ホーム連載コラム立ち退き20講 ─ 第13講

『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第13講】

【解決実例】「0円で退去せよ」と言われた中華料理店が、8,000万円の立退料を得るまで

事案の出発点 ― 最悪のポジションから

ご相談にみえたのは、長年その土地で営業を続けてきた中華料理店の経営者でした。貸主側は再開発を見据えて建物の明渡しを求めるにあたり、賃貸借契約の債務不履行解除を主張。「契約は既に解除された。あなたは占有権原のない不法占拠者だ。立退料は1円も支払わない。直ちに退去せよ」という、いわゆる**「0円退去」**の要求です。

債務不履行解除が認められてしまえば、正当事由も立退料も出る幕はありません(第12講)。つまりこの事案は、立退料交渉の入口にすら立てていない、借主側として最悪のポジションから始まりました。

転換点① ― 解除の効力を徹底的に争う

当事務所はまず、主張された「債務不履行」の内容を精査し、信頼関係破壊の法理(最高裁昭和28年9月25日判決・同昭和39年7月28日判決の系譜)に照らして、解除が無効であることの主張立証に注力しました。契約の経過、貸主側の従前の対応、営業の実態を丁寧に拾い上げ、「信頼関係を破壊するほどの背信性はない」ことを具体的事実で示していく作業です。

「解除有効・0円」の主張が維持できないと貸主側が認識した時点で、紛争の性質は一変します。占有権原のある借主に明渡しを求める以上、土俵は正当事由と立退料(借地借家法28条)に移らざるを得ないからです。

転換点② ― 営業補償を「数字」で積み上げる

土俵を戻した後は、金額の勝負です。飲食店の立退料の核心は営業補償(第7講)にあります。売上・利益の実績、立地と常連客への依存、移転すれば失われる内装・設備への投下資本、休業と顧客喪失のインパクト――これらを資料に基づいて積み上げ、「この店がこの場所を失うことの経済的価値」を可視化しました。

最終的に、8,000万円の立退料の支払いを受ける内容で解決に至りました。「0円」の通告から始まった事案としては、文字どおり桁の違う着地です。

この実例が教える3つのこと

第一に、貸主の「解除」「0円」という言葉を、法的評価として受け取らないこと。 それは多くの場合、交渉のポジショントークです。第二に、解除の効力を争う法理(信頼関係破壊の法理)と、立退料を積み上げる技術(営業補償の立証)は、別々の専門技能であり、両方を接続して初めて結果が出ること。 第三に、初動で諦めて退去してしまえば、この8,000万円は存在しなかったこと。

※本件は当事務所の実際の解決実績に基づきますが、事案の特定を避けるため詳細は抽象化しています。また、解決額は当該事案の個別事情によるものであり、同種事案での結果を保証するものではありません。

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