会社・経営者・株主の利益相反
第5講全体像と初動
「顧問弁護士」は、会社と社長のどちらの弁護士か
会社・経営者・株主の利益相反
この講の結論
会社の顧問弁護士は会社の弁護士であって、当然に社長個人や多数派株主の代理人になるわけではありません。内紛が起きたとき、その弁護士が誰の依頼を受けてきたのか、どの情報を誰から得ているのか、そして今、誰が会社を代表して依頼する権限を持っているのかを確かめなければ、代理人の選び方を誤ります。利益が対立する場面では、会社、経営者、株主のそれぞれが別の弁護士に依頼することを前提に考えます。
顧問契約と個別の委任を読む
中小企業の顧問弁護士は、会社と顧問契約を結んでいる一方で、社長個人の相続や遺言、社長が保有する株式の譲渡、社長が負っている個人保証について、別に相談を受けていることが少なくありません。同じ弁護士が、会社の契約書を確認し、社長の遺言書の相談に乗り、後継者への株式の移し方を助言している。こうした関係は平時には自然なものですが、内紛が起きた瞬間に、その弁護士が「誰のために」助言してきたのかが問われます。
確かめるべきは、報酬を誰が払ったかだけではありません。それぞれの相談がどの立場からの相談だったのか、その過程でどの情報を誰から受け取ったのか、助言の内容が会社の利益のためのものだったのか特定の個人の利益のためのものだったのかを、相談ごとに分けて見ていきます。
会社は代表者が替わっても同じ法人です(会社法3条)。顧問契約の相手方は会社であって、契約当時の代表者個人ではありません。現在の経営陣の意向と会社の利益が一致しているとは限らず、会社の業務を守るための助言と、特定の役員が自分の地位を守るための助言は別のものです。この区別がつかないまま「顧問弁護士に相談した」と言っても、誰の代理人として何をしてもらったのかがはっきりしません。
利益相反は「味方の選択」ではない
弁護士には、職務を行ってはならない事件が法律で定められています。相手方の協議を受けて賛助し、またはその依頼を承諾した事件、相手方の協議を受けた事件でその協議の程度と方法が信頼関係に基づくと認められるもの、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件などがそれに当たります(弁護士法25条1号〜3号。弁護士職務基本規程27条1号〜3号も同じ内容を定めています)。日本弁護士連合会の弁護士職務基本規程はこれをさらに広げ、受任している他の事件の依頼者や継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件、依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件についても、原則として職務を行えないとしています(同規程28条2号・3号)。
顧問契約は「継続的な法律事務の提供を約している」関係の典型です。したがって、会社の顧問弁護士が、会社を相手方とする事件を株主や役員から受任することは、依頼者となる株主や役員と、相手方となる会社の双方が同意しない限りできません(同規程28条ただし書。名目だけの顧問契約など実質を伴わない場合の扱いには議論があります)。逆に、社長個人から相談を受けていた弁護士が、会社の代理人として社長個人の責任を追及する場合、その相談が責任追及の対象と実質的に同じ事件に関するものであれば弁護士法25条2号に当たり得ますし、別の事件であっても、社長個人が依頼者である以上、依頼者間の利益相反(規程28条3号)や秘密保持義務(弁護士法23条、規程23条)の問題が生じます。
利益相反の規律は、「どちらの味方をするか」を弁護士に選ばせる制度ではありません。会社と役員の損害賠償紛争、株主同士の株式をめぐる争い、代表権そのものが争われている事件では、弁護士が一方に就くこと自体が問題になることもあれば、双方から距離を置いて手を引かざるを得ないこともあります。同意によって解消できる場合とできない場合があり(弁護士法25条ただし書は同意による例外を3号と9号に限っています)、顧問であるという一点で、あらゆる関係者の事件を一律に扱えないわけでもありません。事件の内容、受任の経緯、得ている情報に照らして、個別に判断します。
相手方に就いた弁護士を排除できるか
会社の顧問弁護士が、内紛の相手方の代理人として現れることがあります。この場合、直ちに違法とは限りませんが、弁護士法25条に違反する場合には、相手方となった当事者は異議を述べて、裁判所にその弁護士の訴訟行為の排除を求めることができると解されています。最高裁は、弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について、相手方当事者は異議を述べて排除を求めることができるとする一方、違反を知りながら、または知り得たのに異議を述べずに訴訟手続を進め、第二審の口頭弁論を終結させたときは、その訴訟行為は完全に効力を生じると判断しています(最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1266頁)。排除を求めるなら、早い段階で異議を出さなければならないということです。
他方で、排除の範囲は限定的に解されています。弁護士職務基本規程57条(共同事務所の所属弁護士に関する規定)に違反するにとどまる場合、その違反は懲戒の原因にはなり得ても訴訟行為の効力には影響せず、相手方はそれを理由に排除を求めることはできません(最決令和3年4月14日民集75巻4号1001頁)。また、会社の不祥事について取締役責任調査委員会の委員を務めた弁護士が、その後に会社の代理人として元取締役らに対する損害賠償請求訴訟を追行した事案で、最高裁は、弁護士法25条の規定をみだりに拡張または類推して解釈すべきではないとして、排除の申立てを認めませんでした(最決令和4年6月27日裁判集民事268号323頁)。訴訟行為の排除は法律に定められた類型に限られると考えられ、それ以外の不適切さは弁護士会の懲戒や損害賠償の問題として扱われることになるでしょう。
実務では、相手方の代理人について「顧問弁護士だったのだから就けないはずだ」と感情的に反発するのではなく、その弁護士が過去にどの立場で誰から何を受任し、どの情報を得ていたかを事実として整理したうえで、弁護士法25条のどの号に当たるのかを検討し、根拠を示して異議を申し入れます。
会社の訴訟代理人を誰が選ぶか
会社が原告や被告になる事件では、誰が会社を代表して弁護士に委任するのかを確かめなければなりません。通常は代表取締役ですが(349条4項)、会社と取締役(取締役であった者を含みます)の間の訴えについては特則があります。業務監査の権限を持つ監査役を置く会社(監査役設置会社)では、会社が取締役に対して、または取締役が会社に対して訴えを提起する場合、監査役が会社を代表します(386条1項1号)。株主が会社に対して取締役の責任追及の訴えを提起するよう請求する場合も、その請求を受けるのは監査役です(同条2項1号)。
ここでも、監査の範囲を会計に限定した監査役しか置いていない会社は「監査役設置会社」に当たらないため(2条9号、389条1項)、386条は適用されません。その場合、株主総会が訴えについて会社を代表する者を定めることができ(353条)、取締役会設置会社では取締役会が定めることもできます(364条)。どちらの定めもなければ、代表取締役が会社を代表することになりますが、その代表取締役自身が被告となる取締役であれば、自分で自分を訴えるという事態になります。そのため実務では、株主総会(取締役会設置会社では、株主総会の定めがなければ取締役会)で別の代表者を定めておくことになります。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、原則として監査等委員会または監査委員会が選定する委員が会社を代表します(399条の7、408条)。
これらの特則は、会社と取締役の間の訴えに関するものです。株主同士の株式の帰属をめぐる争いや、役員同士の争いで会社が当事者でない場合には、そもそも会社の代表の問題は生じません。会社が当事者になるのか、なるとすれば誰が代表するのかを、事件ごとに確かめます。
会社資料と相談の秘密を守る
弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する権利と義務を持ち(弁護士法23条)、正当な理由なく依頼者について職務上知り得た秘密を漏らしたり利用したりしてはなりません(弁護士職務基本規程23条)。会社から依頼を受けている弁護士は、会社の資料を一方の株主に無制限に渡すことはできません。株主が会社の資料を見るには、会社法上の閲覧請求権を使います(第18講)。同様に、以前に社長個人から受けた相談の内容を、後になって会社側の活動で使うことができるかどうかも、別の問題として検討が必要です。
依頼者の側にも心得ておくことがあります。最初の相談では、関係する会社、役員、株主、これまでに関与した専門家を弁護士に伝えてください。弁護士は、受任してよいかどうかを判断するために、これらの情報を必要とします。受任の可否が確認できる前に、必要を超えて秘密情報を送ることは避け、受任が決まってから資料を整理して共有する順序にします。相談の段階で渡した情報が、後に利益相反の判断に影響することもあるからです。
専門家の役割を整理する
表は横にスクロールできます。
| 担当 | 主に確認する事項 | 境界で注意する事項 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 権利関係、紛争手続、交渉、契約 | 誰の利益を代理するか。会社・役員・株主のいずれの依頼か |
| 税理士・公認会計士 | 税務、会計、株価算定、財務の検証 | 資料の利用権限、独立性、評価の目的(税務上の評価と紛争での評価は異なる) |
| 司法書士 | 商業登記、申請書類の確認 | 実体的な紛争と登記手続の区別。登記が通っても決議が有効になるわけではない |
| IT・調査の専門家 | ログの保存、データの解析、管理権限の整理 | 調査の権限、対象の限定、秘密の保護 |
専門家を増やすこと自体が解決ではありません。誰が全体の責任者になるかを決め、時系列、用語、資料の版を統一します。顧問税理士が社長個人と会社の両方の申告を担当していることも多く、税理士についても、誰の依頼で何を作成してきたかを整理する必要があります。税務上の判断や登記が、会社法上の有効性を保証するわけではないことも、専門家の間で認識を共有しておきます。
弁護士費用の支払者は別に決める
誰が代理人を選べるかと、誰が費用を負担できるかは別の問題です。会社が訴訟の当事者である場合の費用、役員個人が責任追及に対処するための防御費用、会社と役員の間の補償契約、役員賠償責任保険(D&O保険)を分けて考えます。
役員等が職務の執行に関して責任の追及を受けたことに対処するための費用を、会社が補償契約によって補償するには、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議によって補償契約の内容を決定しておく必要があります(430条の2第1項1号)。役員賠償責任保険の契約内容の決定も同様です(430条の3第1項)。こうした契約がないまま、会社が社長個人の防御費用を「会社の費用」として支払えば、それ自体が新たな責任追及の対象になり得ます。会社から支払うのであれば、会社の利益になる支出であること、必要性、金額、機関の決定を記録に残します。詳しくは第24講で扱います。
PRACTICE NOTE
相談の冒頭で確認すること
会社の費用で社長が相談に来た場合も、依頼者を曖昧にしたまま進めてはいけません。委任契約の当事者は会社なのか社長個人なのか、会社を代表して依頼する権限を社長が持っているか、相談の対象は会社の問題か社長個人の問題か、費用は誰が負担するのかを、それぞれ確かめて記録します。
「会社のために」と言って始まった相談が、実は社長が自分の地位を守るための相談だったということはよくあります。後に会社から社長個人への責任追及が問題になれば、同じ弁護士が両方を担当することはできません。これまでの相談で得た秘密、実際の受任の範囲、利益の対立の有無を踏まえて判断することになります。「費用を払った人が依頼者」「顧問契約があるのだから全株主の代理人」という理解は、どちらも誤りです。
弁護士の側は、事件を受任するに当たり、事件の見通し、処理の方法、報酬と費用について説明する義務を負い(弁護士職務基本規程29条)、同一の事件に複数の依頼者があって相互に利害の対立が生じるおそれがあるときは、辞任の可能性その他の不利益を及ぼすおそれがあることを、依頼者それぞれに説明しなければなりません(同規程32条)。受任後に現実に利害の対立が生じたときは、速やかに事情を告げて辞任その他の適切な措置を取る義務があります(同規程42条)。会社と社長を一緒に受任した弁護士が、途中で双方から手を引く事態は、この規程が想定しているものです。そうなれば依頼者は新しい弁護士を探し直すことになりますから、最初から分けておくほうが結果として早く済みます。
実務チェック
- 顧問契約と個別の委任契約の当事者、報酬の請求先をそれぞれ確認する。
- 過去に個人として受けた相談、関係会社への助言を、弁護士に申告する。
- 会社が当事者になる事件では、会社を代表する者と、そのために必要な決議を確認する。
- 相手方に就いた弁護士に異議を出すなら、弁護士法25条のどの号に当たるかを整理し、早い段階で申し入れる。
- 指示の系統、資料の共有範囲、費用の負担を文書で分けておく。
よくある質問
顧問弁護士に社長の責任を追及してもらえますか。
確かめることが三つあります。まず、会社の依頼として受任できるかどうかです。その弁護士が過去に社長個人から、責任追及の対象と実質的に同じ事件について信頼関係に基づく相談を受けていれば、弁護士法25条2号の問題が生じ得ますし、別の事件であっても依頼者間の利益相反や秘密保持の問題が残ります。次に、過去の受任や秘密情報によって、会社側の活動に支障がないかどうかです。最後に、適法な会社の代表者から依頼されているかどうかです。監査役設置会社であれば監査役が会社を代表し(386条1項1号)、そうでなければ株主総会や取締役会で代表者を定めます(353条、364条)。これらを満たさない場合は、別の弁護士が担当することになります。
顧問弁護士が相手側に就いたら、直ちに違法ですか。
そうとは限りません。顧問契約の相手方は会社ですから、会社が当事者でない株主間の争いであれば、顧問弁護士が一方の株主に就くこと自体は弁護士法25条に当たらないこともあります。他方、会社を相手方とする事件を受任することは、依頼者と会社の双方の同意がなければ弁護士職務基本規程28条2号に反します。訴訟行為の排除を求められるのは弁護士法25条に違反する場合であり、規程違反にとどまる場合は懲戒の問題になります。いずれにしても、異議を述べるなら事実と根拠を整理し、早い段階で申し入れる必要があります。
会社の顧問弁護士に、株主として会社の資料を見せてもらえますか。
顧問弁護士は会社の依頼を受けている立場ですから、会社の秘密に当たる資料を株主に渡すことはできません。株主が会社の資料を見るには、株主名簿、計算書類、議事録、会計帳簿のそれぞれについて定められた閲覧請求の手続(第18講)を使います。顧問弁護士に対して非公式に資料を求めても、弁護士を難しい立場に置くだけで、通常は得られるものがありません。
この講の主な根拠条文・裁判例
- 弁護士法〔e-Gov法令検索〕23条、25条
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、3条、349条、353条、364条、386条、389条、399条の7、408条、430条の2、430条の3
- 弁護士職務基本規程〔日本弁護士連合会PDF〕23条、27条、28条、29条、32条、42条、57条
- 最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1266頁弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について、相手方当事者は異議を述べて排除を求めることができるが、違反を知りまたは知り得たのに異議を述べずに訴訟手続を進め第二審の口頭弁論を終結させたときは、その訴訟行為は完全に効力を生じるとした判例
- 最決令和3年4月14日民集75巻4号1001頁弁護士職務基本規程57条に違反するにとどまる訴訟行為は、懲戒の原因となり得ることは別として、その効力に影響を及ぼさず、相手方は排除を求めることができないとした決定
- 最決令和4年6月27日裁判集民事268号323頁取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社の代理人として元取締役らに対する訴訟を追行した事案で、弁護士法25条をみだりに拡張または類推して解釈すべきではないとして、訴訟行為の排除を認めなかった決定
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公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日