第23講利益配分と責任追及
役員の責任を追及して、会社に生じた損害を回復する
会社の訴え・株主代表訴訟・対第三者責任
この講の結論
第20講から第22講で見てきた資金の流用、過大な報酬、競業や利益相反による損害は、会社の損害です。それを回復する第一の主体は会社自身であり、会社が役員に対して損害賠償を請求します(会社法423条)。加害者である役員が会社を支配していて会社が動かないときは、株主が会社のために責任追及の訴え、いわゆる株主代表訴訟を提起できます(847条)。ただし代表訴訟で勝っても賠償金は会社に入るのであって、株主個人が受け取る仕組みではありません。株主や債権者が自分の損害を役員に直接請求する制度は別にあり(429条)、会社の損害の反映にすぎない株価の下落を株主が直接請求することは、原則として認められていません。
任務懈怠・損害・因果関係
取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人(役員等)は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(423条1項)。責任を追及する側が主張・立証するのは、その役員等の地位と職務、具体的にどの義務に違反したか、会社にどのような損害が生じたか、義務違反と損害の間の因果関係です。取締役は会社に対して善管注意義務(330条、民法644条)と忠実義務(355条)を負い、法令・定款の違反、利益相反取引や競業取引に関する規律の違反、他の取締役に対する監視義務の違反などが任務懈怠になります。任務懈怠責任は債務不履行責任の性質を持ち、役員等の側が自分に帰責事由がなかったことを立証すれば免れますが、利益相反取引については任務懈怠が推定され(423条3項)、自己のためにした直接取引については帰責事由の不存在による免責も認められません(428条1項)。
経営判断が結果として失敗したというだけでは責任は生じません。最高裁は、事業再編計画の一環として子会社の株式を買い取った際の価格の決定について、そのような判断は将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられており、株式取得の方法や価格についても取締役が株式の評価額、取得の必要性、財務上の負担などを総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反するものではないと判断しました(最判平成22年7月15日[出典])。この判決は、経営上の裁量が広く認められる場面に関するものであり、法令違反や利益相反のように取締役の裁量が問題にならない場面にまで免責を広げるものではありません。内紛で問題になる役員の行為は、利益相反、資金流用、無権限の行為など裁量の余地が小さいものが多く、経営判断の原則が正面から適用される事案は限られます。
会社自身が訴える場合
会社が取締役(元取締役を含みます)を訴える場合、誰が会社を代表するかを最初に確認します。監査役設置会社では監査役が会社を代表し(386条1項1号)、監査役の権限を会計に限定している会社は監査役設置会社に当たらないため(2条9号)、株主総会または取締役会が訴えについて会社を代表する者を定めます(353条、364条)。代表者を定めなければ、通常の代表取締役が会社を代表することになりますが、被告となる取締役が代表取締役である場合はもちろん、代表取締役と被告が同じ側に立つ場合にも、会社の請求が実質的に行われない状態になります。内紛で経営権を奪回した側は、代表者の交代とともに、旧経営陣に対する会社の請求を検討することになりますが、その際にも提訴を決める側に利益相反がないか、請求の根拠と見込みを検討した記録を残しているかが、後に経営判断として問われます。
代表者を交代させることだけが責任追及の道ではありません。監査役が会社を代表する仕組みや、次に述べる株主代表訴訟によって、現在の代表者の責任を問うこともできます。少数株主の側にとっては、経営権を取れなくても、代表訴訟で会社の損害を回復させることが、内紛の実質的な決着につながることがあります。
株主代表訴訟の流れ
株主は、会社に対し、書面または電磁的方法により、役員等の責任を追及する訴えの提起を請求します(847条1項、会社法施行規則217条)。公開会社では6か月(定款で短縮できます)前から引き続き株式を有することが要件ですが、非公開会社にはこの要件がありません(847条2項)。単元未満株主は、定款で提訴請求権を行使できない旨が定められていれば請求できません(847条1項括弧書、189条2項)。請求の宛先は会社ですが、取締役(元取締役を含みます)の責任を追及する請求については、監査役設置会社では監査役が会社を代表して受領しますから(386条2項1号)、監査役宛てに送ります。監査役や会計参与、会計監査人の責任を追及する請求は、代表取締役宛てです(349条4項)。監査役の権限を会計に限定している会社や監査役を置かない会社では、会社を代表する代表取締役宛てに送ります。被告となる取締役が代表取締役自身である場合の受領権者については、353条・364条により株主総会または取締役会が定めた者とすべきかをめぐって見解が分かれています。最高裁は、会社法の代表訴訟の規定を準用する農業協同組合の事案で、本来の受領権者でない代表理事宛てに送付された提訴請求について、原則として無効としつつ、本来の受領権者が提訴の要否を自ら判断する機会を持ったときは例外的に有効に扱う余地を認めており(最判平成21年3月31日民集63巻3号472頁)、実務では、代表取締役宛ての請求書を本店に送付するとともに他の取締役全員にも写しを送付して、会社として判断する機会があったことを記録に残します。請求書には、責任を追及する役員等、対象となる行為、責任の内容を、会社が提訴の要否を判断できる程度に特定して記載します。
会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、請求をした株主が会社のために訴えを提起できます(847条3項)。60日を待つと会社に回復することができない損害が生じるおそれがある場合には、請求を経ずに直ちに提訴できます(同条5項)。会社が提訴しなかったときは、請求した株主から求めがあれば、会社は遅滞なく提訴しない理由を書面等で通知しなければならず(同条4項)、この不提訴理由書には、調査の内容、責任の有無についての判断とその理由が記載されます(施行規則218条)。株主の請求が、その株主や第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を加えることを目的とする場合には、代表訴訟は認められません(847条1項ただし書)。
提訴した株主は、遅滞なく会社に訴訟告知をしなければなりません(849条4項)。告知を受けた会社は、遅滞なくその旨を公告し、または株主に通知します(同条5項。非公開会社では株主への通知によります。同条9項)。株主や会社は、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するため、訴訟に参加できます(同条1項)。会社が被告である取締役の側に補助参加するには、監査役設置会社では各監査役の同意が必要です(同条3項1号)。提訴請求書の発送後は、到達日を起算点に、60日の満了日、訴状の提出、訴訟告知までを一つの日程表で管理します。
追及できる責任の範囲
代表訴訟で追及できるのは、847条1項が列挙する責任と請求に限られます。発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等、清算人の責任のほか、株主の権利行使に関する利益供与を受けた者に対する返還請求(120条3項)、著しく不公正な払込金額で株式や新株予約権を引き受けた者に対する支払請求(212条1項、285条1項)、出資の履行を仮装した者に対する支払・給付請求(102条の2第1項、213条の2第1項、286条の2第1項)が対象です。最高裁は、旧商法の代表訴訟の対象となる「取締役の責任」には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると判断しています(最判平成21年3月10日[出典])。会社が取締役の責任追及を怠るおそれがあるのは、取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られないというのがその理由です。この判決の事案は、会社が取締役から買い受けた不動産の移転登記手続を求めたものでした。取締役が会社から借りた金銭の返還など、契約に基づく債務の履行請求も同様に代表訴訟の対象になります。他方、所有権に基づく返還請求のように取引によらない請求が含まれるかは、判決の射程外でなお議論があります。
他方で、代表訴訟は会社が持つすべての請求権をあらゆる相手に対して株主が代行できる一般的な制度ではありません。役員でない親族、関連会社、取引先に対する会社の請求は、847条1項の列挙に当たらない限り代表訴訟では追及できず、会社自身が請求するか、第17講で扱った債権者としての手段によることになります。役員の親族が経営する関連会社に資金が流れた事案では、役員に対する損害賠償を代表訴訟で追及し、関連会社に対する不当利得返還は会社に請求させるという組合せになります。
費用・担保・回収可能性
代表訴訟は、訴訟の目的の価額の算定については財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされ(847条の4第1項)、訴額は請求額にかかわらず160万円として扱われますから(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)、裁判所に納める手数料は低く抑えられます。しかし、弁護士費用、調査や鑑定の費用、保全手続の担保は株主が負担して進めることになります。株主が勝訴した場合(一部勝訴を含みます)には、訴訟に関して支出した必要な費用(訴訟費用を除きます)と弁護士報酬のうち相当と認められる額を会社に請求でき(852条1項)、敗訴しても悪意がなければ会社に対する損害賠償責任を負いません(同条2項)。
被告となった役員は、提訴が悪意によるものであることを疎明して、裁判所に株主に対する担保提供を命じるよう申し立てることができます(847条の4第2項・3項)。ここでいう悪意とは、請求に理由がないことを知って提訴した場合や、不当な目的で提訴した場合をいうとされており、担保提供が命じられて株主が担保を立てなければ訴えは却下されます。少数株主が代表訴訟を検討するときは、提訴前に責任の根拠と証拠を整理し、請求の目的が会社の損害の回復にあることを説明できるようにしておくことが、担保提供の申立てへの備えになります。
勝訴判決を得ても、被告に資産がなければ回収できません。請求額だけでなく、役員の資産、会社役員賠償責任保険(D&O保険)の有無と内容、和解の履行確保、仮差押えの要否を早い段階で検討します。代表訴訟は会社の権利を実現する制度であり、相手方への圧力や情報収集を目的に使えば、悪意による提訴として担保提供や損害賠償の問題を招きます。
和解と免除の特則
会社が原告として、または参加人として取締役の責任追及訴訟で和解をするには、監査役設置会社では各監査役の同意が必要です(849条の2第1号)。監査役が複数いる場合に一人の同意で足りる制度ではありません。監査等委員会設置会社では各監査等委員、指名委員会等設置会社では各監査委員の同意が必要です。
株主代表訴訟で株主と被告役員が和解をし、会社がその和解の当事者でない場合、裁判所は会社に和解の内容を通知し、和解に異議があるときは2週間以内に異議を述べるよう催告しなければなりません(850条2項)。会社が期間内に書面で異議を述べなければ、会社は通知の内容で株主が和解をすることを承認したものとみなされます(同条3項)。代表訴訟の和解(会社が当事者として和解する場合を含みます)には、責任の全部免除に総株主の同意を必要とする424条などの規定は適用されません(850条4項)。これに対し、訴訟外で一部の株主と役員が合意書を作っても、会社の請求権は株主が処分できるものではなく、責任の免除には次に述べる424条以下の手続が必要ですから、その合意だけで会社の請求権が消えることはありません。
訴訟によらない責任の免除と限定には、424条から428条の規律があります。役員等の責任を全部免除するには総株主の同意が必要であり(424条)、役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に限り、株主総会の特別決議で、最低責任限度額(報酬等の1年分に相当する額に、代表取締役は6、その他の業務執行取締役等は4、それ以外の取締役・会計参与・監査役・会計監査人は2を乗じた額。有利な条件で新株予約権を引き受けていればその利益相当額を加算します)を控除した額を限度として免除できます(425条)。定款の定めに基づく取締役会決議による免除(426条)、非業務執行取締役等との責任限定契約(427条)もありますが、自己のためにした直接取引による責任には425条から427条の一部免除・責任限定は適用されず(428条2項)、免除するには総株主の同意(424条)によるほかありません。内紛の和解で役員の責任を免除する条項を入れるときは、どの規定に基づいて免除するのか、必要な同意や決議がそろっているかを確認しないと、免除の効力が後に争われます(第35講)。
429条の対第三者責任
役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(429条1項)。最高裁は旧商法の同種の規定について、これは第三者保護のために法が特に認めた責任であり、役員の悪意・重過失は任務懈怠について存在すれば足り、第三者が直接被った損害だけでなく会社の損害を通じて間接に被った損害も対象になるとしています(最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁)。計算書類の虚偽記載や虚偽の登記・公告については、注意を怠らなかったことを役員等が証明しない限り責任を負います(429条2項)。会社が債務を履行できなくなった取引先や、会社の資産流出で債権を回収できなくなった債権者が、役員個人に請求する場面で使われます。
株主も「第三者」に含まれ得ますが、会社の財産が減った結果として株価が下落したという間接損害については、会社が423条の責任追及によって回復すれば株主の損害も回復するのであり、株主に直接の賠償を認めると二重の回収や会社債権者との関係で不均衡が生じるとして、裁判例の主流と多くの学説は原則として株主の直接請求を認めていません(第20講)。ただし、加害役員が会社を支配していて代表訴訟による回復が事実上期待できない閉鎖会社については、例外的に株主の直接請求を認めるべきだとする見解もあり、内紛の事案ではこの点が争点になり得ます。株主が429条で請求できるのは、虚偽の情報で株式を取得させられた場合のように、株主固有の直接損害が生じた場合が中心です。少数株主は会社の損害を自分の損害と感じやすいものの、法的な回収先は会社であることを前提に、代表訴訟と株式の出口(第33講)を組み合わせて解決を設計します。
PRACTICE NOTE
40%株主の回収先
【設例】会社に1,000万円の損害があり、40%の株式を持つ株主Aが代表訴訟を提起して全額の賠償を命じる判決を得たとします。この場合、1,000万円は会社に支払われ、Aが直接400万円を受け取る仕組みではありません。Aが得るのは、会社の財産が回復したことによる株式価値の回復と、852条1項による費用・弁護士報酬の相当額の請求権です。
内紛の解決として、Aの株式を多数派または会社が買い取る和解を併せて検討する場合、株式の代金と会社の損害の回復は別の項目として扱います。会社の請求権を放棄するには、849条の2や850条の手続、424条以下の免除の規律を満たす必要があり、株主間の合意だけでは処理できません。株式の買取りに会社の損害分を上乗せして「一括解決」とする合意は、残る株主や会社債権者との関係で会社の請求権を不当に処分したと評価されるおそれがあります。会社の請求権を誰がどの手続で処理するのか、残る株主や債権者にどう説明するのかを整理してから、条件を組み立てます。
実務チェック
- 義務違反、損害、因果関係、請求の主体(会社か株主か)を特定し、423条3項・428条の推定と特則が使えるかを確かめる。
- 会社が訴えるときの代表者(386条、353条、364条)と、提訴請求の宛先(監査役設置会社では監査役)を確認する。
- 提訴請求の到達日、60日の満了日、訴状提出、訴訟告知を一連の日程で管理し、緊急時は847条5項の直接提訴を検討する。
- 追及する相手と請求が847条1項の範囲に入るかを確認し、役員以外への請求は会社自身の請求や債権者の手段と組み合わせる。
- 相手方の資産、D&O保険、仮差押えを早期に検討し、担保提供の申立てに備えて提訴の目的と根拠を整理する。
- 和解や免除は、849条の2、850条、424条以下の要件を満たす形で設計する。
よくある質問
代表訴訟に勝つと、株主が賠償金を受け取れますか。
受け取れません。賠償金は会社に支払われます。株主が会社に請求できるのは、勝訴した場合の費用と弁護士報酬の相当額です(852条1項)。株式の買取代金を得るための手続ではありません。
社長が会社から借りたお金を返さない場合も、代表訴訟を使えますか。
使えます。最高裁は、取締役の会社に対する取引債務についての責任も代表訴訟の対象に含まれるとしています(最判平成21年3月10日)。貸付けの成立、弁済期の到来、返済の有無を確認したうえで、通常の手続と同じく提訴請求から始めます。
会社が旧経営陣を訴えないと決めた場合、その判断自体を争えますか。
会社が60日以内に提訴しなければ、株主は自ら代表訴訟を提起できます(847条3項)。あわせて不提訴理由の通知を求めることができ(同条4項)、その内容は提訴後の主張立証の手がかりになります。提訴しないという判断が不合理で会社に損害を与えたときは、その判断をした取締役の責任が別に問題になり得ますが、まずは代表訴訟で本来の請求を実現することが先です。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、102条の2第1項、120条3項、189条2項、212条1項、213条の2第1項、285条1項、286条の2第1項、330条、349条4項、353条、355条、364条、386条、423〜429条、847条、847条の4、849条、849条の2、850条、852条
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕217条(提訴請求の方法)、218条(不提訴理由の通知の内容)
- 民法〔e-Gov法令検索〕644条
- 民事訴訟費用等に関する法律〔e-Gov法令検索〕4条2項(財産権上の請求でない請求の訴額)
- 最判平成22年7月15日判時2091号90頁〔裁判所ウェブサイト〕事業再編計画の一環としての子会社株式の取得価格の決定について、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務に違反しないとした判例(アパマンショップ事件)
- 最判平成21年3月10日民集63巻3号361頁〔裁判所ウェブサイト〕株主代表訴訟の対象となる取締役の責任には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれるとした判例
- 最判平成21年3月31日民集63巻3号472頁本来の受領権者でない者に宛てられた提訴請求は原則として無効であるが、本来の受領権者が提訴の要否を自ら判断する機会を持ったときは例外的に有効に扱う余地を認めた判例(会社法の規定を準用する農業協同組合の事案)
- 最大判昭和44年11月26日民集23巻11号2150頁取締役の対第三者責任は第三者保護のために法が特に認めた責任であり、悪意・重過失は任務懈怠について存在すれば足り、直接損害と間接損害の双方を対象とするとした判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日