第10講不動産オーナーの相続24講
マンションの相続税対策――「評価が下がる」だけで購入してはいけない理由
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「現金をマンションに替えれば相続税が減る」。提案書に大きな節税額が並んでいても、それだけで投資の是非は判断できません。税務上の評価、物件の収益性、相続人が引き継ぐ負担を、それぞれ確認する必要があります。
この講の要点マンションの相続税対策は、一律に禁止されたわけでも、通達どおりなら必ず認められるわけでもありません。物件の種類と取引全体の事情を見ます。
2022年の最高裁判決を正確に読む
最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決は、多額の借入れを伴う不動産取得により、通達に基づく評価では相続税負担が大幅に軽減される事案について判断したものです。タワーマンションの一室だけを対象にした事件ではありません。
重要なのは、通達評価額と市場の価格に大きな差があるという理由だけで、直ちに別の評価を認めた判決ではないことです。取得・借入れが税負担に与えた効果や、そのような効果を認識・期待していた事情などを踏まえ、画一的な通達評価が実質的な租税負担の公平に反する事情を検討しています。最高裁令和4年4月19日判決・裁判所原文
したがって、「亡くなる何年前に買えば安全」「借入れを使わなければ問題ない」という単純な線引きはできません。購入に至る経緯、資金計画、保有目的、承継後の運営を、事実に即して記録しておくことが重要です。
2024年以降の新評価は、すべてのマンションに同じようにかからない
2024年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得する居住用の区分所有財産には、新たな評価ルールが設けられています。築年数、総階数、所在階、敷地持分の状況などから補正率を計算する仕組みです。国税庁「居住用の区分所有財産の評価」
| 対象の例 | 新しい区分所有評価の確認 |
|---|---|
| 居住用の区分所有マンション一室 | 適用対象か、補正率はいくらかを確認 |
| 区分建物の登記のない一棟賃貸マンション | この新通達の適用対象外 |
| 事業用テナントの区画 | 居住用の要件を満たすかを確認 |
| 地階を除く総階数が2以下の集合住宅 | この新通達の適用対象外 |
一棟所有でも区分登記の有無などによって扱いを確認する必要があり、「一棟だから対象外」とだけ覚えるのは危険です。また、新通達が適用されないことと、ほかの評価上の問題がないことは別です。
2027年以降も見据え、貸付用不動産の評価見直しを確認する
2026年度税制改正大綱では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した一定の貸付用不動産を、通常の取引価額に相当する金額で評価する見直しが示されています。一定の不動産特定共同事業契約等に関する貸付用不動産には、取得時期を問わない見直しも示され、適用は2027年1月1日以後の相続等を対象とする方針です。一定の土地上の新築家屋等に関する経過措置もあります。財務省「令和8年度税制改正の大綱」資産課税・3その他(4)
ここは大綱で示された方針の紹介です。個別の取得・建築・贈与の判断では、改正通達の内容、適用対象、経過措置まで税理士と確認してください。2024年の区分所有マンション評価だけを調べて、将来の節税額を固定して考えないことが大切です。
「市場価格の6割」は個別物件の保証ではない
新制度では、所定の式で推計した評価水準が0.6未満の場合、評価乖離率に0.6を乗じた補正率を使います。しかし、これはその部屋の実際の売却価格に6割を掛ける制度ではありません。
したがって、「1億円で買えば評価額は必ず6,000万円」「将来も一定割合だけ節税できる」という説明は正確ではありません。さらに、相続税評価が下がっても、売却時の仲介費用や税金、管理費、修繕積立金、金利を差し引けば、資産全体では不利になる可能性があります。
架空の設例――節税額より先に、売却後の残高を見る
父が、相続税対策として8,000万円の区分所有マンションを勧められました。子は相続後に保有する意思がなく、売却を予定しています。
この場合、購入前に比べるべきなのは「相続税がいくら下がるか」だけではありません。税理士の評価試算に加え、購入諸費用、保有中の支出、複数の売却価格を置いた場合の手取りを並べます。税務上の効果を保守的に見ても保有目的に合うのか、現金のまま残す案より有利なのかを判断します。この例は比較方法を示す架空の設例です。
購入前に確認すること
- 新旧どちらの評価ルールを使う提案か。
- 購入をしない場合との比較があるか。
- 家賃下落、金利上昇、売却価格下落を織り込んでいるか。
- 相続人に保有意思があり、納税資金も残るか。
- 税務上の評価が想定と異なる場合の負担を把握しているか。
よくある質問
Q.新しい評価方法で申告すれば、総則6項の問題はなくなりますか。
A.そのような保証はありません。新通達による通常の評価と、個別事情による例外的な評価の検討は区別されます。
Q.長く保有するつもりなら節税目的があっても構いませんか。
A.保有目的は事情の一つですが、それだけで結論は決まりません。取引の内容と税負担への効果を合わせて確認します。
明徳法律事務所への相談で整理すること
提案書、売買契約案、借入条件、税額試算を基に、家族の承継計画と契約上の負担を点検します。税理士の評価判断や不動産の価格資料と突き合わせ、契約前に確認すべき点を整理します。