第9講不動産オーナーの相続24講
不動産を残したいなら、遺留分を払う現金まで考える
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「長男にマンションを全部継がせる遺言を作った。これで売らずに済むはずだ」。その計画には、もう一つ確認が必要です。他の相続人の遺留分を侵害する場合、誰が、いつ、何を原資に支払うのでしょうか。
この講の要点不動産の承継先を決めることと、その人が不動産を保有し続けられることは別です。遺留分は金額と資金繰りを一緒に設計します。
遺留分は「必ず法定相続分の半分」とは限らない
遺留分を持つのは、兄弟姉妹を除く一定の相続人です。全体の割合は原則2分の1ですが、直系尊属のみが相続人となる場合は3分の1です。それを各人の法定相続分に応じて配分します。
計算の基礎には、相続開始時の財産、一定の生前贈与、債務などが関係します。実際の侵害額では、請求する側が取得した遺産・贈与や負担する債務なども調整するため、「不動産価格×割合」だけで確定するわけではありません。民法1042条~1046条
2019年7月1日以後に開始した相続では、遺留分侵害額請求は原則として金銭の支払を求める制度です。請求だけで不動産の共有持分が移る仕組みではありませんが、支払資金を用意できなければ、借入れや売却の検討が必要になります。
対策の順番は「評価、配分、現金」
まず、不動産の評価を確認します。相続税の路線価評価を、そのまま遺留分計算の価格に置き換えることはできません。賃貸中の状況や権利関係を踏まえて、相続開始時の価値を検討します。
次に、過去の贈与と今回の配分を整理します。一人に物件を集中させるなら、他の相続人へ預金や売却しやすい資産を配分する案と比較します。
最後に、支払資金を確認します。預金、保険金、融資、売却候補を分け、相続税や修繕費と同じ現金を二重に当て込んでいないかを確認します。家賃は収入ですが、借入返済や運営費を差し引いた後に使える金額で計画します。
架空の設例――3,000万円を請求されても、家賃ではすぐに払えない
配偶者のいない父が、評価額1億2,000万円の賃貸不動産を長男にすべて遺贈しました。子は長男と長女の二人。他の財産、債務、生前贈与がない単純化した設例では、長女の遺留分は4分の1で、侵害額は3,000万円となります。
物件の年間手残りが300万円でも、3,000万円を直ちに用意できるわけではありません。生前に現金配分を見直す、保険を検討する、売却可能な物件を分けるなど、複数案を比べる必要があります。この例は計算構造を示す架空の設例です。
生命保険は使えるが、万能ではない
受取人が指定された死亡保険金請求権は、原則として受取人固有の権利です。そのため、保険金を承継者の資金に充てる設計は検討に値します。ただし、保険料、受取人、課税、他の財産とのバランスを確認します。
最高裁平成16年10月29日決定は、著しい不公平がある特段の事情の下で、死亡保険金請求権を遺産分割の特別受益に準じて扱う余地を認めたものです。この決定を、そのまま「保険金が遺留分の基礎に必ず入る・入らない」と断言する根拠にはできません。遺留分との関係は、問題となる法律構成と具体的事情を分けて検討します。最高裁平成16年10月29日決定・裁判所原文
すでに相続が始まっている方へ
請求する側は、原則として、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ってから1年、相続開始から10年という期間に注意が必要です。「財産を調査中だから待ってよい」とは限りません。民法1048条
請求された側も、相手の計算が正しいかを確認します。財産評価、生前贈与、債務、受領済み財産を点検し、支払方法を協議します。裁判所による期限の許与には申立てと判断が必要であり、自動的な分割払いではありません。
最初に確認する三点
- 請求期限と、請求する意思を伝えた証拠。
- 不動産評価と、生前贈与・債務の資料。
- 納税・修繕資金を確保した後の支払可能額。
よくある質問
Q.遺言に「遺留分を請求しないこと」と書けば有効ですか。
A.その記載だけで相続人の権利を消すことはできません。生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要です。
Q.もう請求を受けています。生前対策がないと手遅れですか。
A.いいえ。金額の検証、評価資料の収集、支払条件の交渉など、相続後にも行うべき対応があります。
明徳法律事務所への相談で整理すること
遺言、贈与資料、不動産資料、請求書面を基に、請求の期限、争点、金額の幅、支払可能額を整理します。「建物を残したい」「早く区切りをつけたい」などの希望を確認した上で、交渉方針を組み立てます。