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『立ち退き20講 ― 立退料の教科書 ―』【第17講】

退去が決まったら ― 敷金・原状回復・造作、最後のお金の話

立退料の合意だけで安心しない

立退料の金額がまとまっても、退去時のお金の論点はまだ残っています。ここを詰めずに退去すると、せっかくの立退料から原状回復費用等を差し引かれ、手取りが目減りします。合意書には必ず「金額以外の条件」まで書き切りましょう。

敷金は返ってくるのが原則(民法622条の2)

平成29年民法改正(2020年4月1日施行)で、敷金のルールは明文化されました。敷金は、賃貸借終了・明渡し後に、未払賃料等の債務を控除した残額を返還しなければなりません(民法622条の2第1項)。「敷金は償却するのが慣例」という説明に法的根拠はなく、控除できるのは借主の債務に充当される部分だけです。

なお、関西等で見られる敷引特約(保証金から一定額を無条件で差し引く特約)について、最高裁平成23年3月24日判決(民集65巻2号903頁)は、敷引金の額が高額にすぎる場合には特段の事情のない限り消費者契約法10条により無効となり得るとしつつ、当該事案(敷引金が賃料月額の2倍弱〜3.5倍強)では有効と判断しています。敷引が争えるかは金額次第、という相場観を示す判例です。

原状回復 ― 通常損耗・経年変化は借主負担ではない

同じく民法621条は、賃借人は通常の使用収益によって生じた損耗と経年変化については原状回復義務を負わないことを明文化しました。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版・平成23年)も、通常損耗・経年変化の修繕費は賃料に含まれており貸主負担、という考え方を示しています。

そして立ち退き型の事案では、さらに強い交渉材料があります。建物を取り壊す予定なのに、内装の原状回復を求めることに合理性はあるのか? という点です。実務では、建替え・取壊し前提の退去合意において原状回復義務の全部免除を合意することが広く行われており、これは立退料の実質的な上乗せに相当します。造作買取請求権(借地借家法33条。第7講)の処理と併せ、合意書に明記すべき定番条項です。

退去合意書チェックリスト

①立退料の金額・支払期日・支払と明渡しの引換え(先渡しまたは同時履行の確保)、②明渡しの期限と猶予、③原状回復義務の免除の範囲、④敷金・保証金の返還(または立退料への合算)、⑤未払・係争中の金銭の清算条項、⑥違約時の定め、⑦清算条項(本合意以外に債権債務がないこと)。――この7点が揃っているか、署名の前に必ず確認を。当事務所では合意書のレビューのみのご依頼もお受けしています。

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