株主間紛争のクライマックスは「人事」
非上場会社の株主間紛争は、突き詰めれば「誰が経営するか」の争いであり、その決着点は取締役の解任・選任です。株式の保有割合の攻防(ここまでの各講)は、最終的にこの人事権の行使で現実化します。
解任のルール ― 「いつでも切れる。ただし金がかかることがある」
株主総会は、いつでも、理由を問わず取締役を解任できます(会社法339条1項)。決議要件は普通決議ですが、定足数を定款で引き下げる場合でも議決権の3分の1が下限とされます(341条)。累積投票で選任された取締役等の解任には特別決議が必要です(309条2項7号)。
ただし、「正当な理由」なく任期途中で解任された取締役は、会社に対し、解任によって生じた損害(典型的には残存任期分の役員報酬相当額)の賠償を請求できます(339条2項)。非公開会社では任期を最長10年まで伸長できる(332条2項)ため、任期を長く設定した会社ほど、解任の「値段」は高くつきます。任期設計は解任コストの設計でもあるのです。
「正当な理由」の有無は、裁判例上、職務執行への障害となる客観的状況の存否を軸に判断されます。持病の悪化により療養に専念せざるを得なくなった取締役の解任について正当な理由を認めた最高裁昭和57年1月21日判決(判例時報1037号129頁)が有名で、下級審では、法令・定款違反行為や明白な適格性欠如は正当理由が認められやすい一方、単なる経営方針の対立や「折り合いの悪さ」だけでは正当理由は認められにくい傾向にあります。同族会社の「兄弟げんか解任」が、後日の損害賠償で高くつく典型パターンです。
解任の訴えと少数株主
総会で解任議案が否決された場合でも、議決権(または発行済株式)の3%以上を6か月(非公開会社は期間要件なし)保有する株主は、役員に職務執行に関する不正行為または法令・定款違反の重大な事実があるときに限り、否決の総会から30日以内に役員解任の訴え(854条)を提起できます。多数派に守られた不正役員への、少数株主側の最終手段です。
「辞任」もまた紛争になる
辞任は取締役の一方的意思表示でいつでも可能です(委任の規定による。民法651条参照)。しかし実務では、①辞任したのに登記を放置され対外的責任を追及されるリスク(辞任登記手続請求)、②権限のない多数派による「辞任届の強要」の効力、③辞任と役員退職慰労金の攻防、④辞任により法定員数を欠く場合の権利義務の継続(346条1項)など、辞任の周辺にこそ紛争が密集しています。
この「取締役の辞任と解任」は、代表弁護士坂本龍亮の著書『リーガル・フロンティア 取締役の辞任と解任』で正面から論じたテーマであり、当事務所が最も蓄積を持つ分野の一つです。解任を仕掛ける側・仕掛けられた側、いずれの初動対応もお受けしています。