定款の限界を埋める私的自治
第9講で見た定款・種類株式は強力ですが、①登記や定款で内容が可視化される、②変更に総会決議(多くは特別決議・特殊決議)が要る、③会社法の枠内でしか設計できない、という制約があります。この隙間を埋めるのが**株主間契約(SHA:Shareholders Agreement)**です。株主同士(+会社)の合意である契約は、会社法の型に縛られず、当事者だけが知る柔軟なルールを作れます。合弁会社やスタートアップの世界では常識ですが、同族会社・親族株主間でこそ真価を発揮するというのが当事務所の実感です。
図表:株主間契約の主要条項メニュー
| 条項 | 内容 | 何を防ぐか |
|---|---|---|
| 議決権拘束条項 | 役員指名権の配分、重要事項の事前承諾(拒否権) | 多数派の暴走/少数派の締出し |
| 譲渡制限・先買権(First Refusal) | 第三者へ売る前にまず他の株主へ打診する義務 | 部外者・買取業者への株式流出(第26講) |
| 強制売却参加(Drag Along)・売却参加権(Tag Along) | M&A時に全株主を売却に巻き込む/少数株主も同条件で売れる | M&Aの頓挫/少数株主の置き去り |
| 退任・死亡時買取条項 | 役員退任時・死亡時に一定の算定式で買い取る | 退職者・相続人による株式の塩漬け(価格算定式の明記が肝) |
| デッドロック解消条項 | 協議→調停→買取オプション等の段階的解消手続 | 50対50の膠着(第24講) |
| 情報提供条項 | 少数株主への計算書類・月次資料の定期提供 | 情報格差による不信と帳簿閲覧紛争(第7講) |
契約の効力 ― 万能ではないが、強い
株主間契約は原則として当事者間の債権的効力にとどまり、違反して行われた議決権行使や株式譲渡それ自体が当然に無効になるわけではない、というのが伝統的な理解です。したがって実効性の確保には、①違約金・損害賠償の予定条項、②違反時の株式買取(プット/コール)オプション、③可能な範囲での定款・種類株式への「格上げ」(譲渡制限や取得条項として組み込む)を重ねる設計が不可欠です。
逆に言えば、価格算定式を明記した買取条項は、非上場株式紛争の最大の争点である「1株いくらか」(第2講〜第4講)を事前に合意で固定できる、ほとんど唯一の手段です。「純資産価額方式で算定し、直近決算の数値を用いる」といった一文が、将来の鑑定費用数百万円と数年の争いを消してくれることがあります。
いつ締結するか ― 答えは「今」
株主間契約は、当事者の関係が良好なうちにしか結べません。共同創業のとき、親族に株を分けるとき、後継者に承継するとき――節目ごとに「もめたときのルール」を合意しておく。縁起でもない話に聞こえますが、遺言と同じで、備えた家族ほどもめないのです。当事務所では、同族会社向けの株主間契約のオーダーメイド設計を、定款設計(第9講)・事業承継(第Ⅳ部)とセットでご提案しています。