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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第6講】

住まいの立退料 ― 「家賃6か月分」で済ませないための増額要素

第6講第Ⅱ部 金額編――立退料はいくらが適正か

住まいの立退料――「家賃6か月分」で終わらせない

移転実費と賃料差額を積み、居住年数・高齢・家族の事情で天秤を動かす

『立ち退き20講――立退料の教科書』執筆者 坂本龍亮(明徳法律事務所 弁護士)お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp読了目安 20分

公開日 2026年8月9日改訂日 2026年9月23日

この講の結論

居住用建物の立退料は、引越費用と新規契約の費用(移転実費)に、転居後の賃料と現在の賃料の差額の一定期間分(賃料差額補償)を加えた額を基本に組み立てられます。近年の裁判例では、借家権価格ではなく移転に伴う実際の損失に着目した算定が主流で、賃料差額の補償期間は2年から3年が中心です。この基本の式に、居住年数の長さ、高齢や持病、周辺相場より低い賃料、家族の通学・通院・介護の事情、そして貸主側の必要性の弱さが加わることで、金額は「賃料6か月分」から大きく動きます。高齢の借主の単身世帯では、転居先の確保そのものが困難であることが多く、金額だけでなく明渡しの時期と転居先の手当てを含めた解決を設計する必要があります。

住居の立退料は、どこから始まるか

自宅の立ち退きを求められた方の多くが、最初に耳にする数字が「家賃6か月分」です。管理会社の担当者がそう言い、インターネットにもそう書いてある。しかしこの数字は、法律上の基準ではなく、双方に特段の事情がない簡易な事案で合意されることが多い水準の、いわば経験的な下限にすぎません。

居住用建物の立退料の算定について、近年の裁判例には一つの傾向があります。店舗の事案で問題になる借家権価格(第5講)を居住用建物で認めることは少なく、移転に伴って借主が実際に負担する費用と損失に着目して金額を組み立てる方法が主流になっているということです。不動産鑑定士の島田博文氏が平成28年以降の建物明渡請求訴訟64件(住宅11件、事務所4件、店舗55件)を分析した論文(土地総合研究2025年夏号)でも、居住用建物の事案では、裁判所の鑑定がある場合を除いて借家権価格は考慮されておらず、代替物件への移転に係る諸費用等に着眼した補償が主流であると整理されています。賃料差額の補償期間は、後に掲げる裁判例に見るとおり2年で見るものが多く、事案によって3年程度まで伸びます。

この傾向は、借主側にとって二つの意味を持ちます。一つは、金額の組み立て方が比較的はっきりしているので、自分の数字を置きやすいこと。もう一つは、その式に代入する数字――転居先の賃料、補償の年数、引越しと新規契約の費用――を、資料で一つひとつ押し上げていく作業が、そのまま金額に反映されることです。

基本の式――移転実費+賃料差額×期間

図1 住居の立退料の基本構成

  1. 1移転実費引越費用(動産移転料)、新居の敷金・礼金・仲介手数料・保証会社の費用のうち戻らない部分、火災保険、鍵交換、移転雑費(住所変更の手続、通知、転居のための交通費)。見積書と募集条件で裏付ける。
  2. 2賃料差額補償(転居後の賃料-現在の賃料)×補償期間。同等の立地・広さ・設備の物件を借り直したときの賃料を、周辺の募集資料で示す。補償期間は2年が標準的で、事情によって3年、4年と伸びる。
  3. 3調整居住年数、高齢・持病・障害、家族の事情、貸主側の必要性の弱さ、貸主の従前の対応(修繕の放置など)。「迷惑料」「協力金」の名目で加算されることもある。
  4. 4金額以外の条件明渡時期の猶予、原状回復義務の免除、敷金の全額返還、転居先の紹介・確保への協力。高齢の借主では、この部分が金額以上に重要になることがある(第17講)。

①と②は資料で積み上げ、③は天秤(第3講)の読みで動き、④は合意書で確保する。

基本の式のうち、いちばん大きな数字になりやすいのが②の賃料差額補償です。長く住んでいる借主ほど、現在の賃料は周辺相場より低くなっていることが多く、同等の住居を借り直せば月々の差額が数万円になることは珍しくありません。月3万円の差額でも、2年分で72万円、3年分で108万円です。これだけで「賃料6か月分」を超えます。

裁判例に見る住居の実額

裁判例の金額は事案の個性に強く依存するため、「この判決でいくらだったからうちもいくら」という使い方はできません。それでも、裁判所がどの項目をどう積んでいるかを見ることには意味があります。

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裁判例事案立退料算定の内容
東京地判平成28年12月22日築43年の木造アパート(約47㎡)の建替え。賃料月9万円350万円引越料等の移転実費約20万円、転居後の想定賃料(月約21万6200円)との差額2年分約302万8800円、過去の雨漏りに関する迷惑料20万円。借主が主張した借家権価格方式による約2600万円は採用されなかった
東京地判令和3年3月26日旧耐震基準の建物で倒壊の危険性が指摘された事案。賃料月16万円。借主の家族に障害285万円賃料差額月10万円×24か月=240万円と移転費用45万円
東京地判令和5年1月24日貸主の自己使用の必要性と、借主の家族の居住。賃料月13万5000円240万円引越費用・初期費用と、転居後の賃料増額分の一定期間分
東京地判令和5年6月21日建物の老朽化・耐震性不足。賃料月9万円。借主は経済的に困窮90万円家財の搬出費用、新規契約費用、賃料差額の相当期間分
東京高判平成12年3月23日港区赤坂の築約40年の木造建物を取り壊して高級マンションを建築する計画。借主は82歳、身体障害者手帳3級200万円引越料その他の移転実費と、転居後の賃料と現賃料の差額の1〜2年分程度の範囲内として算定
東京地判令和3年12月14日法務省の令和7年調査研究報告書が分析対象137件の最低額として挙げる事案27万円(賃料6か月分)報告書の整理では、敷地を駐車場にすることで収益性の問題を解決する事案

表を眺めると、賃料差額の年数を2年で見た事案が多いこと、高齢や障害という事情があっても算定の枠組み自体は移転実費と賃料差額であること、他方で「迷惑料」のような調整が加算されることがあること、そして最低額の事案が賃料6か月分であることが分かります。「6か月分」は、裁判所が認定する額の下限に近い数字であって、標準ではありません。

金額を押し上げる六つの要素

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要素なぜ金額が動くか裏付け資料
居住年数の長さ生活の本拠性を強め、正当事由を弱める(第3講)。同時に、賃料が相場より低く据え置かれていることが多く、賃料差額が大きくなる契約書・更新契約書の履歴、住民票の履歴、公共料金の記録
高齢、持病、障害、要介護転居そのものの困難と、転居先確保の困難。かかりつけ医や介護事業所との距離が転居先を限定し、賃料差額と補償期間を押し上げる診断書、通院記録、介護保険の認定資料、障害者手帳
賃料が周辺相場より低い同水準の住居を借り直すための賃料差額補償が膨らむ周辺の募集賃料資料、同等物件の条件
家族の通学・通院・介護転居可能な地域が限定され、移転先の選択肢が狭まる。転校を避けるための学区内の物件は賃料が高いことが多い在学証明、通学経路、介護先の所在、勤務先の資料
貸主側の必要性の弱さ正当事由が弱いほど、補完に必要な立退料は高くなる。計画が抽象的、動機が収益目的だけ、といった事情通知書の文面、貸主側から開示された計画資料、主張の変遷の記録
建物がまだ使える老朽化の主張が弱ければ、天秤は借主側に傾く(第9講)。修繕を放置してきた経緯は、従前の経過として貸主側に不利に働く建物の状態の写真、修繕依頼の記録、耐震診断書の内容

六つの要素の多くは、正当事由の判断(第3講)と立退料の算定の両方で効きます。同じ事実を集めることで、天秤と金額の両方を動かせるということです。

金額を下げる要素も知っておく

逆に、借主側の事情が減額方向に働くこともあります。実際にはほとんど住んでいない(住民票だけ残っている、別の住居が生活の本拠になっている)場合、使用の必要性は弱く評価されます。賃料の滞納歴があれば、従前の経過として不利に働くだけでなく、債務不履行解除という別の主張を招きます(第12講)。無断で同居人を増やしている、契約に反して事務所や店舗として使っている、近隣とのトラブルが続いているといった事情も、利用状況として考慮されます。

こうした事情は、相談の最初の段階で正直に整理しておく必要があります。隠していて後から出てくると、交渉でも訴訟でも信用を損ないます。整理したうえで、直せるものは直し(滞納があれば直ちに解消する)、説明できるものは説明する。それが減額要素への対処です。

賃料差額の「年数」が主戦場になる

住居の立退料で、交渉と訴訟の両方で最も争われるのが、賃料差額をいくら、何年分見るかです。

「いくら」については、転居先の想定賃料をどの物件で見るかが問題になります。貸主側は、より安い地域やより狭い物件を前提に低い差額を主張し、借主側は、同等の立地・広さ・設備で借り直すことを前提に主張します。ここで効くのが、周辺の募集賃料資料です。同じ駅、同じ間取り、同じ築年数帯の募集条件を複数集め、平均ではなく「現実に借りられる水準」を示すことが、差額の主張を支えます。

「何年分」については、公共用地の取得に伴う損失補償の運用では、家賃差が2倍以下なら2年、2倍超3倍以下なら3年、3倍超なら4年という基準が用いられており(第5講)、立退料の裁判例でも2年を標準としつつ、事案によって3年程度まで伸びるものが見られます。高齢で転居の負担が大きい、賃料差が大きく生活への影響が長期に及ぶ、貸主側の必要性が弱い、といった事情は、年数を伸ばす方向の主張材料になります。逆に、貸主側の必要性が強く、借主側に特段の事情がなければ、2年より短く見られることもあります。

高齢の借主の単身世帯こそ、専門家を挟む

実務で特に注意したいのが、高齢の借主が一人で住んでいる事案です。二つの理由があります。

一つは、交渉の非対称です。貸主や立ち退き交渉を担う業者との一対一の交渉では、押し切られて不利な書面に署名してしまう危険が高く、本人が「迷惑をかけたくない」「子どもに心配をかけたくない」という気持ちから過小な条件で応じてしまうことが少なくありません。ご家族が通知に気づいたら、本人任せにせず、早期に専門家を挟んでください。

もう一つは、転居先確保の困難です。高齢の単身者は、民間賃貸住宅の入居審査で断られることが多いのが現実です。この現実を踏まえて、国は令和7年10月1日に改正住宅セーフティネット法を施行し、居住支援法人等が入居中の見守りなどを行う「居住サポート住宅」の認定制度や、借主の死亡によって終了する終身建物賃貸借の手続の簡素化、残置物処理に関する仕組み、家賃債務保証業者の認定制度などを設けました。こうした制度の存在は、転居先を探す際の選択肢になると同時に、「高齢者の転居がいかに困難か」を国が制度で認めていることの証左でもあります。

高齢の借主の立ち退きでは、金額の交渉と並行して、転居先の確保をどう進めるか、その間の明渡時期をどう猶予してもらうか、貸主側に転居先の紹介や保証の手当てを求められるかを、解決の設計に組み込みます。転居先の確保に要する時間と費用は、それ自体が立退料増額の正当な根拠です。また、正当事由の判断でも、高齢で長期に居住してきた事実は重く評価されます。法務省の令和7年調査研究報告書は、築100年を超える木造建物に86歳の借主が80年以上居住してきた事案(東京地判令和5年2月22日)を、立退料による補完を許さないほど高度な使用の必要性が借主側に認められた例として挙げています。

家族が代わりに交渉するとき

高齢の親の代わりに子が交渉の窓口に立つことはよくあります。法律上、借主は親本人ですから、合意書に署名するのは本人であり、子が代わって署名するには委任が必要です。本人の判断能力に不安がある場合には、成年後見制度の利用を検討しなければならないこともあります。判断能力が不十分な状態で本人が署名した合意は、後に効力を争われる原因にもなりますので、貸主側にとっても、適切な手続を踏むことは利益になります。

家族が交渉に関わるときの注意点は、家族自身が「早く片付けたい」という気持ちから、本人の意向を確かめないまま条件を決めてしまわないことです。本人が住み続けたいのか、条件次第で移ってもよいのか、移るならどこへ移りたいのか。この意向を最初に確認し、記録しておくことが、その後の交渉の軸になります。

生活保護を受けている借主の注意点

生活保護を受けている借主が家主の都合で転居する場合、転居に必要な敷金等や引越費用が住宅扶助などとして支給される仕組みがあります。他方で、立退料を受け取ると、その金銭は原則として収入として認定され、保護費との調整の対象になります。転居に必要な経費として認められる部分は収入認定から除外される取扱いがありますが、その範囲や手続は福祉事務所の判断によります。

したがって、生活保護を受けている借主は、立退料の合意をする前に、担当のケースワーカーに立ち退きの経緯と受け取る予定の金額・内訳を伝え、収入認定の扱いと転居費用の支給について事前に調整しておく必要があります。合意書の内訳の書き方が、収入認定の判断に影響することもあります。この点は、金額の交渉と同時に設計しておくべき事項です。

住居兼店舗、公営住宅、社宅

一階で商売をし、二階に住んでいる併用住宅の場合、立退料は住居部分と店舗部分の両方について組み立てます。店舗部分については営業補償(第7講)が問題になり、住居部分については本講の基本の式が当てはまります。両者を合わせた額が立退料になりますが、借家権価格を認める場合には、店舗部分と住居部分で重複計上にならないよう整理が必要です。

公営住宅には公営住宅法の規律が先に働きます。公営住宅建替事業に伴う明渡しでは、事業主体は入居者に対して期限を定めて明渡しを請求できますが、その期限は請求の日の翌日から起算して3か月を経過した日以後でなければならず(公営住宅法38条)、入居者に必要な仮住居を提供し(39条)、建替え後の公営住宅への入居を希望する者を入居させ(40条)、明渡しにより通常生ずる移転料を支払う(42条)ものとされています。借地借家法28条の正当事由と立退料という枠組みではなく、法律が手続と補償の中身を定めている点で、民間の借家とは仕組みが異なります。社宅は、賃料の額や労働契約との結びつきによって、借地借家法が適用される賃貸借なのか、労働契約に付随する使用関係なのかが問題になります。いずれも、まず契約タイプの診断(第2講)から始めてください。

PRACTICE NOTE

住居の立退料・積算の実例

次の例は、算定の考え方を示すための仮の数字です。ご自身の事案では、それぞれの項目に実際の見積りと募集資料の数字を置いてください。

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項目前提金額
現在の賃料築40年の2DK、月8万円、居住18年(基準)
転居先の想定賃料同じ駅圏で同等の広さ・設備の募集条件を5件確認。中央値で月11万円差額 月3万円
賃料差額補償差額3万円×24か月(2年)。高齢や転居困難の事情があれば36か月を主張72万円(3年なら108万円)
新規契約の費用敷金1か月(返還されるので運用益のみ)、礼金1か月11万円、仲介手数料1か月+税12万1000円、保証会社初回保証料5万5000円、火災保険2万円、鍵交換2万円約32万6000円
引越費用2社の見積りの平均。家族3人分の家財20万円
移転雑費住所変更の手続、通知、物件探しの交通費、不用品の処分5万円
小計(移転実費+賃料差額)約129万6000円(賃料約16か月分)
調整居住18年、貸主の建替え計画は資金・時期が未定、修繕の放置あり加算を主張
金額以外の条件明渡しまで転居先確定後3か月の猶予、原状回復義務の全部免除、敷金全額返還合意書に明記

この例では、移転実費と賃料差額だけで賃料の約16か月分に達します。「6か月分」の提示との差は、資料を出せば埋まる差であって、交渉の腕の差ではありません。加えて、明渡時期の猶予と原状回復の免除は、金額に表れない価値として合意書で確保します。

実務チェック

  • 現在の賃料と契約条件、居住年数、更新の履歴を書き出した。
  • 同等の立地・広さ・設備の物件の募集条件を複数集め、転居先の想定賃料を根拠づけた。
  • 引越し、新規契約、雑費の見積りを取り、移転実費を金額化した。
  • 賃料差額の補償年数について、2年を起点に、伸ばす根拠となる事情(高齢、転居困難、貸主の必要性の弱さ)を整理した。
  • 世帯の事情(高齢、持病、障害、通学、通院、介護)を裏付ける資料を揃えた。
  • 高齢の借主の場合、本人の意向を確認し、転居先の確保と明渡時期の猶予を解決の設計に組み込んだ。
  • 生活保護を受けている場合、ケースワーカーに事前に相談した。

よくある質問

「引越代と家賃6か月分を払うから出てほしい」と言われました。妥当ですか。

事案によりますが、多くの場合、それは出発点であって着地点ではありません。住居の立退料は、引越費用と新規契約の費用に、転居後の賃料との差額の2年から3年分を加えた額を基本に組み立てられます。長く住んでいて賃料が相場より低くなっていれば、差額の2年分だけで賃料6か月分を超えることは珍しくありません。加えて、高齢や家族の事情、貸主側の必要性の弱さがあれば、さらに加算の余地があります。同等物件の募集資料と見積書を集めて、自分の数字を置いてから返事をしてください。

高齢の母が一人で住んでいます。転居先が見つからなければ、出なくてよいのですか。

転居先が見つからないこと自体で明渡し義務がなくなるわけではありませんが、高齢で長期に居住してきた事実は、正当事由の判断で借主側に重く評価され、立退料の額と明渡時期の猶予にも反映されます。事案によっては、立退料による補完を許さないほど借主側の必要性が高いとして正当事由が否定された例もあります。実務では、転居先の確保を貸主側の協力も得ながら進め、確保できるまでの猶予と、転居に伴う費用の補償を合意書に書き込む設計が中心になります。本人だけで交渉させず、早期にご相談ください。

賃料差額は何年分もらえますか。

法律上の定めはありません。裁判例では2年分を標準とするものが多く、事案によって3年程度まで伸びるものが見られます。公共用地の取得に伴う損失補償の運用では、家賃差が2倍以下なら2年、2倍超3倍以下なら3年、3倍超なら4年という基準が用いられています。高齢で転居の負担が大きい、賃料差が大きい、貸主側の必要性が弱いといった事情は、年数を伸ばす方向の材料になります。

古い建物なので、修繕を頼んでも直してもらえませんでした。これは交渉に関係しますか。

関係します。貸主には賃貸物の使用に必要な修繕をする義務があり(民法606条1項)、修繕を放置してきた経緯は、借地借家法28条の「従前の経過」として貸主側に不利に働き得ます。また、雨漏りなどで実際に不便を被ってきた事実は、裁判例でも「迷惑料」として立退料に加算された例があります。修繕を依頼した記録(メール、書面、写真)を保存してください。

立退料をもらって転居した場合、確定申告は必要ですか。

個人の借主が受け取る立退料は、その性格に応じて、借家権の消滅の対価に当たる部分は譲渡所得、それ以外の部分は原則として一時所得として扱われます。一時所得には50万円の特別控除があり、控除後の金額の2分の1が課税対象になりますので、住居の立退料の水準では税額が生じない、または小さいことが多いのですが、金額と内訳によっては申告が必要になります。詳しくは第18講で扱います。個別の申告は税理士にご確認ください。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例の原文は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索や判例集で裁判年月日から確認できます。本講の記載は執筆時点の法令・裁判例・資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。積算の実例は考え方を示すための仮の数字です。

執筆者 坂本龍亮(さかもと りょうすけ)

明徳法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属)。不動産法務(立ち退き・建物明渡し・賃料紛争・再開発対応)と企業法務・事業承継を中心に取り扱う。立ち退き分野では、債務不履行解除を理由に「0円退去」を求められていた中華料理店の代理人として8,000万円の立退料を獲得した実績を持つほか、ディベロッパー側の代理人として建替え・再開発に伴う立ち退き案件にも多数関与し、貸主・借主双方の実務に精通する。大阪公立大学法学部非常勤講師。

立ち退き・立退料・建物明渡しに関するご相談は、明徳法律事務所(大阪市西区江戸堀)まで。お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

公開日 2026年8月9日/改訂日 2026年9月23日  執筆者 坂本龍亮、お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

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