第8講不動産オーナーの相続24講
生前贈与は「非課税なら安心」ではない――税金・取り分・将来の収入を一緒に考える
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「毎年110万円ずつ渡しているので相続対策はできている」「アパートを先に子へ移したい」。その判断を確かめるには、贈与税だけでなく、相続税への加算、家族間の取り分、自分の生活資金を確認する必要があります。
この講の要点税務上有利な贈与と、相続でもめにくい贈与は同じではありません。贈与する相手・財産・時期を、承継全体の中で決めることが大切です。
暦年課税の加算は段階的に7年へ
相続等によって財産を取得する人が、亡くなった方から一定期間内に受けた暦年課税の贈与は、相続税の課税価格に加算されます。年110万円以下で贈与税が生じなかった贈与も、対象になり得ます。
| 相続が始まる日 | 原則的な加算対象期間 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内 |
| 2027年1月1日~2030年12月31日 | 2024年1月1日から相続開始日まで |
| 2031年1月1日以降 | 相続開始前7年以内 |
延長された部分については、各年ではなく総額100万円まで加算しない仕組みがあります。また、贈与を受けた全員が一律に加算対象になるわけでもありません。相続・遺贈による取得や、死亡保険金などのみなし相続財産の取得を確認します。国税庁「贈与財産の加算と税額控除」
相続時精算課税の110万円と2,500万円は別物
相続時精算課税は、原則として一定の年齢・親族関係の要件を満たす人が選択できる制度です。2024年以降の贈与には年110万円の基礎控除が設けられ、この基礎控除に相当する部分は相続税への加算対象から外れます。
注意点は三つです。110万円は受贈者ごとの年間枠で、精算課税を選んだ贈与者が複数いれば按分します。 父と母から各110万円ずつ受け取れる、という意味ではありません。初めて選択する際には、110万円以下でも所定の選択届出が必要です。一度選択すると、その贈与者について暦年課税へ戻せません。
また、2,500万円の特別控除は年110万円の基礎控除とは異なり、原則として相続時の精算が予定されています。特別控除には期限内の贈与税申告も必要です。「2,500万円まで相続税もなくなる制度」と理解すると、計画が崩れます。国税庁「相続時精算課税の選択」
「持ち戻し」と呼ばれる三つの問題を混ぜない
| 問題 | 確認すること |
|---|---|
| 相続税への加算 | 誰への、いつの贈与を税額計算に入れるか |
| 遺産分割の特別受益 | 特定の相続人が先に受けた利益を、取り分の計算でどう考慮するか |
| 遺留分の算定 | 最低限の取り分を計算する基礎に、どの贈与を含めるか |
それぞれ対象・期間・評価方法が異なります。相続税への加算対象外でも、民法上の問題がなくなるわけではありません。相続人への一定の特別受益に当たる贈与は、遺留分では原則として相続開始前10年間が問題になります。遺産分割の特別受益を調べる期間とは別です。民法903条・1044条
架空の設例――アパートを贈与した後、親の収入が足りない
父が長男に賃貸アパートを贈与し、賃料収入も長男へ移しました。税金の試算はしていましたが、父の介護費用が増えた場合の資金計画や、長女への配分は決めていませんでした。
検討すべきなのは、贈与直後の税額だけではありません。移転登記や取得時の税・費用、父に残す収入、借入先の承諾、長女との取り分の調整、土地の特例への影響を並べます。相続時精算課税による贈与で取得した宅地には、小規模宅地等の特例を適用できません。贈与しない案も比較対象になります。国税庁「小規模宅地等の特例」
贈与前のチェック
- 贈与契約、送金履歴、受贈者による管理の実態を残せる。
- 贈与後も、親の生活費・修繕費・医療介護費が確保できる。
- 税務上の加算と、特別受益・遺留分を区別して確認した。
- 土地や建物の移転費用、借入れ、特例への影響を試算した。
よくある質問
Q.子の名義の口座へ入金すれば贈与になりますか。
A.名義だけでは判断できません。贈与の合意があるか、誰が管理・利用しているかなど、実態と証拠が重要です。
Q.兄弟に知られず贈与を済ませれば、争いを避けられますか。
A.贈与の有効性と、後日の取り分の調整は別の問題です。相続時に発覚し、経緯や金額をめぐる対立が深まることも考えられます。
明徳法律事務所への相談で整理すること
贈与の履歴と予定を一覧にし、誰にどの利益が移るか、将来どの請求が生じ得るかを整理します。税理士による税額比較と、遺言・遺留分・生活資金の設計を結び付けることで、目先の税額だけでは見えない課題を確認できます。