条文を正確に読む
借地借家法28条は、建物の賃貸人による更新拒絶・解約申入れは、次の事情を考慮して**「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」**と定めます。
①建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情
②建物の賃貸借に関する従前の経過
③建物の利用状況
④建物の現況
⑤建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃貸人が財産上の給付をする旨の申出(=立退料等)
この規定は借主に不利な特約を許さない片面的強行規定です(借地借家法30条)。「契約書に『貸主が申し出たら6か月で退去する』と書いてある」と言われても、正当事由の要求を排除することはできません。
主戦場は①、立退料⑤は「補完」
判例・実務の確立した理解では、正当事由の判断の主たる要素は①の双方の使用の必要性であり、②〜⑤はこれを補充する従たる要素です。つまり、貸主側にそれなりの必要性(老朽化による建替え、自己使用等)があっても、借主側の必要性(生活の本拠、営業の基盤)が上回れば、立退料をいくら積んでも正当事由が認められないことがあり得ます。逆に、双方の必要性が拮抗する場面では、立退料の提供が天秤を貸主側に傾ける――これが「立退料は正当事由の補完要素」という構造です。
古い最高裁判例も、この総合判断の枠組みを形作ってきました。賃貸人がその建物で商売をするほかに生計の道がない事案で正当事由を認めた例(最判昭和26年4月24日)、移転先となる代替建物の提供を考慮した例(最判昭和32年3月28日)、建物が倒壊のおそれのある状態で解体・大修繕の必要があった事案の例(最判昭和35年4月26日)などです。借地借家法28条(平成3年制定)は、こうした判例の考慮要素を条文化したものです。
図解:正当事由の天秤
借主側の実務ポイント
正当事由は貸主が立証すべき事柄です。借主側は、自分がこの建物を使い続ける必要性を具体的な事実で語れるよう準備します。居住用なら、居住年数、家族の通学・通院、高齢・障害等の転居困難事情。事業用なら、立地と売上の結びつき、常連客、設備投資、移転による廃業リスク。これらの主張の厚みが、正当事由の成否と立退料の金額(第5講以下)の両方を動かします。