裁判所も使う3つのアプローチ
非上場株式の評価手法は、大きく3つの系統(アプローチ)に分類されます。裁判所が売買価格決定(会社法144条2項)や買取価格決定(同117条2項・786条2項等)を行う際も、鑑定人(公認会計士等)がこれらの手法を単独または併用して算定するのが実務です。
図表:三大アプローチの比較
| アプローチ | 代表的手法 | 発想 | 向いている会社 | 弱点 |
|---|---|---|---|---|
| インカム・アプローチ | DCF法、収益還元法、配当還元法 | 将来生み出すキャッシュ・利益・配当から逆算 | 継続企業・収益力のある会社 | 事業計画の恣意性に左右される |
| ネットアセット・アプローチ | 簿価純資産法、時価純資産法 | 保有資産から負債を引いた正味財産 | 不動産・有価証券を多く持つ会社、清算局面 | 将来収益力(のれん)を反映しにくい |
| マーケット・アプローチ | 類似会社比較法(マルチプル法) | 似た上場会社の株価倍率を借用 | 類似上場会社が存在する業種 | 中小企業では類似会社の選定が困難 |
実務での使われ方
裁判実務では、単一の手法ではなく、**複数の手法を一定の比率で加重平均する「併用方式」**が広く用いられます(例:DCF法50%+時価純資産法50%)。どの手法をどの比率で採用するかにより結論の株価は劇的に変わるため、非訟手続における主張・立証の主戦場は、まさに「手法の選択と比率」です。
もう一つの主戦場が、評価額からの減価(ディスカウント)です。市場で売れないことを理由とする「非流動性ディスカウント」(20〜30%程度の減価が主張されることが多い)と、少数株主であることを理由とする「マイノリティ・ディスカウント」が代表で、これらの可否については最高裁判例が正面から判断を示しています。ここが次回・第4講のテーマであり、非上場株式の価値を争ううえで絶対に押さえるべき判例です。
税務評価との「二重基準」に注意
なお、相続税・贈与税の場面では財産評価基本通達(178条以下)による類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式が用いられ、裁判所の価格決定とは体系が異なります。「相続税申告では1株1万円だったのに、裁判所では1株80万円と決定された」という事態は制度上当然に起こり得ます。税理士の評価だけを見て売買や遺産分割に応じることの危険は、いくら強調してもしすぎることはありません。