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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第14講】

その通知は、期限を守っているか ― 更新拒絶・解約申入れのルールと法定更新 ―

第14講第Ⅳ部 交渉・手続編――進め方と落とし穴

その通知は、期限を守っているか――更新拒絶・解約申入れのルールと法定更新

正当事由の前に「手続」がある。手続の瑕疵は時間を生み、時間は条件を生む

『立ち退き20講――立退料の教科書』執筆者 坂本龍亮(明徳法律事務所 弁護士)お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp読了目安 18分

公開日 2026年8月9日改訂日 2026年9月23日

この講の結論

貸主が普通借家を終わらせるには、正当事由の前に、厳格な手続要件をクリアしなければなりません。期間の定めがある契約では、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をしなければ、正当事由の有無を論じるまでもなく契約は法定更新され、期間の定めのない契約として続きます。期間の定めがない契約では、解約申入れから6か月の経過が必要です。いずれの場合も、期間満了や解約申入れの6か月経過の後に借主が使用を続けているのに貸主が遅滞なく異議を述べなければ、やはり法定更新が生じます。通知の時期や方式の不備は紛争を終局的に解決するものではありませんが、借主側に交渉のための時間と「急いで出る必要はない」という立ち位置を与えます。立ち退き交渉における時間は、ほぼそのまま条件に換算されます。通知が届いたら、封筒の消印と受領日を保存し、契約書の期間と突き合わせる。この地味な確認から、反撃は始まります。

正当事由の前に「手続」がある

第3講から第13講までは、貸主の言い分の中身、つまり正当事由の有無を軸に話を進めてきました。しかし、貸主が普通借家を終わらせるには、正当事由の前に通らなければならない関門があります。手続です。

借地借家法は、貸主からの更新拒絶と解約申入れについて、時期と手順を厳格に定めています。この手続を踏んでいない立ち退き要求は、実務上、珍しくありません。貸主本人が法律をよく知らずに通知を送る場合もあれば、管理会社や業者が定型の文面で送ってしまう場合もあります。手続の不備があれば、貸主の言い分がどれほど立派でも、その通知によって今回の期間満了で契約を終わらせることはできません。

期間の定めがある契約――1年前から6か月前まで

2年契約、3年契約のように期間の定めがある建物賃貸借では、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に、相手方に対して更新をしない旨の通知、または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項本文)。これが法定更新です。

この規定は、借主からの通知にも貸主からの通知にも適用されますが、貸主からの通知には、さらに28条の正当事由が必要です。つまり貸主側から見ると、①期間満了の1年前から6か月前までの間に、②正当事由のある更新拒絶の通知をする、という二つの要件を満たさなければ、契約は法定更新されます。

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通知の時期効果借主側の見方
期間満了の1年前より前26条1項の通知期間に入っていない。通知期間内に改めて通知されなければ法定更新早すぎる通知は、通知期間内の通知とはいえず、それだけでは効力を持たないと解されている。通知期間内に再度の通知があるかを見る
期間満了の1年前から6か月前まで通知期間内。正当事由があれば期間満了で契約終了。正当事由がなければ法定更新争点は正当事由の有無(第3講以下)に移る
期間満了の6か月前より後更新拒絶の通知としては効力を持たない。契約は法定更新され、期間の定めのない契約になる今回の期間満了では終了しない。貸主は法定更新後の契約に対して改めて解約申入れをすることになる(正当事由が必要で、6か月の経過を要する)
通知なし法定更新同上

「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」も26条1項の通知に含まれます。賃料の大幅な増額を条件にして「応じなければ更新しない」という通知が来ることがありますが、これも貸主からの通知である以上、28条の正当事由が必要です。賃料の増額は、借地借家法32条の賃料増減請求という別の手続で争うものであり、増額に応じないことを理由に更新を拒むには正当事由が要ります。

なお、期間を1年未満とする建物賃貸借は、期間の定めがないものとみなされます(29条1項)。「6か月契約」「10か月契約」という契約書があっても、それは期間の定めのない契約として扱われ、次に述べる解約申入れのルールが適用されます。

期間の定めがない契約――解約申入れから6か月

期間の定めがない建物賃貸借では、貸主が解約の申入れをした場合、賃貸借は解約申入れの日から6か月を経過することによって終了します(27条1項)。もちろん、この解約申入れにも正当事由が必要です(28条)。

期間の定めがない契約は、最初から期間を定めなかった場合のほか、法定更新によって生じます。2年契約が法定更新されると、更新後の契約は期間の定めのないものになりますので(26条1項ただし書)、その後に貸主が契約を終わらせるには、27条の解約申入れによることになります。

民法の一般則では、期間の定めのない建物賃貸借の解約申入れから終了までの期間は3か月ですが(民法617条1項2号)、借地借家法27条はこれを6か月に延ばしており、借主に不利な特約は無効です(30条)。契約書に「貸主は3か月前の予告で解約できる」と書いてあっても、貸主からの解約申入れについては6か月が適用されます。

使用継続と「遅滞なき異議」

貸主が通知期間内に更新拒絶の通知をした場合であっても、期間満了後に借主が建物の使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは、契約は法定更新されます(26条2項)。解約申入れによる終了の場合も同様で、6か月経過後の使用継続に貸主が遅滞なく異議を述べなければ、法定更新が生じます(27条2項)。

この規定は、借主側にとって見落とされがちな確認点です。通知が期限内に届いていても、期間満了の日を過ぎて借主がそのまま住み続け、営業し続けているのに、貸主が何も言ってこなければ、契約は更新されている可能性があります。「遅滞なく」がどの程度の期間かは事案によりますが、期間満了後に貸主が何か月も何も言わずに賃料を受け取り続けていた、という事実は、法定更新を主張する有力な材料になります。

法定更新されると、契約はどうなるか

図1 法定更新の前後で変わること、変わらないこと

  1. 1変わらないこと――契約条件賃料、共益費、敷金、使用目的、特約は、従前の契約と同一の条件で引き継がれる(26条1項本文)。「更新されなかったので条件を見直す」という主張は通らない。
  2. 2変わること――期間期間の定めのない契約になる(26条1項ただし書)。以後、貸主が終わらせるには27条の解約申入れ(正当事由+6か月)による。借主からの解約は民法617条により3か月前の申入れで可能(契約書に別の定めがあればそれに従う)。
  3. 3更新料契約書に「法定更新の場合にも更新料を支払う」旨の定めがあれば、その定めに従って支払義務が生じ得る。定めがなければ原則として発生しない。契約書の更新料条項の文言を確認する。
  4. 4借主側の立ち位置「今回の期間満了では出なくてよい」ことが確定する。貸主が明渡しを求めるには、改めて正当事由のある解約申入れをし、6か月を待たなければならない。この時間が、交渉の材料になる。

法定更新は契約を「終わらせない」だけで、紛争を終わらせるものではない。

通知の方式と到達――口頭、普通郵便、内容証明

借地借家法は、更新拒絶や解約申入れの通知の方式を定めていません。理論上は口頭でも有効ですが、通知の有無と時期が争われたときに立証できなければ意味がありませんので、実務では配達証明付きの内容証明郵便が用いられます。

通知の効力は、相手方に到達した時に生じます(民法97条1項)。「発送した日」ではなく「届いた日」が基準です。期間満了の6か月前ぎりぎりに発送された通知が、到達したときには6か月前を過ぎていた、という事案では、通知は通知期間内にされたとはいえません。借主側が封筒の消印と受領日を保存しておくべき理由は、ここにあります。

普通郵便やメール、口頭で「更新しません」と言われた場合も、それが到達していれば通知としての効力を否定できるわけではありません。ただ、貸主側がその時期を立証できるかは別問題です。借主側としては、どのような形で通知を受けたかを、日付とともに記録しておいてください。

通知の中身を確かめる

通知の時期に加えて、中身も確認します。更新拒絶なのか解約申入れなのか、対象の建物と契約が特定されているか、終了の日がいつとされているか、理由は何か、立退料の申出があるか。これらが曖昧な通知は、後に「あの通知は更新拒絶ではなく単なる打診だった」「解約申入れの意思表示とはいえない」という争いを生みます。

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確認点見るところ曖昧な場合の意味
終了原因「更新しない」「解約を申し入れる」という意思表示の有無「退去をお願いしたい」「ご検討ください」という表現は、法律上の通知といえるか争いになる
対象の特定建物の所在・部屋番号、契約の日付複数の物件を借りている場合、どの契約についての通知か
終了日期間満了日、または解約申入れから6か月後の日契約書の期間と整合しない日付は、通知の前提に誤りがある可能性
理由老朽化、建替え、自己使用、その他理由の記載は正当事由の判断時点の主張として記録する。後の変遷を追う起点
立退料の申出金額、内訳、支払条件申出がなければ、その時点では正当事由の補完要素がない
差出人貸主本人か、代理人か、その代理権の根拠次節

誰からの通知か――貸主本人、代理人、それ以外

更新拒絶や解約申入れは、貸主の意思表示です。貸主本人がする場合のほか、弁護士などの代理人が貸主の名で行うこともあります。管理会社が貸主から委任を受けて通知を送ることもありますが、その場合には、管理会社に通知を行う代理権があるかが問題になります。

差出人が貸主でも代理人でもない場合、たとえば「立ち退きコンサルタント」を名乗る業者が自らの名義で送ってきた場合は、それが貸主の意思表示といえるかという問題に加えて、弁護士でない者が報酬を得て立ち退き交渉を行うことが弁護士法72条に触れるかという問題が生じます(第15講)。差出人が誰か、その立場は何か、委任状はあるかを確認し、記録してください。

転借人への通知

サブリース物件などで借主が転借人である場合、建物の賃貸借が期間満了や解約申入れによって終了するときは、建物の賃貸人(所有者)は、転借人にその旨を通知しなければ、その終了を転借人に対抗できません(34条1項)。この通知がされた場合、転貸借は通知の日から6か月を経過することによって終了します(同条2項)。

転借人にとってこの規定は、所有者と直接の契約関係がなくても、明渡しまでに少なくとも6か月の時間が法律上確保されることを意味します。所有者と賃借人(サブリース会社)の間で契約が終了したという知らせだけで直ちに出て行く必要はありません。所有者からの34条の通知がいつ届いたか、それが届いていないかを確認してください。なお、正当事由の判断では転借人の使用の必要性も考慮されます(28条括弧書き)。

「手続の瑕疵」は時間を生み、時間は条件を生む

通知の時期や方式の不備は、それ自体で紛争を終局的に解決するものではありません。貸主は、法定更新後の契約に対して改めて解約申入れをすることができ、正当事由があれば6か月後に契約を終わらせることができます。手続の瑕疵を指摘しても、貸主の言い分そのものが消えるわけではないのです。

しかし借主側にとって、法定更新の主張が立つことは、二つの意味を持ちます。一つは、交渉のための時間です。改めて解約申入れがされ、6か月が経過し、正当事由が争われて、判決または和解に至るまでには、相当の期間がかかります。その間、借主は従前どおり建物を使用できます。もう一つは、「急いで出る必要はない」という立ち位置です。「○月末までに退去してください」という通知に法律上の効力がないことが分かれば、借主は期限に追われることなく、資料を集め、見立てを立て、条件を組み立てることができます。

立ち退き交渉における時間は、ほぼそのまま条件(立退料と金額以外の条件)に換算されます。事業スケジュールを抱える貸主側にとって、6か月、1年という時間はコストであり(第19講)、そのコストを避けるために条件を上げるという判断が行われるからです。通知が届いたら、封筒の消印と受領日を保存し、契約書の期間と突き合わせる。この地味な確認から、反撃は始まります。

PRACTICE NOTE

通知チェックフロー

図2 通知が届いたときの確認の順序

  1. Q1契約に期間の定めはあるか。期間満了日はいつか契約書・更新契約書で確認。1年未満の期間は「期間の定めなし」として扱う(29条1項)。これまでに法定更新が生じていれば、既に期間の定めのない契約になっている。
  2. Q2通知はいつ届いたか封筒の消印、配達証明、受領日のメモ。到達日が基準(民法97条1項)。期間の定めがある契約で、到達日が期間満了の1年前〜6か月前の枠外なら、更新拒絶としての効力なし(26条1項)。今回の期間満了では終了しない。
  3. Q3通知の中身は法律上の意思表示といえるか更新拒絶か解約申入れか、対象と終了日は特定されているか、理由は何か。「お願い」「打診」にとどまる文面は、通知の効力自体が争点になり得る。
  4. Q4誰から届いたか貸主本人、代理権のある弁護士、委任を受けた管理会社、それ以外の業者。貸主でも代理人でもない者からの通知は、意思表示の帰属と弁護士法72条の問題(第15講)。
  5. Q5期間満了後(解約申入れの6か月後)も使い続けている場合、貸主は遅滞なく異議を述べたか期間満了後の貸主の言動、賃料受領の継続。異議がなければ法定更新(26条2項・27条2項)。
  6. Q6手続が整っている場合――正当事由の土俵へ時期・中身・差出人に問題がなければ、争点は正当事由と立退料(第3講〜第8講)に移る。手続に問題があれば、法定更新を主張しつつ、次の解約申入れに備えて資料を集める。

Q2で枠外と分かれば、それだけで「今回の期限では出なくてよい」ことが確定する。

実務チェック

  • 契約書と更新契約書で、期間の有無、期間満了日、これまでの更新の経緯(合意更新か法定更新か)を確認した。
  • 通知の原本、封筒(消印)、配達証明を保存し、到達日を記録した。
  • 到達日と期間満了日を突き合わせ、通知期間(1年前〜6か月前)の内か外かを判定した。
  • 通知の中身(終了原因、対象、終了日、理由、立退料の申出)を確認し、記録した。
  • 差出人の立場(貸主本人、代理人、その他)と代理権の根拠を確認した。
  • 期間満了後に使用を続けている場合、貸主から異議があったか、賃料の受領が続いているかを記録した。
  • 転借人である場合、所有者からの34条の通知の有無と到達日を確認した。

よくある質問

契約期間の満了まで3か月しかないのに、「更新しない」という通知が届きました。

期間の定めがある建物賃貸借で、貸主の更新拒絶の通知が期間満了の6か月前より後に届いた場合、その通知は更新拒絶としての効力を持たず、契約は従前と同一の条件で法定更新されます(借地借家法26条1項)。今回の期間満了で契約が終わることはありません。貸主が契約を終わらせるには、法定更新後の期間の定めのない契約に対して改めて正当事由のある解約申入れをし、6か月の経過を待つ必要があります。通知の到達日を証明できるよう、封筒と受領日の記録を保存してください。

契約書に「貸主は3か月前に通知すれば解約できる」と書いてあります。

貸主からの解約申入れについては、借地借家法27条1項により、解約申入れから6か月の経過が必要で、これより借主に不利な特約は無効です(30条)。3か月という条項は、貸主からの解約には適用されません。加えて、解約申入れには正当事由が必要です(28条)。なお、借主からの解約については、契約書の定めに従うことになります。

期間満了の通知は期限内に届きましたが、満了日を過ぎても大家は何も言わず、家賃も受け取っています。

通知期間内に更新拒絶の通知がされていても、期間満了後に借主が使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新されます(26条2項)。満了後、貸主が何か月も異議を述べずに賃料を受け取り続けている事実は、法定更新を主張する有力な材料です。賃料の受領の記録と、貸主からの連絡の有無を記録しておいてください。

法定更新されると、更新料を払わなければなりませんか。

契約書に「法定更新の場合にも更新料を支払う」旨の明確な定めがあれば、その定めに従って支払義務が生じ得ます。そのような定めがなければ、法定更新について更新料の支払義務は原則として生じません。契約書の更新料条項の文言を確認してください。

通知の期限を守っていないと指摘したら、大家との関係が悪くなりませんか。

手続の不備を指摘することは、法律上の権利の確認であって、感情的な対立ではありません。指摘の仕方は、「本通知は借地借家法26条1項の通知期間内にされたものではないため、契約は同条により更新されたものと理解している。今後の協議には応じる用意がある」という趣旨を、冷静な書面で伝えるのが基本です。手続の瑕疵を指摘したうえで協議の窓口を開けておくことが、時間を条件に換える交渉の出発点になります(第15講)。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

  • 借地借家法〔e-Gov法令検索〕26条(建物賃貸借契約の更新等)、27条(解約による建物賃貸借の終了)、28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)、29条1項(建物賃貸借の期間)、30条(強行規定)、32条(借賃増減請求権)、34条(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
  • 民法〔e-Gov法令検索〕97条1項(意思表示の効力発生時期)、617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。本講の記載は執筆時点の法令に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。

執筆者 坂本龍亮(さかもと りょうすけ)

明徳法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属)。不動産法務(立ち退き・建物明渡し・賃料紛争・再開発対応)と企業法務・事業承継を中心に取り扱う。立ち退き分野では、債務不履行解除を理由に「0円退去」を求められていた中華料理店の代理人として8,000万円の立退料を獲得した実績を持つほか、ディベロッパー側の代理人として建替え・再開発に伴う立ち退き案件にも多数関与し、貸主・借主双方の実務に精通する。大阪公立大学法学部非常勤講師。

立ち退き・立退料・建物明渡しに関するご相談は、明徳法律事務所(大阪市西区江戸堀)まで。お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

公開日 2026年8月9日/改訂日 2026年9月23日  執筆者 坂本龍亮、お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

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