補講2会社形態と働く人の地位
その「専務」は役員か、従業員か
執行役員・兼務役員・名目的な役員と労働法
この講の結論
「専務」「常務」「執行役員」という肩書や、給与明細の「役員報酬」という名称だけでは、その人が会社法上の役員なのか、労働法上の労働者なのかは決まりません。会社法の役員かどうかは株主総会の選任と本人の就任承諾で決まり、労働者かどうかは指揮監督の有無、勤務の拘束、裁量、報酬の性質といった働き方の実態で決まり、税法上の使用人兼務役員の区分はまた別の基準です。取締役と従業員を兼ねている人は少なくなく、その場合、取締役を解任しても雇用契約は当然には終了せず、解雇には労働契約法の規制が及びます。逆に、登記上は取締役でも実態が労働者であれば、残業代や解雇規制の適用を否定できません。内部紛争で「役員を外す」と決めたとき、その人の地位を三つの物差しで確かめ、解任と解雇、報酬と賃金を別の項目として処理することが、後の労働紛争を防ぐ前提です。
三つの物差し
同じ一人の地位を、三つの法律が別々の物差しで測ります。会社法では、取締役は株主総会の決議で選任され(329条1項)、本人が就任を承諾して初めて取締役になり、会社との関係は委任に関する規定に従います(330条)。選任決議と就任承諾がなければ、「専務」と呼ばれ名刺にそう書いてあっても会社法上の取締役ではなく、逆に、選任と承諾があれば、実際の仕事が部長と変わらなくても取締役です(第7講)。労働法では、労働基準法9条と労働契約法2条1項の「労働者」に当たるかを、契約の名称ではなく、業務の指示に対する諾否の自由、業務の内容と遂行方法に関する指揮監督、勤務時間と場所の拘束、他の人に代わってもらえるかどうか、報酬が労務の対価といえるかといった要素で判断します。昭和60年の労働基準法研究会報告が示したこの「使用従属性」の判断枠組みは、現在も裁判例の基礎になっています。税法では、法人税法34条6項の使用人兼務役員(部長や課長などの使用人としての職制上の地位を持ち、常時使用人としての職務に従事する役員。社長・副社長・専務・常務などの役付役員や監査役などのほか、同族会社では一定の持株要件を満たす役員も除かれます。法人税法施行令71条1項)という区分があり、使用人としての職務に対する給与は、定期同額給与などの要件を課す34条1項の損金不算入の対象からは除かれます(不相当に高額な部分は損金不算入となります。同条2項)。この区分は会社法や労働法の判断と一致するとは限りません。
社会保険や雇用保険の処理、給与明細の科目、名刺の肩書は判断の資料にはなりますが、それだけで結論は決まりません。雇用保険で「兼務役員」として被保険者資格を認められていれば労働者性を肯定する方向の資料になり、就任時に従業員としての退職金を精算していれば雇用の終了を示す資料になります。契約書に「委任契約」と書けば労働法の適用を必ず排除できるわけでもなく、実態が指揮監督下の労働であれば、契約の名称にかかわらず労働者と判断されます。取締役の肩書を与えて残業代の支払を免れようとした会社に対し、取締役就任の経緯、業務執行権限の有無、実際の業務の内容、拘束の有無、報酬の性質を総合して労働者性を肯定し、残業代と付加金の支払を命じた裁判例(京都地判平成27年7月31日労判1128号52頁、控訴審大阪高判平成28年1月15日労判1130号22頁)が、この点を端的に示しています。同事件の原告は、社内で取締役と呼ばれ就任承諾書を差し入れていたものの、会社法所定の選任手続も登記もされていませんでしたが、登記されている取締役についても、同様の要素を総合して労働者性が判断されます。
肩書ごとの確認
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| 呼称・類型 | 確認する実体 | 地位を終了する際の検討 |
|---|---|---|
| 取締役(専任) | 選任決議と就任承諾、登記、委任契約の内容、実際の職務と裁量 | 会社法上の解任(339条)、任期満了(332条)、辞任(民法651条)。正当な理由のない解任は損害賠償(339条2項) |
| 使用人兼務取締役 | 取締役の地位と、就任前からの雇用契約が終了せずに残っているか(退職金の精算、就業規則上の扱い、業務の変化) | 解任と雇用の終了を別に判断。雇用の終了には労働契約法16条の解雇規制 |
| 執行役員 | 社内制度上の職位であり会社法上の役員ではない。取締役を兼ねているか、雇用型か委任型か、執行役員規程の内容 | 雇用型なら解雇規制、委任型なら契約の解除。取締役兼務なら解任も別に必要 |
| 「専務」「常務」「部長」等の呼称のみ | 選任の有無、指揮命令、勤務の拘束、報酬の性質 | 実体が労働者なら解雇規制と労働基準法の適用。管理監督者(労働基準法41条2号)に当たるかも実態で判断 |
会社法上の「執行役」(指名委員会等設置会社の機関。402条)と、多くの会社が社内制度として置く「執行役員」は別のものです。執行役員は法律上の役員ではなく、雇用契約に基づく従業員である場合(雇用型)と、委任契約に基づく場合(委任型)があり、取締役を兼ねている場合もあります。呼称だけで役員かどうかを決めず、選任の記録、契約書、規程、実際の働き方を確認します。「専務」「常務」という呼称も同様で、選任されていなければ会社法上の取締役ではありません。逆に、部長という呼称でも取締役に選任されていれば取締役であり、会社法上の義務と責任を負います。
労働者性の資料
労働者性を判断する資料として集めるのは、誰から業務の指示を受けていたか、承認を要する事項は何か、出退勤の管理(タイムカード、勤怠システム)、勤務場所と時間の拘束、他の人に代わってもらえたか、独自の裁量で決められた事項、報酬の構成(固定給か、職務や成果に連動するか、残業代相当の支払があったか)、取締役会への実際の参加と発言、そして取締役就任の際に従前の雇用が終了したかどうか(退職の手続、退職金の支払、雇用保険の資格喪失、契約の切替え)です。裁判例は、取締役に就任しても、雇用の終了を示す地位の清算がなく、業務の内容と代表取締役からの指揮監督が就任前と変わらなければ、従業員としての地位が併存していると判断する傾向にあります。
家族会社では、親族としての関係と指揮命令関係が重なります。同居の親族のみを使用する事業には労働基準法が適用されませんが(116条2項)、同居の親族以外の従業員が一人でもいれば適用されますし、同居の親族であっても、他の従業員と同様の指揮命令下で働き賃金を受けている場合には労働者と扱われることがあります。親族だから一律に労働者でない、あるいは必ず労働者であるとは説明できず、実態で判断します。
解任と解雇は別の手続
取締役の解任は、株主総会の決議(339条1項。通常は341条の普通決議ですが、累積投票で選任された取締役と監査等委員である取締役は特別決議です。309条2項7号)でいつでもでき、正当な理由がなければ会社は損害賠償責任を負います(339条2項。第8講)。しかし、解任は取締役という委任関係を終了させるにすぎず、その人が従業員としての雇用契約を併せて持っていれば、雇用は残ります。雇用を終了させるには解雇の意思表示が必要で、解雇は客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には無効です(労働契約法16条)。「取締役として信頼できない」という解任の理由が、そのまま従業員としての解雇の理由になるとは限りません。有期の雇用契約であれば、期間の途中の解雇にはやむを得ない事由が必要で(同法17条1項)、契約の更新を拒む雇止めにも制限があります(同法19条)。
解雇をするには30日前の予告か30日分以上の平均賃金の支払が必要ですが(労働基準法20条1項。行政官庁の除外認定を受けた場合を除きます)、これは解雇の手続要件であって、予告手当を払えばどのような解雇でも有効になるわけではありません。解雇の有効性は労働契約法16条で別に判断されます。取締役を解任した後に従業員として残る人に対する配置転換、降格、賃金の減額、懲戒も、それぞれ就業規則上の根拠と相当性が必要で、解任に伴う「当然の措置」として行うことはできません。会社が解任の通知だけをして雇用について何の意思表示もしないまま出社を拒めば、雇用は続いているのに就労を拒んだことになり、本人に就労の意思と能力があり就労を申し出ている限り、賃金の支払義務が残ります(民法536条2項)。
報酬と賃金
役員報酬は定款または株主総会の決議(361条)と、それに基づく具体的な決定で定まり、賃金は雇用契約、就業規則、賃金規程で定まります。使用人兼務取締役の場合、支払われている金額のうち取締役の職務の対価がどれだけで、従業員としての賃金がどれだけかを、決議、契約、給与規程、帳簿の内訳、従前の給与額から確定します。帳簿上「役員報酬」と処理していることだけを理由に、賃金としての保護(全額払の原則、付加金、退職後の賃金に対する遅延利息〔賃金の支払の確保等に関する法律6条、政令により年14.6%〕など)を排除することはできません。逆に、全額が取締役の報酬であれば、株主総会の決議のない報酬の請求は認められないのが原則です(第21講)。
未払賃金、休業手当(労働基準法26条。使用者の責に帰すべき事由による休業について平均賃金の6割)、会社が就労を拒んだ期間の賃金は、それぞれ要件が異なります。労働基準法114条の付加金は、解雇予告手当(20条)、休業手当(26条)、割増賃金(37条)、年次有給休暇の賃金(39条9項)の未払に対して裁判所が命じるもので、あらゆる賃金の未払に自動的に付くものではなく、請求は違反の時から5年以内(附則143条2項により当分の間3年)にしなければなりません。賃金請求権の消滅時効は5年ですが(115条)、附則143条3項により当分の間3年とされています(退職手当は5年のままです)。この経過措置は本稿の改訂時点でも存置されており、撤廃が議論されています。役員報酬の請求権は委任契約に基づく債権であり、権利を行使できることを知った時から5年(民法166条1項1号。行使できる時から10年。同項2号)で時効にかかります。
地位を争う側の対応
地位を争う本人は、契約書、辞令、就業規則、給与明細、勤怠の記録、業務指示のメール、解任や解雇の通知を適法に保存し、就労の意思があること(出社したが就労を拒まれたことの記録、就労の意思を書面で表明すること)と、求める処遇(復職か、金銭による解決か)を明確にします。役員としての地位を争うなら決議の瑕疵や解任の正当な理由が争点になり、従業員としての地位を争うなら解雇の有効性が争点になります。会社の側は、解任によって役員だけの地位を終えたのか、雇用についてどのような意思表示をしたのかを整理し、意思表示をしていないのに就労を拒んでいる状態を放置しないことが重要です。
労働者としての地位や賃金を争う手続には労働審判があり、特別の事情がある場合を除き3回以内の期日で審理を終結します(労働審判法15条2項)。迅速ですが、会社法上の決議の効力や役員の地位に関する訴訟とは対象が異なり、同じ人について役員の地位と従業員の地位が並行して争われる場合には、両方の手続で主張する事実関係を整合させる必要があります。労働審判に異議が出れば訴訟に移行しますから(同法21条、22条1項)、3回の期日ですべての紛争が最終的に解決するという意味ではありません。
退任・退職の合意
役員と従業員の両方の地位を持つ人と合意によって関係を終える場合、役員の辞任、雇用契約の合意解約、未払の報酬と賃金、役員退職慰労金と従業員退職金、貸与物の返還、秘密保持、競業避止、個人保証の解除を、それぞれ別の項目として定めます(第35講)。役員退職慰労金は株主総会の決議または定款の定めが必要で(361条)、従業員退職金は就業規則や退職金規程に基づきますから、支給の根拠と計算の基準が異なります。退職の合意は本人の自由な意思に基づくことが必要で、退職届を強要したり、不利益な情報を隠して署名させたりすれば、合意の効力が争われます。
役員の地位だけを外し、従業員として勤務を続けてもらう方法もあります。内部紛争では「役員を外す」と「会社から去ってもらう」が同一視されがちですが、経営上の対立と、その人の業務上の能力や必要性は別の問題です。すべての地位の終了を当然の前提にせず、業務上可能な処遇と双方の希望を比較したうえで、合意の内容を決めます。
平時の書面と実態を一致させる
紛争を防ぐには、取締役との委任契約書、従業員との雇用契約書、執行役員規程、職務分掌と決裁権限の規程、報酬と賃金の内訳を整え、取締役に就任させるときや職務を変えるときに、従前の地位をどう扱うか(雇用を終了して退職金を精算するのか、使用人兼務とするのか)を本人と確認して書面に残します。ただし、書面だけを整えて実態が違うままでは、紛争時の評価を固定することはできません。委任契約書があっても、実態が指揮監督下の労働であれば労働者と判断されますし、使用人兼務としながら実際には使用人としての職務がなければ、税務上も否認されます。書面と実態を一致させることが、会社法、労働法、税法のいずれの場面でも最も確実な備えです。
PRACTICE NOTE
月額80万円を一括して支払っている場合
【設例】取締役であると同時に営業部長でもある人に、毎月80万円を「役員報酬」の科目で一括して支払っています。株主総会で決議された報酬の総額の枠はありますが、この人の報酬額を個別に定めた記録はなく、営業部長としての賃金を定めた契約書もありません。会社は取締役を解任し、「役員報酬は解任で終了した」として翌月から支払を止めました。本人は「営業部長としての給与は続くはずだ」と主張しています。
この場合、帳簿の科目だけで全額を役員報酬または賃金と決めることはできません。取締役就任の経緯と就任前の給与額、就任時に雇用を終了させた手続があったか、営業部長としての業務の内容と指揮命令、報酬の決定の記録を調べ、80万円のうち取締役の職務の対価と営業部長としての賃金を切り分けます。就任前の給与が60万円で、就任後に20万円が加算されたのであれば、60万円が賃金、20万円が報酬という切分けが出発点になります。解任後は、取締役の職務の対価としての報酬は将来に向かって発生しなくなりますが(正当な理由のない解任であれば、残りの任期分の報酬相当額が339条2項の損害賠償として問題になります。第8講。また、総額の枠しかなく個別の配分の決定がない場合には、取締役部分の報酬請求権が有効に発生していたかも別に争点になります)、営業部長としての雇用が続いていれば賃金の支払義務は残り、本人が就労を申し出ているのに会社が就労を拒めば賃金の支払を免れません。営業部長としての雇用も終了させたいなら、解雇の要件を満たすか、合意によって退職の条件を決める必要があります。会社の通知と本人の認識がずれている場合は、欠勤扱いや給与の停止を進める前に、地位を整理して本人に通知することが先です。
実務チェック
- 選任決議と就任承諾、雇用契約と委任契約、勤務の実態を別々に確認し、会社法・労働法・税法の区分を混同しない。
- 取締役に就任させた時点で従前の雇用がどう扱われたか(退職金の精算、雇用保険の資格、就業規則上の扱い)を確認する。
- 解任と雇用の終了、報酬と賃金を別の項目として整理し、解任の通知とは別に雇用についての意思表示を明確にする。
- 退任・退職の合意は、役員と従業員の両方の地位、報酬・賃金・退職金、貸与物、秘密保持、保証まで点検する。
- 平時から契約書、規程、報酬と賃金の内訳を整え、書面と実態を一致させる。
よくある質問
執行役員なら、決議で自由に辞めさせられますか。
執行役員は多くの場合、会社法上の役員ではなく社内制度上の職位です。雇用契約に基づく執行役員であれば、その地位を解いても雇用は残り、雇用を終了させるには解雇の要件が必要です。委任契約に基づく執行役員であれば契約の解除によりますが、契約に定めた解除の条件と損害賠償の問題が残ります。取締役を兼ねていれば、取締役の解任は別に株主総会の決議が必要です。
専務を解任したのに、従業員として出社すると言われました。
雇用契約が存続しているかを確認してください。取締役の解任が有効でも、就任前からの雇用が終了していなければ従業員としての地位は残ります。本人が就労を申し出ているのに会社が就労を拒めば、雇用が続いている限り賃金の支払義務を負います。出社を拒む前に、雇用の有無、賃金の額、配置の変更の可否、雇用を終了させる場合の解雇の要件または合意の条件を検討します。
登記上の取締役に残業代を請求されました。取締役に残業代を払う必要はありますか。
取締役という肩書だけでは決まりません。取締役に選任されていても、実態が代表取締役の指揮監督下で勤務時間を拘束されて働く労働者であれば、労働基準法が適用され、残業代の支払義務を負い、付加金を命じられることもあります。逆に、業務執行の権限と裁量を持ち、勤務の拘束を受けず、報酬が労務の対価とはいえない取締役であれば労働者ではありません。就任の経緯、権限、業務の内容、拘束の有無、報酬の性質を総合して判断されます。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕309条2項7号、329条1項、330条、332条、339条、341条、361条、402条
- 民法〔e-Gov法令検索〕166条1項、536条2項、651条
- 労働契約法〔e-Gov法令検索〕2条1項、16条、17条1項、19条
- 労働基準法〔e-Gov法令検索〕9条、20条、26条、37条、39条9項、41条2号、114条、115条、116条2項、附則143条
- 労働審判法〔e-Gov法令検索〕15条2項、21条、22条1項
- 法人税法〔e-Gov法令検索〕34条1項・2項・6項(施行令71条1項)
- 賃金の支払の確保等に関する法律〔e-Gov法令検索〕6条
- 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年12月19日)使用従属性(指揮監督下の労働、報酬の労務対償性)を中心とする労働者性の判断基準
- 京都地判平成27年7月31日労判1128号52頁、大阪高判平成28年1月15日労判1130号22頁取締役の肩書を持つ(ただし会社法上の選任手続と登記のない)塾職員について、就任の経緯、業務執行権限、業務の内容、拘束性、報酬の性質を総合して労働者性を肯定し、割増賃金と付加金の支払を命じた裁判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日