結論が正反対に見える2つの最高裁決定
非上場株式の価値を論じるうえで、実務家が必ず参照する最高裁判例が2つあります。
① 最高裁平成27年3月26日決定(民集69巻2号365頁)
非上場会社の組織再編に反対した株主が株式買取請求(会社法785条1項)をした事案で、収益還元法により算定された価格から非流動性ディスカウント(市場性がないことによる減価)を行うことはできないと判断しました。
② 最高裁令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号・判例タイムズ1514号33頁、判例時報2582号95頁)
譲渡制限株式の譲渡が承認されず、会社法144条2項に基づき裁判所が売買価格を決定した事案で、DCF法により算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができると判断しました。
同じ「非上場株式の裁判所による価格決定」なのに、減価の可否について結論が分かれています。これは矛盾ではなく、手続の趣旨の違いに基づく整合的な区別です。
図解:どちらの手続かで20〜30%変わる
反対株主の株式買取請求
会社法116条・785条等
組織再編等を強行する会社から株主を「離脱させる」ための救済
強制的な締出しの場面で市場性の欠如を株主に負担させるべきでない
非流動性ディスカウント【不可】
最決平27.3.26
譲渡承認拒否後の売買価格決定
会社法144条2項
譲渡を望む株主に、譲渡に代わる「投下資本回収」を保障する手続
任意譲渡なら市場性欠如が価格に反映されるのと同様に考えてよい
非流動性ディスカウント【可】
最決令5.5.24
令和5年決定は、144条2項の手続が「譲渡を希望する株主に当該譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられたもの」であることを理由に、任意譲渡の場合と同様の減価を許容しました。他方で、評価手法の算定過程で市場性の欠如がすでに織り込まれている場合に重ねて減価することは「二重の減価」として許されない旨も指摘しており、単純に「常に3割引ける」わけではありません。
実務への示唆 ― 「どの土俵で戦うか」が価格を決める
この2判例が示すのは、同じ株式でも、どの法的手続に乗せるかによって裁判所の決める価格が2〜3割変わり得るという厳然たる事実です。
会社側にとっては、譲渡承認拒否→指定買取人ルート(144条)に誘導できれば非流動性ディスカウントを主張する余地が生まれ、株主側にとっては、組織再編・株式併合等の局面をとらえた買取請求(116条・182条の4・785条等)のほうが減価なしの「公正な価格」を得やすい、という戦略的な帰結が導かれます。加えて、キャッシュアウトの場面では、公正な手続を経た公開買付価格を尊重する最決平成28年7月1日(民集70巻6号1445頁・JCOM事件)の枠組みも視野に入ります。
価格の争いは、評価理論の争いである以前に手続選択の争いである――このシリーズで繰り返し登場する視点です。