第1講不動産オーナーの相続24講
不動産オーナーの相続は、何から考えるべきか ― 家族・物件・お金を一枚の地図にする
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「財産はある。でも、子どもが平等に分けられる気がしない」「アパートを残したいが、誰が経営してくれるのか分からない」。不動産オーナーの相続では、こうした悩みが重なります。
この講の要点最初に必要なのは、節税策を選ぶことよりも、誰が何を引き継ぎ、その後の暮らしと経営が成り立つかを確かめることです。 土地の価格だけでは、相続の難しさは測れません。借入金、修繕費、納税資金、家族の希望まで並べると、準備すべきことが見えてきます。
不動産相続で同時に解く、五つの問題
| 見る対象 | 最初に確認すること | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 家族 | 相続人、遺言、居住者、承継意思 | 継ぐ予定の子が引受けを望んでいない |
| 権利 | 土地・建物の名義、共有、借地、担保、境界 | 自分だけでは売却できない |
| 経営 | 実収入、返済、管理費、修繕計画 | 家賃は入るのに現金が残らない |
| 負債 | 借入、保証、敷金、滞納税金 | 不動産の取得者と債務の負担者が食い違う |
| 資金と期限 | 預貯金、納税、代償金、生活費 | 資産を持ちながら支払資金に困る |
相続人が複数いる場合、分割対象の不動産は、原則として遺産共有の状態から出発します。ただし、遺言の内容などによって承継の仕方は異なります。「親が亡くなれば、管理をしていた子が当然に所有者になる」とは限りません。基本となるのは、民法898条・900条・907条の相続・遺産分割の仕組みです。
物件一覧は住所だけで終わらせず、所有者・入居者や借地人・担保を持つ銀行・管理者を一列に並べます。土地は父、建物は母、管理は子の会社という物件では、誰が亡くなったかによって問題も変わるからです。
また、個人所有の不動産と、同族会社所有の不動産は区別します。会社がアパートを持っているなら、原則として相続するのは会社の株式であり、アパートそのものではありません。会社への貸付金や経営者保証まで調べて、承継の対象を取り違えないことが大切です。
「いくらあるか」と「いくら使えるか」は別の質問
時価1億円の物件を引き継いでも、その日に1億円を支払えるわけではありません。売却には買主探しや調査の時間がかかり、売れた後も借入返済・税金・売却費用が残ります。
賃貸経営も同じです。年間賃料から管理費や固定資産税を引いただけでなく、借入金の元本返済、退去に伴う費用、将来の修繕に備える金額まで確かめます。元本返済は原則として所得税計算上の必要経費になりませんが、手元の現金は減ります。申告書の所得と資金繰りを分けて見る理由は、ここにあります。
相続税が発生する場合、申告・納付は原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内です。相続税がかからない家でも、代償金や修繕費を巡る問題は残ります。国税庁「相続税の申告と納税」
架空の設例:兄にはアパート、妹には現金。それで公平か
父の財産は、アパート9,000万円、自宅3,000万円、預金1,000万円。アパートの借入残高は4,000万円で、相続人は子二人とします。いずれも説明用の仮定で、実際の受任事例ではありません。
兄がアパートを継ぐ案では、名目上の価格だけを見ると兄が多く取得します。しかし、借入の負担、修繕の必要性、妹に支払う代償金を加えると、経営が続かないかもしれません。反対に「ローンがあるから安い物件」と決めつけると、将来の収益力を見落とします。
ここでは、物件の評価、銀行との債務調整、代償金、納税後の資金残高を別々に試算し、最後に一つの案にまとめます。相続人同士で借入の負担者を決めても、銀行に対する責任まで当然に変えられるわけではありません。詳しくは第13講で扱います。
進め方は「調べる→希望を聞く→比べる→実行する」
第一に、登記と収支資料から現状を把握します。第二に、家族それぞれが「住みたい」「経営したい」「現金で受け取りたい」のどれを望むかを確認します。第三に、保有・一部売却・全部売却の案を、税引後の手残りと将来の負担で比較します。そのうえで、遺言、分割協議、登記、銀行対応の順序を決めます。
親の思いを守ることと、子どもに経営を強いることは同じではありません。継がせる案と、無理なく手放せる案の両方を用意しておくと、家族は話し合いやすくなります。
今日確認したいこと
- 不動産一覧に、借入・家賃・敷金・修繕予定を並べているか。
- 「誰に残したいか」だけでなく、その人の引受け意思を聞いているか。
- 配偶者の住まいと生活費を、相続後も確保できるか。
- 納税・代償金・修繕の支払時期を重ねて確認しているか。
よくあるご質問
Q. 顧問税理士に相談していれば、弁護士への相談は不要ですか。
A. 税額の試算に加え、家族間の権利調整、遺言の有効性、債務や賃貸借の承継を整理する必要がある場合は、法律面の検討を組み合わせる意味があります。担当を分けつつ、同じ承継案を共有することが大切です。
Q. まだ家族でもめていません。早すぎませんか。
A. 希望を落ち着いて聞ける時期こそ、選択肢を比較しやすい段階です。遺言や判断能力低下への備えには、本人が内容を理解して決められるうちに行う意味があります。
明徳法律事務所への相談で整理できること
まずは、固定資産税の課税明細書、借入返済表、賃料一覧と、家族関係が分かるメモをお持ちください。資料が一部でも、確認すべき不足情報を整理できます。誰が取得するか、誰がお金を払い、誰が経営を担うかを具体化し、税務や評価の専門家に確認すべき点も含めて、次の行動を組み立てます。