第9講役員・機関・意思決定
取締役会の決議は、その手続で有効か
招集・定足数・特別利害関係・議事録
この講の結論
取締役会の決議が有効であるためには、適法な構成員の全員に参加の機会を与え、議案ごとに定足数と賛成数を満たす必要があります。多数派の顔ぶれが決まっていて結論が見えていても、反対する取締役や名目的な取締役への招集通知を省略してよいことにはなりません。内紛では、取締役会の手続の一つひとつが後から検証されますから、招集、出席、議決、記録のそれぞれについて、何を根拠にそう扱ったのかを説明できる状態にしておくことが要点です。
招集権者と通知先
取締役会は各取締役が招集するのが原則ですが、定款または取締役会で招集権者を定めた場合には、その取締役が招集します(会社法366条1項)。招集権者以外の取締役は、招集権者に対して議題を示して招集を請求し、請求の日から5日以内に、請求日から2週間以内の日を会日とする招集通知が発せられなければ、自ら招集できます(同条2項・3項)。多くの中小企業では代表取締役が招集権者と定められていますから、代表取締役が招集を拒む場面では、この経路が他の取締役にとっての唯一の入口になります。
招集通知は、会日の1週間前まで(定款で短縮できます)に、各取締役と、監査役設置会社では各監査役に発しなければなりません(368条1項)。監査役は取締役会に出席し、必要があれば意見を述べる義務を負っているからです(383条1項)。監査の範囲を会計に限定した監査役しか置いていない会社は会社法上の監査役設置会社に当たらず(2条9号、389条1項・7項)、その監査役には通知も出席義務もありません。取締役(監査役設置会社では取締役と監査役)の全員が同意すれば招集手続を省略できますが(368条2項)、内紛の最中に全員の同意が得られることはまずありませんから、定款による期間の短縮と、全員同意による省略は区別してください。通知には法律上の様式の定めはなく、口頭や電子メールでも足りますが、後に「通知を受けていない」と争われることを考えれば、発信の日時、方法、宛先、議題を記録に残す形で行います。
通知漏れの効果
一部の取締役に対する招集通知を欠いた取締役会の決議について、最高裁は、特段の事情のない限り無効になるとしつつ、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、瑕疵は決議の効力に影響せず有効になると判断しています(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)。
この例外は、「反対票を差し引いても賛成多数だから常に有効」という意味ではありません。取締役会は票を数えるだけの場ではなく、審議の場です。通知を受けなかった取締役が出席して説明を求め、質問し、他の取締役を説得することによって、決議の結果が変わり得たかどうかが問われます。例外が認められた裁判例は、通知を受けなかった取締役が出席していても結論が変わり得なかったと認められる具体的な事情を丁寧に認定しており、単に反対派だったというだけでは足りません。こうした事情は、決議の有効を主張する側が具体的に主張立証することになります。「名義だけの役員だから通知しなかった」「どうせ反対するから呼ばなかった」という運用は、決議の効力を危うくするだけでなく、意図的に排除したという評価につながります。
定足数と賛成数の二段階
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(定款で引き上げることができます)が出席し、その出席した取締役の過半数(同じく引き上げ可能)で行います(369条1項)。株主総会と違い、持株数ではなく人数で数えます。定足数と賛成数は二段階で判定するため、出席者が少なければ定足数を満たさず、出席者が多ければ必要な賛成数も増えます。
表は横にスクロールできます。
| 設例:議決に加われる取締役が5人 | 定足数(過半数=3人) | 必要な賛成数(出席者の過半数) |
|---|---|---|
| 2人出席 | 満たさない。決議できない | ― |
| 3人出席 | 満たす | 2人以上 |
| 4人出席 | 満たす | 3人以上 |
| 5人出席 | 満たす | 3人以上 |
上の表は定款に加重がない場合の例です。特別利害関係のある取締役は「議決に加わることができる取締役」から外れますから、議案によって母数が変わります。同じ取締役会の中でも、議案ごとに母数、定足数、賛成数を計算し直す必要があります。
特別利害関係を個別に評価する
決議について特別の利害関係を持つ取締役は、議決に加わることができません(369条2項)。典型例は、自分自身の代表取締役からの解職(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)、自分と会社との取引の承認(356条1項、365条1項)、自分の責任の一部免除などです。自分を株主総会での解任議案の対象とする取締役会決議についても、自己の身分に関わる重大な利害関係があるとして特別利害関係取締役に当たるとした裁判例があります(東京地決平成29年9月26日金判1529号60頁。学説には異論もありますが、対象取締役を議決から外して進めるのが安全側の運用です)。
他方、親族であること、知人であること、同じ株主グループに属していることだけで、一律に議決から除外できるわけではありません。特別利害関係は、その議案について本人が会社の利益と相反する個人的な利益を持つかどうかで判断されるものであり、「相手方の側の人間だから」という理由で議決から外せば、それ自体が決議の瑕疵になります。
特別利害関係取締役が議決に加わってしまった場合、その取締役を除いて定足数と賛成数を計算し直し、なお決議に必要な多数が存在したときは、決議の効力は否定されないと解されています(協同組合の理事会について同旨の最高裁判例があります)。ただし、単に票を引けばよいわけではありません。特別利害関係取締役が議長として議事を主宰した取締役会の決議について、審議の過程全体に影響を及ぼすおそれがあるとして無効とした裁判例があり(東京地判平成7年9月20日判時1572号131頁。控訴審の東京高判平成8年2月8日資料版商事法務151号143頁も同旨)、議事への関与の態様が問われます。特別利害関係取締役は、出席すること自体は認められると解されていますが、意見を述べる権利については否定的な見解が多く、議長を務めることはできず、退席を求められればこれに従うべきとされています。なお、株主総会では特別の利害関係を持つ株主も議決権を行使でき、著しく不当な決議がされた場合に取消事由になるにとどまりますから(831条1項3号)、取締役会の規律とは区別が必要です。
オンライン会議と決議の省略
取締役会は、取締役が一堂に会さなくても、テレビ会議や電話会議の方法で開くことができます。登記実務では、各取締役の音声と画像が即時に他の取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組みであること(テレビ会議について平成8年4月19日付法務省民事局参事官室意見)、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態であること(電話会議について平成14年12月18日付法務省民事局商事課長回答民商3044号)が求められています。議事録には、その場所にいない取締役が出席した方法を記載しなければなりません(会社法施行規則101条3項1号)。内紛の場面では、接続の障害、本人確認、途中退席の扱いが争われますから、接続の状況と参加者の確認方法も記録しておきます。取締役の代理出席は認められません。取締役は株主総会で選任された個人として職務を行うものであり、代理人に委ねることはできないからです。会議に出席せずに書面で賛否だけを示す方法も、出席とは扱われません。
これに対し、電子メールで賛否を集めただけでは、会議としての決議にはなりません。その場合に考えられるのは、取締役会の決議の省略(370条)です。これを使うには、定款にその旨の定めがあること、取締役が決議の目的事項について提案をすること、議決に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をすること、監査役設置会社では監査役が異議を述べていないこと、のすべてが必要です。「多数がメールで賛成した」だけでは、定款の定めがあっても要件を満たしません。議決に加わることができる取締役の中に反対する者が一人でもいる限り、決議の省略は使えず、正規の招集手続を経た取締役会を開くほかありません。取締役会への報告についても、取締役の全員(監査役設置会社では監査役を含みます)に通知すれば取締役会での報告を省略できますが(372条1項)、代表取締役と業務執行取締役が3か月に1回以上行うべき職務執行状況の報告(363条2項)は省略できません(372条2項)。
議事録と異議の記録
取締役会の議事については議事録を作成しなければならず(369条3項)、開催の日時と場所、出席の方法、議事の経過の要領とその結果、特別の利害関係を持つ取締役の氏名、監査役などが述べた意見や発言の概要、議長の氏名などを記載します(会社法施行規則101条3項)。書面で作成する場合は出席した取締役と監査役が署名または記名押印し、電磁的記録で作成する場合は法務省令の定める措置(電子署名)をとります(369条3項・4項)。議事録は取締役会の日から10年間、本店に備え置きます(371条1項)。
決議に参加した取締役で、議事録に異議をとどめなかった者は、その決議に賛成したものと推定されます(369条5項)。反対した取締役は、反対の意思とその理由を議事録に記載するよう求め、記載されなければ、その旨と訂正を求めた経緯を別に記録しておきます。議事録の署名の有無だけで賛否を処理せず、議事録の記載が実際の審議と異なる場合には、その食い違いを早い段階で書面で指摘しておくことが、後に責任を問われたときの防御になります。
瑕疵が見つかったとき
過去の取締役会の招集や決議に瑕疵があったことが分かった場合、後から議事録を作り直しても瑕疵は消えません。適法な手続で改めて決議をすることは、その時点から先の運営を整える方法としては有効ですが、過去の決議に基づいて既に行われた取引、生じた損害、係属中の訴訟の問題がすべて遡って解消するわけではありません。取締役会の決議には、株主総会の決議取消しの訴え(831条)のような期間を限った特別の訴えの制度はなく、無効は一般の民事訴訟で確認を求めることになります。取締役会の決議を経ずに代表取締役が行った取引は、原則として有効で、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得たときに限り無効になり(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)、その無効を主張できるのは原則として会社だけです(最判平成21年4月17日民集63巻4号535頁)。決議の効力を争う訴えと、その決議に基づく取引を止める手段は、別に組み立てることになります。
株主が取締役会に関与する経路
取締役会は取締役の会議体であり、株主は当然には出席できません。ただし、株主が取締役会の手続を検証し、関与する経路が二つ用意されています。
第一に、議事録の閲覧です。株主は、その権利を行使するため必要があるときは、営業時間内はいつでも取締役会の議事録の閲覧・謄写を請求できます(371条2項)。ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社では裁判所の許可が必要で(同条3項)、裁判所は閲覧によって会社(親会社や子会社を含みます)に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは許可しません(同条6項)。会計限定監査役の会社や監査役を置かない会社では許可が不要ですから、この点でも会社の機関設計を確かめることが先になります(第18講)。
第二に、取締役会の招集請求です。監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社では、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはするおそれがあると認めるときは、株主が取締役会の招集を請求でき、取締役の招集請求と同じ期間内に招集通知が発せられなければ自ら招集し、その取締役会に出席して意見を述べることができます(367条)。監査役設置会社では監査役がこの役割を担うため(383条2項・3項)、株主には認められていません。ここでも、会計限定監査役しか置かない会社は監査役設置会社に当たりませんから、株主にこの請求権があります。
PRACTICE NOTE
「過半数」と「半数以上」を混ぜない
369条1項の原則は、議決に加わることができる取締役の過半数の出席と、出席した取締役の過半数の賛成です。「過半数」は半数を超える数であり、「半数以上」とは違います。4人全員が議決に加われる議案では、出席2人は半数であって過半数ではありませんから定足数を満たさず、3人以上の出席が必要です。3人出席なら賛成2人、4人出席なら賛成3人(2人では半数にとどまり過半数にならない)が必要です。
特別利害関係取締役がいる議案では、その取締役を母数から外して計算し直します。取締役4人のうち1人が特別利害関係人であれば、母数は3人、定足数は2人、2人出席なら賛成2人、3人出席なら賛成2人です。定款で決議要件を加重している場合はさらに別に計算します。そして、票数が足りているという説明は、特定の取締役に通知しなかった問題を解決しません。定足数と賛成数の計算と、招集手続の適法性は、別々に点検する項目です。
実務チェック
- 出席者一人ひとりについて、取締役としての選任、任期、欠員の有無を確かめる。
- 招集通知の宛先、発信日時、方法、議題を保存する。監査役設置会社では監査役への通知も。
- 議案ごとに特別利害関係取締役の有無を判断し、母数、定足数、賛成数を計算する。
- 特別利害関係取締役に議長を務めさせない。
- 異議、接続障害、退席、採決時の人数を議事録に記録し、記載が不正確なら訂正を求めた経緯を残す。
よくある質問
反対派の取締役が欠席したので、決議は安全ですか。
欠席した取締役に適法に招集通知が発せられていたか、欠席者を除いた出席者で定足数を満たすかを確かめてください。これらを満たしていれば、欠席そのものは決議の効力に影響しません。議題や資料を事前に示すことは法律上の要件ではありませんが、後に「審議の機会を奪われた」と争われないための配慮として、通知に議題を記載しておくのが実務です。他方、その取締役に意図的に通知しなかった場合や、通知が到達しないような方法を選んだ場合は、招集手続の瑕疵として決議の効力が争われることになります。
全員が後から議事録に押印すれば、有効になりますか。
押印だけで過去の決議の瑕疵が治るわけではありません。実際に会議が開かれたのか、押印した取締役が何に同意したのか、定款の定めに基づく決議の省略(370条)の要件を満たしているのか、改めて適法に決議をし直したのか、を分けて検討します。全員が押印した議事録があっても、実際には開かれていない会議の議事録であれば、決議は存在しません。
取締役会の決議を経ていない契約を、相手方の取締役が「無効だ」と言っています。
取締役会の決議を経ずに代表取締役が行った取引は原則として有効で、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得たときに限り無効になります(最判昭和40年9月22日)。この無効は決議を欠いた会社を保護するためのものですから、原則として会社だけが主張でき、取引の相手方は、会社の取締役会が無効を主張する旨を決議しているなど特段の事情がない限り主張できません(最判平成21年4月17日)。相手方の取締役が個人として「無効だ」と述べても、それだけで取引が覆ることはありません。自社の側で無効を主張するにも、取締役会の決議など会社としての意思決定を経る必要があります。
この講の主な根拠条文・裁判例
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、356条、363条、365条、366条〜372条、383条、389条、831条
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕101条
- 最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁取締役会の決議を経ずに代表取締役がした取引は原則として有効であり、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得たときに限り無効になるとした判例
- 最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁〔裁判所ウェブサイト〕代表取締役の解職に関する取締役会の決議について、当該代表取締役は特別の利害関係を有する取締役に当たるとした判例
- 最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁〔裁判所ウェブサイト〕一部の取締役への招集通知を欠く取締役会決議は特段の事情のない限り無効だが、その取締役が出席しても結果に影響がないと認めるべき特段の事情があれば有効とした判例
- 最判昭和54年2月23日民集33巻1号125頁、最判平成28年1月22日民集70巻1号84頁特別の利害関係を有する理事が議決に加わった理事会決議について、その理事を除いても決議に必要な多数が存在すれば効力は否定されないとした判例(いずれも協同組合の理事会に関する事案)
- 東京地判平成7年9月20日判時1572号131頁、東京高判平成8年2月8日資料版商事法務151号143頁特別利害関係取締役が議長として議事を主宰した取締役会の決議を無効とした裁判例
- 最判平成21年4月17日民集63巻4号535頁取締役会の決議を経ていないことを理由とする取引の無効は、原則として会社のみが主張できるとした判例
- 東京地決平成29年9月26日金判1529号60頁自己の解任議案を株主総会に提出するかを決める取締役会決議について、当該取締役は特別利害関係取締役に当たるとした裁判例
- 平成8年4月19日付法務省民事局参事官室意見、平成14年12月18日付法務省民事局商事課長回答(民商3044号)テレビ会議・電話会議による取締役会の要件と、その議事録を添付した登記申請の取扱い
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公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日