「消費者庁表示対策課の者ですが、御社の◯◯という商品の表示についてお伺いしたい」。この連絡が来た日から、事業者の対応の巧拙が結果を大きく左右します。最初の48時間で決まるのは、処分の有無ではなく、その後の手続を有利に進められる体制が整うかどうかです。
連絡の「種類」を見極める
消費者庁(または権限委任を受けた都道府県・公正取引委員会地方事務所)からの連絡には、法的性質の異なる複数の段階があります。
- 任意の事情聴取・照会:電話や文書で「表示の経緯を教えてほしい」「資料を任意で提出してほしい」と求められる段階です。任意の要請である限り法的義務はありませんが、対応内容によっては、当局が法定の報告徴収・立入検査等を検討することがあります。回答する場合には、事実関係を確認した上で、提出資料と説明内容の整合性を確保することが重要です。
- 不実証広告規制に基づく資料提出要求(景品表示法7条2項):消費者庁長官又は権限を有する都道府県知事等は、優良誤認表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるとき、事業者に対し、文書により表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。提出期限は原則として要求の日から15日です。期限内に合理的な根拠を示す資料を提出しない場合等には、措置命令との関係で優良誤認表示とみなされます(第10講)。要求の交付方法や、これに先立って任意の事情聴取・照会が行われるかどうかは事案により異なります。
- 報告命令・立入検査(同法25条):25条1項に基づく報告徴収、物件提出命令、立入検査等には法的義務があり、拒否、虚偽報告、検査妨害等には同法47条の罰則があります。実際の調査手法は事案によって異なり、任意の資料提出や訪問による確認が行われることもあります。
- 弁明の機会の付与の通知:措置命令・課徴金納付命令の前段階で、予定される処分の内容や理由等が示され、事業者には反論・証拠提出の機会が与えられます(第17講)。通知を受けた場合は、対象表示、対象期間、事実認定及び法的評価を精査し、反論すべき点があれば期限内に主張・立証することが重要です。
- 確約手続の通知(同法26条又は30条):令和6年10月から導入された、違反被疑行為等を事業者の自主的な取組により是正するための手続です。消費者庁が確約手続に付すことが適当と判断して通知を行った場合、通知を受けた事業者は60日以内に確約計画の認定を申請できます(第19講)。
当局からの連絡の方法や調査の進み方は事案によって異なります。任意の電話・文書照会を受けた段階で、どの広告・表示が問題とされているかを把握し、必要に応じて早期に弁護士へ相談することが重要です。あわせて、問題となっている表示の範囲を把握し、掲載・使用を継続するか中止するかを速やかに検討します。掲載期間は課徴金の対象期間等にも関わり得るためです。
最初の48時間にすべきこと
(1)弁護士への相談と対応窓口の一本化。担当者が個別に回答を始めると、後に整合しない説明が積み重なるおそれがあります。回答は事実確認と社内確認を経た上で行う体制にします。代理人選任の要否は事案によりますが、重要な報告書・回答書等については、提出前に法的観点から確認することを当事務所では推奨します。
(2)対象表示の特定と保全。問題とされた表示(ウェブページ、SNS投稿、チラシ、動画)を、日付付きで保存します。掲載期間・媒体・掲載範囲を確定します。行政は「いつからいつまで、どこに表示されていたか」を課徴金の対象期間として問題にします。
(3)根拠資料の所在確認。表示の各主張に対応する根拠資料があるか、誰が持っているか、外部(メーカー・代理店・試験機関)から取り寄せる必要があるかを確認します。7条2項の要求が来てから探し始めたのでは間に合いません。
(4)掲載中止の判断。問題の表示を継続すれば、対象期間や一般消費者への影響が拡大する可能性があります。他方、掲載を中止するか否かは、表示の問題点、根拠資料の有無、行政からの指摘内容等を踏まえて速やかに判断する必要があります。掲載中止それ自体が直ちに違反の自認を意味するものではありませんが、その後の説明との整合性を確保しておくことが重要です。
(5)関係者への箝口。役員・従業員・代理店・インフルエンサーに対し、行政からの連絡について外部に発信しないよう指示します。
「証拠を隠す」「口裏を合わせる」は最悪の選択
報告命令に対する虚偽報告・資料の隠匿は罰則の対象であり、行政の心証を決定的に悪化させます。また、社内メールや原稿のやりとりは、立入検査や報告命令で提出を求められる可能性もあります。存在する事実を前提に、最善の説明を組み立てるのが弁護士の仕事です。
やってはいけない初動、担当者へのヒアリング
・担当者が電話で「根拠はありません」「そういう意図はなかった」と即答する ・「代理店に任せていた」「小さな会社なので分からない」と責任回避の説明をする ・問題の表示を、行政に伝えずに黙って書き換える ・行政の担当者に感情的に抗議するといった行動はやってはいけません。
・会社としては、問題となった広告の作成・承認に関与した者を特定し、必要に応じて弁護士も関与して事実関係を事前に確認しておくことが重要です。当局が広告作成に関与した担当者等から事情聴取を求めることもあるため、会社としても、誰がどのように表示内容を決定し、どの根拠資料を確認したのかを把握しておく必要があります。事情聴取への弁護士の同席の可否や進め方は、事案・当局の運用により異なるため、個別に確認します。
実務ポイント
・連絡の法的性質(任意・7条2項・25条・弁明通知・確約通知)を条文で確認し、期限を把握する。
・48時間で、窓口一本化・表示の保全・根拠資料の所在確認・掲載中止の判断・箝口の5つを行う。
・証拠隠匿と虚偽報告は罰則の対象であり、事案を致命的に悪化させる。広告作成担当者に対するヒアリングが行われることもあるので、事前に会社としても当該担当者と話をしてどのような内容となるかを把握しておく。
作成日付:2026年9月15日