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『不動産オーナーの相続24講 ― 地主と大家の教科書 ―』【第6講】

認知症への備えと賃貸経営 ― 任意後見で任せられること、任せられないこと

第6講不動産オーナーの相続24講

認知症への備えと賃貸経営 ― 任意後見で任せられること、任せられないこと

地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所

掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日

「親の判断力が落ちてきた。雨漏りの修繕や入居者対応は、子どもが代わりにできますか」。家族として世話をしていることと、本人に代わって契約する権限を持つことは別です。

この講の要点認知症という診断だけで、すべての不動産取引が一律に禁止されるわけではありません。 問題は、その契約の意味や結果を本人が理解できるか、理解が難しいときに誰がどの権限で行動するかです。意思能力を欠く状態で行った法律行為は無効となります。民法3条の2

遺言では、生前の賃貸経営を代行できない

遺言は、原則として本人の死亡時に効力が生じます。「長女にアパートを相続させる」と書いてあっても、生前の大規模修繕、賃貸借の締結、銀行取引を長女が当然に代行できるわけではありません。

まず確認するのは、既存の管理委託契約や委任状が、どの範囲の行為を認めているかです。管理会社が通常の集金を続けられるとしても、売却や借入まで任せられているとは限りません。名義と権限を飛ばして家族だけで契約を進めると、取引の有効性が問題になります。

任意後見は「人」と「任せる仕事」を先に決める制度

任意後見契約では、十分な判断能力があるうちに、将来の任意後見人と代理権の範囲を公正証書で定めます。契約書を作った時点から直ちに任意後見が始まるのではなく、判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに効力が生じます。日本公証人連合会「任意後見契約」

賃貸経営では、集金、管理会社への委託、修繕契約、保険、税金の支払い、銀行取引などについて、必要な権限を具体的に確認します。将来売却が必要になる可能性があれば、処分権限だけでなく、本人の住まいと生活費をどう確保するかも考えます。

法定後見との違いと、共通する限界

観点 任意後見 法定後見
準備の時期 本人が契約を理解して決められるうち 判断能力の低下後に申立て
支援する人 本人が契約で選ぶ 家庭裁判所が選任
権限 契約で定めた代理権の範囲 後見・保佐・補助の類型等に応じる
監督 任意後見監督人を通じて行われる 家庭裁判所等の監督
共通の目的 本人の意思を尊重し、生活と財産を守る 本人の意思を尊重し、生活と財産を守る

法定後見でも、本人の生活・財産管理のために必要な売却や修繕が一切できないわけではありません。ただし、成年後見人による居住用不動産の処分などには家庭裁判所の許可が必要です。任意後見でも、契約に書けば何でも許されるわけではなく、本人の利益、代理権の範囲、利益相反を確認します。

子どもの相続税を減らすために、本人の財産を自由に贈与・投資する制度ではありません。 契約の中身と監督の仕組みを踏まえず、「任意後見なら節税対策を続けられる」と考えるのは危険です。制度の目的・監督については、裁判所「任意後見制度の概要」も確認してください。

架空の設例:監督人の選任前に、修繕が必要になった

母は長女との任意後見契約を作成済みですが、監督人はまだ選任されていません。最近、契約内容の理解に不安があり、アパートの防水工事が必要になりました。

この場合、「任意後見契約があるから長女が署名すればよい」とは判断できません。母の判断能力、現に使える委任の有無、工事の緊急性を確認し、任意後見監督人の選任申立てが必要かを検討します。あらかじめ財産管理委任を組み合わせる場合も、判断能力が低下した後まで監督なしの管理を続けないよう、任意後見へ移る時機と連絡体制を決めておきます。

「任せる人を決めた後」の運用まで考える

家族の中に適任者がいても、本人の生活と不動産の収支を区別し、帳簿や領収書を残す仕組みが必要です。本人の不動産を任意後見人自身が購入するような取引では、利益相反への対応が問題になります。

また、契約作成費用だけでなく、任意後見人の契約上の報酬、監督人の報酬など継続費用も見積もります。本人の死亡で任意後見の役割は終了するため、その後の遺言執行や賃貸経営の引継ぎも別に準備します。家族信託との使い分けは、第7講で解説します。

今日確認したいこと

  • 本人に代わって契約できる人と、その権限を確認したか。
  • 集金だけでなく、修繕・売却・銀行取引も想定したか。
  • 判断能力の変化に気づき、申立てへつなぐ人がいるか。
  • 収支報告、継続費用、本人死亡後の引継ぎを決めたか。

よくあるご質問

Q. 認知症と診断された後でも、任意後見契約を作れますか。

A. 診断名だけでは決まりません。契約の内容を理解して有効に意思表示できるかを、具体的に確認する必要があります。十分な理解が難しい場合は、法定後見等を検討します。

Q. 子どもであれば、親名義の契約に代わりに署名できますか。

A. 親子関係だけでは代理権は生じません。委任や後見等の権限を確認してください。

明徳法律事務所への相談で整理できること

管理委託契約、借入契約、既存の委任状、本人の希望を確認し、日常管理を続けるための権限と、判断能力が低下したときの移行手順を検討します。すでに契約や修繕が止まっている場合も、今使える制度から対応を整理します。

法令:任意後見契約に関する法律2〜4条・6条、民法859条の3・873条の2・985条。

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あわせて読む:第7講 | 第5講

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