第3講不動産オーナーの相続24講
相続する不動産はいくらなのか ― 税金の評価と、家族で分ける評価は違う
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「税理士の評価は4,000万円、不動産会社の査定は6,000万円。どちらが正しいのでしょうか」。この違いだけで、どちらかが間違っているとはいえません。
この講の要点不動産の評価は、何のために、いつの価格を、どの条件で求めるかによって変わります。 相続税申告の数字をそのまま代償金に使う前に、評価の目的をそろえる必要があります。
四つの価格を、使い道から理解する
| 価格・評価方法 | 主な使い道 | 注意点 |
|---|---|---|
| 固定資産税評価額 | 固定資産税、登録免許税等の基礎 | 売却代金そのものではない。課税標準額とも区別 |
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税の計算 | 土地は路線価方式・倍率方式等。権利関係や特例を確認 |
| 市場価格・時価 | 売買、遺産分割、遺留分の評価 | 売出価格、査定価格、成約価格は同じではない |
| 収益還元による価格 | 収益物件の鑑定・投資判断 | 時価を求める方法の一つ。経費や利回りの前提が重要 |
「土地の固定資産税評価は時価の7割、路線価は8割」といった目安から、個別物件の売値を機械的に逆算することはできません。建物には土地と異なる評価の仕組みがあり、借地権、貸家、接道、再建築の可否なども価格に影響するからです。
国税庁も、土地の路線価方式・倍率方式、家屋の固定資産税評価を区別し、賃貸物件の権利関係や分譲マンションの補正を説明しています。国税庁「土地家屋の評価」
地主が貸している土地の所有権である「底地」と、借り手の「借地権」も別の財産です。底地は自由に使える更地と同じではなく、土地と建物の所有者が異なる物件では、敷地を利用する権利の内容が価格を左右します。借地契約、地代、期間、建替え・譲渡の条件まで確認して初めて、何を評価するのかが定まります。
「いつの価格か」を先に決める
遺産分割で現に残っている不動産を各人へ配分する際は、原則として分割時の時価を基準に考えます。一方、特別受益を織り込んだ具体的相続分の計算や、遺留分の算定では、相続開始時の評価が問題になります。相続税も、原則として相続による取得時の評価です。
したがって、父の死亡から3年後に分割する場合、「死亡した年の相続税評価額」と「今の売却査定額」をそのまま比較しても、議論はかみ合いません。評価の目的と時点を、査定依頼書や当事者間の確認書に明記します。具体的相続分と遺留分の計算の出発点は、民法903条・1043条です。
協議では、当事者全員が納得する評価額を採用することもできます。ただし、合意した額が税務上もそのまま通用するとは限りません。
査定書は「金額」より「条件」を読む
複数の査定を取るときは、次の条件をそろえます。
- 入居者がいる現況で売るのか、空室で引き渡す想定か。
- 建物を残すのか、解体して更地にする想定か。
- 境界・越境・接道・借地の問題を織り込んでいるか。
- 売却までの期間と、仲介・買取の別が同じか。
- 家賃は満室想定か、現実の入金実績か。修繕費はどう見ているか。
一社が「空室の更地」、もう一社が「入居者付きの老朽建物」を評価していれば、平均を取っても合理的な価格にはなりません。争いが大きい場合は、不動産鑑定を検討しますが、その前に評価条件の違いを整理するだけで争点が小さくなることもあります。
架空の設例:4,000万円と6,000万円の違いが、代償金を変える
相続人は子二人、財産はアパートと預金1,000万円、債務・特別受益等はないと仮定します。兄がアパート、妹が預金を取り、総額を等分する案です。
アパートを4,000万円と評価すると、兄から妹への代償金は1,500万円。6,000万円なら2,500万円です。評価の違いで代償金は1,000万円動きます。これは説明用の単純計算であり、税額の計算ではありません。
そこで「高いか安いか」の言い合いを続けるより、4,000万円は相続税評価なのか、6,000万円はどの条件の査定なのかを確認します。実際に売らない案では、将来の譲渡税や仲介費用を当然に全額差し引けるわけでもありません。売却する案と保有する案では、手残りの計算も分ける必要があります。
今日確認したいこと
- 提示された数字に、評価の目的と基準日が書かれているか。
- 固定資産税の「評価額」と「課税標準額」を取り違えていないか。
- 入居・借地・修繕・接道など、査定の前提を比較したか。
- 評価差が自分の取り分にいくら影響するかを計算したか。
よくあるご質問
Q. 不動産会社の無料査定だけで協議できますか。
A. 合意のための資料として使えます。ただし、査定の目的や条件を確認し、金額差が大きければ追加資料や鑑定を検討します。査定がそのまま裁判所を拘束するわけではありません。
Q. 相続税評価が低い物件は、相続人同士でも低く分けるべきですか。
A. 当然にはそうなりません。税金の計算と家族間の価値配分は、目的の異なる問題です。
明徳法律事務所への相談で整理できること
査定書、相続税評価の明細、登記事項証明書、賃料一覧を比較し、争っているのが価格の差なのか、評価条件の差なのかを整理します。取得を希望する側にも、代償金を受け取る側にも、主張の根拠と資金面の実現可能性を踏まえた交渉方針が必要です。