第2講第Ⅰ部 基礎編――立ち退き要求の正体を知る
その契約書は、普通借家か、定期借家か
題名ではなく、締結時の書面一式で判定する。契約タイプで守られ方が変わる
この講の結論
立ち退き要求への対応は、金額の話ではなく、契約タイプの判定から始まります。普通の建物賃貸借であれば、貸主が契約を終わらせるには正当事由が必要で、立退料はその補完要素として機能します。定期建物賃貸借であれば、期間満了で契約は終わり、正当事由も立退料も法律上は要求されません。ただし、定期借家として有効に成立するには、書面による契約と、契約書とは別の書面による事前説明という厳格な要件があり、これを欠く契約は普通借家として扱われます。「定期借家だから」と言われても、契約書の題名で判断せず、締結時に交付された書面一式を確かめてください。使用貸借と一時使用目的の賃貸借には借地借家法の保護が及びませんが、その認定にも要件があります。
最初に見るのは金額ではなく契約書
立ち退きの相談で、最初にお預かりするのは賃貸借契約書です。金額の見立ても、正当事由の吟味も、契約タイプが決まらなければ始まりません。同じ「借りて住んでいる」「借りて営業している」でも、契約のタイプによって、法律上の守られ方はまったく違うからです。
貸主側もこのことを知っています。だから、通知の文面には「本契約は定期建物賃貸借契約であり、期間満了により終了します」「本件は使用貸借ですので、明渡しをお願いします」という一文が入ることがあります。この一文が正しいかどうかを、相手の説明ではなく、自分の手元の書面で確かめる。それが第一の関門です。
四つのタイプと、立ち退きへの耐性
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| タイプ | 見分け方 | 貸主が終わらせるには | 立退料の位置づけ |
|---|---|---|---|
| 普通建物賃貸借 | 通常の賃貸借契約書。更新条項がある。「定期」の事前説明書面がない | 更新拒絶通知または解約申入れに正当事由が必要(借地借家法28条)。なければ法定更新(26条・27条) | 正当事由を補完する中心的な要素。この連載の主戦場 |
| 定期建物賃貸借(38条) | 書面による契約で「更新がなく、期間満了により終了する」と定め、かつ契約書とは別の書面で事前説明を受けている | 期間満了で終了。正当事由は不要。ただし期間1年以上なら終了通知が必要(38条6項) | 法律上の支払義務はない。再契約や早期退去の交渉で任意の協力金が支払われることはある |
| 使用貸借(民法593条) | 賃料を払っていない。親族間や会社と役員の間の無償使用など | 借地借家法の適用なし。期間・目的の定めに従って終了し、定めがなければ貸主はいつでも解除できる(民法597条・598条) | 法律上の立退料請求権はない |
| 一時使用目的の賃貸借(40条) | 工事期間中の仮店舗、イベント期間中の出店など、短期間に限る趣旨が客観的に明らか | 借地借家法第3章(借家の規定)の適用なし。契約どおりに終了 | 原則なし |
表の下二つ、使用貸借と一時使用は「借地借家法の外」にある関係です。上二つは借地借家法の中にありますが、普通借家と定期借家では正当事由の要否という決定的な違いがあります。そして実務上いちばん争いになるのは、普通借家と定期借家の境目です。
普通借家――期間の有無で通知のルールが変わる
普通借家には、期間の定めがあるもの(2年契約、3年契約など)と、期間の定めがないものがあります。期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがないものとみなされます(29条1項)。
期間の定めがある場合、貸主が更新を拒むには、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知をし(26条1項)、かつその通知に正当事由がなければなりません(28条)。通知がなければ従前と同一条件で更新したものとみなされ、更新後の契約は期間の定めがないものになります(26条1項ただし書)。期間の定めがない場合、貸主の解約申入れから6か月で終了しますが(27条1項)、この申入れにも正当事由が必要です(28条)。いずれの場合も、期間満了や解約申入れの6か月経過の後に借主が使い続けているのに貸主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は更新されます(26条2項・27条2項)。
なお、平成4年8月1日の借地借家法施行より前に結ばれた古い契約も、借地借家法の規定が原則として適用されます(借地借家法附則4条)。旧借家法の時代の契約書だからといって、正当事由の保護がないわけではありません。そもそも旧借家法1条ノ2も、貸主からの更新拒絶や解約申入れに正当事由を要求していました。
定期借家――「定期」と書いてあるだけでは足りない
定期建物賃貸借は、平成12年3月1日に施行された制度で、契約の更新がないことを合意できる例外的な類型です。例外である以上、成立要件は厳格に定められています。
図1 定期建物賃貸借が有効に成立するための三つの要件
- 1期間の定めがあること期間を定めない定期借家は成立しない(38条1項)。期間は1年未満でもよく、29条1項は適用されない。
- 2書面(または電磁的記録)による契約で、更新がない旨を定めること公正証書でなくてもよいが、口頭では成立しない(38条1項・2項)。電磁的記録による契約は令和4年5月18日から認められている。
- 3契約書とは別の書面による事前説明貸主が、あらかじめ、「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を記載した書面を交付して説明する(38条3項)。借主の承諾があれば電磁的方法による提供も可能(38条4項)。この説明がなければ、「更新がない」という定めは無効になり、契約は普通借家として扱われる(38条5項)。
三つのうち一つでも欠ければ、正当事由と立退料の土俵に戻る。
三つ目の要件について、最高裁は明確な判断を示しています。最判平成24年9月13日(民集66巻9号3263頁)は、事前説明のための書面は、賃借人が「更新がなく期間満了により終了する」ことを認識しているかどうかにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要すると判示しました。契約書の中に「本契約は定期建物賃貸借であり更新はない」と書いてあるだけでは、事前説明の要件を満たさないということです。
下級審には、事前説明の主体についての判断もあります。東京地判令和2年3月18日は、事務所ビルの賃貸借について、媒介業者が重要事項説明の中で定期借家である旨を説明していたものの、貸主自身による事前説明書面の交付がなかった事案で、事前説明は貸主に課された義務であり、宅地建物取引業者の重要事項説明によって当然に代替されるものではないとして、更新がない旨の特約を無効と判断しました(この事案は、その後、貸主が立退料を支払う内容で和解しています)。
要件が厳しいのは、定期借家が借主の側の更新への期待を法律上まったく保護しない、強い効果を持つ制度だからです。強い効果を認める代わりに、借主が「これは更新のない契約だ」と契約前に確実に理解できる手続を求めている。この趣旨に照らして、書面の交付漏れや説明の不備は、貸主側の「うっかり」として大目に見られることはありません。
定期借家が普通借家に「戻る」典型例
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| よくある状況 | 判定 | 根拠 |
|---|---|---|
| 契約書の題名は「定期建物賃貸借契約書」だが、それとは別の事前説明書面を受け取った記憶も控えもない | 更新がない旨の定めは無効。普通借家として扱われる可能性が高い | 38条3項・5項、最判平成24年9月13日 |
| 契約書の末尾に「賃借人は本契約が定期建物賃貸借であることの説明を受けた」という一文があり、そこに署名した | 契約書と一体の記載では「別個独立の書面」に当たらないと判断される可能性が高い | 最判平成24年9月13日 |
| 説明書面は受け取ったが、契約締結と同時、または締結後に渡された | 「あらかじめ」の要件が問題になる。締結と同じ機会でも、時間的に先行していれば足りるとした裁判例はあるが、締結後の交付では要件を満たさない | 38条3項 |
| 仲介業者から重要事項説明で「定期借家です」と聞いたが、貸主からの説明書面はない | 事前説明は貸主の義務。業者の重要事項説明で当然に代替はされない。貸主が業者に代行を委任していた証拠があるかが争点になる | 東京地判令和2年3月18日 |
| もとは普通借家だった居住用の契約を、平成12年3月1日より前から借りていて、途中で「定期借家に切り替える」書面に署名した | 居住用については、施行前からの普通借家を合意により終了させて同じ建物を定期借家で借り直すことは当分の間認められておらず、更新がない旨の定めは適用されない | 良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法(平成11年法律第153号)附則3条 |
| 定期借家の期間が満了したが、終了通知が来ないまま何年も同じ条件で使い続けている | 契約自体は終了しているが、期間1年以上の定期借家では、終了通知がなければ貸主は終了を借主に対抗できない(次節) | 38条6項 |
実際、「定期借家のつもりだった」契約が、事前説明書面の不存在や説明の不備によって普通借家と判断される例は珍しくありません。契約書の題名だけで判断せず、締結時の書面一式を精査してください。ここがひっくり返れば、正当事由と立退料の土俵(第3講以降)に戻れます。
有効な定期借家でも、まだ確かめること
要件を満たした定期借家であっても、借主側に確認すべき点が三つ残ります。
終了通知の有無と時期
期間が1年以上の定期借家では、貸主は、期間満了の1年前から6か月前までの間に「期間満了により終了する」旨の通知をしなければ、契約の終了を借主に対抗できません(38条6項本文)。通知期間を過ぎてから通知した場合は、その通知の日から6か月を経過した後でなければ終了を対抗できません(同項ただし書)。つまり、期間満了日が過ぎても通知がなければ、借主は直ちに明け渡す義務を負わず、通知が届いてから少なくとも6か月は使用を続けられます。移転先の確保と営業の準備に必要な時間が、法律上確保されているということです。
再契約の交渉
定期借家の期間満了後に同じ建物を借り続けるには、「更新」ではなく「再契約」が必要で、再契約に応じるかどうかは貸主の自由です。ここに正当事由は要りません。もっとも、事業者である貸主にとって、優良な借主を失って空室期間を生じさせることは損失です。再契約の条件交渉は、法律上の権利としてではなく、双方の経済合理性を軸に進めることになります。
居住用の借主の中途解約権
床面積200平方メートル未満の居住用建物の定期借家では、転勤、療養、親族の介護などやむを得ない事情で生活の本拠として使えなくなったとき、借主は解約を申し入れることができ、申入れから1か月で契約が終了します(38条7項)。立ち退きとは逆向きの話ですが、移転先が定期借家である場合には、この規定の有無が移転計画に影響します。
使用貸借――賃料を払っていない関係
親の所有する建物に子が無償で住んでいる、会社の所有する建物を役員が無償で使っている、知人の好意で倉庫を無償で借りている。こうした関係は使用貸借(民法593条)であり、借地借家法の適用はありません。期間を定めていればその満了で終了し(597条1項)、期間を定めず使用目的を定めていれば目的に従った使用収益を終えたときに終了します(同条2項)。期間も目的も定めていなければ、貸主はいつでも解除できます(598条2項)。借主が死亡すれば終了します(597条3項)。
ただし、「賃料を払っていない」と貸主が主張しても、それが事実かどうかは別の問題です。固定資産税相当額程度のごく低額の負担しかしていない場合には使用貸借と評価されることがある一方、名目が「管理費」「協力金」であっても建物の使用の対価として支払われていれば賃貸借と評価される余地があります。また、親族間で長年無償で使ってきた建物について、相続を機に新しい所有者から明渡しを求められる事案では、使用貸借の目的や期間をどう認定するかが争点になります。通帳の記録、金額の推移、支払いの名目と経緯を集めておくことが、この場面でも出発点です。
一時使用目的の賃貸借
一時使用のために建物を賃貸借したことが明らかな場合には、借地借家法第3章(借家に関する規定)は適用されません(40条)。「一時使用」と契約書に書いてあれば足りるわけではありません。最判昭和36年10月10日は、旧借家法8条の一時使用について、賃貸借の期間の長短だけを基準とするのではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、その賃貸借を短期間に限って存続させる趣旨のものであることが客観的に判断される場合をいうとしています。この考え方は借地借家法40条にもそのまま引き継がれています。
典型的に一時使用と認められるのは、建替え工事の期間中だけ借りる仮店舗、催事期間中の出店、選挙事務所などです。逆に、契約書に「一時使用」と記載されていても、実際には数年にわたって更新を重ね、通常の店舗や住居として使われてきた関係は、一時使用とは評価されにくくなります。貸主から「これは一時使用の契約だから」と言われたときは、契約締結時の目的と、その後の実際の使い方を時系列で整理してください。
転借人、社宅、公営住宅、借地上の建物
サブリース物件でテナントとして入居している場合、借主は「転借人」です。正当事由の判断では転借人の使用の必要性も考慮され(28条括弧書き)、建物の賃貸借が期間満了や解約申入れによって終了するときは、貸主は転借人にその旨を通知しなければ終了を転借人に対抗できず、通知から6か月で転貸借が終了します(34条)。転借人の地位は弱いと思われがちですが、所有者と直接の契約がなくても、立ち退きの場面では一定の保護が用意されています。
勤務先から借りている社宅は、賃料の額や労働契約との結びつきによって、賃貸借なのか、労働契約に付随する使用関係なのかが問題になります。公営住宅は公営住宅法の規律が先に働き、収入超過や高額所得を理由とする明渡しなど、民間の借家とは異なる手続があります。高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく終身建物賃貸借は、借主の死亡によって終了する特別な類型です。いずれも、この連載の中心である民間の普通借家とは別の検討が必要ですが、契約タイプの診断から始めるという順序は同じです。
もう一つ、店舗の建物を自分で所有し、その敷地を借りている場合は「借家」ではなく「借地」の問題です。借地権の存続期間、更新、正当事由(借地借家法5条・6条)、建物買取請求権(13条)といった、借家とは別の規律が働きます。地主から「土地を返してほしい」と言われた場合は、この連載の借家の話をそのまま当てはめることはできませんので、別途ご相談ください。
契約書がない、古すぎる、名義が違う
契約書が見当たらない長期の賃貸借は、実務では珍しくありません。賃貸借契約は当事者の合意だけで成立し(民法601条)、書面は成立の要件ではないため、賃料の支払いが続いていれば賃貸借契約は有効に存在します。そして、書面がないということは、定期借家の要件(書面による契約と書面による事前説明)を満たしていないことを意味します。契約書がないことは、借主にとって不利には働かないのです。賃料の振込明細、通帳、領収書、更新料の支払記録を確保してください。これが賃貸借の存在と内容を示す中心的な証拠になります。
名義の問題もあります。契約書上の借主が亡くなった先代のままになっている、創業時の個人名義のまま法人成りしている、実際に営業しているのは契約者の親族の会社である、といった事案です。相続による賃借権の承継は問題なく認められますが、契約者と実際の使用者が異なる場合には、無断転貸や無断譲渡(民法612条)を理由とする解除を貸主側から主張されることがあります。この主張には信頼関係破壊の法理による反論が可能ですが(第12講)、名義と実態のずれは、相談の最初の段階で正直に整理しておく必要があります。
PRACTICE NOTE
契約タイプ診断シート
手元の書面を並べて、上から順に確認してください。一つの項目で結論が出れば、それより下の項目は確認の意味が変わります。
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| 確認項目 | 見る場所 | 結論の方向 |
|---|---|---|
| ①対価を払っているか | 通帳、振込明細、領収書 | 払っていなければ使用貸借。低額でも対価性があれば賃貸借 |
| ②対象は建物か(土地か) | 契約書の目的物の記載、実際の使用状況 | 建物なら借家。土地なら借地(別の規律) |
| ③短期間に限る趣旨が客観的に明らかか | 契約の目的、動機、期間、その後の更新の有無と実際の使い方 | 明らかなら一時使用。数年にわたり通常使用してきたなら通常の借家 |
| ④「更新がなく期間満了により終了する」旨の書面による定めがあるか | 契約書の条項 | なければ普通借家 |
| ⑤契約書とは別の事前説明書面を、契約前に、貸主(またはその代理人)から受け取ったか | 締結時に受け取った書類一式。メールの添付ファイルも含む | なければ更新がない旨の定めは無効。普通借家として扱われる |
| ⑥平成12年3月1日より前から借りている居住用建物を、途中で定期借家に切り替えていないか | 最初の契約日、切替時の書面 | 該当すれば定期借家の定めは適用されない |
| ⑦(有効な定期借家の場合)期間は1年以上か。終了通知はいつ届いたか | 契約書の期間、通知の到達日 | 通知がなければ終了を対抗されない。遅れた通知なら到達から6か月 |
| ⑧(普通借家の場合)期間の定めはあるか。更新拒絶通知は期間満了の1年前〜6か月前に届いたか | 契約書・更新契約書の期間、通知の到達日 | 枠外の通知なら法定更新(第14講) |
⑤の確認では、「受け取った記憶がない」と「受け取っていない」は区別してください。貸主側は、控えの写しや受領印のある書面を証拠として出してくることがあります。ご自身の手元の書類を全部並べたうえで、貸主側にも締結時の書面一式の開示を求めるのが順序です。
実務チェック
- 賃貸借契約書、更新契約書、覚書、特約書、締結時に受け取ったすべての書面(メール添付を含む)を一か所に集めた。
- 契約書の題名ではなく、「更新がない」旨の条項の有無と、別紙の事前説明書面の有無で、定期借家かどうかを判定した。
- 最初に借り始めた年月日と、途中で契約の形式が変わった時期を時系列にした。
- 賃料・更新料・その他の名目の支払記録を、少なくとも直近3年分確保した。
- 契約者名義と、実際に住んでいる人・営業している主体が一致しているかを確認した。
- 相手の通知に書かれた契約タイプの説明が、手元の書面と一致するかを照合した。
よくある質問
契約書の題名が「定期建物賃貸借契約書」です。もう諦めるしかありませんか。
題名だけでは決まりません。定期借家として有効に成立するには、書面による契約に加えて、契約書とは別の書面をあらかじめ交付して「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを説明する手続が必要です(借地借家法38条3項)。最高裁は、この書面は契約書とは別個独立のものでなければならないとしています(最判平成24年9月13日)。この手続がなければ、更新がない旨の定めは無効となり(38条5項)、普通借家として正当事由と立退料の問題になります。締結時の書面一式を確かめてください。
定期借家の期間が満了しましたが、貸主から何の連絡もありません。すぐに出なければなりませんか。
期間が1年以上の定期借家では、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間に終了の通知をしなければ、終了を借主に対抗できません(38条6項)。通知期間を過ぎてから通知が届いた場合は、その通知から6か月を経過するまでは終了を対抗されません。したがって、通知が来ていない段階で直ちに明け渡す義務はなく、通知が届いても少なくとも6か月の時間があります。この間に再契約の交渉や移転先の確保を進めることになります。
仲介業者から「定期借家です」と説明を受けた記憶はあります。それでは足りませんか。
事前説明は貸主に課された義務であり、宅地建物取引業者の重要事項説明があったからといって当然に代替されるものではない、と判断した裁判例があります(東京地判令和2年3月18日)。貸主が業者に事前説明を委任していたかどうか、業者が交付した書面が貸主名義の事前説明書面と評価できるかどうかが争点になります。受け取った書面の名義と内容を確かめてください。
契約書が見つかりません。不利になりますか。
賃貸借契約は書面がなくても成立しますし(民法601条)、書面がないことは定期借家の要件を満たしていないことを意味します。賃料の支払記録が続いていれば、普通借家として借地借家法の保護を受けるのが原則です。むしろ確保すべきなのは、振込明細、通帳、領収書、更新料の支払記録といった、賃貸借の存在と内容を示す証拠です。
親の家に無償で住んでいます。兄が相続して「出て行け」と言っています。
無償の使用関係は使用貸借であり、借地借家法の保護はありません。もっとも、使用貸借にも期間や目的の定めがあれば、その定めに従って終了するのが原則で(民法597条)、期間も目的も定めていない場合に限って貸主はいつでも解除できます(598条2項)。親との間で「住み続けてよい」という約束がどのような内容だったか、居住の経緯、建物の維持費の負担などが争点になります。相続を機にこの種の紛争が起きた場合は、遺産分割の問題と切り離せませんので、早めにご相談ください。
この講の主な根拠条文・裁判例・資料
- 借地借家法〔e-Gov法令検索〕5条・6条(借地契約の更新・正当事由)、13条(建物買取請求権)、26条、27条、28条、29条、30条、34条(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)、38条(定期建物賃貸借)、40条(一時使用目的の建物の賃貸借)、附則4条(経過措置の原則)
- 民法〔e-Gov法令検索〕593条(使用貸借)、597条(期間満了等による使用貸借の終了)、598条(使用貸借の解除)、601条(賃貸借)、612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
- 良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法(平成11年法律第153号)附則3条施行前にされた居住用建物の賃貸借を合意により終了させ、引き続き同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、借地借家法38条を適用しないとする経過措置
- 最判平成24年9月13日民集66巻9号3263頁定期建物賃貸借の事前説明のための書面は、賃借人が更新がなく期間満了により終了することを認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するとした判例
- 最判昭和36年10月10日一時使用のための賃貸借に当たるかは、期間の長短だけでなく、賃貸借の目的、動機その他諸般の事情から、短期間に限り存続させる趣旨のものであることが客観的に判断される場合をいうとした判例(旧借家法8条)
- 東京地判令和2年3月18日定期借家の事前説明は貸主に課された義務であり、宅地建物取引業者の重要事項説明によって当然に代替されるものではないとして、更新がない旨の特約を無効とした裁判例
- 国土交通省「定期借家制度(定期建物賃貸借制度)をご存じですか」成立要件、事前説明、終了通知、借主の中途解約権、居住用建物の切替制限の説明
- 法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」電磁的記録による契約と電磁的方法による事前説明書面の提供(令和4年5月18日施行)
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例の原文は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索や判例集で裁判年月日から確認できます。本講の記載は執筆時点の法令・裁判例に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。
公開日 2026年8月9日/改訂日 2026年9月23日 執筆者 坂本龍亮、お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp