家庭裁判所で争われる遺産分割事件の多くに、不動産が登場します。現金1億円は1円単位で分けられますが、自宅と賃貸アパートと駐車場は物理的に切り分けられないからです。
不動産相続・3つの構造的難点
第一に、分けられないこと。相続開始と同時に、不動産は相続人全員の共有(正確には遺産共有)になります(民法898条)。誰か一人のものにするには、相続人全員の合意による遺産分割協議(民法907条)か、家庭裁判所の調停・審判が必要です。
第二に、値段が一つに決まらないこと。固定資産税評価、相続税路線価、実勢価格、収益価格──同じ物件に複数の「値段」が併存し、どれを採るかで取り分が大きく変わります(第3講)。
第三に、時間が敵になること。相続税の申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から10か月(相続税法27条1項・33条)。この短い期間に、評価・分割・納税資金の3つを同時に解かなければなりません。
この連載で扱うこと
事前対策(遺言・任意後見・家族信託・生前贈与)、「節税」の落とし穴(タワマン・アパート建築)、分け方の技術、納税と出口、そして紛争になったときの戦い方。地主・大家・その相続人が直面する論点を、24講で網羅します。