買取人が買い取ることを併せて請求(136条、138条1号イ〜ハ)内容証明郵便で。ここから会社側の時計が動く
② 会社の決定と通知株主総会(取締役会設置会社は取締役会)で承認するか否かを決定し、請求者に通知(139条)請求の日から2週間以内に通知しなければみなし承認(145条1号)
承認の場合譲受人候補への譲渡を実行し、譲受人が名義書換を請求(133条、134条1号)。手続はここで終わる譲受人候補が本当に買うかが株主側のリスク
不承認の場合 ③ 買主の決定会社自身が買い取る(株主総会の特別決議。140条1項・2項、309条2項1号。請求者は議決権なし。140条3項)か、指定買取人を指定する(取締役会または総会。140条4項・5項)
④ 供託と買取通知1株当たり純資産額×株式数を本店所在地の供託所に供託し、供託書面を交付した上で、買い取る旨と株式数を通知(141条1項・2項、142条1項・2項)不承認通知から会社は40日以内、指定買取人は10日以内。落とせばみなし承認(145条2号、施規26条)
⑤ 売買の成立と撤回禁止買取通知の到達で売買が成立。以後、株主は会社(指定買取人)の承諾なしに請求を撤回できない(143条)株券発行会社では株主が1週間以内に株券を供託(141条3項)
⑥ 価格の協議と決定申立て協議で決まらなければ、買取通知の日から20日以内に、会社・株主のいずれからでも本店所在地の地方裁判所に申立て(144条1項・2項、868条1項)申立てがなければ1株当たり純資産額×株式数で確定(144条5項)
⑦ 裁判所の決定と決済「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情」を考慮して決定(144条3項・4項)。供託金は代金に充当(144条6項)。代金支払と株券・名義書換即時抗告可(872条5号)。決定まで1年以上かかることが多い

図解B 会社側の懈怠はみなし承認、株主側の懈怠は低額確定 ― 期限の構造を先に頭に入れる

実務書のモデルスケジュールに沿って日数を置くと、次のようになります(取締役会設置会社・株券発行会社で、株主から請求がなされ、会社が不承認として自ら全部を買い取る場合。東京八丁堀法律事務所ほか編『会社法実務スケジュール〔第3版〕』106頁以下の設例を基礎に作成)。

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日程(例)手続法定の期限・起算根拠
9月1日株主から会社へ譲渡承認請求(不承認なら会社または指定買取人が買い取ることを求める内容)が到達―(ここから起算)136条、138条1号
9月1日〜10日取締役会で不承認を決議し、決定内容を請求者に通知請求の日から2週間以内に通知139条、145条1号
9月26日会社が買い取る旨と株式数を決定する株主総会(特別決議。請求者は議決権を行使できない)―(下記40日の中で行う)140条1項〜3項、309条2項1号
10月3日1株当たり純資産額×対象株式数を本店所在地の供託所に供託―141条2項、施規25条
10月12日供託を証する書面を請求者に交付し、同時に会社による買取りの通知不承認通知の日から40日以内に通知と書面交付の両方141条1項・2項、145条2号、施規26条1号
10月18日株主が株券を本店所在地の供託所に供託(株券発行会社の場合)書面交付の日から1週間以内。しなければ会社は売買を解除できる141条3項・4項
10月19日株主が株券供託の旨を会社に通知遅滞なく141条3項後段
10月12日〜売買価格の協議―144条1項
11月1日まで協議不成立なら裁判所に売買価格決定の申立て買取通知の日から20日以内。申立てがなければ供託額(1株当たり純資産額×株式数)で確定144条2項・5項
その後審問・鑑定を経て裁判所が価格を決定。代金支払、株主名簿の記載決定まで1年以上かかることが多い144条3項・4項、870条2項3号、132条

図表1 モデルスケジュール ― 会社側は請求到達から40日余りで供託と通知まで済ませる必要がある

この表から分かるとおり、会社側は、請求書が届いてから2週間以内に取締役会(取締役会非設置会社なら株主総会)を開き、さらに約40日の間に株主総会の特別決議と供託・通知を済ませなければなりません。中小企業の実務感覚では極めて短い期間です。他方、株主側も、買取通知が届いてから20日以内に裁判所への申立てを決断しなければならず、その時点で鑑定の見通しや費用、税務の手取りまで検討が終わっている必要があります。

3請求書の作り方 ― 譲受人候補・記載事項・共同請求・承認機関

誰が請求できるか。譲渡しようとする株主(136条)と、すでに株式を取得した株式取得者(137条1項)です。株式取得者からの請求は、原則として株主名簿上の株主(またはその一般承継人)と共同で行う必要があります(137条2項)。例外は、株券を提示して請求する場合、名義株主に対する確定判決を得た場合、競売で取得した場合などに限られます(施規24条)。これから譲り受けようとしている「譲受人候補」自身は、株式を取得していないので請求できません。請求できるのは株主です。

何を書くか。株主からの請求では、①譲渡する株式の数(種類株式発行会社では種類と種類ごとの数)、②譲受人の氏名または名称、③不承認の場合に会社または指定買取人が買い取ることを請求するときはその旨、を明らかにします(138条1号イ〜ハ)。③の買取請求は、承認請求と同時に行う必要があり、後から追加することはできません。③を書き忘れた請求書は、不承認で終わってしまいます。少数株主側が換価を目的とする場合、③を欠いた請求は意味を持ちません。

方式。法律上は方式の定めがなく口頭でも可能ですが、到達日が2週間・40日の起算点になり、記載内容がみなし承認の有無を左右しますから、実務では内容証明郵便(配達証明付)で行います。会社側は、定款または株式取扱規程で請求を書面に限定し、定型の様式を用意しておくと、後の紛争を防げます。

譲受人候補の実在性。138条1号ロは譲受人の氏名・名称を要求するだけで、譲受人候補との間に売買契約が成立していることまでは求めていません。しかし、少数株主側は、ここに二つのリスクがあることを理解しておく必要があります。第一に、会社が「承認」を選ぶリスクです。会社が承認すれば買取義務は生じず、株主は譲受人候補に売るほかありません。譲受人候補が名目的な存在で、実際には買う意思も資金もない場合、株主は承認を得たにもかかわらず売却先を失います。第二に、譲受人候補が実在し、実際に買う意思があっても、会社側から「なぜその者に譲渡するのか」を問われ、譲受人候補の属性(競合他社、反社会的勢力との関係、株式買取業者など)が承認・不承認の判断や、その後の価格決定手続における会社側の主張に影響することがあります。譲受人候補は、実際に買う意思と資金のある者を、その者の同意を得て記載します。

貸付金と抱き合わせた請求はしない 株主が会社に対して有する貸付金債権などと株式を一体として譲渡するとして承認請求がなされることがあります。会社法の譲渡承認手続は株式についての手続ですから、株式以外の財産と分離できない形での請求は、株式に係る請求として有効かどうかに疑義が生じます。会社側は株式部分を分離して対応し、株主側は株式のみを対象とする請求書を別に作るのが安全です。

承認機関。承認するか否かの決定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で行いますが、定款で別段の定めをすることができます(139条1項)。定款で「株主総会」「代表取締役」などと定めている会社があります。代表取締役を承認機関とする定めについては、会社の機関でない者を承認機関とすることはできず、代表取締役個人を承認機関とすることも否定的に解する見解が有力で、これを否定した下級審裁判例も紹介されています(前田・後掲論文)。会社側は、自社の定款の承認機関の定めが有効に機能するかを確認し、疑義があれば取締役会(または株主総会)の決議も併せて経ておくべきです。

特別利害関係。譲渡の当事者である取締役は、取締役会の承認決議について特別の利害関係を有し、議決に加わることができません(369条2項)。オーナー社長が自分への譲渡を承認する場面、逆に自分と対立する株主からの請求を不承認とする場面では、この点が決議の有効性を左右します。また、会社が買い取る旨を決定する株主総会では、請求者である株主は議決権を行使できません(140条3項)。

一部承認はできない。会社は、請求された株式の全部について承認するか否かを決めるのであって、「半分だけ承認」はできません。不承認とした株式は、会社と指定買取人とで分けて買い取ることはできますが(140条4項「全部又は一部」)、合計で全部を買い取らなければなりません。

4会社側の期限とみなし承認 ― 2週間・40日・10日

会社側の期限は三つです。第一に、請求の日から2週間以内に、承認・不承認の決定内容を請求者に通知すること(139条2項、145条1号)。第二に、不承認の場合、不承認通知の日から40日以内に、会社が買い取る旨と株式数を通知し、かつ供託を証する書面を交付すること(141条1項・2項、145条2号、施規26条1号)。第三に、指定買取人を指定した場合、不承認通知の日から10日以内に指定買取人が買い取る旨と株式数を通知し、かつ供託書面を交付すること(142条1項・2項、145条2号括弧書、施規26条2号)。いずれも定款で短縮はできますが延長はできず、ただし会社と請求者の合意で別段の定めをすることはできます(145条ただし書)。

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誰の期限何をするか期限・起算落とした場合の効果根拠
会社承認・不承認の決定内容の通知請求の日から2週間以内承認したものとみなされる139条2項、145条1号
会社会社が買い取る旨・株式数の通知+供託書面の交付不承認通知の日から40日以内(両方を期間内に)承認したものとみなされる(指定買取人が10日以内に通知した場合を除く)141条、145条2号、施規26条1号
指定買取人指定を受けた旨・株式数の通知+供託書面の交付不承認通知の日から10日以内(両方を期間内に)指定買取人ルートは失われる。会社が40日以内に自ら買取通知をしなければみなし承認142条、145条2号括弧書、施規26条2号
株主(請求者)株券の供託(株券発行会社のみ)供託書面の交付を受けた日から1週間以内会社・指定買取人が売買契約を解除できる141条3項・4項、142条3項・4項
株主・会社(指定買取人)のいずれか裁判所への売買価格決定の申立て買取通知の日から20日以内1株当たり純資産額×株式数で売買価格が確定(協議が調った場合を除く)144条2項・5項
会社通知を怠ったこと自体―取締役等に100万円以下の過料976条2号

図表2 期限一覧 ― 会社側の懈怠はみなし承認、株主側の懈怠は低額確定または解除

起算日の数え方。「請求の日」は請求書が会社に到達した日であり(民法97条1項)、期間の計算は初日を算入しません(民法140条)。9月1日に到達すれば、2週間の期限は9月15日の終了時です。会社側は到達日を封筒や配達証明で必ず記録し、株主側は配達証明で到達日を確保します。「請求書が社長の手元に届いたのは数日後だった」という会社側の事情は、期限を動かしません。

「通知」と「書面交付」の両方が必要。40日・10日の期限は、買取りの通知だけでなく、供託を証する書面の交付まで期間内に行わなければみなし承認となる点に注意が必要です(施規26条1号・2号)。実務では、供託書正本(または供託証明書)を配達証明付の書留で送付し、同時または直後に内容証明で買取通知を送る方法がとられます。買取通知が先に届いて供託書面が期限後に届く、という順序は避けなければなりません。

みなし承認が生じたとき。会社が期限を落とせば、譲渡は承認されたものとみなされ、株主は譲受人候補に株式を譲渡し、譲受人は会社に名義書換を請求できます(134条1号)。会社側にとっては、好ましくない者を株主として受け入れざるを得なくなる結果であり、少数株主側にとっては、譲受人候補が実際に買うのであれば換価が実現し、そうでなければ承認を得ただけで終わるという結果です。少数株主側は、みなし承認になった場合に本当に譲受人候補が買うか、その価格はいくらか、を請求前に固めておく必要があります。

5供託と買取通知 ― 「1株当たり純資産額」の計算と撤回の禁止

会社または指定買取人が買取通知をするには、その前に、1株当たり純資産額に対象株式数を乗じた額を会社の本店所在地の供託所(法務局)に供託し、供託を証する書面を請求者に交付しなければなりません(141条2項、142条2項)。供託は、買主が代金を支払えることを担保し、株主の投下資本回収を確実にするための制度です。

「1株当たり純資産額」は法務省令で計算方法が定められています(施規25条)。基準純資産額を基準株式数で割った額です。基準純資産額は、算定基準日における①資本金、②資本準備金、③利益準備金、④剰余金、⑤最終事業年度末日の評価・換算差額等、⑥株式引受権の帳簿価額、⑦新株予約権の帳簿価額の合計から、⑧自己株式・自己新株予約権の帳簿価額を差し引いた額(零未満なら零)で、基準株式数は自己株式を除く発行済株式総数です。算定基準日は買取通知の日です(施規25条6項1号・2号)。要するに貸借対照表上の簿価純資産を発行済株式数で割った額であり、時価純資産でもDCFでもありません。

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項目金額(例)備考
資本金1,000万円施規25条3項1号
資本準備金・利益準備金250万円同2号・3号
剰余金(その他資本剰余金+その他利益剰余金)2億8,750万円同4号。446条の剰余金
評価・換算差額等、株式引受権、新株予約権0円同5号〜7号
自己株式の帳簿価額(控除)△0円同8号
基準純資産額3億円零未満なら零(供託不要)
基準株式数(自己株式を除く発行済株式総数)2万株同4項1号
1株当たり純資産額1万5,000円3億円÷2万株
対象株式数(請求株主の持株12%)2,400株―
供託額3,600万円1万5,000円×2,400株

図表3 供託額の計算例 ― 簿価純資産ベースであり、含み益のある不動産や収益力は反映されない

供託額が不足した場合。供託額が法定の額に満たない場合、その供託を証する書面の交付は141条2項の要件を満たさず、買取通知は効力を生じないと解され、期限内に適法な書面交付がないものとしてみなし承認が生じるおそれがあります。会社側は、直近の貸借対照表から慎重に計算し、疑義があれば多めに供託します。株主側は、供託書面を受け取ったら、計算書類と照らして供託額が足りているかを直ちに確認します。供託不足はみなし承認の主張につながる、株主側の重要なチェックポイントです。

撤回の禁止。会社または指定買取人の買取通知が到達すると、対象株式について売買契約が成立したものと解されており、株主はその後、会社(指定買取人)の承諾がなければ請求を撤回できません(143条1項・2項)。旧商法下では、指定買受人が売渡請求をするまでは株主が請求を撤回できるとした判例がありましたが(最決平成15年2月27日民集57巻2号202頁)、会社法はこの判例の考え方を前提に、買取通知後の撤回を明文で禁じました。「価格を見てから売るか決める」ことはできない設計です。買取通知の時点では価格は決まっておらず、その後の協議または裁判所の決定で決まります。少数株主側は、請求前に、想定される価格レンジの下限でも売る意思があるか、その場合の税務上の手取りはいくらかを確認しておかなければなりません。

株券発行会社の場合。株券発行会社では、供託書面の交付を受けた株主は、1週間以内に株券を本店所在地の供託所に供託し、遅滞なくその旨を会社(指定買取人)に通知しなければなりません(141条3項、142条3項)。供託しなければ、会社(指定買取人)は売買契約を解除できます(141条4項、142条4項)。株券発行会社であるにもかかわらず株券が発行されていない場合、株主は事前に株券の発行を請求しておく必要があります(215条)。第5講・第6講で見たとおり、自社が株券発行会社かどうかは登記事項証明書で確認できます。

株式の移転時期と供託金の充当。売買契約は買取通知で成立しますが、株式の移転は売買代金の支払時に効力を生じると解されており、裁判所が決定した価格(または協議で決まった価格)が確定したときは、供託した金銭に相当する額を限度として代金を支払ったものとみなされます(144条6項)。株主は供託金の還付を受け、残額を会社(指定買取人)から受領して、株式を移転します。

6売買価格の協議と決定申立て ― 20日の期限と非訟手続の進み方

売買価格は、まず会社(指定買取人)と請求者の協議で定めます(144条1項・7項)。協議が調わないとき、会社(指定買取人)または請求者は、買取通知の日から20日以内に、裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます(144条2項)。旧商法では価格決定の申立ての前に協議を経ることが要件とされていましたが、会社法ではその要件はなく、20日以内であれば協議と並行して申し立てることができます。

20日を落とすとどうなるか。期間内に申立てがなく、協議も調わなかった場合、売買価格は1株当たり純資産額×株式数、すなわち供託額と同じ額で確定します(144条5項)。会社側にとってはこの結果が望ましいことが多く、株主側にとっては実質的な価値との差が数千万円に及ぶこともあります。少数株主側は、買取通知を受け取った日に20日後の日付を確定し、協議の進行にかかわらず、期限内に申立てを行うことを原則とします。「協議中だから」という理由で期限を待つことは、会社側の引き延ばしに乗ることになります。

管轄と手続。申立ては会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に行います(868条1項)。会社法上の非訟事件であり、訴訟ではありません。裁判所は申立書の写しを相手方に送付し(870条の2第1項)、審問の期日を開いて、申立人と相手方(会社または請求者)の陳述を聴かなければなりません(870条2項3号)。裁判には理由を付さなければならず(871条)、決定に対しては申立人および相手方が即時抗告をすることができます(872条5号)。即時抗告には執行停止の効力があります(873条本文)。申立手数料は収入印紙1,000円(民事訴訟費用等に関する法律別表第一)で、予納郵券が別途必要です。費用の中心は、鑑定が行われる場合の鑑定費用であり、これは第25講で扱います。

基準時。裁判所は「譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情」を考慮します(144条3項)。価格算定の基準時は買取通知の時でも決定の時でもなく、株主が請求をした時です。請求後に会社が大きな利益を上げても、あるいは業績が悪化しても、原則としてそれは価格に反映されません。少数株主側は、会社の業績が良い時期、含み益が大きい時期を選んで請求することができ、会社側は、請求時点の資産状態を前提に価格を争うことになります。

財源規制との関係。会社が自ら買い取る場合、支払う代金は分配可能額を超えることができません(461条1項1号)。違反すれば業務執行者と請求者が連帯して返還義務を負い(462条1項)、期末に欠損が生じれば業務執行者が欠損填補責任を負います(465条1項1号)。しかし、この財源規制は裁判所が決定する価格の上限にはなりません。裁判所が分配可能額を超える価格を決定し、会社が代金を支払えない場合には、請求者は売買契約を解除することができ、解除した場合には承認したものとみなされると解されています(施規26条3号)。会社側は、不承認を決める前に、想定される裁判所の決定価格を分配可能額で支払えるかを検討し、支払えないなら指定買取人ルートを選ぶ必要があります。指定買取人には財源規制はありません。

7価格をめぐる攻防 ― 証拠と評価理論、非流動性ディスカウント

裁判所が「一切の事情」を考慮して決める価格は、どこかに正解が書いてあるものではなく、当事者双方が提出した株価算定書と主張、必要に応じて裁判所が選任する鑑定人の鑑定結果をもとに形成されます。評価手法(DCF法・収益還元法・時価純資産法・配当還元法とその折衷)、事業計画の合理性、割引率、非流動性ディスカウントやマイノリティ・ディスカウントの要否をめぐる専門的な攻防であり、評価の理論は第3講、144条をめぐる裁判例の分析は第4講でまとめました。ここでは、手続との関係で押さえておくべき点を整理します。

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論点裁判例の傾向・判断実務上の意味
評価手法の選択継続企業では収益還元法・DCF法を中心に、時価純資産法や配当還元法を折衷する例が多い。売主・買主の属性(支配株主か少数株主か)を考慮して手法と割合を決める(第4講)双方が自らに有利な手法を主張し、折衷割合が争点になる。事業計画の有無と信頼性が結果を左右する
非流動性ディスカウント144条の売買価格決定では、DCF法で算定した評価額から市場性がないことを理由とする減価(原審で30%)を行うことができるとした(最決令和5年5月24日判タ1514号33頁)。組織再編等の反対株主の買取請求(785条)についてこれを否定した最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁とは「事案を異にする」とされた少数株主側は、ディスカウントの率とその根拠、評価手法の中ですでに非流動性が考慮されていないかを争う。会社側はディスカウントを主張する
マイノリティ・ディスカウント配当還元法を折衷割合で考慮することで少数株主の立場は反映できるとし、それに加えて少数派であることを理由とする減価を重ねることを否定した例(大阪地決平成25年1月31日判時2185号142頁)会社側が二重のディスカウントを主張してきたら、この裁判例を引いて争う
配当実績の扱い非上場会社では支配株主が配当政策を左右できるため、配当還元法を単独で用いることには慎重な例が多い(第4講)「無配だから価値がない」という会社側の主張は、裁判所では通りにくい
基準時譲渡等承認請求の時(144条3項)請求のタイミングを株主側が選べる。会社側は請求時の資産状態を前提に争う

図表4 価格決定で争われる主な論点 ― 詳細は第3講・第4講

何を証拠として出すか。少数株主側が提出できる資料は、計算書類(442条3項で閲覧・謄本交付を請求できる)、会計帳簿(3%以上なら433条)、公表されている業界情報、類似上場会社の指標、そして公認会計士等に依頼した私的鑑定書です。会社側は、事業計画、設備投資計画、含み損の資料、係争案件など、会社内部の情報を用いて価格を下げる方向の主張を組み立てます。情報の非対称は大きいため、少数株主側は請求前に可能な限りの情報収集を済ませておく必要があります(第20講PRACTICE NOTE)。手続の中で裁判所が鑑定を命じた場合、鑑定人は会社から直接資料を取得しますから、株主側は鑑定人に対して考慮すべき事項(含み益のある不動産、オーナーへの過大報酬、関連会社との取引など)を書面で指摘することが重要になります。

私的鑑定と裁判所鑑定。実務では、双方が私的鑑定書を提出した上で、裁判所が鑑定人を選任して鑑定を命じる例が多く見られます。鑑定費用は数百万円に及ぶことがあり、申立人が予納するのが通常ですが、最終的な負担は裁判所が定めます。鑑定を経ずに、双方の私的鑑定書と主張を踏まえて裁判所が決定する例もあります。裁判所の決定までには1年以上かかることが多く、鑑定を経る場合はさらに長期化します。

和解という出口。価格決定の手続は非訟事件ですが、実際には、申立ての前後で会社側が「裁判所に行かれるより任意で買い取ったほうが安く早い」と判断し、和解に至ることが少なくありません。少数株主側にとっても、1年以上の時間と鑑定費用をかけて得られる価格と、今、確実に受け取れる価格との比較です。和解の際には、代金の支払時期と方法、株券・名義書換、他の株主権の放棄、口外禁止など、第12講で見た株式譲渡契約の条項を整えます。裁判所の価格決定は、その価格の見通しを双方に共有させ、和解の基準を作る機能を持っています。

8会社側の防衛 ― 承認・会社買取・指定買取人の三択と資金・税務

ここからは会社側の視点です。株主から譲渡承認請求書が届いた会社は、2週間以内に、①承認する、②不承認とし会社が買い取る、③不承認とし指定買取人が買い取る、の三択を決めなければなりません。それぞれの帰結は次のとおりです。

図解C 会社側の三択

① 承認する買取義務は生じない。譲受人候補が株主になる。資金は不要譲受人候補が誰か、実際に買うかで判断。みなし承認になっても同じ結果
② 会社が買い取る株主総会の特別決議(請求者は議決権なし)、供託、財源規制(461条1項1号)。自己株式の取得となり、売主にはみなし配当課税、会社には源泉徴収義務資金と分配可能額があり、株主構成を変えたくない場合
③ 指定買取人を指定する取締役会(または総会)の決議で、オーナー・後継者・関連会社・持株会などを指定。財源規制なし。売主の課税は譲渡所得(20.315%)10日以内に指定買取人が供託・通知。買取人の個人資金が必要

図解C 「承認してしまう」も選択肢のひとつ ― 譲受人候補の実在性を見極める

①承認という選択。会社側が見落としがちなのは、承認する選択です。譲受人候補が、株主の親族や友人で名目的に名前を貸しただけであれば、承認しても実際の譲渡は行われず、株主は換価に失敗します。他方、譲受人候補が実際に買う意思と資金のある者で、会社にとって受け入れ可能な人物であれば、資金を使わずに問題を終わらせることができます。承認するか否かの判断には、譲受人候補が誰であるかの情報が不可欠です。ただし、譲受人候補が競合他社、株式買取業者、会社と対立関係にある者である場合、承認は将来の紛争を招きます。

②会社買取の条件。会社が買い取るには、取締役会設置会社であっても株主総会の特別決議が必要で(140条2項、309条2項1号)、請求者は議決権を行使できません(140条3項)。分配可能額の範囲内でなければならず(461条1項1号)、供託には現金が必要です。加えて、税務上は自己株式の取得ですから、売主である株主には資本金等の額を超える部分についてみなし配当課税(総合課税)が生じ、会社には20.42%の源泉徴収義務が生じます(第12講・第13講)。相続で取得した株式を相続税の申告期限後3年以内に会社に譲渡する場合は、みなし配当課税を受けず譲渡所得課税となる特例があり(措法9条の7)、この時期の会社買取は双方にとって合意しやすい条件が揃います(第13講)。

③指定買取人の条件。指定買取人は、取締役会設置会社では取締役会の決議で指定します(140条5項)。オーナー、後継者、関連会社、従業員持株会などが指定されることが多く、指定買取人には財源規制がありませんから、会社の分配可能額が足りない場合の受け皿になります。売主である株主から見ると、買主が個人や別法人であればみなし配当課税は生じず、譲渡所得として20.315%の申告分離課税で済みますから、同じ価格でも手取りが大きく変わります。少数株主側から「指定買取人ルートにしてほしい」と求めることはできませんが、協議の中で、会社買取の場合には税負担分を価格に反映するよう求める主張は成り立ちます。指定買取人は10日以内に供託と通知をしなければならず(142条、145条2号括弧書)、個人が数千万円を短期間で供託するには事前の資金準備が要ります。指定買取人が期限を落とした場合、会社が40日以内に自ら買取通知をすればみなし承認は避けられますが、そのためには財源規制と特別決議の要件を満たす必要があります。

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比較項目会社による買取り指定買取人による買取り
決定機関株主総会の特別決議(請求者は議決権なし)取締役会(非設置会社は株主総会。定款で別段可)
通知・供託書面交付の期限不承認通知から40日以内不承認通知から10日以内
財源規制分配可能額の範囲内(461条1項1号)。違反は462条・465条の責任なし
株式の帰属自己株式(議決権なし。308条2項)指定買取人の株式となり議決権が集約される
売主の課税みなし配当(総合課税。最高税率帯では手取りが大きく減る)。相続株式は3年10か月以内なら特例譲渡所得(20.315%)
会社の源泉徴収みなし配当部分に20.42%なし
資金会社の現預金指定買取人の個人・法人資金

図表5 会社買取と指定買取人 ― 税務の差は価格交渉の材料になる

会社側の初動。請求書が届いた日に、到達日を記録し、2週間後の期限を確定し、定款の承認機関・株券発行の有無・分配可能額を確認し、譲受人候補の情報を集め、取締役会の招集手続に入ります。不承認とする場合には、供託資金の手当てと総会招集(会社買取)または指定買取人の内諾と資金確認を、同時並行で進めます。40日は、総会の招集通知(非公開会社では1週間前。299条1項)と供託の実務を考えると、決して長くありません。期限内に通知と供託書面交付を終えることを最優先し、価格の主張は20日以内の申立てとその後の手続で行う、という順序を守ります。

PRACTICE NOTE

請求前に設計しておくこと、届いた日にやること

当事務所が、少数株主側で譲渡承認請求を行う前に確認する項目と、会社側で請求書を受け取った日に確認する項目です。

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時期少数株主側会社側
請求前/受領日株主名簿上の株主か、株券発行会社なら株券を保有しているか(相続株式なら遺産分割と名義書換が済んでいるか)。計算書類・定款・登記事項証明書を取得し、簿価純資産額と想定される裁判所の価格レンジを把握する。想定レンジの下限でも売る意思があるかを確認する到達日を記録し、2週間後の期限を確定する。定款の承認機関、株券発行会社か、分配可能額、譲受人候補の属性を確認する。取締役会(または総会)の招集手続に入る
譲受人候補実際に買う意思と資金がある者を、同意を得て記載する。承認された場合の売買価格と決済方法を、譲受人候補と事前に合意しておく譲受人候補の情報を収集し、承認して受け入れる選択と、不承認で買い取る選択を比較する
請求書株式数、譲受人の氏名・名称、不承認の場合の買取請求(138条1号ハ)を明記し、内容証明郵便(配達証明付)で送る。株式以外の債権と抱き合わせない請求書の記載事項を確認する。買取請求の記載がなければ、不承認で手続は終わる
税務買主が会社の場合と指定買取人の場合の手取りを計算する(第13講)。相続株式なら3年10か月の期限を確認する会社買取の場合の源泉徴収、指定買取人の場合の資金と税務を確認する
不承認〜買取通知供託書面を受け取ったら、供託額が1株当たり純資産額×株式数に足りているかを計算書類で確認する。40日・10日の期限内に通知と書面交付が揃っているかを確認する。株券発行会社なら1週間以内に株券を供託し、通知する特別決議(会社買取)または取締役会決議(指定買取人)、供託、供託書面の送付、買取通知を、期限の余裕をもって完了する。供託額は直近の貸借対照表から慎重に計算し、疑義があれば多めに供託する
買取通知〜20日通知の日に20日後の期限を確定する。協議の進行にかかわらず、期限内に価格決定の申立てを行う。私的鑑定書の準備を始める協議で合意できる価格帯を見極める。合意できなければ、会社側からも20日以内に申立てを検討する(申立てがなければ供託額で確定することとの比較)
価格決定手続計算書類・会計帳簿・業界情報・私的鑑定書を提出し、鑑定人への指摘事項(含み益、過大報酬、関連取引)を書面で整理する。非流動性ディスカウントの率と根拠を争う事業計画、含み損、係争案件などの内部資料で価格の主張を組み立てる。決定価格を分配可能額で支払えるかを確認する
和解裁判所の見通しと時間・費用を比較し、和解価格の基準を持つ。代金支払・名義書換・口外禁止条項を整える(第12講)同左。和解による早期解決と、決定を待つ場合のコストを比較する

双方に共通するのは、期限を「知っている」だけでは足りず、カレンダーに落とし、担当者を決め、証拠(配達証明・供託書・通知の控え)を残すことです。この手続で負ける原因の多くは、法律の理解不足ではなく、日付の管理と書面の順序の誤りです。

実務チェック

  • (株主側)請求書に、株式数・譲受人の氏名または名称・不承認の場合の買取請求の三点を記載し、内容証明郵便(配達証明付)で送ったか。
  • (株主側)譲受人候補は、実際に買う意思と資金のある者か。会社が承認した場合の売買条件を譲受人候補と合意しているか。
  • (株主側)想定される裁判所の価格レンジの下限でも売る意思があるか。買取通知後は撤回できないことを理解しているか。
  • (株主側)供託書面を受け取った日に、供託額が1株当たり純資産額×株式数に足りているかを確認したか。
  • (株主側)買取通知の日から20日以内に、協議の進行にかかわらず価格決定の申立てを行う準備があるか。
  • (会社側)請求書の到達日を記録し、2週間以内に承認機関の決議と通知を行う日程を組んだか。
  • (会社側)承認・会社買取・指定買取人の三択を、譲受人候補の属性、分配可能額、資金、税務の観点から比較したか。
  • (会社側)40日(会社買取)または10日(指定買取人)以内に、供託と供託書面の交付と買取通知の三つを揃えて完了する日程を組んだか。
  • (双方)株券発行会社かどうかを登記で確認し、株券の供託(1週間)の期限を把握したか。
  • (双方)価格決定手続で提出する資料(計算書類・事業計画・私的鑑定書)と、鑑定人への指摘事項を準備したか。

よくある質問

買ってくれる人がいません。それでも譲渡承認請求はできますか。

請求書には譲受人の氏名または名称を記載する必要があります(会社法138条1号ロ)から、譲受人候補なしに請求することはできません。ただ、譲受人候補との間に売買契約が成立していることまでは求められていません。実務では、親族・知人・取引先などで、実際に買う意思と資金のある者に譲受人候補となることを依頼し、会社が承認した場合の売買価格と決済方法をあらかじめ合意しておきます。名目的な名前だけの譲受人候補を立てると、会社が承認を選んだ場合に売却先を失い、手続が空振りになります。また、株式買取業者を譲受人候補とすることには、第26講で扱う大阪高判令和6年7月12日の問題があります。譲受人候補が見つからない場合は、第20講で見た他のルート(任意交渉、会社側の組織再編等をとらえた買取請求、少数株主権の行使を背景とした交渉)を検討します。

会社から「不承認。会社が買い取る」と通知が来ました。価格はいくらになりますか。

通知の時点では価格は決まっていません。まず会社と協議し、協議で決まらなければ、通知の日から20日以内に裁判所に売買価格決定の申立てをします(会社法144条1項・2項)。裁判所は、あなたが請求をした時点の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決めます(同条3項)。継続企業ではDCF法・収益還元法と時価純資産法などを折衷した実質的な価値を基礎とする例が多く、少数株式については市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)が行われることがあります(最決令和5年5月24日)。それでも、通知とともに交付された供託書に記載された額(簿価純資産ベース)や、税務上の配当還元価額と比べれば、大幅に高くなるのが通常です。注意すべきは、20日以内に申立てをしなければ、供託額と同じ「1株当たり純資産額×株式数」で価格が確定してしまうことです(同条5項)。通知を受け取った日に、20日後の日付を確定してください。

会社が2週間以内に何も言ってきません。どうなりますか。

請求の日から2週間以内に承認・不承認の決定内容の通知がなければ、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条1号)。あなたは譲受人候補に株式を譲渡でき、譲受人は会社に名義書換を請求できます(134条1号、133条)。会社が名義書換を拒めば、譲受人は会社に対して株主であることを主張でき、過料の対象にもなります。ただし、みなし承認は「譲渡してよい」という結果であって「会社が買う」という結果ではありません。譲受人候補が実際に買う意思と資金を持っていることが前提です。また、会社側が「請求書は届いていない」「記載事項が不備だった」と争うことがありますから、配達証明で到達日を証明できるようにし、請求書の記載事項(株式数、譲受人、買取請求)を完備しておくことが重要です。

(会社側)株主から譲渡承認請求書が届きました。譲受人は知らない会社です。何から始めればよいですか。

到達日を記録し、2週間後の期限をカレンダーに入れることが最初です。次に、定款で承認機関がどう定められているか、自社が株券発行会社か、直近の貸借対照表上の純資産額と分配可能額を確認します。並行して、譲受人候補がどのような会社かを調べます。競合他社や株式買取業者であれば、不承認として会社または指定買取人が買い取る方向で、供託資金の手当て(1株当たり純資産額×株式数)と、会社買取なら株主総会の特別決議の招集、指定買取人なら候補者の内諾と資金確認を進めます。不承認通知から40日(指定買取人なら10日)以内に、供託・供託書面の交付・買取通知の三つを揃えなければ承認したものとみなされます。他方、譲受人候補が受け入れ可能な人物であれば、承認して資金を使わずに終える選択もあります。承認するにせよ不承認とするにせよ、2週間以内に取締役会(取締役会非設置会社なら株主総会)を開いて決議し、通知を発することが必要で、通知を怠れば過料の対象にもなります(976条2号)。届いた日に弁護士に相談されることをお勧めします。

会社に買い取られると税金が高いと聞きました。個人に買ってもらう方法はありますか。

会社が買い取る場合は自己株式の取得となり、売却代金のうち会社の資本金等の額に対応する部分を超える金額はみなし配当として総合課税の対象になり、所得が大きい方では手取りが大幅に減ります(第13講)。指定買取人(オーナー個人や関連会社など)が買い取る場合は譲渡所得として20.315%の申告分離課税で済みます。会社が買うか指定買取人が買うかを決めるのは会社側ですから、株主側から指定買取人ルートを強制することはできません。ただし、協議の場で「会社が買うなら、指定買取人が買う場合と手取りが同じになるよう価格を調整してほしい」という主張は成り立ちますし、会社側にも、分配可能額の制約や源泉徴収の手間を避けるために指定買取人ルートを選ぶ動機があります。相続で取得した株式を相続税の申告期限後3年以内に会社に売る場合は、みなし配当課税を受けない特例があります(措法9条の7)。この期限との関係で請求の時期を選ぶことも、税務面の設計の一つです。

おわりに ― 時計を止めない

譲渡承認請求は、少数株主が「売れない株」を法律の力で金銭に換えるための正攻法であり、会社側にとっては、望まない者を株主に迎えるか、資金を出して買い取るかを短期間で決めさせられる手続です。この手続を動かすのは、評価理論の前に、日付と書面の順序です。2週間、40日、10日、1週間、20日。それぞれの期限を誰が管理し、どの書面で証明するかを、請求書を出す前に、あるいは受け取った日に、設計しておくことがすべての出発点になります。

明徳法律事務所(大阪市西区)では、少数株主の側からは、情報収集と価格レンジの把握、譲受人候補の設計、請求書の作成、供託書面の確認、価格決定の申立てと鑑定人への指摘、和解交渉まで、会社側からは、請求書受領日からの期限管理、承認・会社買取・指定買取人の選択、供託と通知の実務、価格決定手続での主張立証まで、いずれの立場でもお引き受けしています。税理士・公認会計士と協働し、税務上の手取りと評価の両面から設計します。

次回 第22講「会社が動いた瞬間がチャンス ― 反対株主の株式買取請求権」では、会社が組織再編・事業譲渡・株式併合・譲渡制限の新設などを行うときに少数株主が使える株式買取請求権と、「公正な価格」をめぐる判例法理を扱います。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕2条17号、107条1項1号・2項1号、127条、132条〜134条、136条〜145条、215条、299条1項、308条2項、309条2項1号、369条2項、461条1項1号、462条、465条1項1号、868条1項、870条2項3号、870条の2、871条、872条5号、873条、976条2号
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕24条(共同請求の例外)、25条(1株当たり純資産額)、26条(承認したものとみなされる場合)
  • 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〔e-Gov法令検索〕9条1項(特例有限会社の譲渡制限の定め)
  • 民法〔e-Gov法令検索〕97条1項、140条
  • 租税特別措置法〔e-Gov法令検索〕9条の7
  • 最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁承認のない譲渡制限株式の譲渡は会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間では有効とした判例
  • 最判昭和63年3月15日判時1273号124頁承認のない譲渡があった場合、会社は譲渡人を株主として取り扱う義務を負うとした判例
  • 最判平成5年3月30日民集47巻4号3439頁いわゆる一人会社の株主が取締役会の承認を得ずにした株式譲渡を有効とした判例
  • 最決平成15年2月27日民集57巻2号202頁旧商法下で、指定買受人が売渡請求をするまでは株主が譲渡承認・買受人指定の請求を撤回できるとした判例(会社法143条の前提)
  • 最決平成27年3月26日民集69巻2号365頁非上場会社の吸収合併に反対した株主の株式買取請求(785条)について、収益還元法で算定した価格に非流動性ディスカウントを行うことはできないとした判例
  • 最決令和5年5月24日判タ1514号33頁会社法144条2項の売買価格決定において、DCF法で算定した評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとし、144条2項の手続を投下資本回収の手段の保障と位置づけた判例(第4講)
  • 大阪地決平成25年1月31日判時2185号142頁配当還元法を折衷割合で考慮した上で、少数派であることを理由とするディスカウントを重ねることを否定した裁判例(第4講)
  • 前田康行「株式譲渡承認請求に係る諸問題」(神奈川県弁護士会会社法研究会)承認請求の主体・方式・承認機関・供託・みなし承認の3類型を検討した論文
  • 東京八丁堀法律事務所ほか編『会社法実務スケジュール〔第3版〕』(新日本法規、2023年)106頁以下譲渡制限株式の譲渡等承認手続のモデルスケジュール
  • 加藤真朗編著『弁護士・公認会計士の視点と実務 中小企業のM&A〔第2版〕』(日本加除出版、2023年)第4章バリュエーションの手法とDCF法の算定例
  • 裁判所ウェブサイト「商事非訟事件 予納郵便切手等一覧表」(千葉地方裁判所)売買価格決定申立ての申立手数料

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例は掲載誌の巻号頁を記載しています。

公開日 2026年8月24日/改訂日 2026年9月22日

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