「広告は代理店に丸投げしていた」「インフルエンサーが勝手に盛った」。責任の所在をめぐる主張は、行政対応でも民事紛争でも必ず登場します。結論から言えば、行政法上の責任はほぼ広告主に集中し、民事上の責任は契約と過失に応じて分配されるという二層構造で理解するのが正確です。
景品表示法の名宛人は「供給主体」
景品表示法5条は「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について」不当な表示をしてはならないと定めます。したがって、措置命令・課徴金の名宛人となるのは、原則としてその商品・役務を供給する事業者、すなわち広告主です。広告代理店や制作会社、媒体社、インフルエンサーは、その商品を自ら供給していない限り、景品表示法の直接の名宛人にはなりません。
ただし「供給」の範囲は広く、メーカーだけでなく、小売業者・輸入業者・OEM委託者も供給主体です。東京高裁平成20年5月23日判決(ベイクルーズ事件)は、輸入業者から提供された原産国情報を信じて表示した小売業者について、表示内容の決定に関与した以上「表示をした事業者」に当たるとしました。「他社の情報を信じただけ」は免責事由にならないのです。
複数の事業者が「表示をした事業者」になる場合
消費者庁の運用では、表示内容の決定に関与した事業者は、いずれも「表示をした事業者」となり得ます。共同キャンペーンの広告、フランチャイズ本部と加盟店、プラットフォームと出店者などでは、複数の事業者に同時に措置命令が出た例があります。誰が原稿を最終確認したか、誰の名前で出稿されたか、といった事実関係が決定的です。
広告代理店・制作会社の民事責任
代理店・制作会社は景品表示法の名宛人ではありませんが、広告主との契約上、法令適合性を確認する義務を負うことがあります。広告主が措置命令・課徴金を受けた場合、代理店に対し債務不履行(民法415条)や不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をする余地があり、逆に代理店側は「法令チェックは業務範囲外」「広告主が原稿を承認した」と反論します。契約書にどう書かれているかが、そのまま結論を左右します(第20講)。
インフルエンサーの責任
ステルスマーケティング規制の名宛人も広告主のみで、投稿したインフルエンサー自身は景品表示法上の処分対象外です。ただし、インフルエンサーは①広告主との契約上の責任、②虚偽の事実を投稿した場合の民法上の不法行為責任、③薬機法66条・68条(「何人も」が主語であり、インフルエンサー個人も名宛人になり得る)の責任を負います。薬機法では、広告主でない個人が刑事責任を問われた事例もあります。
媒体社・プラットフォームの責任
新聞社・テレビ局・ウェブメディア・ECモールは、広告の掲載主体ですが供給主体ではないため景品表示法の名宛人になりません。ただし、各社は自主的な広告審査基準を設けており、審査不通過や掲載停止は事実上の大きな制裁になります。また、ECモール運営者は、令和4年施行の「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」のもと、出店者の表示の適正化に協力する努力義務を負っています。
実務ポイント
・行政処分は広告主に集中する。「代理店任せだった」は抗弁にならない。
・情報の提供元を信じただけの小売・輸入業者も「表示をした事業者」になり得る(ベイクルーズ事件)。