ホーム ─ 連載コラム ─ 病院・クリニック経営150講 ─ 第148講

『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第148講】

閉院したのに借金とリースだけ残った ― 廃業を決めるタイミング

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第148講 閉院したのに借金とリースだけ残った― 廃業を決めるタイミング

第ⅩⅤ部 M&A・出口戦略・廃業・危機管理

廃業の判断を遅らせると、選択肢と手元資金が減るおそれがあります。廃業費用は規模・契約条件で大きく異なり、原状回復、リース、退職精算、借入等が重なると高額になることがあります。必要額を個別に見積もり、事業継続と廃業の双方について資金繰りを比較してください。

この講では、経営を見直す兆候、継続と閉院の資金比較、第三者承継・居抜きの検討、借入・保証の整理、法的手続を扱います。早めの相談は、閉院を急ぐためではありません。診療を続ける方法も含め、選択肢があるうちに判断するためです。

例えば、院長は、3年前から「来年は持ち直す」と言い続けていました。患者は減り、赤字は続き、借入の返済は役員報酬を削って続けました。
去年、ついに廃業しました。しかし、その時点で法人の現預金は底をつき、原状回復費用も、職員の退職金も、リースの残債も払えませんでした。借入3,800万円とリース残債1,400万円は、院長の個人保証で残りました。
院長は言いました。「3年前に閉めていれば、退職金を払って、原状回復をして、借金を返して、まだ手元に残った。私は、3年かけて、自分の退職金と老後の資金を、赤字の穴埋めに使った」。

1 廃業を考え始める兆候

見直す兆候調べること
患者数・収益の低下月次と複数年の推移、季節性、診療日数、地域人口、診療報酬、紹介経路等を調べる。3年続いたら必ず構造的な減少と決まるわけではない。改善策の効果と費用を見積もる。
院長報酬の減額・資金投入一時的な対応か、継続しないと返済できない状態かを区別する。法人の資金と院長の生活費・個人資産を分け、報酬を減らしただけで個人資産が同額減るとは考えない。
設備更新の先送り安全上必要な更新、修繕、代替手段、診療内容の見直しを比較する。必要な安全対策を資金不足のまま放置しない。
院長の健康・後任不在年齢だけで閉院を決めず、診療できる体制、健康、本人の希望、後任・代診の候補を確認する。65歳を共通の判断基準にしない。
職員の退職・採用難退職理由、勤務条件、診療への影響を調べる。職員が経営悪化を見抜いた結果と決めつけず、改善可能な問題を探す。
資金調達の変化融資条件、担保・保証、返済予定、必要な運転資金を確認する。追加融資がない場合の資金繰りも試算する。
改善計画が進まない目標、期限、担当、必要資金、実績との差を確認する。「来年は」という期待だけで新たな資金投入を続けない。

2 「もう1年」の罠

患者や職員への責任、診療を続けたいという希望は、判断の大切な要素です。同時に、継続すれば改善する根拠と、見通しが外れた場合の負担を確かめます。資金の流出が続く状態で判断を延ばすと、次のような問題が生じ得ます。

  • 資金の流出が続けば、閉院や診療の引継ぎに使えるお金が減る。会計上の赤字と現金の減少は同じではなく、減価償却、借入元本、設備投資、未収金等も確認する。
  • 報酬の減額や個人資金の投入により、生活資金・将来の蓄えへ影響する。法人と個人の資金繰りを別々に作る。
  • 新たな借入や返済猶予で残債・利息・保証の負担が変わる。元本返済が進む場合もあり、実際の残高で比較する。
  • 設備の劣化や契約更新が、将来の更新費・解約費・売却条件に影響する。
  • 後任の探索や自分の健康への備えに使える時間が減ることがある。
  • 人員不足や診療体制の縮小によって、患者の診療継続と事業の承継が難しくなることがある。

もう1年続けることで、改善や承継の準備が進む場合もあります。継続の判断には、目標だけでなく、資金の下限、再検討する日、改善しない場合の対応を付けてください。支払不能等が疑われるときは、その日まで待たずに相談します。

3 廃業に必要な資金を見積もる

廃業資金の見積り(第147講の各項目)

  1. 原状回復費用 賃貸借契約の範囲で、業者の見積り。
  2. リース等の精算額 残リース料の合計だけでなく、契約ごとの終了条件、返還費、控除等を確認する。
  3. 職員への支払 賃金、未払残業代、発生する退職金、必要な解雇予告手当等を職員ごとに計算する。
  4. 賃貸借の解約予告期間中の賃料 診療終了後も発生する分。
  5. 設備・医薬品の処分費用 廃棄・運搬。
  6. 専門家・保存等の費用 必要な弁護士・税理士・司法書士等への依頼、記録の保管、電子カルテの移行・閲覧、閉院後の連絡窓口の費用。
  7. 法人の解散・清算の費用 公告・登記。
  8. 借入・その他の債務 残高、担保、保証、未納税・社会保険料、患者への返金等を確認する。回収見込みと支払時期を分け、資産の売却代金が担保権者への返済に充てられる場合も反映する。
  9. 院長の生活資金 閉院後の収入、住居費、生活費、税・社会保険、個人債務を別に試算する。法人の資金を院長の生活費として先に取り分けてよいわけではない。

法人の閉院に必要な資金と、院長個人の生活・保証の資金を分け、入出金の時期まで比較します。資産の帳簿価額が大きくても、必要な時期に現金化できなければ支払に足りません。不足額の全てが院長の保証債務になるわけでもなく、契約と法的責任を確認します。

見積りは閉院を考え始めた時点で作り、継続・改善・承継の場合の資金繰りと並べます。「今なら全額を払えるが、先では難しい」という結果は、早急に方針を協議する合図です。既に資金が不足していても、閉院や債務整理ができないわけではありません。資産を隠したり、親族等へ先に返済したりせず、専門家へ状況を開示してください。

4 承継・居抜き・廃業の比較

選択肢資金・診療・手続の確認事項
経営改善・診療体制の見直し改善効果、必要な投資、実行期間と資金を試算する。規模縮小や連携等も含め、患者の安全を確保できるか、改善しない場合の方針を検討する。
第三者承継代金、残る債務・保証、手数料・税、引継ぎ義務を含めて比較する。同じ法人の承継と事業譲渡では責任の帰属が異なる。買い手がいれば売り手の費用・保証が全てなくなるわけではない。
居抜き・設備等の譲渡賃貸人の合意による原状回復義務の扱い、設備の代金、リース移転と旧保証の解除を確認する。患者の選択、職員の承諾、開設・保険指定は別に整える。
閉院・通常の清算資産の換価、債務・前受金等の精算、患者の紹介、雇用終了、記録保存を行う。設備等の売却収入がある場合もあり、対価が常にゼロという意味ではない。医療法人は必要な解散・清算手続を別に進める。
債務整理を伴う閉院資金不足や保証負担を、私的整理・裁判所の手続等で整理する。患者・職員への対応も含め、利用できる制度と日程を早期に検討する。資金が尽きるまで待って選ぶ手続ではない。

どの方法が有利かは、代金だけでなく、費用・税・残る債務・保証・勤務義務と、患者・職員への影響で変わります。承継先を探しながら閉院費用も見積もり、探索に使える期間と資金の上限を決めます。条件の悪い承継を受け入れるより、計画的な閉院が適する場合もあります。

5 金融機関との早期相談と経営者保証ガイドライン

借入がある場合は、閉院や返済に関する契約条件を早い段階で確認します。資金繰りが厳しいときは、まず弁護士・税理士等と債権者全体への対応を整理し、金融機関へ正確な資料を示して協議します。実現できない返済計画や追加の個人保証を、その場で約束しないことが大切です。

閉院による期限の利益の喪失や一括返済の条件は、借入契約ごとに確認します。診療報酬、設備売却、敷金等の入金見込みと、職員への支払、税・社会保険、記録保管等を含む資金繰りを示します。返済猶予や条件変更には相手方との合意が必要です。

経営者保証ガイドライン等による整理では、一定の要件と対象債権者全員の同意の下で、保証人が破産を回避できる場合があります。経済合理性の範囲で生活費や華美でない自宅等を残すことや、保証履行能力によって弁済額をゼロとする計画も検討されます。ただし、資産の扱いを自己判断で決めたり、自動的に債務の免除を受けられたりする制度ではありません。医療法人・保証契約の状況に応じて、適用又は準用の可否を支援専門家と金融機関へ相談します。

保証の整理では、主債務者の整理手続、資産・負債の正確な開示、弁済への誠実な対応、対象債権者の経済合理性等を確認します。法人と個人の資金の区分も重要ですが、混同があったら一律に利用できないと決めず、経緯と是正状況を説明してください。法人の破産等が終わる前に利用の意思を伝える必要がある場面もあるため、早期に相談します。

制度の利用と、どの債権者にいつ払うかは一体で検討します。一部の債権者への偏った返済、安すぎる価格での資産譲渡、根拠のない役員退職金の支給等は、後に取り消されたり責任を問われたりするおそれがあります。支払が厳しい段階では、取引や支払を実行する前に相談してください。

6 資金不足に備えて、債務整理も比較する

方法仕組みと留意点
特定調停等による調整簡易裁判所で債権者との返済条件等を調整する。調停による合意等が必要で、申立てだけで債務が減るわけではない。経営者保証ガイドラインを使う場合も、対象者・債務・債権者と成立条件を確認する。
医療法人の破産支払不能又は債務超過等の要件を確認し、裁判所の手続で財産を換価・配当する。破産開始時に直ちに全てが消えるわけではなく、管財人・所管庁と患者、職員、記録、設備等への対応を進める。医療法55条4項・5項の要件に該当する場合は理事に申立義務がある。
院長個人の破産・免責個人の返済能力を基に検討する。免責許可が確定すれば原則として破産債権の支払責任を免れるが、税金、雇用関係の請求権、一定の不法行為債権等は例外となる。自由財産は残るが、その範囲は財産の種類や裁判所の判断等による。
個人再生継続的・反復的な収入の見込みがあり、住宅ローン等の法定の除外分を除く債務総額が5,000万円以下であること等が必要。認可された計画に基づき原則3年、特別な事情がある場合は最長5年で返済する。住宅を残せるかは住宅資金特別条項等の要件による。

設例の保証債務が借入3,800万円とリース1,400万円の合計5,200万円で、全額が個人再生の上限計算に入るなら、5,000万円を超えます。担保から回収される見込み等を含め、実際の債務額と制度の要件を確認する必要があります。勤務医として働く予定があるだけで個人再生を利用できるわけではありません。

破産したこと自体は、医師法上の医師免許や医療法上の役員資格を当然に失う理由ではありません。ただし、役員の委任関係の終了と再選任(民法653条等)、保険医療機関の継続、勤務契約などは別に確認します。法人の破産と院長個人の破産も、分けて判断します。

7 決断の基準

廃業を決める基準

  1. 回復の根拠があるか 改善策、必要資金、期限、確認する数字を示す。見通しが弱い場合は、悪化した場合の資金繰りと撤退条件も併せて作る。
  2. 閉院資金がいつ不足するか 第3章の見積りを、今、半年後などの時点で比べる。会計上の利益だけでなく入出金の時期を見る。
  3. 承継・居抜きの可能性 探索に使える時間と費用を決める。可能性を調べつつ、支払不能等への対応を後回しにしない。
  4. 院長の健康と意思決定 本人の希望、判断・診療を支える体制、代診や後任を確認する。本人が判断できなくなっても、家族が当然に法人や本人を代理できるわけではない(第129講)。
  5. 金融機関と相談したか 廃業後の返済と保証の整理について、協議を始めたか。
  6. 職員の再就職の時期 地域の医療機関の採用時期に合わせられるか。
  7. 廃業後の自分 勤務医として働く、引退する、別のことをする。廃業後の収入と生活の設計があるか。

8 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 患者数・赤字・借入返済の3年間の推移を見て、「来年は」の根拠を書いてみる
  • 第3章の廃業資金の見積りを行い、現預金と比べる
  • 承継・居抜きの可能性を、医師会・仲介業者に当たり始める
  • 借入があるなら、金融機関に廃業の可能性を含めた相談を始める

やってはいけないこと

  • 改善計画と資金の下限を決めず、報酬減額や個人資金の投入を続ける
  • 廃業資金を見積もらずに「もう1年」と言う
  • 資金不足を隠したまま、一部の債権者への返済や資産移転を先に進める
  • 破産等を恐れるあまり、利用できる整理方法の相談まで先延ばしにする

9 よくある質問

患者のために続けたいのです。廃業は患者を見捨てることではありませんか。
診療を続ける方法を検討することも、計画的に他院へつなぐことも、患者を支える選択です。資金・人員が不足する前に動けば、受入先の相談、記録の整理、結果説明等に使える時間を確保しやすくなります。既に厳しい場合も、できないと諦めず、医師会・行政・専門家と優先順位を決めて引継ぎを進めてください。
廃業後、勤務医として働けば、保証債務は返せると思います。破産しなくてもよいですか。
収入見込み、生活費、健康、返済期間を基に、返済条件の変更、保証債務の整理、再生・破産等を比較します。単に働けることと、無理なく返済できることは別です。ガイドラインによるゼロ円弁済も無条件に選べるものではありません。債権者の同意と制度の要件を確認し、実行できる方法を検討してください。
医療法人が破産すると、院長も自動的に破産しますか。
法人と院長は別の主体なので、法人が破産しても院長が自動的に破産するわけではありません。個人保証、院長自身の借入、債務引受け等を確認し、返済できなければ個人の整理方法を検討します。保証のない法人債務がそのまま個人債務になるわけではありませんが、役員の行為に基づく損害賠償責任等は別に問題となり得ます。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医師法

    診療録の記載・保存(24条)等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

  3. 民法

    委任・善管注意義務、契約上の責任、不法行為、使用者責任等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  4. 金融庁:経営者保証に依存しない融資慣行に向けた施策

    経営者保証に関するガイドライン、見直しに関する資料。

    https://www.fsa.go.jp/policy/hoshou_jirei/index.html

  5. e-Gov法令検索:破産法

    15条・16条・34条・160条以下・253条等。開始原因、自由財産、否認、免責と例外。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075
  6. e-Gov法令検索:民事再生法

    196条以下・221条・229条等。住宅資金特別条項、個人再生の債務額・収入・弁済期間。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225
  7. e-Gov法令検索:特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律

    簡易裁判所で行う債務の返済条件等の調整。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC1000000158
  8. 全国銀行協会:廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方

    2023年11月改定。保証債務整理の対象、残存資産、ゼロ円弁済等の取扱い。

    https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news351122_1.pdf
  9. 全国銀行協会:経営者保証に関するガイドラインQ&A

    対象となる主債務者、保証の整理に関する要件等。

    https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_qa.pdf
  10. 金融庁:経営者保証に関するガイドラインの活用

    保証債務の整理、対象債権者の同意、経済合理性、残存資産等の説明。

    https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20231213-2/01.pdf

病院・クリニック経営150講 目次へ戻る