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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第12講】

「契約違反だから0円で出て行け」と言われたら ― 債務不履行解除への反撃と信頼関係破壊の法理

立退料を払いたくない貸主の「切り札」

正当事由型の立ち退き(第9〜11講)には立退料がつきものです。そこで一部の貸主・立退コンサルタントは、発想を変えてきます。「あなたには契約違反があるから、賃貸借契約を債務不履行で解除する。解除なら正当事由も立退料も不要。0円で出て行け」――賃料の一時的な遅れ、無断とされる軽微な改装、用法違反の主張、些細な近隣クレーム。過去の帳簿をひっくり返して「違反」を探し出し、解除通知を突きつけるパターンです。

この主張には、確立した判例法理による強力な反撃が可能です。

信頼関係破壊の法理 ― 軽微な違反では解除できない

賃貸借は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるため、判例は、形式的な債務不履行があっても、それが当事者間の信頼関係を破壊するに至らない程度のものである場合には、解除は認められないという法理(信頼関係破壊の法理)を確立しています。

  • 最高裁昭和28年9月25日判決:無断転貸(民法612条)の場面につき、賃借人の行為が「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」がある場合には解除権は発生しないと判示。
  • 最高裁昭和39年7月28日判決:賃料滞納を理由とする解除の場面でも、信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定できない場合には解除権の行使は信義則に反し許されないとした原審の判断を是認。

実務でも、短期間・少額の賃料遅滞(その後解消済み)、貸主が長年黙認してきた使用態様、実害のない軽微な契約条項違反などは、信頼関係の破壊に至らないとして解除が否定される方向に働きます。逆に言えば、貸主側が持ち出す「違反」の多くは、立退料を免れるための後付けの理屈であり、法理に照らして冷静に潰していけるのです。

反撃の型 ― 「解除無効」から「立退料あり」の土俵へ戻す

借主側の戦略は二段構えです。第一段階:主張された「違反」の事実関係と評価を争い、解除の効力を否定する(事実の記録、滞納があれば速やかな解消と供託の検討、黙認の経緯の立証)。第二段階:解除が通らないことを貸主に理解させたうえで、本来の土俵――正当事由と立退料の交渉(第3〜8講)――に引き戻す。「0円」の主張を崩した瞬間から、金額の交渉が始まります。

この二段構えを絵に描いたように辿ったのが、当事務所が代理した中華料理店の事案です。次講で、守秘義務に反しない範囲で詳しくご紹介します。

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