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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第16講】

裁判になったら、どう進むか ― 建物明渡訴訟の流れ・期間・そして「和解」という主戦場 ―

第16講第Ⅳ部 交渉・手続編――進め方と落とし穴

裁判になったら、どう進むか――建物明渡訴訟の流れ・期間・そして「和解」という主戦場

訴状が届いても即退去ではない。訴訟を恐れないことが、交渉力になる

『立ち退き20講――立退料の教科書』執筆者 坂本龍亮(明徳法律事務所 弁護士)お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp読了目安 21分

公開日 2026年8月9日改訂日 2026年9月23日

この講の結論

交渉が決裂すると、貸主は建物明渡請求訴訟を提起します。まず押さえるべきは、訴状が届いても直ちに退去義務は生じないことです。判決の確定または和解の成立まで、借主は従前どおり建物を使用でき、その間も賃料は払い続けます。訴訟では、正当事由の主張立証と立退料の資料戦が争点整理の中で進み、事案によっては不動産鑑定が行われます。正当事由型の明渡訴訟は、判決まで行くよりも、審理の中盤から終盤で訴訟上の和解によって解決する事案が多いのが実情で、和解では立退料の額だけでなく、明渡時期の猶予や原状回復義務の免除といった金額以外の条件を一括で合意できます。判決に至れば、正当事由が認められる場合は立退料の支払と引換えの明渡しを命じる引換給付判決、認められなければ請求棄却です。「訴訟になっても戦える」態勢を整えた借主ほど、訴訟前の交渉で良い条件を引き出します。

訴えられても、即退去ではない

ある日、裁判所から特別送達で封書が届きます。中には訴状と、証拠の写し、そして第1回口頭弁論期日の呼出状と答弁書の催告状が入っています。貸主が建物明渡請求訴訟を提起したのです。

ここで最初に確認しておくべきことがあります。訴状が届いても、直ちに退去義務は生じません。訴訟は、貸主の主張に理由があるかどうかを裁判所が判断する手続であり、判決が確定するか和解が成立するまで、借主は従前どおり建物を使用できます。訴えられたこと自体が、借主の権利を何か変えるわけではありません。

ただし、賃料は必ず払い続けてください。訴訟中に支払いを止めれば、貸主に債務不履行解除という別の主張の口実を与えます(第12講)。貸主が受領を拒む場合は供託します。訴訟中の賃料の支払いは、契約が継続していることを前提とする借主側の主張と整合する行動でもあります。

訴状が届いたら最初にすること

図1 訴状が届いたときの初動

  1. 1送達された書類をすべて保存し、期日と提出期限を確認する第1回口頭弁論期日、答弁書の提出期限(通常は期日の1週間前程度)、裁判所と事件番号。答弁書を出さず期日にも出なければ、貸主の主張を認めたものとみなされて判決が出る(擬制自白)。無視は最悪の選択。
  2. 2訴状の「請求の趣旨」と「請求の原因」を読む何を求めているか(明渡し、立退料との引換えか、賃料相当損害金か)。理由は何か(正当事由か、債務不履行解除か、その両方か)。貸主が立退料の申出をしているか、「格段の相違のない範囲内で裁判所が相当と認める額」という文言があるかを確認する(第4講)。
  3. 3直ちに弁護士に相談する訴状の写しと、これまでの交渉の記録、契約書、資料一式を持参する。答弁書の提出期限は短い。相談は早いほどよい。
  4. 4答弁書を提出する請求の趣旨に対する答弁(請求棄却を求める)と、請求の原因に対する認否、そして借主側の主張の骨子。最初の答弁書では詳細な主張まで書き切れなくてもよいが、争う姿勢と主張の方向を示す。

①の期限管理と④の提出が、訴訟の入口で借主が絶対に落としてはならない二点。

明渡訴訟の流れ

図2 正当事由型の建物明渡訴訟のタイムライン

  1. 1訴状送達・答弁書提出貸主が訴えを提起し、訴状が借主に送達される。借主は答弁書を提出する。
  2. 2第1回口頭弁論訴状と答弁書が陳述され、以後の進行が決められる。多くの事件はここから弁論準備手続(非公開の争点整理)に移る。
  3. 3争点整理(数回〜十数回の期日)正当事由の主張立証。貸主側は建物の現況・計画・自己使用の必要性を、借主側は使用の必要性・従前の経過・貸主の主張の弱点を、それぞれ書面と証拠で主張する。立退料の算定資料の提出。令和8年5月21日以降に提起された事件では、弁護士は書面をオンラインで提出し、期日にはウェブ会議で参加できる。
  4. 4(事案により)不動産鑑定立退料や借家権価格の算定について、裁判所が鑑定人を選任することがある。鑑定費用は予納が必要。
  5. 5訴訟上の和解の試み裁判所は訴訟のどの段階でも和解を試みることができる(民事訴訟法89条)。争点整理の中盤から終盤で、裁判所が心証を示しながら和解案を提示することが多い。実務上、ここでの解決が最も多い。
  6. 6証人尋問・本人尋問和解に至らなければ、当事者や関係者の尋問が行われる。
  7. 7判決正当事由あり→立退料の支払と引換えの明渡し(引換給付判決)。正当事由なし→請求棄却(借主はそのまま使用継続)。
  8. 8控訴・確定判決に不服があれば、送達から2週間以内に控訴できる(民事訴訟法285条)。控訴審でも和解は可能。立退料の申出・増額は事実審の口頭弁論終結時まで考慮される(最判平成3年3月22日、最判平成6年10月25日)。

③〜⑤が主戦場。判決に至る事案より、⑤で解決する事案のほうが多い。

どの裁判所で、どのくらいの期間か

建物明渡請求訴訟は、訴訟の目的の価額(訴額)によって、簡易裁判所か地方裁判所かが決まります。訴額が140万円以下なら簡易裁判所、これを超えれば地方裁判所です(裁判所法33条1項1号)。建物明渡請求の訴額は、建物の固定資産評価額を基礎に算定されますので、都市部の店舗やビルの一室であれば地方裁判所になることが多く、小規模な住居であれば簡易裁判所になることもあります。管轄は、建物の所在地の裁判所(民事訴訟法5条12号)または被告の住所地の裁判所(4条)が基本で、契約書に管轄の合意があればそれに従います。

期間については、最高裁判所事務総局が公表した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(第10回、令和5年7月)によれば、地方裁判所の民事第一審訴訟事件の平均審理期間は令和4年で10.5か月でした。この数字には被告が争わない事件も含まれており、正当事由と立退料が本格的に争われ、鑑定や尋問が行われる事件では、第一審だけで1年半から2年程度に及ぶことも珍しくありません。控訴審に進めば、さらに半年から1年程度が加わります。

この期間は、借主側にとって二つの意味を持ちます。一つは、その間、借主は建物を使い続けられるということ。もう一つは、事業スケジュールを抱える貸主側にとって、この期間そのものが大きなコストになるということです(第19講)。

争点整理――正当事由の主張立証と立退料の資料戦

争点整理の段階で、第3講から第13講までに述べてきたことのすべてが、書面と証拠の形で裁判所に提出されます。

表は横にスクロールできます。

争点貸主側の主張・証拠借主側の主張・証拠
手続要件通知の時期・到達を示す内容証明、配達証明通知期間の枠外であること、遅滞なき異議がないこと(第14講)
貸主の使用の必要性耐震診断書、建築士意見書、建替え計画、資金計画、自己使用の事情を示す資料診断数値の中身、補強の可能性(借主側建築士意見書)、計画の抽象性、主張の変遷、他の不動産の存在(第9〜11講)
借主の使用の必要性借主の必要性が金銭で補完できることの主張居住・営業の本拠性、年数、家族の事情、立地依存性、移転の困難を示す資料(第3講・第6講・第7講)
従前の経過・利用状況・現況賃料水準の低さ、利用状況の問題、建物の劣化円満な更新の経緯、負担した費用、修繕要望の放置、適切な利用
立退料の額申出額とその根拠(多くは低めの算定)借家権価格・移転実費・営業補償の積算、見積書、決算書、募集賃料資料、近い裁判例(第5〜8講)
(債務不履行解除が併せて主張される場合)違反の事実と催告・解除の意思表示違反の不存在・軽微性・解消、黙認の経緯、信頼関係破壊の法理(第12講)

交渉段階で集めてきた資料は、ここでそのまま証拠になります。逆に、訴訟になってから慌てて集めようとすると、時間も費用もかかり、揃わないものもあります。第1講以来、資料収集を早くと繰り返してきた理由はここにあります。

不動産鑑定が行われるとき

立退料の額、特に借家権価格が争点となる事案では、裁判所が不動産鑑定士を鑑定人に選任して鑑定を命じることがあります(民事訴訟法212条以下)。鑑定費用は、鑑定を申し出た当事者が予納するのが通常で、事案によっては数十万円から百万円を超えることもあり、最終的にどちらが負担するかは判決や和解で定められます。

鑑定の結果は裁判所の判断に大きな影響を与えますが、鑑定人がどの算定方式を採るかによって結果が大きく異なることは、第8講で見た東京地判令和4年10月14日の四つの方式の数字(499万円から1420万円)が示すとおりです。島田博文氏の論文(土地総合研究2025年夏号)も、裁判所鑑定を担当する不動産鑑定士の判断によって立退料が大きく異なる状況を問題として指摘しています。借主側としては、鑑定に先立って自分の側の算定資料と主張を十分に提出し、鑑定人が採るべき方式と考慮すべき事情を裁判所に示しておくこと、鑑定結果が出た後には、その前提と方法を検討して必要な意見を述べる必要があります。私的鑑定(借主側が依頼した不動産鑑定士の意見書)を提出して裁判所鑑定に対抗することもあります。

実務の主戦場は「訴訟上の和解」

正当事由型の明渡訴訟は、判決まで行くケースよりも、審理の中盤から終盤で訴訟上の和解により解決するケースが多いのが実情です。裁判所は、訴訟がどの段階にあっても和解を試みることができ(民事訴訟法89条)、争点整理が進んで双方の主張立証が出揃った段階で、裁判官が心証(判決になればこうなりそうだという見通し)を示しながら和解を勧めることが一般的です。

和解が選ばれる理由は、双方にあります。貸主側にとっては、判決の不確実性(正当事由が否定されるリスク、立退料が高く認定されるリスク)と、判決・控訴・執行に要する時間を避けられます。借主側にとっては、判決では得られない「金額以外の条件」を組み合わせて全体の価値を高められることが、和解の最大の利点です。

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条件判決の場合和解の場合
立退料の額裁判所が認定した額。借主の損失の全額とは限らない双方の合意。判決の見通しと時間の価値を織り込んだ額
明渡しの時期判決確定後、貸主が立退料を提供すれば執行可能。猶予は原則ない移転先の確保や学期・決算期に合わせた猶予期間を設定できる(数か月〜1年程度)
原状回復義務契約の定めに従う(別訴になることも)全部免除を合意できる。取壊し前提なら通常合意される(第17講)
敷金・保証金契約の定めに従う全額返還、または立退料への合算を合意できる
未払・係争中の金銭別途清算一括で清算し、清算条項で他に債権債務がないことを確認できる
支払と明渡しの順序引換給付先渡し、分割、同時履行など柔軟に設計できる
確定までの時間判決後の控訴で長期化し得る和解調書は確定判決と同一の効力(民事訴訟法267条)。即時に確定

和解の場面で借主側が持つべき判断軸は、「判決になった場合の見通し」と「和解案の全体の価値」の比較です。判決になれば正当事由が否定される見込みが高い事案(第3講の領域A)では、和解に応じる必要は乏しく、応じるなら相応の条件が必要です。判決になれば明渡しが認められる見込みが高い事案(領域C)では、判決を待つより、金額以外の条件を含めた和解のほうが借主に有利な結果になることが多いのです。

判決になった場合――引換給付か、棄却か

和解に至らなければ判決です。正当事由が認められれば、「被告は、原告から金○○円の支払を受けるのと引換えに、本件建物を明け渡せ」という引換給付判決になります(第4講)。裁判所は、貸主の申出額に縛られず、双方の事情を踏まえた相当額を認定できますが、貸主の申出額が相当額に遠く及ばない場合には、正当事由が補完されないとして請求が棄却されることもあります(東京地判令和4年10月14日、第8講)。正当事由が認められなければ、請求は棄却され、借主はそのまま建物を使用し続けます。

判決に不服のある当事者は、判決書の送達を受けた日から2週間以内に控訴できます(民事訴訟法285条)。控訴審でも和解は可能であり、立退料の申出や増額は事実審の口頭弁論終結時まで考慮されますから(最判平成3年3月22日、最判平成6年10月25日)、控訴審で金額が動くこともあります。

判決後の強制執行

引換給付判決が確定し、貸主が立退料を支払うか提供したことを証明すれば(民事執行法31条1項)、貸主は建物明渡しの強制執行を申し立てることができます。執行官は、まず明渡しの催告を行い、引渡し期限(原則として催告の日から1か月を経過する日)を定めます(民事執行法168条の2)。期限までに明け渡さなければ、執行官が断行し、建物内の動産を搬出して占有を貸主に移します(168条)。執行費用は、いったん貸主が負担し、後に借主に請求され得ます。

正当事由型の事案で、借主側に適切な代理人が付いていれば、通常は強制執行の手前で経済合理的な解決に到達します。強制執行は、費用と時間の面で貸主にとっても重い選択肢であり、立退料を支払ったうえで執行費用まで負担することは、貸主側にとっても避けたい事態だからです。

訴訟中に注意すること――賃料、占有、記録

訴訟中の借主が守るべきことは三つです。第一に、賃料の支払いを続けること。受領を拒まれたら供託します。第二に、占有の状態を変えないこと。訴訟中に第三者に使わせたり、長期間空けたりすると、使用の必要性の主張が弱まり、無断転貸の主張を招くこともあります。第三に、貸主側の言動を記録し続けること。訴訟中の直接の接触、圧力、提示額の変化は、すべて記録して代理人に伝えます。

なお、貸主側が、訴訟の前後に「占有移転禁止の仮処分」(民事保全法)を申し立てることがあります。これは、借主が第三者に占有を移すことを禁じて、将来の判決の執行を確保するための手続であり、借主が建物を使い続けること自体を禁じるものではありません。仮処分の決定が届いても、直ちに退去する必要はありません。

訴訟を「恐れない」ことが交渉力になる

逆説的ですが、「訴訟になっても戦える」態勢を整えた借主ほど、訴訟前の交渉で良い条件を引き出します。貸主側は、訴訟に要する時間と費用、正当事由が否定されるリスク、立退料が高く認定されるリスクを織り込んで提示額を再計算せざるを得ないからです。借主側が証拠を整理し、主張を構築し、代理人を選任していることは、貸主側にそのリスクを現実のものとして認識させます。

訴訟は避けるべき災厄ではなく、交渉の背後に立てておく選択肢です。そして、実際に訴訟になったとしても、その多くは判決ではなく和解で終わり、和解の条件は、訴訟前の交渉では得られなかった水準に達することが少なくありません。訴状が届いたら、それは負けの始まりではなく、裁判所という第三者の前で条件を決める段階に入ったということです。

PRACTICE NOTE

答弁書提出までの準備リスト

表は横にスクロールできます。

項目内容
期日と期限の管理第1回口頭弁論期日、答弁書提出期限、裁判所、事件番号、担当部をカレンダーに記録
訴状の分析請求の趣旨(何を求めているか)、請求の原因(理由は何か)、立退料の申出の有無と文言、証拠の一覧
契約関係資料契約書、更新契約書、特約書、締結時の書面一式(第2講)
手続関係資料通知の原本と封筒、到達日の記録、その後の貸主の言動(第14講)
交渉経過の記録面談・電話のメモ、書面、メール、提示額の推移、貸主側の主張の変遷
借主側の必要性の資料居住・営業の履歴、決算書、月次資料、顧客分布、世帯の事情(第3講・第6講・第7講)
立退料の積算資料見積書、募集賃料資料、内装・設備の資料、積算ワークシート(第5講)
賃料の支払記録訴訟提起前後を含む支払いの記録、供託書
専門家への相談弁護士への依頼。事案により建築士・不動産鑑定士の意見書の準備

答弁書の提出期限は短く、最初の答弁書で主張を尽くす必要はありません。まず争う姿勢と主張の方向を示し、詳細な主張と証拠は争点整理の中で順次提出していきます。ただし、期限を守ることと、期日に出頭(または代理人が出頭)することは、絶対に落とせません。

実務チェック

  • 送達された書類をすべて保存し、期日と答弁書の提出期限を記録した。
  • 訴状の請求の趣旨と原因、立退料の申出の有無と文言を確認した。
  • 直ちに弁護士に相談し、答弁書を期限内に提出した。
  • 賃料は従前どおり払い続けている。受領を拒まれた場合は供託した。
  • 交渉段階で集めた資料を、証拠として提出できる形に整理した。
  • 判決になった場合の見通しと、和解案の全体の価値を比較する判断軸を持っている。
  • 訴訟中の貸主側の接触・提示額の変化を記録し、代理人に伝えている。

よくある質問

訴状が届きました。もう出て行かなければならないのですか。

いいえ。訴状の送達は、貸主が裁判所に判断を求めたことを意味するにすぎず、借主の退去義務を生じさせるものではありません。判決が確定するか和解が成立するまで、借主は従前どおり建物を使用できます。ただし、答弁書を提出せず期日にも出頭しなければ、貸主の主張を認めたものとみなされて判決が出てしまいますので、期限内の対応が不可欠です。賃料も払い続けてください。

裁判にはどれくらいの期間がかかりますか。

最高裁判所の公表資料によれば、地方裁判所の民事第一審訴訟事件の平均審理期間は令和4年で10.5か月ですが、これには被告が争わない事件も含まれます。正当事由と立退料が本格的に争われ、鑑定や尋問が行われる事件では、第一審だけで1年半から2年程度に及ぶことも珍しくなく、控訴審に進めばさらに期間が加わります。もっとも、多くの事件は判決ではなく途中の和解で終わりますので、実際の解決までの期間は事案によって大きく異なります。

裁判官から和解を勧められました。応じないと不利になりますか。

和解に応じるかどうかは当事者の自由であり、応じなかったこと自体が判決で不利に扱われることはありません。ただし、裁判官が和解を勧める際に示す心証は、判決になった場合の見通しを知る貴重な手がかりです。その見通しと、和解案の全体の価値(金額、明渡時期、原状回復免除、敷金返還など)を比較して判断してください。判決では得られない条件を和解で確保できる場合、和解のほうが借主に有利なことは少なくありません。

「占有移転禁止の仮処分」という決定が届きました。出なければなりませんか。

いいえ。占有移転禁止の仮処分は、借主が建物の占有を第三者に移すことを禁じ、将来の判決の執行を確保するための手続であり、借主自身が建物を使い続けることを禁じるものではありません。決定書に記載された内容(占有を移してはならない旨、執行官による公示など)を確認し、代理人に伝えてください。

判決で負けたら、すぐに追い出されるのですか。

引換給付判決の場合、貸主が立退料を支払うか提供したことを証明して初めて強制執行を申し立てることができ、執行官はまず明渡しの催告を行って、原則として1か月後を引渡し期限と定めます。判決確定から実際の執行まで一定の時間があり、その間に任意の明渡しの条件を協議することも可能です。また、判決に不服があれば2週間以内に控訴でき、控訴審でも和解の余地があります。実務では、判決後に強制執行まで至る事案は、正当事由型では多くありません。

この講の主な根拠条文・裁判例・資料

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例の原文は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索や判例集で裁判年月日から確認できます。本講の記載は執筆時点の法令・裁判例・資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。

執筆者 坂本龍亮(さかもと りょうすけ)

明徳法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属)。不動産法務(立ち退き・建物明渡し・賃料紛争・再開発対応)と企業法務・事業承継を中心に取り扱う。立ち退き分野では、債務不履行解除を理由に「0円退去」を求められていた中華料理店の代理人として8,000万円の立退料を獲得した実績を持つほか、ディベロッパー側の代理人として建替え・再開発に伴う立ち退き案件にも多数関与し、貸主・借主双方の実務に精通する。大阪公立大学法学部非常勤講師。

立ち退き・立退料・建物明渡しに関するご相談は、明徳法律事務所(大阪市西区江戸堀)まで。お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

公開日 2026年8月9日/改訂日 2026年9月23日  執筆者 坂本龍亮、お問い合わせ先:info@meitoku-law.jp

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