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『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第17講】

手取りはいくらか ― 払戻額・配当所得・源泉徴収の時期を分ける―

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第17講】

17第Ⅲ部 清算金編第17講

手取りはいくらか
― 払戻額・配当所得・源泉徴収の時期を分ける ―

額面2,000万円で合意しても、振込額と最終的に残る額は同じではありません。本講では、日本の居住者である個人社員に、国内の税理士法人・社労士法人が持分を払い戻す場面を扱います。非居住者や法人出資者の課税は、この設例の対象外です。

1 みなし配当と譲渡所得を分ける

所得税法25条1項6号は、退社・脱退による持分の払戻しをみなし配当の事由としています。資本金等対応額は、原則として、払戻し直前の法人の資本金等の額を、その払戻しに係る出資金額の割合で配分して求めます(所得税法施行令61条2項6号)。法人全体の税務上の資本金等の額、分母となる出資総額、対象出資金額を申告書・出資履歴と照合します。

記号計算
R払戻しとして交付する金銭・金銭以外の資産の価額
K法令により算定する資本金等対応額
D(みなし配当)max(R−K,0)
譲渡対価部分R−D
株式等の譲渡所得等譲渡対価部分−出資の取得費等

社員個人の取得費と、法人の資本金等対応額は別の数値です。他の社員から持分を取得した場合や資本取引を経た場合には一致しません。また、RがKを下回る場合、譲渡対価部分はKではなく実際のRです。一般株式等の譲渡損失を配当所得や給与所得から当然に控除できるわけでもありません。

2 支払時の源泉徴収と、未払いの場合の1年ルール

この設例のみなし配当について、法人は所得税・復興特別所得税の合計20.42%を源泉徴収します(所得税法181条・182条)。原則の納付期限は徴収した月の翌月10日です。非上場の配当について住民税の配当割を併せて特別徴収する扱いではありません。

支払が確定してから1年を経過した日までに未払いの場合には、その1年経過日に支払があったとみなして源泉徴収します(181条2項)。「支払の確定した日」と「現実に支払った日」を別欄で管理してください。基本通達181−5は、1年経過日を支払確定日の翌年の応当日の翌日としています。分割払いにも未払残額についてこの規定が問題になります。

相殺や現物での履行は、現金の振込みがないというだけで徴収不要になるものではありません。第13講の承継対価との相殺では、払戻しの税務上の総額、配当部分、相殺に充てる額、本人への現金、国への源泉税納付額を分けて合意します。源泉税まで相殺したつもりになって、納付資金が不足しないようにします。

3 額面2,000万円の計算例 ― 条件を固定する

出資総額と法人の資本金等の額はともに2,000万円、Aの金銭出資は500万円、取得費も500万円、払戻額は2,000万円とします。過去の資本取引、現物交付、相殺、出資取得のための借入利子はないものとします。

項目算式・金額
資本金等対応額2,000万円×500万円÷2,000万円=500万円
みなし配当2,000万円−500万円=1,500万円
株式等の譲渡所得等500万円−取得費500万円=0円
源泉徴収額1,500万円×20.42%=3,063,000円
支払時の振込額20,000,000円−3,063,000円=16,937,000円

最終手取りの一例。課税年を2025年とし、配当を加える前から所得税・住民税の課税総所得金額がいずれも5,000万円であるケースを置きます。所得控除・他の税額控除の額は払戻しの有無で変わらず、国内法人配当として配当控除を適用できるものとします。所得税の配当控除率は5%、住民税所得割は標準税率合計10%、その配当控除率は合計1.4%と置きます。住民税は2026年度分です。

配当が加わることによる税負担算式・金額
所得税の増加額(配当控除後)1,500万円×(45%−5%)=6,000,000円
復興特別所得税の増加額6,000,000円×2.1%=126,000円
住民税所得割の増加額1,500万円×(10%−1.4%)=1,290,000円
税負担の増加額合計7,416,000円
うち源泉徴収済み3,063,000円
その後の所得税等・住民税の負担増合計4,353,000円
払戻しに係る税負担増を差し引いた残額20,000,000円−7,416,000円=12,584,000円

この残額は、払戻しによって増える所得税等と住民税所得割だけを差し引いた値です。他の所得に元々かかる税、社会保険料、均等割、取引費用は含めません。すべての人の手取りを示す数字ではありません。他の所得が少ないケースにはこの税率を使えず、基礎控除その他の所得控除、配当控除の1,000万円の境界、住民税の計算を別途反映します。他の所得や控除の条件を変える場合は、税額表から再計算します。

4 法人側の処理と分割払い

持分払戻し自体は資本等取引であり、法人の損金にはなりません(法人税法22条5項)。資本金等の額と利益積立金額の減少を区分します。ただし、現物交付に伴う資産の譲渡損益、別途の事業譲渡、支払利息、退職給与まで同じ処理になるという意味ではありません。

分割払いを合意しても、社員の所得が各入金年に自動的に分散するわけではありません。所得の権利確定、実際の支払、181条2項の未払配当のみなし支払を別々に判定します。所得認識が先行するなら、社員側の納税資金と法人側の源泉税納付資金の双方が必要です。遅延損害金・利息は払戻元本と区別して計算します。

5 死亡退社 ― 裁決・判決が判断したこと

国税不服審判所令和4年6月2日裁決は、合資会社の無限責任社員が死亡退社した事案で、未払いでも具体的な持分払戻請求権を取得したことによる経済的利益を認め、被相続人のみなし配当所得と過少申告加算税の「正当な理由」を判断したものです。公表裁決の争点は、法人の源泉徴収時期そのものではありません。

名古屋地裁令和6年2月22日判決(税務訴訟資料274号・順号13948)は、死亡退社後に相続人らが払戻額を0円とする合意をしても、死亡時に具体化した権利とその課税を遡って消せないと判断しました。判決の認定額は払戻請求権8,370万円、出資対応額155万円、みなし配当8,215万円です。相続税の評価、被相続人の所得税、法人の源泉所得税を別の争点として扱っています。

誰の、何の問題か同判決の判断
被相続人の所得税死亡退社により具体的な払戻請求権が確定し、その時点でみなし配当所得が生じる。判決13〜15頁
法人の源泉徴収未払いのため181条2項を適用し、死亡による支払確定日の翌年の応当日の翌日に徴収・納付義務を認める。判決15〜16頁
相続人の相続税相続開始時の払戻請求権を評価し、後日の0円合意による遡及的な評価減を認めない。判決11〜13頁

したがって、「所得が死亡時に認識される」ことから「現金未払いでも死亡当日に源泉徴収する」とは導けません。これは合資会社の事案における地裁判断であり、士業法人では脱退の効力発生日、定款の払戻規定、権利確定の内容を対応させる必要があります。一般的な任意脱退の全事案について、一律に同じ日を課税日とする説明もしません。

相続税では、請求権の評価と被相続人の所得税債務等の控除を整合させ、同じ源泉税を請求権から差し引きながら債務として再び控除することを避けます。準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内が原則です。法人の源泉税の期限とは別に管理します。

6 労務出資 ― 民事の評価額を税務の元本にしない

労務出資の定款評価額、会計上の資本金、税務上の資本金等の額、社員個人の取得費は、同一ではありません。日税連「税理士法人の手引」は労務・信用出資を資本金に計上しないと説明していますが、これだけで各税法の計算がすべて決まるわけではありません。

高橋正朗「労務出資等に関する法人税法上の取扱いについて」(税務大学校論叢62号、2009年)451〜452頁は、会社財産としてのみなし配当計算には労務出資等を含めず、純粋な労務出資社員への交付額は出資元本の返還を含まないため全額が剰余金の分配になる、という著者の整理を示しています。普通配当としての剰余金分配と、所得税法25条のみなし配当は、課税の構成が異なります。これは研究論文の見解であり、通達や個別事案への行政回答として引用してはいけません。

計算では、まず金銭・財産の実際の拠出とその後の資本取引を復元し、利益分配・報酬・立替金返還等を分けます。労務に定款上1,000万円の評価があるという理由だけで、払戻しから1,000万円を非課税の元本として控除しません。金銭出資を併有する場合にはその部分を別に追い、純粋な労務出資の場合は、普通配当としての剰余金分配か、25条のみなし配当かという法的構成から確認します。具体的な申告処理に解釈の対立が残る場合は、事実と算式を示した照会を行い、回答・採用理由を記録します(補講②)。

7 合意書には額面・源泉税・現金を別々に書く

交渉では、希望額が額面か、支払時の振込額か、確定申告後の残額かを確認します。合意書は、額面、資本金等対応額、配当額、源泉税、相殺額、現金支払額を区分して作ります。相手の最終税額まで法人が保証する設計を採る場合には、他所得・控除・税制改正・修正申告をどう扱うかまで定めなければなりません。額面を一律1.2〜1.5倍にする方法では計算できません。

退職慰労金は、実際の退職に基づく勤務の対価として独立に検討します。適正額であれば退職所得や法人の損金の対象になり得ますが、持分払戻しの単なる名目変更では足りません。役員等勤続年数5年以下の特定役員退職手当等には2分の1課税がないこと、過大役員退職給与等の損金不算入にも注意します。退職金の支給が法人財産の評価にどう反映されるかも二重計上なく整理します。

【本講の根拠・参照資料】

所得税法25条・30条・36条・92条・125条・181条・182条/所得税法施行令61条/所得税基本通達36−4・181−5/法人税法22条・24条・34条/租税特別措置法37条の10。

国税庁No.1330 配当所得/No.1250 配当控除・パターン4/No.2260 所得税率。第3節は2025年分の条件を固定した設例で、住民税所得割・配当控除は標準税率による。

令和4年6月2日裁決(公表裁決事例集127集)/名古屋地裁令和6年2月22日判決・税務訴訟資料274号順号13948(11〜16頁)/高橋正朗・税務大学校論叢62号451〜452頁、455〜462頁。

【住民税計算の根拠】地方税法35条・314条の3、附則5条1項1号・3項1号。設例の1,000万円超部分の配当控除は、一般の市町村では道府県民税0.6%+市町村民税0.8%=1.4%(指定都市では0.28%+1.12%=1.4%)。標準税率による設例であり、自治体の超過課税等は含めない。

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