遺産分割で最ももめる財産
預貯金は1円単位で分けられ、不動産には公示価格や取引事例があります。これに対し非上場株式は、評価に幅があり(第2講の「4つの値段」)、分け方の選択肢も多く、しかも会社経営権と直結する。遺産分割実務で最も紛糾する財産類型と言って差し支えありません。
分け方は4つ、しかしまともに機能するのは実質2つ
| 分割方法 | 内容 | 非上場株式での実情 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 株式を株数で分ける | 経営権の分散を招き、後継者側は通常回避したい。少数株主を新たに生む最悪手になり得る |
| 代償分割 | 後継者が株式を取得し、他の相続人に代償金を支払う | 実務の本命。争点は株式の評価額と代償金の資金手当て |
| 換価分割 | 売却して代金を分ける | 譲渡制限+市場なしのため現実には困難 |
| 共有分割 | 準共有のまま維持 | 紛争の先送りにすぎず、権利行使者をめぐる第二の紛争へ(第16講) |
評価の攻防 ― 「相続税評価額」は分割の基準ではない
代償分割の最大の争点は株式の評価です。ここで重要なのは、遺産分割における株式の評価は、相続税申告で用いた財産評価基本通達上の評価額に拘束されないということです。家庭裁判所の調停・審判では、原則として時価(実質的な価値)が基準となり、争いがあれば鑑定が実施されます。
後継者側(株式取得者側)は配当還元的な低い評価を、非後継者側は時価純資産・DCFベースの高い評価を主張するのが典型的な対立構図です。数億円規模の会社であれば、評価の主張の巧拙だけで代償金が数千万円単位で変動します。家事事件の代理人に、会社法・企業価値評価の知見が不可欠となるゆえんです。
会社を止めないための時間軸管理
遺産分割協議が長期化する間、株式は準共有のまま議決権が事実上凍結され(第16講)、会社の意思決定が止まります。実務では、①株式のみ先行して一部分割する、②権利行使者の指定について暫定合意を形成する、③調停での段階的合意を活用する、といった「会社を止めない工夫」が決定的に重要です。遺産分割は相続人間の問題であると同時に、従業員と取引先を抱えた会社の存続問題でもある――この二重性を扱えるかが、代理人選びの分水嶺です。