ホーム連載コラム立ち退き20講 ─ 第5講

『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第5講】

立退料の中身を分解する ― 移転実費・借家権価格・営業補償

「一式いくら」ではなく「積み上げ」で考える

立退料の算定に法定の計算式はありませんが、実務・裁判例では、おおむね次の要素の積み上げ(またはその一部の組合せ)として整理されます。公共用地の取得に伴う損失補償基準の考え方が参照されることもあります。

図表:立退料の構成要素

構成要素 内容 住居 店舗・事務所
① 移転実費 引越費用、新規物件の契約費用(礼金・仲介手数料等)、家賃差額(新旧賃料の差額の一定期間分)、原状回復・内装工事費 ◎中心
② 借家権価格 借家権という利用権の財産的価値。地域の取引慣行や、(更地価格×借地権割合×借家権割合)等の不動産鑑定手法で算定 ○事案による ○事案による
③ 営業補償 休業期間中の逸失利益、固定費(人件費・リース料等)、移転による顧客喪失・売上減少、移転困難な設備・造作の損失 ◎最大項目になり得る
④ その他 慰謝的要素、迷惑料的な上乗せ(法的性質は曖昧だが交渉では機能)

金額を分けるのは「資料」である

同じ店舗でも、確定申告書・決算書・売上台帳で営業実態を立証できる借主と、どんぶり勘定の借主とでは、認められる営業補償が桁違いになります。住居でも、転居先の賃料相場資料、引越見積書、通院・通学の事情を示す資料の有無が金額を左右します。立退料の交渉とは、突き詰めれば「自分が失うものを証拠で語る」作業です。

借主側でやるべき資料収集を挙げておきます。①賃貸借契約書・更新契約書一式、②賃料の支払記録、③(事業者)直近3期分の決算書・確定申告書、月次の売上資料、④内装・設備投資の金額が分かる資料、⑤周辺の賃料相場・移転候補物件の資料、⑥(住居)世帯の事情に関する資料。これらは第16講の訴訟でもそのまま武器になります。

「使途を問われない」のも立退料の特徴

なお、立退料は損害賠償ではないため、受け取った金銭の使途は自由です。実際に引越費用がいくらかかったかの精算を求められる筋合いのものではありません(ただし税務上の所得区分には内訳が影響します。第18講)。この点でも、内訳ごとの根拠を積み上げて総額を最大化する交渉技術が生きてきます。

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