ホーム連載コラム立ち退き20講 ─ 第15講

『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第15講】

交渉で絶対にやってはいけない5つのこと ― そして「弁護士でない交渉人」への警戒

失敗は交渉の入口で起きる

第1講で述べたとおり、立ち退き紛争の失敗の大半は初動で起きます。当事務所の経験から、借主側の「五大NG」を挙げます。

NG1:その場で書面に署名する。 「退去承諾書」「合意書」はもちろん、「説明を受けました」という体裁の確認書にも、後日「退去に異議がなかった」と主張される火種が潜みます。どんな書面も、持ち帰って専門家に見せてから。

NG2:口頭で退去の意向を示す。 「まあ、いずれは考えますよ」程度の発言が「退去合意があった」と主張されることがあります。回答は保留し、記録を残しましょう。

NG3:通知を無視し続ける。 無視は解決を先送りするだけでなく、訴訟に移行された場合に交渉の機会を失い、また誠実性の面で心証を損ないます。「検討のうえ書面で回答する」という受け止めが正解です。

NG4:感情的な対立に持ち込む。 立ち退き紛争は最終的には経済条件の問題です。感情的な応酬は、貸主側に「この借主とは交渉不能」と判断させ、早期の訴訟移行を招きます(それが常に借主に不利とは限りませんが、選択権は自分で持つべきです)。

NG5:一人で交渉を続ける。 相手は場数を踏んだ事業者・専門業者です。情報量と経験の非対称のまま交渉を続けること自体が、最大のリスクです。

「立退交渉の代行業者」は違法の可能性 ― 最高裁平成22年7月20日決定

貸主側の交渉窓口として、弁護士でない「不動産コンサルタント」「立退き代行業者」が登場することがあります。ここで知っておくべき重要判例が、**最高裁平成22年7月20日決定(刑集64巻5号793頁)**です。

最高裁は、弁護士資格のない不動産業者が、ビル所有者から委託を受けて賃借人らとの立ち退き交渉(賃貸借契約の合意解除と明渡しの実現)を業として行った事案について、立ち退き合意の成否・時期・立退料の額をめぐって交渉で解決すべき法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件であったとして、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものと認め、非弁活動として弁護士法72条違反の罪の成立を認めました。

つまり、報酬を得て立ち退き交渉を代行する無資格業者の活動は、違法(刑事罰の対象。弁護士法77条)となり得るのです。借主側の実務対応としては、①相手の氏名・所属・受任の立場を確認し、②弁護士でない者が交渉主体として条件提示・説得を行ってくる場合には、その適法性自体を指摘し、貸主本人または弁護士との交渉を求める、という対応が有力なカードになります。交渉の相手方を適法な主体に限定させること自体が、借主の防御です。

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