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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第95講】

美容カウンセラーが治療を決めていないか ― 営業と医行為の境界

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第95講 美容カウンセラーが治療を決めていないか― 営業と医行為の境界

第Ⅹ部 医療広告・美容医療・自由診療・オンライン診療

美容カウンセラーが、患者の状態を踏まえて治療法を選び、医師は決められた施術を実施するだけになっていないでしょうか。厚生労働省の令和7年8月15日付通知「美容医療に関する取扱いについて」は、このような事例を取り上げ、医師法、保健師助産師看護師法、医療法上の問題を整理しています。通知にある例と似ているだけで犯罪の成立が決まるわけではなく、実際の行為と証拠に基づく判断が必要です。

この講では、カウンセラーの料金案内と医学的な判断、看護師の診療補助と独立した診断を分けて考えます。重要なのは肩書ではなく、誰が患者を診察し、治療の適否・内容を判断しているかです。医師による診察・説明と患者の意思決定が、契約や売上の都合で形だけにならない仕組みを作ります。

例えば、美容クリニックの院長は、午後の外来を終えて、看護師から今日のリストを受け取りました。
「1番の患者様は二重の埋没、3点留め。カウンセラーの田中さんが決めています。2番は糸リフト6本。3番は脂肪溶解注射を3か所。すべて契約済みで、お支払いも済んでいます」
院長は、患者の顔を、その日初めて見ました。

1 医行為・診断・診察 ― 三つの言葉

通知は、法令上の概念を三つに分けて示しています。

概念内容
医行為

通知の整理:医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為。これを反復継続する意思をもって行うのが「医業」で、医師法17条により医師以外には原則として禁止される。看護師等が各資格法に基づいて行う診療の補助等は、別途認められた範囲・条件に従う。

根拠:医師法17条

診断

通知の整理:診察等により得られた患者の様々な情報から、治療方針等について主体的に判断を行い、これを伝達する行為。医学的判断を伴うので医行為に当たる。

根拠:医師法17条

診察

通知の整理:問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの。医師は無診察で治療等をしてはならない。

根拠:医師法20条

無資格者が患者ごとの医学的な判断に基づいて治療法を選び、提案・決定する行為は、手術や注射をしなくても診断として問題になります。単に希望を聞いて医師に伝えることや、確定した料金を説明することとは区別します。無資格者が医業を行えば、医師法17条・31条により、3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその両方の対象となります。

2 カウンセラーの業務と、無資格者にはできない行為

通知が挙げる、無資格者が業として行うことのできない例を整理します。

  • ア 通知が医行為として扱う脱毛、アートメイク、HIFU等。アートメイクでは、針先に色素を付けて皮膚に入れ、眉毛等の身体の構造物や化粧に代わる装飾を描く行為が対象となる。「タトゥー」等と名称を変えても、この実態があれば同じ問題となる。
  • イ 患者の希望や状態を踏まえ、具体的な治療方法を選び、提案・決定するなど、個別の医学的判断を行って伝えること。「料金の説明」という体裁でも、実質的に適応や治療方針を判断していれば問題となる。
  • ウ 侵襲を伴う検体の採取。
  • エ ビデオ通話、電話、メール、チャット等を使って、患者ごとの医学的判断を行い、診断・処方等をすること。対面でないという理由で、無資格者が診断を行えるわけではない。

例えば、治療メニューの料金を説明することと、患者のまぶたを評価して「あなたは埋没法では戻りやすいので切開法がよい」と勧めることは違います。後者は患者ごとの医学的判断に踏み込んでいます。その判断に基づいて先に契約を確定させ、医師が追認するだけの運用をしないでください。

カウンセラーの説明と医学的な判断の区別
項目内容
希望の聴取・事務案内希望や相談事項を聞いて医師に引き継ぐ。受診の流れ、診療時間、一般的な料金、医師の説明後の見積り・日程等を案内する。
医師に戻す質問「私にはどの方法が合うか」「この薬で安全か」「何本必要か」「どの程度改善するか」など、患者ごとの適応・安全性・効果の判断を求める質問。
行わせないこと無資格者が自分で患者の状態を評価し、具体的な治療法・薬剤・施術量を選択し、提案・決定すること。医師の説明を超えて効果を保証すること。

3 看護師の診療補助と医師の指示

看護師等は、医師の指示の下で、職種に認められた診療の補助を行えます。ただし、指示があればあらゆる行為を任せられるわけではありません。通知は、美容医療で次のような行為を問題としています。

  • 看護師等が、医師の指示なく、脱毛行為、アートメイク、HIFU施術等の医行為を行うこと
  • 看護師等が独立して診察し、治療方針を医学的に判断すること。看護師として行う観察・問診の補助等とは区別する。
  • 看護師等が、具体的な治療方法を選択して患者に提案・決定するなど、患者の個別の状況に応じて医学的判断を行い、伝達すること

医師は、必要な診察を行い、治療の適否、実施内容、注意点、中止・報告の基準等を判断します。「脱毛は看護師に任せる」という一般的な取決めだけでは足りません。一方、適切な包括的指示まで一律に禁止されるわけではなく、対象患者の条件、行為の範囲、判断基準、医師への連絡体制等を具体化する必要があります。看護師が独立して治療法を決める状態を作ってはいけません。

4 医師の診察を形だけにしない

設例で、院長が患者を診察せず、カウンセラーの決定どおりに施術すれば、医師法20条の無診察治療が問題となります。診察前に契約・支払があったという一事だけで、同条違反が確定するわけではありません。しかし、後の診察が形だけで、医学的に不適切な治療を中止・変更できない運用は危険です。医師は自ら適応を判断し、必要な説明をし、患者が選び直せる状態を確保してください。

医師が後から適切に診察したとしても、それ以前に無資格者が行った医学的判断の問題が当然になくなるわけではありません。診察の実態と、カウンセラーが行ったことを分けて点検します。

メールやチャットだけで診断・処方を完結させることにも注意が必要です。通知は、必要な医学的情報を十分に集めず、対面診療と同程度の診察ができていないまま診断・処方する場合等に、医師法20条違反のおそれがあるとしています。オンライン診療の指針に沿い、文字や写真だけで診察が済んだものと扱わないでください。事前の問診入力と、医師による診察も区別します(第98講)。

5 院長と法人に何が起きるか

主体帰結
カウンセラー(無資格者)無資格者による医業は、医師法17条・31条の刑事責任が問題となる。看護師等も独立した診断等を行えば、医師法や保健師助産師看護師法の問題となり得る。
医師無診察治療は医師法20条・33条の3により50万円以下の罰金の対象。無資格者等の行為への関与によっては共犯等も問題となるが、自動的に成立するわけではない。医道審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が行う免許処分等も別に検討される。
管理者(院長)医療法15条の監督・管理義務が問題となる。犯罪又は医事に関する不正行為等の要件があれば、28条による管理者変更命令の対象となり得る。
医療機関25条による立入検査等、24条の2の改善命令や業務停止命令が問題となる。業務停止命令違反は29条1項4号、開設者等の犯罪・医事に関する不正は同項5号に関わる。許可取消し・閉鎖等は各要件に従い、すべてが自動的に同じ順番で進むわけではない。
保険医療機関の場合無資格者による診療を医師が行ったものとして保険請求するなど、請求内容に応じて指導・監査や指定等の問題となる。自由診療の違反があれば、すべて不正な保険請求になるわけではない。
患者との関係説明義務違反等の責任、消費者契約法による取消し、所定の美容医療への特定商取引法の適用等が問題となり得る。無資格者が勧誘したというだけで、契約が一律に取り消せるわけではない。開設法人等の民事責任も別に検討する。

通知は、検査を逃れるために医療機関を廃止し、その後に開設し直す対応について、検査の拒否・妨害・忌避に当たる可能性を示しています。廃止したから過去の行為の責任が消えるわけではありません。一方、廃止そのものが一律に違法となるわけでもなく、医療法の検査と、保険医療機関の指定に関する制度は区別して考えます。

6 組織として営業と診療を分ける

カウンセラーを置くこと自体は禁止されていません。必要なのは、医師の診察と医学的判断を省略せず、患者が説明を受けて選択できる順番と役割分担です。次は、無資格者による診断や無理な勧誘を防ぐための院内運用の例です。

営業と診療を分ける設計

  1. 順番 事前の希望の聴取・一般的な料金案内は可能。個別の治療方針は医師の診察・説明で決め、その後に具体的な費用・日程・契約の手続を進める。
  2. 役割の明文化 独立した適応判断、治療方法・施術量の選択、個別の効果の見込みの判断を業務から外す。名称を「受付」「コーディネーター」に変えるだけでは足りない。
  3. 説明の範囲 一般的な事実の案内と、患者ごとの判断を分ける。個別の安全性・適応・効果を尋ねられたら医師につなぐ。医師の説明を補助するときも、独自の推奨や保証を付け加えない。
  4. 契約の時期 具体的な治療契約は医師の診察・説明を経てから進める運用にする。診察結果によって変更・中止できることを説明し、先払いによって不要な治療を断れなくしない。
  5. 評価・報酬制度 高額契約の獲得だけを評価すると、過度の勧誘や診療への介入を招くおそれがある。安全性、説明の適切さ、患者の意思の尊重を含めて見直す。診察後の契約であっても、無理な勧誘が許されるわけではない。
  6. 看護師への指示 診察結果、施術の内容、必要な条件・注意点、変更・中止・報告の基準を記録する。包括的指示を使う場合も、個々の患者が適用条件に合うか、医師に連絡できるかを確認する。
  7. 管理者の勤務 原則として診療時間中の常勤が求められる。地域事情、育児・介護等に関する所定の例外では、連絡体制等を確保して管理責任を果たす必要がある。長期不在で責務を果たせない状態を放置しない。
  8. 安全管理の体制 安全管理指針、定期的な職員研修と記録、医薬品・医療機器の安全管理等を整える。令和7年の美容医療通知では職員研修を年2回程度とし、必要時の開催も求めている。施設ごとの要件と、その後の制度改正・施行時期も確認する(第89講)。
  9. 診療録 診察の内容、判断、説明、指示を、医師法施行規則23条の記載事項を満たす形で記録する(第72講)。カウンセリング記録はカルテの代わりにならない。

7 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 患者の来院から契約までの実際の流れを書き出し、医師の診察が治療内容の決定より前にあるかを確認する
  • カウンセラーの業務内容と台本を、通知の「違法な例」イに照らして点検する
  • カウンセラーの歩合給の算定方法を確認する
  • 看護師の施術について、患者ごとの医師の指示がカルテに残っているかを確認する

やってはいけないこと

  • 医師の診察前に、治療内容を確定した契約と支払を受ける
  • 「料金の説明」の名目で、カウンセラーに治療方法を提案・決定させる
  • 必要な診察・適応判断や具体的な指示を欠いたまま、看護師に美容施術を任せる
  • 問題が発覚してから医療機関を廃止して逃れようとする

8 よくある質問

カウンセラーが「一般的には埋没法が人気です」と言うのは問題ですか。
一般的な情報を伝えただけで、直ちに医行為になるわけではありません。ただし、根拠のない人気を強調したり、患者の状態を評価して特定の方法を勧めたりすれば、別の問題が生じます。「一般的には」という前置きに頼らず、適応や効果についての個別の質問は医師につないでください。
医師が診察したあと、カウンセラーが「先生はAかBと言っていましたが、Bの方が効果が長持ちしますよ」と勧めています。
カウンセラー自身がその患者への効果を判断し、一方を勧めているなら問題です。医師が行った説明を正確に補足する場合とは区別します。迷っている患者には、費用や日程だけで治療法を選ばせず、医師が再度説明する機会を設けてください。
通知は美容医療についてのものですが、一般の診療所には関係ありませんか。
医師法等の基本的な制約は、美容医療だけのものではありません。AGA、減量、再生医療等でも、無資格者が個別の医学的判断を行い、医師が形だけ追認する運用には同じ問題が生じ得ます。実際の行為と各治療に適用される規制を確認してください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 医師法

    4条の相対的欠格、7条の戒告・医業停止・免許取消しと手続、7条の2の再教育等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

  4. e-Gov法令検索:消費者契約法

    消費者の定義、4条の取消しの要件等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061
  5. e-Gov法令検索:保健師助産師看護師法

    看護師等の業務範囲、医師の指示に基づく診療補助、守秘義務等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000203
  6. 消費者庁:特定継続的役務提供

    美容医療の対象、クーリング・オフ、中途解約と上限額。

    https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/
  7. 厚生労働省:医療法に基づく立入検査要綱(令和8年6月)

    令和8年6月12日医政発0612第9号。対象、検査方法、改善、施設表・検査表。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711282.pdf
  8. 厚生労働省:令和8年度の医療法に基づく立入検査の実施通知

    令和8年6月12日医政発0612第10号。医療安全、オンライン診療、広告、人員配置、外来医師過多区域等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711283.pdf
  9. 厚生労働省:美容医療に関する取扱いについて

    令和7年8月15日医政発0815第21号。無資格者、看護師、医師、管理者の責務と行政の対応。条番号等は現行法も併せて参照。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001586600.pdf
  10. 厚生労働省:現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について

    令和3年9月30日医政発0930第16号。看護師の業務範囲、包括的指示、医師への連絡等。日本助産師会掲載の通知本文。

    https://www.midwife.or.jp/user/media/midwife/page/midwife/political_notification/pdf/030930_2.pdf

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