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『非上場株式27講 ― 売れない株の教科書 ―』【第25講】

裁判所に値段を決めてもらうといくらかかるのか ― 非訟事件のコスト・期間・鑑定のリアル

価格決定手続は「訴訟」ではない

売買価格決定(会社法144条2項)や買取価格決定(117条2項・182条の5・786条2項等)は、判決手続ではなく非訟事件(会社法868条以下、非訟事件手続法)です。非公開の期日で、裁判所が後見的に「相当な価格」を形成する手続であり、通常の民事訴訟とは景色がかなり異なります。当事者は審問期日で意見を述べる機会を保障され(会社法870条2項)、決定に対しては即時抗告が可能です(872条)。

図表:価格決定手続のコスト・期間の目安

項目 実務的な相場観
申立手数料 非訟事件として定額(数千円〜)。訴訟のような訴額比例ではない
弁護士費用 事務所・事案により大きく異なる(着手金+成功報酬型が一般的。対象株式の価値に応じて設定されることが多い)
私的鑑定(自派の株価算定書) 公認会計士等への報酬として数十万円〜数百万円
裁判所選任鑑定人の鑑定費用 数百万円規模になることも珍しくなく、予納を命じられる。負担割合も争点になる
期間 第一審で1年前後〜、抗告審まで含めると2年超も

最大のコスト要因は鑑定です。当事者双方の算定書が大きく乖離する事案では、裁判所が中立の鑑定人を選任することが多く、その費用は会社規模・論点の複雑さに応じて高額化します。もっとも、双方の私的算定書と主張立証が充実していれば、鑑定を経ずに裁判所が価格を形成する例もあり、主張立証の質が手続コストを直接左右します

「コスト倒れ」ラインの見極め

以上を踏まえると、対象株式の実質価値が数百万円程度の事案で価格決定手続まで戦い抜くことは、経済合理性を欠く場合があります。逆に、実質価値が数千万円〜億単位であれば、鑑定費用を投じてでも手続に乗せる価値は十分にあります。

重要なのは、手続コストの見積もり自体が交渉材料になるという視点です。会社側は「裁判所まで行けばあなたの持ち出しも大きい」と圧力をかけ、株主側は「価格決定までいけば実質価値ベースになる」と切り返す。双方の期待値とコストが交差する点に、和解的解決の相場が形成されます。この均衡点を正確に読めるのは、価格決定手続の実際を知る者だけです。

第26講でみるとおり、この「時間・労力・費用」の負担感につけ込む形で登場したのが株式買取業者でした。しかし裁判所は、その解決を明確に否定しています。いよいよ次回、本シリーズの核心である大阪高裁令和6年7月12日判決を詳解します。

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