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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第5講】

立退料の中身を分解する ― 借家権価格・移転実費・営業補償 ―

第5講第Ⅱ部 金額編――立退料はいくらが適正か

立退料の中身を分解する――借家権価格・移転実費・営業補償

「一式いくら」ではなく、項目ごとに積み上げる。積み上げの材料は資料である

『立ち退き20講――立退料の教科書』執筆者 坂本龍亮(明徳法律事務所 弁護士)お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp読了目安 21分

公開日 2026年8月9日改訂日 2026年9月23日

この講の結論

立退料に法定の計算式はありませんが、裁判例と実務は、その中身を①借家権価格、②移転に伴う実費(引越費用、新規契約の費用、賃料差額、内装の損失)、③営業補償(休業損害、得意先の喪失、移転に伴う費用)、④正当事由の不足を埋める調整、の組合せとして整理してきました。算定の手がかりとしては、公共用地の取得に伴う損失補償基準の構成と、不動産鑑定評価基準の借家権の評価方法が参照されます。どの項目がどれだけ認められるかは、その項目を裏付ける資料の有無で決まります。立退料の交渉とは、突き詰めれば「自分が失うものを証拠で語る」作業です。

「一式いくら」から「積み上げ」へ

貸主側から示される立退料は、多くの場合「一式○○万円」「賃料の○か月分」という形をとります。内訳が示されないのは、算定の根拠がないか、根拠を見せると交渉が不利になると考えているかのどちらかです。借主側は、この「一式」を項目に分解し、それぞれの項目について自分の数字を置いていくことで、初めて相手の提示を評価できるようになります。

分解の枠組みは、裁判例と実務が長年かけて形作ってきたものがあります。法定の計算式はありませんが、裁判所が立退料を認定するときに検討する項目には、おおよその共通性があります。この講では、その項目を一つずつ見ていきます。

立退料の四つの構成要素

図1 立退料の構成

  1. 1借家権価格その建物を使い続けられる地位(借家権)の財産的価値の補償。不動産鑑定の手法、または財産評価上の借家権割合を用いた計算で求められる。地域の取引慣行や事案の性質によって、全額・一部・ゼロと扱いが分かれる。
  2. 2移転実費引越費用、新規契約の費用(敷金・礼金・仲介手数料)、賃料差額の一定期間分、内装・設備のうち移設できないものの損失、移転先の内装工事費、移転雑費。公共用地の取得に伴う損失補償基準の項目(動産移転料、借家人補償、移転雑費など)が参照される。住居では中心。
  3. 3営業補償移転に伴う休業期間中の営業利益と固定費、得意先の喪失による売上減少、移転に伴う広告費、営業許可の再取得費用など。同基準の営業休止・営業廃止・営業規模縮小の補償が参照される。店舗・事務所では最大の項目になり得る。
  4. 4調整双方の必要性の差を埋めるために裁判所が総合考慮で加算・減算する部分。算定根拠が明示されないことも多い。交渉では「迷惑料」「協力金」の名目で機能する。

①〜③を資料で積み上げ、④は天秤(第3講)の読みで動く。

四つの要素は、すべての事案で全部が認められるわけではありません。住居の事案では③はほぼ問題にならず、①も認められないことが多い一方、②が中心になります。店舗の事案では③が最大の項目になり、①が大きな額になる地域もあります。どの要素にどれだけの重みを置くかは、事案の性質と、それを裏付ける資料で変わります。

①借家権価格――二つの求め方と、税法上の割合への注意

借家権価格とは、借主が持っている「その建物を使い続けられる地位」の財産的価値です。不動産鑑定評価基準(各論第1章第3節)は、借家権の鑑定評価を、借家権の取引慣行がある場合とない場合に分けて定めています。

取引慣行がある場合は、取引事例との比較による比準価格を標準とし、自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除して得た価格(控除法)を比較考量し、借家権割合が求められる場合はそれも考慮して決定します。取引慣行がない場合、つまり立退きに伴う補償として借家権価格を求める場合は、代替建物を借りるときの新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間分に、賃料の前払的性格を持つ一時金の額等を加えた額と、控除法で得た価格を関連づけて決定します。

ここで注意すべきことが二つあります。第一に、鑑定評価基準は、税法上採用されている借家権割合を安易に適用するようなことがあってはならないと明記しています。第4講で触れたとおり、相続税の財産評価では借家権割合は現在すべての地域で30%とされていますが、これは課税のための画一的な割合であって、個別の借家の価値を表すものではありません。裁判例では、借家権割合による計算結果をそのまま採用したものもあれば、その2分の1や3分の2に調整したもの、借家権価格は補償の対象にならないとしたものもあり、扱いは一様ではありません。

第二に、鑑定評価基準は、営業用建物の借家権については、借家権の対価のほかに営業権(暖簾)や造作代が含まれることがある点に注意を促しています。つまり借家権価格と営業補償は、重なり合う部分を持つ概念です。両方を主張するときは、二重計上にならないように項目を整理する必要があります。

実務では、借家権価格を積算の柱に据えるかどうかが、事案の性格によって分かれます。大阪や東京の商業地では借家権に取引上の価値が認められやすく、借家権価格が数千万円単位で認定される裁判例もあります。他方で、居住用建物や地方の事案では、借家権価格は認めず移転実費を中心に算定する裁判例が多く見られます。

②移転実費――損失補償基準の項目を借りる

移転実費の項目立てには、公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年に用地対策連絡会が決定し、その後改正を重ねているもの。以下「損失補償基準」)の構成がしばしば参照されます。国や自治体が道路や公共施設のために土地建物を取得するときの補償基準ですが、「移転によって生じる損失を漏れなく項目化する」という点で、立退料の積算にも有用な枠組みです。

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項目損失補償基準の位置内容裏付け資料
動産移転料31条家財、什器、設備、在庫などの移転に通常要する費用引越業者・設備業者の見積書(複数社)
仮住居等に要する費用32条移転先の確保までに仮住居や動産の一時保管が必要な場合の費用仮住居・倉庫の見積書、工程表
借家人補償(家賃差額・一時金)34条新たに建物を借りるために通常要する費用。従前の賃料が低額の場合は事情を総合考慮して算定。実務では、新旧賃料の差額に補償年数(家賃差が2倍以下なら2年、2倍超3倍以下なら3年、3倍超なら4年が公共用地取得の運用)を乗じた額と、敷金・礼金等の一時金が中心周辺の募集賃料資料、移転候補物件の資料、現契約の賃料が分かる書面
移転雑費37条移転先の選定に要する費用、法令上の手続に要する費用、転居通知費、移転旅費その他の雑費。就業できない期間の補償を含む手続費用の見積り、通知先リスト、休業日数の見込み
内装・造作の損失(建物等の移転補償の考え方を準用)現建物に投下した内装・設備のうち移設できないものの残存価値。移転先で同等の内装を整えるための工事費工事請負契約書、見積書、固定資産台帳、減価償却明細、移転先の内装見積り

公共用地の取得では、借家権そのものに対する補償は行われていないことが多く、借家人補償は家賃差額と一時金が中心です。立退料の裁判例では、これに借家権価格を加えるかどうかが事案によって分かれるわけです。損失補償基準は、あくまで「項目を漏れなく拾う」ための道具として使い、金額の水準は個別の資料で組み立ててください。

③営業補償――休止か、廃止か、縮小か

店舗、飲食店、クリニック、事務所、工場の立ち退きでは、営業補償が立退料の最大の項目になり得ます。損失補償基準は、営業に関する補償を、営業を一時的に休止して移転する場合(営業休止の補償、44条)、移転すれば営業を続けられない場合(営業廃止の補償、43条)、移転により規模の縮小を余儀なくされる場合(営業規模縮小の補償、45条)の三つに分けています。

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類型前提補償の内容(損失補償基準の構成)
営業休止の補償(44条)移転先で営業を再開できる休業期間中の固定的経費(人件費、リース料、地代家賃など)と従業員への休業手当、休業期間中の収益減、移転による得意先喪失の損失、店舗移転に伴う損失(移転広告費など)。仮営業所を設ける場合はその費用
営業廃止の補償(43条)移転先を確保できず、または移転すれば営業が成り立たない営業権(免許など)の正常な取引価格、資産の売却損、従業員の解雇手当、転業に通常必要とする期間中の従前の収益相当額
営業規模縮小の補償(45条)移転先で規模を縮小せざるを得ない固定資産の売却損、解雇手当、経営効率が客観的に低下する場合に通常生ずる損失額

立退料の裁判例で最も多く登場するのは営業休止の補償の枠組みです。休業期間を何か月と見るか、その期間の営業利益と固定費をいくらと見るか、得意先の喪失率を何割と見るかが、金額を大きく左右します。これらは、決算書と月次の売上資料、顧客の構成を示す資料がなければ主張できません。立地に依存する業種ほど、移転による顧客喪失の割合は高く評価され、補償額は伸びます。営業補償の積算の手順は、第7講で詳しく扱います。

④調整――裁判所が総合考慮で動かす部分

裁判例の立退料には、①から③を積み上げた額をそのまま採用しているものだけでなく、積み上げた額に対して「本件の諸事情を考慮して」加算や減算を施したものが多くあります。この調整部分は、正当事由の天秤(第3講)の読みそのものです。貸主側の必要性が弱いほど、補完に必要な立退料は大きくなり、借主側に利用状況などの弱点があれば、減額方向に働きます。

交渉の場面では、この調整部分が「迷惑料」「協力金」「早期解決の上乗せ」といった名目で現れます。法的な性質は曖昧ですが、機能としては、双方の必要性の差を埋め、早期に合意することの価値を金額に置き換えるものです。貸主側、特に事業スケジュールを抱えるディベロッパーにとっては、早期の合意それ自体に経済的価値があり、その価値の一部が借主側に還元される形で調整部分が積まれます(第19講)。

裁判例の四つの算定パターン

法務省が令和7年に公表した調査研究報告書は、令和元年5月から令和6年3月までの裁判例137件を分析し、立退料の算定方法を大きく四つのパターンに整理しています。

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パターン特徴借主側の見方
積算根拠を明示しない諸事情を総合考慮して「○○円が相当」と認定する主張立証の厚みが、示されない根拠の中で効いている。資料がなければ低く出る
賃料×月数「賃料の○か月分」として認定する。比較的低額の住居事案に多い賃料が低い事案では実損に届かないことがある。月数の根拠を問う
各要素の合計借家権価格、移転費用、営業補償などを項目ごとに認定して合計する項目ごとに資料で争える。借主側に最も見通しが立てやすい
合計額への調整加算項目の合計に、諸事情を考慮した加算・減算を施す正当事由の弱さが加算に反映される。天秤の読みを主張に織り込む

報告書は、どの場面でどの方法が選択されるかの基準を見いだすことは困難だとしつつ、高額の事案ほど積算根拠を示す傾向があると述べています。借主側の実務にとってこの整理が意味するのは、項目ごとの資料を出せば出すほど、裁判所は「各要素の合計」型で判断せざるを得なくなるということです。資料のない主張は「総合考慮」の中に埋もれ、資料のある主張は項目として立ちます。

住居と店舗で、重心はこう変わる

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構成要素住居店舗・事務所・クリニック・工場
①借家権価格認められないか、限定的なことが多い商業地では大きな額になり得る。営業権・造作代との重複整理が必要
②移転実費中心。引越費用、新規契約費用、賃料差額(補償年数が争点)設備の移転費、内装の損失、移転先の内装工事費が大きい
③営業補償原則なし(在宅業務がある場合は例外)最大項目になり得る。休業期間、営業利益、固定費、得意先喪失率
④調整高齢・持病・長期居住などの事情が加算方向に働く貸主の必要性の弱さ、事業スケジュールの都合が加算方向に働く
詳しい講第6講第7講

金額を分けるのは資料である

同じ規模の店舗でも、確定申告書、決算書、月次の売上台帳で営業実態を立証できる借主と、どんぶり勘定の借主とでは、認められる営業補償が桁違いになります。住居でも、転居先の賃料相場の資料、引越しの見積書、通院や通学の事情を示す資料の有無が、金額を左右します。

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資料対応する項目備考
賃貸借契約書、更新契約書、特約書一式すべての前提契約タイプ(第2講)、造作買取請求権の排除特約の有無(第7講)、原状回復の定め(第17講)
賃料・共益費・更新料の支払記録賃料差額の基礎、従前の経過直近3年分。契約書がない場合は賃貸借の存在の証拠
(事業者)直近3期分の決算書・確定申告書営業補償(営業利益、固定費)粉飾も過少申告も、この場面で借主自身に跳ね返る
(事業者)月次の売上・客数の資料、予約台帳、POSデータ営業補償(休業損害、得意先喪失)季節変動、立地への依存度を示す
(事業者)顧客の居住地・勤務地の分布得意先喪失率近隣客の比率が高いほど移転による喪失は大きい
内装・設備の工事契約書、見積書、領収書、固定資産台帳内装の損失、造作買取請求減価償却の明細で残存価値を示す
周辺の募集賃料資料、移転候補物件の資料賃料差額、新規契約費用同等の立地・面積・設備の物件で比較する
引越し・設備移転・内装工事の見積書動産移転料、移転先の内装費複数社から取る
(住居)世帯の事情を示す資料(診断書、在学証明、介護認定)調整(加算方向)、明渡時期正当事由の判断にも直接効く(第3講・第6講)

これらの資料は、交渉でそのまま使えるだけでなく、訴訟になれば証拠になります(第16講)。交渉の初期に集め始めるほど、その後の展開のすべてで効いてきます。

使途を問われないという特徴

立退料は損害賠償ではないため、受け取った金銭の使途は自由です。実際に引越費用がいくらかかったか、内装工事にいくら使ったかの精算を求められる筋合いのものではありません。したがって、内訳ごとの根拠を積み上げて総額を最大化する交渉技術が、そのまま借主の手取りに結びつきます。

ただし、内訳は税務上の所得区分に影響します。個人の借主が受け取る立退料は、借家権の消滅の対価に当たる部分、収入や必要経費の補填に当たる部分、それ以外の部分で、適用される所得区分が異なります(第18講)。合意書にどのような内訳を書くかは、金額の交渉と同時に、税務の設計事項でもあります。

PRACTICE NOTE

立退料の積算ワークシート

相手の提示を評価するために、まず自分の数字を置いてみてください。空欄のままにせず、根拠のない項目は「未算定」と書いておくことで、集めるべき資料が見えてきます。

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項目算定の考え方自分の数字を置く前に確かめること
借家権価格更地価格×借地権割合×借家権割合×面積割合を一つの目安とし、鑑定評価の考え方(比準・控除)で補正この地域・この建物種別で借家権価格が認められた裁判例があるか
動産移転料引越し・設備移転の見積額複数社の見積りか。特殊設備(厨房、医療機器、工作機械)の移設費を含むか
新規契約費用敷金・保証金のうち返還されない部分、礼金、仲介手数料、保証会社の費用同等物件の募集条件を確認したか
賃料差額(新規賃料-現賃料)×補償年数(公共用地取得の運用では2〜4年)同等の立地・面積・設備で比較しているか。現賃料が相場より低い理由は何か
内装・造作の損失投下額の残存価値(減価償却後)。移転先で同等の内装を整える工事費造作買取請求権の排除特約の有無。二重計上になっていないか
休業損害休業月数×(月間営業利益+休業中も発生する固定費)休業月数の根拠(移転先の内装工事、許認可の再取得の期間)
得意先喪失年間売上×喪失率×回復までの期間の利益率近隣客の比率、業種の立地依存度を示す資料があるか
移転雑費・広告費移転通知、看板、ウェブ・地図情報の変更、開店案内見積りを取ったか
調整貸主の必要性の弱さ、借主の事情(高齢・長期居住・立地依存)、早期合意の価値天秤(第3講)の読みと整合しているか

ワークシートの合計が相手の提示を大きく上回るなら、その差が交渉の余地です。逆に、合計が提示に近いなら、金額以外の条件(明渡時期、原状回復の免除、敷金の返還)で全体の価値を上げる方向に切り替えます。

実務チェック

  • 相手の提示を、借家権価格・移転実費・営業補償・調整の四つに分解して受け止めた。
  • 移転実費を、損失補償基準の項目(動産移転料、仮住居、借家人補償、移転雑費、内装の損失)に沿って漏れなく列挙した。
  • 事業者の場合、営業補償が休止・廃止・縮小のどの類型に当たるかを見立てた。
  • 各項目について、裏付け資料の有無を確認し、ないものは収集を始めた。
  • 借家権価格と営業補償(営業権・造作)の重複がないように項目を整理した。
  • 合意書に書く内訳が税務上の所得区分に影響することを念頭に、内訳の設計を課題として認識した。

よくある質問

立退料の計算式を教えてください。

法律で定められた計算式はありません。裁判例と実務は、借家権価格、移転実費、営業補償、調整という要素の組合せで立退料を組み立てており、どの要素をどれだけ認めるかは事案ごとに異なります。「更地価格×借地権割合×借家権割合」という式は借家権価格を求める一つの目安として使われますが、不動産鑑定評価基準は税法上の借家権割合を安易に適用してはならないとしており、裁判例の扱いも一様ではありません。計算式を探すより、項目ごとに自分の数字と資料を置くほうが、交渉では役に立ちます。

「引越費用は出すが、それ以上は払えない」と言われました。

引越費用(動産移転料)は移転実費の一項目にすぎません。住居であっても、新規契約の費用(敷金・礼金・仲介手数料)、賃料差額の一定期間分、移転雑費が通常は問題になり、高齢や長期居住などの事情があれば調整部分も問題になります。店舗であれば営業補償と内装の損失が加わります。相手の提示が引越費用にとどまるなら、その他の項目を列挙して、それぞれの資料とともに示すことから交渉が始まります。

公共事業の補償基準は、民間の立ち退きにも当てはまるのですか。

そのまま当てはまるわけではありません。公共用地の取得に伴う損失補償基準は、国や自治体が公共事業のために土地建物を取得する場面のための基準で、民間の貸主に法律上の拘束力を持つものではありません。ただ、移転によって生じる損失を項目化する枠組みとして精緻であるため、裁判例でも立退料の算定の参考とされることがあります。項目を漏れなく拾うための道具として使い、金額の水準は個別の資料で組み立ててください。

決算書を見せると、売上が少ないので不利になりませんか。

営業補償は、営業利益と固定費の実額から積み上げるものですから、実態より小さな数字しか示せなければ、補償額も小さくなります。逆に、実態を正確に示す資料があれば、それが補償額の根拠になります。過少申告や粉飾があれば、この場面で借主自身に跳ね返ります。数字が小さい事業でも、内装の損失、得意先の喪失、移転先での再開までの期間、許認可の再取得といった項目は別に立ちますので、営業利益の額だけで諦める必要はありません。

立退料をもらったら、そのお金で引越しをしなければなりませんか。

使途に制限はありません。立退料は損害賠償ではなく、正当事由を補完するための給付ですので、実際の引越費用との精算を求められることもありません。ただし、受け取った立退料の内訳は、所得税や法人税の取扱いに影響します(第18講)。合意書の内訳の書き方は、金額の交渉と同時に設計しておくべき事項です。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。本講の記載は執筆時点の法令・裁判例・資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。

執筆者 坂本龍亮(さかもと りょうすけ)

明徳法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属)。不動産法務(立ち退き・建物明渡し・賃料紛争・再開発対応)と企業法務・事業承継を中心に取り扱う。立ち退き分野では、債務不履行解除を理由に「0円退去」を求められていた中華料理店の代理人として8,000万円の立退料を獲得した実績を持つほか、ディベロッパー側の代理人として建替え・再開発に伴う立ち退き案件にも多数関与し、貸主・借主双方の実務に精通する。大阪公立大学法学部非常勤講師。

立ち退き・立退料・建物明渡しに関するご相談は、明徳法律事務所(大阪市西区江戸堀)まで。お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

公開日 2026年8月9日/改訂日 2026年9月23日  執筆者 坂本龍亮、お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

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