第19講不動産オーナーの相続24講
相続した不動産を売ると、いくら残る?― 取得費・税金・借入返済までの手取り計算
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「6,000万円で売れれば、兄弟で3,000万円ずつ分けられる」。売却の話合いで、この計算から始めるのは危険です。仲介手数料、測量・解体費、借入返済、譲渡所得税などを差し引くと、分配できる金額は変わります。
この講の要点売却前に決めたいのは、売値と、各相続人に最終的に残る金額の両方です。 税額は取得費と特例の適否に大きく左右されるため、売買契約と遺産分割協議を別々に進めないことが大切です。
取得費は親から引き継ぐ。契約書がないときも調査する
原則として、相続した土地・建物の取得費と取得時期は、被相続人から引き継ぎます。相続税申告で使った評価額が、そのまま売却時の取得費になるわけではありません。
取得費が分からない場合などには、売却収入の5%を概算取得費にできます。ただし、契約書が見つからないだけで、必ず5%に決まるわけではありません。 古い通帳、購入時の精算書、建築請負契約書、住宅ローンの資料、過去の申告書などを探し、実額を裏付けられるか税理士に検討してもらいます。根拠のない推計を申告に使えるという意味ではありません。国税庁・取得費が分からないとき
建物は、購入代金をそのまま全額引けるとは限りません。取得から売却までの減価償却費相当額を差し引く必要があり、賃貸用と非業務用では計算も異なります。土地代と建物代の区分、建物の構造、使用履歴を確認します。国税庁・建物の取得費の計算
売却益と手取りは、別々に計算する
基本的な考え方は、次のとおりです。
| 計算 | 確認するもの |
|---|---|
| 譲渡所得の計算 | 売却収入-取得費-譲渡費用-適用できる特別控除 |
| 手取りの計算 | 実際の入金-売却関連支出-借入返済-税金など |
借入金の元本返済は手取りを減らしますが、それ自体を譲渡所得の必要経費として引くことはできません。売却関連支出も、すべてが税務上の譲渡費用になるとは限らないため、項目ごとに区別します。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える長期譲渡では、通常、所得税・復興特別所得税・住民税の合計税率は20.315%です。相続した年から数え直すわけではありません。国税庁・長期譲渡所得の税額の計算
相続税の取得費加算と空き家特例を比較する
相続税が課税された人が一定期間内に相続財産を売る場合、その財産に対応する一定の相続税額を取得費に加算できます。期限は、相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。通常は相続開始からおおむね3年10か月ですが、具体的な日付で管理します。加算額には譲渡益による上限もあります。国税庁・相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
第20講の空き家特例と、同じ家屋・敷地について重ねて使うことはできません。売却予定価格、取得費、相続税額、特例の要件をそろえて比較します。
架空設例:6,000万円で売れても、6,000万円は分けられない
先代からの所有期間を引き継いで長期譲渡となる土地を6,000万円で売却。取得費1,000万円、譲渡費用300万円、借入返済1,000万円とし、特例は使わないとします。
譲渡所得は4,700万円、税額は概算約955万円です。手取りは約3,745万円となり、2人で等分すると約1,873万円ずつです。税の端数処理、他の所得控除、個別費用等は省略した説明用の計算ですが、売値だけで分配額を約束しない理由が分かります。
契約前のチェック
- 取得費の資料と、建物の減価償却の履歴があるか。
- 借入返済、抵当権抹消、測量・解体費を織り込んだか。
- 各相続人の特例適否と納税資金を確認したか。
- 売却代金の受領者、費用負担、税金の留保、最終精算を協議書に落とし込めるか。
よくある質問
Q.相続税を払ったのに、売却でも税金がかかるのですか。
A.課税の対象が異なるため、両方が生じ得ます。一定の場合に取得費加算で調整されますが、相続税を全額そのまま控除できる制度ではありません。
Q.代表者1人の名義で売り、後で分けても大丈夫ですか。
A.換価分割として行うことはありますが、協議書、登記、売買、送金、申告の整合が必要です。単独取得後の贈与と混同されないよう、実態と文書をそろえます。
明徳法律事務所への相談で整理すること
売却する権限と相続人間の合意を確認し、税理士による税額試算を踏まえて、分配・費用負担・精算方法を協議書や契約条件へ反映することを検討します。「売れるか」から「売った後に争いを残さないか」まで、順序をそろえるための相談です。