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『不動産オーナーの相続24講 ― 地主と大家の教科書 ―』【第7講】

家族信託で賃貸経営を止めないために――契約書を作る前に決めること

第7講不動産オーナーの相続24講

家族信託で賃貸経営を止めないために――契約書を作る前に決めること

地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所

掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日

「親が認知症になっても、修繕や建替えを進められるようにしたい」。家族信託を検討する出発点として、これは自然な希望です。ただし、信託契約書ができれば、金融機関も管理会社もそのとおりに動いてくれるとは限りません。

この講の要点家族信託で大切なのは、財産を任せる人を決めるだけでなく、その人が実際に管理・売却・資金調達を続けられる仕組みを作ることです。

「名義」「利益」「仕事」を分けて考える

一般的な家族信託では、親が委託者となって不動産などを信託し、子が受託者として契約に定めた管理・処分を担います。親を受益者とすれば、賃料などの経済的利益は引き続き親のために使います。

登記名義が子に移っても、子が自分の財産として自由に使えるわけではありません。信託の目的と権限の範囲に従う必要があり、分別管理や帳簿の作成などの義務を負います。「家族だから口座を一緒にしてよい」という扱いは避けなければなりません。信託法29条・34条・37条

導入判断は、この順番で進める

  1. 止めたくない仕事を特定する。 家賃の受領、修繕、更新、売却、借入れのうち、何を誰に任せたいのかを整理します。
  2. 信託する財産を選ぶ。 物件だけでなく、修繕費や固定資産税を払うための現金も考えます。全財産を一律に信託する必要はありません。
  3. 運用の相手に確認する。 借入先の金融機関、口座を開設する金融機関、管理会社に、契約案と想定する運用を示します。借入債務が信託によって当然に子へ移るわけではありません。
  4. 受託者が動けなくなる場合を決める。 子の病気・死亡・辞任に備え、後任、引継ぎ、報告先、終了時の帰属先を定めます。

親の判断能力が十分なうちに、本人の希望を確認することが前提です。契約締結に必要な判断能力を失った後では、家族の合意だけで本人を当事者とする信託契約を成立させることはできません。

信託に任せきれない三つのこと

第一に、本人の生活や身上に関する支援です。介護サービスの契約や信託外の預金管理まで、信託だけで一括して処理できるわけではありません。任意後見などとの役割分担が必要です。

第二に、遺留分と家族間の公平です。信託なら遺留分をなくせる、と決めつけることはできません。誰がどの権利を取得するのか、他の相続人に何を残すのかを検討します。信託と遺留分の関係には、契約内容に応じた難しい論点もあります。

第三に、税金です。管理方法を変える信託が、そのまま節税になるわけではありません。受益者の変更などで課税関係が生じることがあるため、契約案の段階で税理士の確認を受けます。二次相続以降の受益者を定める設計にも、信託法91条の期間制限があります。「何世代でも固定できる」と考えるのは適切ではありません。信託法91条

架空の設例――修繕できるはずの信託なのに、現金がない

父が賃貸マンションを長女に信託し、父を受益者としました。しかし信託したのは不動産だけで、預金は父の名義のまま。数年後、父の判断能力が低下し、屋上防水工事に800万円が必要になります。

長女に修繕権限があっても、支払資金をどう用意するかが決まっていなければ工事は進みません。信託口座に残す資金、賃料から積み立てる額、父の生活費への送金方法、借入れの可否まで設計しておく意味は、ここにあります。これは制度説明のための架空の設例であり、当事務所の解決実績ではありません。

契約前のチェック

  • 任せる家族に、長期間の管理・記帳を担う意思がある。
  • 生活費、税金、修繕費を払う資金の流れが決まっている。
  • 金融機関と管理会社の対応を確認している。
  • 他の相続人への説明、受託者の報告、後任者を検討している。

よくある質問

Q.家族信託をすれば遺言は不要ですか。
A.信託していない財産の承継は別に考える必要があります。信託の終了条項と遺言が食い違わないよう、一緒に点検します。

Q.受託者に子を二人指定すれば安心ですか。
A.相互に確認できる利点がある一方、意思決定が止まることもあります。権限分担と意見が割れた場合の処理を具体化します。

明徳法律事務所への相談で整理すること

まず「今後、誰が何をできれば困らないのか」を、物件ごとに整理します。その上で、信託・任意後見・遺言の役割、家族間の利害、契約の権限と終了条件を検討します。登記事項証明書、借入契約、管理委託契約があれば、運用上の障害まで具体的に確認できます。

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