第8講役員・機関・意思決定
代表取締役を解職するまでの手順
社長の地位・取締役の地位・報酬を分ける
この講の結論
取締役会設置会社では、代表取締役を選定し、解職するのは取締役会の権限です。解職される本人は、その解職決議について特別の利害関係を持つため議決に加われませんが、だからといって本人への招集通知を省いてよいわけではありません。解職は代表権を失わせるだけで、取締役としての地位、株主としての地位、具体的に定まった報酬は、それぞれ別に扱わなければなりません。「社長を辞めさせる」という一言の中に、法律上は複数の異なる手続が含まれています。
「社長を辞めさせる」の意味を確定する
「社長」は、会社法上の地位ではなく、社内の職制や呼称です。法律上の地位として問題になるのは、会社を代表する代表取締役であるか、取締役であるか、そして従業員としての雇用関係があるかです。代表取締役の解職、取締役の解任、雇用の終了は、それぞれ決定する機関も要件も効果も異なります。代表取締役から外すだけなら取締役会(取締役会設置会社の場合)、取締役から外すなら株主総会(339条1項)、従業員として解雇するなら労働契約法の規律(同法16条)というように、目的に応じて手続を組み合わせることになります。
代表権だけを外した場合、本人は取締役として残り、取締役会の構成員として業務執行の決定と監督に参加する権利を持ち続けます。取締役会が別に業務執行取締役として選定していれば(363条1項2号)、その地位も個別に確かめる必要があります。また、本人が会社の株式を持っているなら、役職を失っても株主でなくなるわけではなく、株主総会での議決権や各種の株主権はそのまま残ります。株式、役職、報酬、個人保証をまとめて処理したいのであれば、解職の手続とは別に、第35講で扱う合意事項を検討することになります。
取締役会設置会社の手続
取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から代表取締役を選定し、また解職します(362条2項3号・3項)。解職を実現するには、まず取締役会を適法に開かなければなりません。取締役会は各取締役が招集できるのが原則ですが、定款または取締役会で招集権者(多くの会社では代表取締役である社長)を定めている場合は、その招集権者に対して、議題を示して招集を請求します。請求の日から5日以内に、請求日から2週間以内の日を会日とする招集通知が発せられなければ、請求した取締役が自ら招集できます(366条2項・3項)。解職されようとしている社長が招集権者である場合、社長が招集を拒めば、この経路で他の取締役が招集することになります。
招集通知は、会日の1週間前まで(定款で短縮できます)に、各取締役と、監査役設置会社では各監査役に発しなければなりません(368条1項)。取締役と監査役の全員の同意があれば招集手続を省略できますが(同条2項)、解職される本人が同意することは通常ありませんから、この省略は使えないと考えるべきです。通知の相手、議題、連絡の方法、到達したことを示す記録を残しておきます。監査役設置会社では、監査役は取締役会に出席し、必要があれば意見を述べる義務を負っていますから(383条1項)、監査役への通知を落とすと決議の効力に影響し得ます。なお、監査の範囲を会計に限定した監査役しか置いていない会社は会社法上の「監査役設置会社」に当たらず(2条9号、389条1項)、その監査役は取締役会への出席義務を負わず、招集通知の相手にもなりません。
本人の議決権と定足数
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で行いますが、決議について特別の利害関係を持つ取締役は議決に加われません(369条1項・2項)。代表取締役の解職決議について、解職される当人がこの特別利害関係取締役に当たるというのが最高裁の判断です。最高裁は、本人の意思に反して代表取締役の地位から排除することの当否が論じられる場合には、当人が私心を去って会社に対する忠実義務に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえって自己の利益を図って行動することすらあり得るとして、議決権の行使を禁じるのが相当としました(最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)。
その結果、本人を除いた取締役を基準に、定足数と賛成数を数えることになります。取締役がA・B・Cの3人で、代表取締役Aの解職を決める場合、議決に加われるのはBとCの2人ですから、原則として両名が出席し、両名が賛成しなければ可決されません。定款で決議要件を加重していないか、BやCに別の利害関係がないか、ウェブ会議などで参加する取締役の出席の扱いはどうかも確かめます。
ここで誤解されやすいのは、本人が議決に加われないことと、本人に招集通知を出さなくてよいことは別だという点です。特別利害関係取締役も取締役会の構成員であり、取締役会に出席すること自体は認められると解されています。もっとも、意見を述べる権利があるかについては否定的な見解が多く、議長を務めることはできず、退席を求められればこれに従うべきとされています。それでも、本人に通知を出さずに開いた取締役会は、招集手続に瑕疵があるものとして、決議の効力を争われることになります(第9講)。
取締役会を置かない会社の場合
取締役会設置会社の取締役は3人以上でなければなりません(331条5項)。取締役が2人しかいない会社では、そもそも取締役会を置いていないのか、取締役会設置会社であるのに欠員が生じているのかを、定款と登記で確かめます。
取締役会を置かない会社では、各取締役が会社を代表するのが原則で、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、または株主総会の決議によって代表取締役を定めることができます(349条1項〜3項)。代表取締役を外す方法は、この選定の方法に対応します。定款で直接に代表取締役を定めているなら定款変更(特別決議)が必要になり、株主総会の決議で定めているなら株主総会で、互選で定めているなら取締役の互選で、それぞれ対応することになります。取締役会についての多数決や特別利害関係の規定を、そのまま取締役2人の互選に当てはめることはできません。互選で定めた代表取締役は取締役の互選(過半数の一致)によって解職できるとするのが一般的な扱いですが、取締役会のような特別利害関係の規定はなく、本人を議決から除外できるかについて見解は定まっていません。取締役が2人の会社では過半数は2人ですから、本人が反対する限り互選での解職は事実上難しく、株主総会での取締役の解任(339条1項)や、選定の方法を株主総会の決議に改める定款変更を検討することになります。
非公開会社であれば、取締役会設置会社であっても、取締役会の決議のほかに株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨を定款に置くことができます(最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁)。ただし、この定款の定めは代表取締役を「定める」ことに関するものであり、株主総会が代表取締役を解職できるかは同じ決定の射程外です。総会で別の代表取締役を選定しても、現在の代表取締役の代表権が当然に失われるわけではないことは、第2講で述べたとおりです。
解職後に必要な対応
解職の決議と同時に、または直後に、新しい代表取締役を選定します。代表取締役が欠けると、任期満了または辞任で退任した代表取締役に権利義務が残る規定がありますが(351条1項)、解職による退任はその対象ではありませんから、解職だけして後任を決めなければ代表者が空白になります。新代表取締役の選定、就任の承諾、登記、印章の引継ぎ、金融機関への届出、電子認証の変更、重要な取引先への連絡を、一連の段取りとして組み立てます。
登記の場面では、取締役会の議事録に出席した取締役と監査役が署名または記名押印すること(369条3項)に加え、代表取締役の就任による変更登記の申請書には、取締役会の決議で選定した場合、出席した取締役と監査役が議事録に押印した印鑑について市町村長の作成した印鑑証明書を添付しなければなりません(商業登記規則61条6項3号)。変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑(いわゆる会社実印)を議事録に押している場合はこの限りではありませんが(同項ただし書)、解職される社長が会社実印を渡さない場面では、出席した取締役と監査役の個人の実印と印鑑証明書が必要になり、新代表取締役の就任承諾書にも個人の実印を押して印鑑証明書を添付します(同条4項・5項)。決議は有効でも登記ができない、という事態を避けるために、取締役会の前に印鑑証明書を用意しておくのが実務です。
これらをすべて同じ日に行うことが法定されているわけではありませんが、適法な招集に要する期間を踏まえ、決議の後に業務が空白にならないよう工程を準備します。旧代表者に対する引継ぎの要求や資料の引渡しの請求も、その人に残る取締役や株主としての地位を踏まえて範囲を定めます。
解職を争う側の確認事項
解職された側が決議の効力を争うには、招集通知が発せられたか、参加の機会があったか、議決に加われる取締役の人数、賛成の数、定款の定め、そもそも決議に加わった取締役の選任が有効であったかを確かめます。取締役会の決議には、株主総会の決議取消しの訴え(831条)のような期間を限った特別の訴えの制度がありません。決議の無効は一般の民事訴訟で確認を求めることになり、代表取締役の地位の確認や、解職の登記の抹消を求める訴えと組み合わせます。決議に基づいて既に登記が変更されている場合、争っている間も登記上は新代表者が代表取締役として公示され、善意の第三者との関係では登記と異なる事実を主張できませんから(908条1項)、必要に応じて仮処分(民事保全法23条2項)も検討します(第26講)。
一部の取締役に招集通知を出さずに開いた取締役会の決議は、特段の事情のない限り無効ですが、その取締役が出席しても決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があれば有効とされます(最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)。解職決議で通知を受けなかったのが解職される本人である場合、本人は議決に加われない以上、投票の結果に影響しないという反論が想定されますが、本人が出席していれば弁明の機会などを通じて他の取締役の判断が変わり得たかどうかが問われます。「通知が来なかった」という事実だけで結論を断定せず、参加していれば議論に及ぼした影響を具体的に主張することになります。
報酬は自動的にゼロにならない
解職によって取締役の地位が残る場合、取締役としての報酬をどう扱うかが問題になります。定款または株主総会の決議によって具体的な報酬額が定められていれば(361条1項)、その額は会社と取締役の間の契約内容となり、本人の同意がない限り、その後の株主総会の決議で無報酬にしても報酬請求権は失われません(最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁)。同判決は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に総会決議がされた場合でもこの理は異ならないと述べており、代表取締役を解職したからといって、報酬を当然にゼロにできるわけではないということです。
もっとも、会社で役職ごとに報酬が定められ、役職が変われば変更後の額が当然に支払われる運用があり、取締役がその定め方と慣行を知ったうえで就任している場合には、任期中の役職の変更に伴う報酬の変動を黙示のうちに応諾していたと認めた裁判例があります(東京地判平成2年4月20日判時1350号138頁)。代表取締役としての報酬と取締役としての報酬が別に定められている会社では、解職によって前者がなくなることを本人が受け入れていたと評価される余地があります。報酬の定め方、内規の有無、本人がそれを知って就任したかどうかによって結論が変わりますから、報酬に関する決議と規程を確かめてから判断します。
取締役の解任について正当な理由がない場合の損害賠償を定める339条2項は、株主総会による役員の解任に関する規定です。取締役会による代表取締役の解職にこの規定を当然に適用することはできません。解職された側が損害の賠償を求めるとすれば、解職が取締役会の権限の濫用に当たるか、報酬に関する契約上の請求権が残っているか、といった別の構成を検討することになります。
PRACTICE NOTE
取締役三人のうち、社長を解職する場合
【設例】取締役はA・B・Cの3人、代表取締役はAで、Aが取締役会の招集権者と定められています。BとCは、Aの資金の使い方に疑問を持ち、Aを代表取締役から解職したいと考えています。BとCに特別の利害関係はなく、定款に決議要件の加重もないものとします。
手順は次のようになります。まずBまたはCが、Aに対して「代表取締役の解職と新代表取締役の選定」を議題として取締役会の招集を請求します。Aが5日以内に、請求日から2週間以内の日を会日とする招集通知を発しなければ、BまたはCが自ら招集します(366条2項・3項)。招集通知は、A、B、Cの全員と、監査役設置会社であれば監査役に、会日の1週間前(定款で短縮されていればその期間)までに発します。Aを通知の相手から外すことはできません。
取締役会では、解職の議案についてAは議決に加われませんから、議決に加われるのはBとCの2人です。2人の過半数、つまり2人の出席が定足数となり、両名の賛成で可決されます。続いて新代表取締役の選定の議案を審議しますが、この議案ではAも議決に加われます(代表取締役の選定決議については、候補者本人も特別利害関係取締役には当たらないと解されています)。取締役3人の過半数である2人以上の出席と、出席者の過半数の賛成が必要ですから、A・B・Cが全員出席していれば、BとCの2人の賛成で可決されます。議案ごとに、議決に加われる人数、出席者、賛成者を議事録に記録します。
解職後もAは取締役として残ります。以後の取締役会について、Aへの招集通知を省いたり、Aの出席を拒んだりすることはできません。Aが取締役として残ることを望まないのであれば、株主総会での解任(339条)を別に検討することになりますが、正当な理由がなければ損害賠償の問題が生じます(第7講)。また、登記のために、出席する取締役と監査役の個人の実印と印鑑証明書、新代表取締役の就任承諾書用の印鑑証明書を用意しておきます。Aが会社実印を渡さない場合に備えた準備です。Aが出席しながら議事録への押印を拒んだ場合は、その旨を議事録に記載したうえで申請する扱いが登記実務ではとられています。
実務チェック
- 取締役会設置会社かどうか、代表取締役の選定方法が何かを、定款と登記で確かめる。
- 解職される本人にも招集通知を発し、通知の記録を残す。監査役設置会社では監査役にも発する。
- 議案ごとに、議決に加われる取締役の人数、出席者、賛成者を記録する。
- 解職と同時に新代表取締役を選定し、登記に必要な印鑑証明書を事前に用意する。
- 後任の就任、登記、金融機関への届出、報酬の扱いを別々に決める。
よくある質問
株主総会を開かずに社長を交代できますか。
取締役会設置会社であれば、代表取締役の解職と新代表取締役の選定は取締役会で行えますから、株主総会を開く必要はありません(362条2項3号)。ただし、それで変わるのは代表権だけです。取締役から外すには株主総会での解任が必要になり(339条1項)、取締役会を置かない会社では、代表取締役の選定方法に応じた手続が必要になります。
本人が反対すれば解職できませんか。
できます。解職される本人は、その解職決議について特別の利害関係を持つため議決に加われません(369条2項、最判昭和44年3月28日)。ただし、本人を除いた取締役で定足数と賛成数を満たす必要があり、本人への招集通知を含む招集手続が適法に行われていることが前提です。取締役が3人で本人以外の2人が一致していれば可決できますが、2人のうち1人でも賛成しなければ解職はできません。
解職された社長が会社の実印を返しません。登記はできますか。
できます。代表取締役の変更登記には、取締役会議事録に出席した取締役と監査役が押印した印鑑の印鑑証明書を添付します(商業登記規則61条6項3号)。前の代表取締役が登記所に提出していた印鑑が議事録に押されていればその添付は不要ですが、押されていなければ、出席した取締役と監査役の個人の実印で議事録に押印し、それぞれの印鑑証明書を添付すれば登記できます。変更登記の申請と併せて新代表取締役が印鑑届書を提出すれば、以後は旧代表者が持っている印鑑は会社実印ではなくなります。
この講の主な根拠条文・裁判例
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、331条5項、339条、349条、351条、361条、362条、363条、366条、368条、369条、383条、389条、831条、908条
- 商業登記規則〔e-Gov法令検索〕61条6項
- 労働契約法〔e-Gov法令検索〕16条
- 民事保全法〔e-Gov法令検索〕23条
- 最判昭和44年3月28日民集23巻3号645頁〔裁判所ウェブサイト〕代表取締役の解職に関する取締役会の決議について、当該代表取締役は特別の利害関係を有する取締役に当たるとした判例(旧商法260条ノ2第2項・239条5項。現行法では会社法369条2項)
- 最判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁一部の取締役への招集通知を欠く取締役会決議は特段の事情のない限り無効だが、その取締役が出席しても結果に影響がないと認めるべき特段の事情があれば有効とした判例
- 東京地判平成2年4月20日判時1350号138頁役職ごとに報酬が定められている会社で、任期中の役職の変更に伴う報酬の変動を取締役が黙示のうちに応諾していたと認めた裁判例
- 最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁定款または株主総会の決議で具体的に定められた取締役の報酬額は会社と取締役の間の契約内容となり、本人の同意がない限り、その後の総会決議で無報酬としても報酬請求権は失われないとした判例
- 最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁取締役会設置会社である非公開会社において、株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めを有効とした決定
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日