ホーム連載コラム立ち退き20講 ─ 第6講

『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第6講】

住まいの立退料 ― 「家賃6か月分」で済ませないための増額要素

住居の立退料の実務的な出発点

居住用建物の立退料は、移転実費(引越費用+新規契約費用+家賃差額の補償)を中心に組み立てられ、簡易な事案では賃料の6か月〜1年分程度の水準で合意されることが少なくありません。しかしこれは、あくまで「双方に特段の事情がない場合の出発点」です。裁判例・交渉実務では、次の要素が金額を大きく押し上げます。

図表:住居の立退料・増額要素チェックリスト

増額要素 理由
居住年数の長さ 使用の必要性・生活の本拠性を強め、正当事由を弱める
高齢・持病・障害 転居自体の困難。転居先確保の困難(高齢者の入居審査の現実)
賃料が周辺相場より安い 同水準の住居を借り直すための家賃差額補償が膨らむ
家族の事情(通学・通院・介護) 転居可能なエリアが限定され、移転コストが上がる
貸主側の必要性の弱さ 正当事由が弱いほど、補完に必要な立退料は高額になる(第3講の天秤)
建物がまだ使える 老朽化の主張が弱ければ天秤は借主側に(第9講

逆に、借主がほとんど居住していない(住民票だけ残っている等)、賃料滞納歴がある、といった事情は減額方向に働きます。

「高齢の親が一人で住んでいる」ケースこそ弁護士へ

実務で特に注意したいのが、高齢の借主の単身世帯です。貸主・立退交渉業者との一対一の交渉では、押し切られて不利な書面に署名してしまう危険が高く、また本人が「迷惑をかけたくない」と過小な条件で応じてしまいがちです。ご家族が通知に気づいたら、本人任せにせず、早期に専門家を挟んでください。転居先の確保(高齢者の入居可能物件は限られます)まで含めた解決設計が必要であり、それ自体が立退料増額の正当な根拠になります。

公営住宅・社宅等は別ルール

なお、公営住宅には公営住宅法等の特別ルールが、社宅には労働契約との関係が絡み、借地借家法の適用関係自体が論点になります。本シリーズの守備範囲は民間の普通借家が中心ですが、契約関係が特殊な場合も、まず契約タイプ診断(第2講)からご相談いただければ整理できます。

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