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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第8講】

裁判所は実際いくら認めたか ― 正当事由と立退料の裁判例ウォッチ

裁判例を読むときの注意

最初にお断りします。立退料の裁判例は事案の個性への依存度が極めて高く、「この判決でX円だったからうちもX円」という使い方はできません。それでも裁判例を知る意味は、①裁判所がどの事情をどう評価するかの「思考の型」を学べること、②交渉で根拠ある反論材料になること、の2点にあります。

老朽化・建替えをめぐる近時の裁判例

正当事由を否定した例:

  • 東京地判平成22年9月7日:耐震性の不足が主張されたものの、耐震補強工事が可能であることなどから、正当事由に消極的な判断がされた例。
  • 東京地判令和元年12月12日:築57年の木造戸建て住宅について、東日本大震災でも大きな被害がなく、一級建築士の意見書によれば早急な耐震補強や建替工事を要する状況にないとして、貸主の解約申入れの正当事由を否定した例。

正当事由を肯定した例:

  • 東京地判平成29年2月14日:耐震改修工事を行ったものの、数年のうちに建て替えるべきであることは否定されないとして、正当事由が肯定された例。
  • 東京地判令和元年9月3日:築55年以上の建物について、技術的には補強工事が可能でも、補修すると窓や通路の使用が一部困難になる等、立地を活かした効果的な活用が見込めないとして建替えの必要性を認め、正当事由を肯定した例。

この対比から読み取れる「思考の型」

並べてみると、裁判所は「築年数が古い」という一事では動かず、耐震診断・建築士意見書などの客観的資料に基づき、①現実の危険性の程度、②補強工事の技術的・経済的可能性、③補強後の建物の使用価値、を具体的に検討していることが分かります。借主側から見れば、貸主が「老朽化」としか言わない段階では正当事由の立証は不十分であり、耐震診断書等の開示を求め、その内容を専門家(建築士)とともに吟味することが、そのまま反論の柱になります(第9講で深掘りします)。

そして正当事由が「弱いが皆無ではない」中間領域に落ちる事案こそ、立退料の金額が主戦場になります。裁判所は、双方の必要性の差を埋めるのに足りる金額を、移転実費・借家権価格・営業補償(第5講)の主張立証を踏まえて認定します。立退料の額は「相場」からではなく「証拠」から生まれる――裁判例が一貫して教えるのはこのことです。

なお、裁判例の網羅的な調査・分析は、事案が具体化した段階で当事務所が判例データベースを用いて行います。ご自身の事案に近い裁判例がどの程度の水準を示しているか、初回相談時にお尋ねください。

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