事業用の立退料は桁が変わる
店舗・飲食店・事務所・工場など事業用物件の立退料は、住居とは構造が異なります。中心は営業補償――その場所で営業を続けられなくなることによる経済的損失の補填――であり、事案によっては数千万円から億円単位に達します。当事務所が中華料理店の代理人として8,000万円の立退料を実現した事案(第13講)も、核心は営業補償の立証でした。
営業補償の内訳
営業補償は、おおむね次の項目に分解して主張します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 休業補償 | 移転に伴う休業期間中の営業利益+従業員の休業手当等の固定費 |
| 得意先喪失補償 | 移転による顧客の喪失・売上減少(立地依存型の業種ほど大きい) |
| 移転費用 | 什器・設備・在庫の移転、移転通知・広告宣伝費 |
| 内装・設備の損失 | 現店舗に投下した造作・設備のうち移設できないものの残存価値 |
| 再開発準備費用 | 新店舗の内装工事費、営業許可の再取得等 |
飲食店のように立地・常連客と結びついた業種、医院・薬局のように許認可と結びついた業種、工場のように設備移転が困難な業種は、「移転=廃業に近い」実態を丁寧に立証することで、補償額が大きく伸びます。
造作買取請求権(借地借家法33条)という別の武器
賃貸借が終了する場面では、貸主の同意を得て建物に付加した造作(空調、内装設備等)を時価で買い取るよう請求できる造作買取請求権(借地借家法33条)も視野に入ります。ただしこの権利は特約で排除可能であり(37条は33条を片面的強行規定に含めていません)、実際、多くの契約書には排除特約があります。特約の有無を契約書で確認しつつ、排除されていても、造作・内装の投下資本は立退料(営業補償・移転実費)の交渉材料として主張していくのが実務です。
「賃料の何か月分」発想から自由になる
事業用の立ち退きで、貸主側から「相場は賃料の2〜3年分」といった提示がされることがあります。しかし営業補償は賃料ではなく利益と費用の実額から積み上げるものです。月商・営業利益・固定費・移転困難性を数字で示せば、賃料基準の提示額が実損に遠く及ばないことを可視化できます。決算書と月次資料を持って、提示に返事をする前にご相談ください。返事の前と後では、交渉の組み立てがまるで変わります。