第11講役員・機関・意思決定
そのとき、監査役はどうする?
調査・報告・差止め・訴訟代表
この講の結論
監査役は、特定の株主や役員の利益を守るために置かれているのではなく、会社のために取締役の職務執行を監査する機関です。内紛では、多数派にとっても少数派にとっても、監査役がどちらの側に立つかが関心事になりますが、監査役の権限は、会社の利益のために独立して行使されるときに初めて意味を持ちます。そして、その権限の中身は、定款で監査の範囲を会計に限定しているかどうかで大きく異なります。業務監査権限のある監査役には、調査、取締役会への出席と報告、違法行為の差止め、会社と取締役との訴訟における会社代表といった権限がありますが、会計限定監査役にはそのうち会計に関する調査と報告しかありません。監査役に何を期待できるか、逆に株主が自ら何をしなければならないかは、まずここを確認しなければ決まりません。
定款と登記から監査範囲を確認する
公開会社でない株式会社のうち、監査役会設置会社と会計監査人設置会社を除くものは、定款で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができます(会社法389条1項)。この定めのある会社の監査役を、実務では会計限定監査役と呼びます。会社法は、監査役を置く会社であっても、会計限定の定款の定めがあるものを「監査役設置会社」の定義から除いています(2条9号)。取締役会設置会社は原則として監査役を置かなければならず(327条2項)、多くの中小企業がこの類型に当たりますが、監査役がいることと、会社法上の監査役設置会社であることとは別の問題です。この用語の違いは、監査役自身の権限だけでなく、株主による差止請求の要件や取締役会議事録の閲覧に裁判所の許可が要るかどうか、取締役が著しい損害のおそれを誰に報告するかといった点にも影響します。
監査の範囲を会計に限定する旨は登記事項です(911条3項17号イ)。ただし、これが登記事項になったのは平成27年5月1日施行の改正からで、それ以前から会計限定の定めがある会社については、施行後最初に監査役の就任、重任または退任の登記を申請するまで登記を猶予する経過措置がとられました。さらに、平成18年5月1日の会社法施行時に、旧商法特例法の小会社(資本金1億円以下で負債総額200億円未満)であった会社の定款には、会計限定の定めがあるものとみなされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律53条)。監査役を置く旨の定款の定めのある特例有限会社の監査役も、同じく会計限定とみなされます(同法24条)。定款の条文に会計限定と書いていなくても、みなしによって会計限定になっている会社は珍しくありません。したがって、登記に会計限定の記載がないからといって業務監査権限があるとは限らず、逆に定款だけを見て判断することもできません。登記、現行定款、会社法施行時の資本金と負債の額、その後の定款変更の履歴を突き合わせて、監査役の権限の範囲を確定するところから始めます。
なお、会計限定の定めを廃止して監査役の権限を業務監査にまで広げる定款変更をすると、その効力発生時に監査役の任期は満了します(336条4項3号)。権限を広げるなら、その資格にふさわしい人を改めて選ぶべきだという考え方です。逆に、業務監査権限のある監査役の権限を会計に限定する定款変更をした場合には、任期は終わらず、在任中の監査役の権限がその時点から会計に関するものに縮小されると解されます。いずれも株主総会の特別決議を要します(309条2項11号、466条)。
業務監査権限のある監査役の権限
業務監査権限のある監査役は、取締役の職務の執行を監査し、法務省令の定めに従って監査報告を作成します(381条1項)。そのために、いつでも、取締役や支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、会社の業務および財産の状況を調査することができ(同条2項)、職務を行うため必要があるときは子会社に対しても報告を求め、その業務および財産の状況を調査できます(同条3項)。子会社は正当な理由があるときはこれを拒めますが(同条4項)、親会社自身にはそのような拒絶の規定はありません。取締役や支配人が監査役の調査を妨げれば過料の対象になり(976条5号)、取締役が使用人に調査を妨げさせれば、取締役自身の任務懈怠の問題にもなります。監査役がその職務の執行について会社に費用の前払や償還を請求したときは、会社は、その費用が職務の執行に必要でないことを証明しない限り拒めません(388条)。内紛の調査に弁護士や会計の専門家の助力が必要なら、監査役はこの規定に基づいて費用を会社に求めることができます。
監査の対象は、取締役の職務執行が法令や定款に適合しているかどうかを中心としますが、382条が「著しく不当な事実」も報告の対象としているように、経営判断の当否がまったく視野の外にあるわけではありません。他方で、この権限は監査役の職務の目的と必要性の範囲で行使されるものです。関係のない私的な情報を無限定に集めたり、調査で得た営業秘密や個人情報を特定の株主に流したりするための権限ではありません。監査役が一方の株主グループの情報収集の窓口のように振る舞えば、監査役自身の善管注意義務や守秘の問題を生み、調査の結果の信用性も損なわれます。どの職務のために、何を対象に、どのような方法で調査したのか、その判断の経緯を記録として残しておくことが、監査役自身を守ることにもなります。
報告・取締役会への関与
監査役は、取締役が不正の行為をし、もしくはそのおそれがあると認めるとき、または法令もしくは定款に違反する事実や著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に報告しなければなりません(382条)。取締役会設置会社では、監査役は取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べる義務を負います(383条1項)。報告のために必要があるときは取締役に取締役会の招集を請求でき、請求の日から5日以内に、請求の日から2週間以内の日を会日とする招集通知が発せられなければ、監査役自身が取締役会を招集できます(同条2項・3項)。代表取締役が取締役会を開こうとしない局面で、監査役の招集請求は、取締役以外の者が取締役会を開かせることのできる数少ない経路です。
ただし、監査役は取締役会の構成員ではなく、議決権を持ちません。取締役会議事録には出席した監査役も署名または記名押印しますが(369条3項)、それは決議への賛否を示すものではありません。株主総会でも、監査役という地位から議決権が生じることはありません。監査役が同時に株主でもあるなら、株主としての議決権は別に行使できますが、それは監査役の職務とは切り離して考えます。また、取締役が株主総会に提出する議案や書類を調査し、法令や定款に違反し、または著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告する義務もあります(384条)。監査役設置会社では、取締役が会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときの報告先は株主ではなく監査役です(357条1項)。
違法行為差止めと訴訟代表
取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令もしくは定款に違反する行為をし、またはそのおそれがある場合に、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、監査役は、その取締役に対して行為をやめるよう請求できます(385条1項)。株主による差止めと違い、監査役設置会社の株主に要求される「回復することができない損害」ではなく「著しい損害」で足り、裁判所が仮処分で差止めを命じるときは担保を立てさせないものとされています(同条2項)。この点で、監査役の差止めは株主の差止めより使いやすい制度です。もっとも、差止めの対象となる行為が法令や定款のどの規定に違反するのか、どのような損害が見込まれるのかを具体的に示さなければならないことに変わりはありません。
会社が取締役(取締役であった者を含みます)に対して訴えを提起する場合や、取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、代表取締役ではなく監査役が会社を代表します(386条1項1号)。株主から取締役の責任追及の訴えの提起を請求される場合、いわゆる提訴請求を受けるのも監査役です(同条2項1号)。提訴請求の宛先を誤ると、その後に提起した株主代表訴訟の適法性が争われるおそれがありますから、会社が監査役設置会社かどうかは、ここでも分かれ目になります。提訴請求を受けた監査役は、調査のうえ、会社として訴えを提起するかどうかを判断し、60日以内に提起しなければ株主が自ら代表訴訟を提起できます(847条3項)。会社が60日以内に提訴しない場合、請求した株主から求めがあれば、会社は提訴しない理由を書面等で遅滞なく通知しなければなりません(同条4項)。監査役が動かないと感じたときは、この不提訴理由の通知を求めることで、監査役の判断の根拠を確かめることができます。また、代表訴訟で会社が被告取締役側に補助参加するには各監査役の同意が必要であり(849条3項1号)、会社が取締役の責任を追及する訴訟で和解をするにも各監査役の同意が必要です(849条の2第1号)。
監査役が会社を代表して取締役を訴えるのは、調査の結果、会社の利益のために提訴が必要だと独立して判断したときであり、株主の一派に求められたからではありません。弁護士である監査役が、会社から委任を受けて特定の訴訟事件で会社の訴訟代理人になることは、監査役の兼任禁止の規定に反しないとされています(最判昭和61年2月18日民集40巻1号32頁)。ただし、これは適法かどうかの問題であって、監査役が経営陣の代理人として活動しながら同じ経営陣を監査することの独立性の問題は別に残ります。会社の顧問弁護士が監査役を兼ねている会社では、内紛の局面でその監査役に何を期待できるのかを見極めておく必要があります。顧問税理士が会計限定監査役を務めている会社にも、同じ問題があります。
会計限定監査役にできること
会計限定監査役には、381条から386条までの規定が適用されません(389条7項)。したがって、事業全般の報告を求める権限、取締役会への出席義務と招集請求権、385条の差止請求権、386条の訴訟代表権はありません。しかし、権限がないわけではありません。会計限定監査役は、法務省令の定めに従って監査報告を作成し(389条2項)、取締役が株主総会に提出する会計に関する議案や書類を調査してその結果を株主総会に報告し(同条3項)、いつでも会計帳簿とこれに関する資料の閲覧・謄写をし、取締役や使用人に会計に関する報告を求めることができ(同条4項)、職務を行うため必要があるときは子会社に会計に関する報告を求め、会社や子会社の業務および財産の状況を調査することができます(同条5項)。会計に関する限り、帳簿を見て、説明を求め、現物を確かめる権限はあります。費用の請求に関する388条は、会計限定監査役にも適用されます。
最高裁は、会計限定監査役の任務について、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば常に任務を尽くしたといえるものではなく、会計帳簿が信頼性を欠くことが明らかでない場合であっても、会計帳簿の作成状況等について取締役等に報告を求め、またはその基礎資料を確かめるなどすべき場合があると判断しています(最判令和3年7月19日[出典])。経理担当者による長年の横領を、偽造された残高証明書を信じて見抜けなかった事案です。会計限定だから帳簿と計算書類の突合だけをしていればよい、という理解は、この判決の後では通用しません。資金流用が疑われる内紛では、会計限定監査役であっても、通帳や残高証明書の原本の提示を取締役に求め、帳簿の基礎資料に自ら当たることを権限として行うことができ、場合によっては行わなければなりません。
表は横にスクロールできます。
| 項目 | 業務監査権限のある監査役(監査役設置会社) | 会計限定監査役 |
|---|---|---|
| 調査・報告徴求 | 事業の報告を求め、業務・財産の状況を調査できる(381条2項・3項) | 会計帳簿等の閲覧・謄写、会計に関する報告の要求、業務・財産の状況の調査(389条4項・5項) |
| 取締役会への出席・招集請求 | 出席義務と意見陳述義務、招集請求権(383条) | 適用なし。招集通知の宛先にもならない |
| 取締役への報告義務 | 不正行為等を認めたときの報告義務(382条) | 適用なし |
| 違法行為の差止め | 385条。仮処分に担保不要 | 適用なし。株主が360条で対応 |
| 会社と取締役の訴訟における会社代表 | 監査役が代表(386条1項1号) | 代表取締役が代表。株主総会または取締役会が別に代表者を定めることができる(353条、364条) |
| 株主代表訴訟の提訴請求の宛先 | 監査役(386条2項1号) | 会社(代表取締役) |
| 取締役の著しい損害のおそれの報告先 | 監査役(357条1項) | 株主(357条1項) |
| 株主の差止請求の要件 | 回復することができない損害(360条3項) | 著しい損害(360条1項) |
| 株主の取締役会議事録閲覧 | 裁判所の許可が必要(371条3項) | 権利行使に必要なとき、営業時間内はいつでも請求できる(371条2項) |
| 株主の取締役会招集請求 | 適用なし | 取締役の法令・定款違反やそのおそれを認めるとき、取締役会設置会社の株主に招集請求権と出席・意見陳述権(367条) |
表の右側の欄を見ると分かるように、会計限定監査役の会社では、監査役に与えられない権限の一部が株主に与えられています。監査役の権限が小さい分、株主が自ら会社を監視することが予定されているからです。会計限定の会社で内紛が起きたときは、監査役に期待できることと、株主が自ら行うべきことを、この表で切り分けます。
選任・解任・任期・報酬
監査役は役員であり、株主総会の決議で選任します(329条1項)。定足数を定款で3分の1未満に引き下げることができない点を除けば普通決議です(341条)。ただし、取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、現に監査役がいる場合、その監査役(2人以上いるときはその過半数)の同意が必要です(343条1項)。監査役は、取締役に対して監査役の選任を株主総会の目的とすることや議案の提出を請求することもできます(同条2項)。多数派が自分たちに近い人物を監査役に加えようとしても、現任の監査役が同意しなければ取締役はその議案を提出できません。これは監査役の独立性を守るための規定で、各監査役に常に個別の拒否権があるという意味ではありませんが、監査役が1人だけの会社では、取締役会経由の選任にはその監査役の同意が必要になります。ただし、343条は取締役が議案を提出する場合の規定であり、株主が株主提案権(303条、304条)によって監査役の選任議案を提出する場合には監査役の同意は不要と解されています。現任監査役の同意が得られない多数派は、この経路をとることになります。取締役と異なり、監査役の選任には累積投票の制度がありません(342条参照)。少数派が自派の監査役を送り込む手段としては使えず、公開会社でない会社で監査役の選任権を付した種類株式(108条1項9号)を設けているような場合を除けば、少数派が監査役の人選に関与する制度上の手段は限られています。
監査役はいつでも株主総会の決議で解任できますが、その決議は特別決議です(339条1項、309条2項7号)。解任された監査役は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できます(339条2項)。監査役は、株主総会において、自らの選任、解任または辞任について意見を述べることができ(345条4項・1項)、辞任した監査役は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して辞任の理由を述べることができます(同条4項・2項)。監査役が取締役の不正を指摘したことへの報復として解任や辞任の強要が行われれば、その経緯は総会の場で明らかにされ、損害賠償の根拠にもなります。監査役の職務執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があるのに解任議案が否決されたときは、議決権または発行済株式の3%以上を持つ株主(公開会社では6か月前から引き続き保有する株主)が、その株主総会の日から30日以内に解任の訴えを提起できます(854条1項)。解任によって監査役が欠けた場合、任期満了や辞任と違って権利義務監査役の規定(346条1項)は働きませんから、取締役会設置会社では、次の監査役が選任されるまでの間、裁判所に一時監査役の選任を申し立てることを検討します(同条2項)。
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までで、公開会社でない会社では定款で10年まで伸長できます(336条1項・2項)。長期の任期を定めている会社では、監査役の任期満了のタイミングが内紛の局面で重要な意味を持つことがあります。監査役は、その会社や子会社の取締役、支配人その他の使用人などを兼ねることができません(335条2項)。監査役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で定め、監査役が2人以上いる場合に各人の額の定めがないときは、その範囲内で監査役の協議によって定めます(387条1項・2項)。監査役は株主総会で報酬について意見を述べることができます(同条3項)。取締役が監査役の報酬を決めることはできず、報酬を通じて監査役を従わせる運用は制度の趣旨に反します。
監査役が動かない場合、動きすぎる場合
株主が監査役に調査や差止めを求めたのに監査役が動かない、という相談は少なくありません。監査役に働きかけるときは、どの取締役のどの行為が、法令や定款のどの規定に違反し、会社にどのような損害を生じさせるおそれがあるのかを、資料を添えて具体的に示します。「経営がおかしい」という抽象的な訴えでは、監査役も職務として何をすべきかを判断できません。それでも期待する対応が得られないときは、株主自身の権利、すなわち会計帳簿の閲覧謄写、取締役の違法行為の差止め、取締役会議事録の閲覧、株主代表訴訟などを別に検討します。株主総会では、株主は監査役に対しても議題に関する事項の説明を求めることができますから(314条)、監査の内容を総会の場で直接質すこともできます。監査役が動かないこと自体を理由に、株主が監査役の権限を代わりに行使できるわけではありません。
監査役が任務を怠り、それによって会社に損害が生じたときは、監査役は会社に対して損害賠償責任を負い(423条1項)、職務について悪意または重大な過失があれば第三者に対しても責任を負います(429条1項)。「名義だけの監査役で、実際には何もしていなかった」ことは免責の理由になりません。上場会社の代表取締役が会社の資金を使途に反して流出させていた事案で、非常勤の社外監査役について、そのような行為に対処するための内部統制の整備を助言または勧告すべき義務と、代表取締役の解職を助言または勧告すべき義務を怠ったとして任務懈怠責任を認めた裁判例があります(大阪高判平成27年5月21日判時2279号96頁)。この事案では、差止請求をしなかったことは義務違反とされず、重大な過失もないとして責任限定契約による限定(報酬2年分)が認められましたが、異変に気づいた監査役が何もしなければ責任を問われることを示しています。会社は、定款の定めに基づき、監査役との間で責任限定契約を締結できますが、これは監査役が善意でかつ重大な過失がない場合に限って働くものです(427条1項)。
逆の問題もあります。監査役が特定の株主グループの指示で動き、調査で得た情報をその株主に渡したり、根拠の乏しい差止請求や告発を繰り返したりすれば、それ自体が監査役の任務懈怠や、会社に対する信用毀損の問題になり得ます。監査役に協力を求める側も、監査役が自らの職務として判断できるように資料と論点を整理して提供するにとどめ、監査役を自派の手足として扱う姿勢は避けます。
PRACTICE NOTE
会計限定かどうかで手段が変わる
登記事項証明書に監査役の氏名が載っている会社について、株主から「監査役に取締役の行為を差し止めてもらいたい」と相談を受けたとします。最初に確認するのは、その会社の定款に監査の範囲を会計に限定する定めがあるかどうかです。第1節で述べたとおり、定款の明文、整備法によるみなし、登記の猶予の三つを確認しなければ、登記に記載がないことは決め手になりません。会計限定であれば、その監査役に385条の差止めや386条の訴訟代表を求めることはできず、株主自身が360条1項によって差止めを請求することになります。監査役設置会社であれば、株主の差止めには「回復することができない損害」が必要になる一方で、監査役に385条の差止めを働きかける道が開けます。
同じ確認は、取締役会議事録の閲覧に裁判所の許可が要るかどうか(371条3項)、取締役会の招集を株主が請求できるかどうか(367条)、株主代表訴訟の提訴請求をどこに送るか(386条2項1号)にも直結します。一つの請求だけを見て動き出すのではなく、「定款の監査範囲を確定する、会社法上の会社類型を確定する、使える条文を確定する」という順序で検討します。会社類型を取り違えたまま提訴請求や差止めの申立てをすると、手続のやり直しに時間を費やすことになります。
実務チェック
- 監査の範囲を、登記、現行定款、会社法施行時の資本金・負債額、定款変更の履歴から確定する。
- 監査役に求める調査の対象と、会社に生じる損害を、資料を添えて具体的に伝える。
- 監査役が受け取り、共有する情報は職務上の必要な範囲に限定する。
- 提訴請求の宛先、差止めの要件、議事録閲覧の許可の要否を会社類型ごとに確認する。
- 取締役経由の監査役選任には現任監査役の同意が要ること、解任は特別決議で正当な理由がなければ損害賠償の問題が生じることを踏まえて動く。
- 提訴請求から60日を経過したら不提訴理由の通知を求め、会社の補助参加や和解には各監査役の同意が要ることを確認する。
よくある質問
会計限定監査役は、資金流用を調べられませんか。
調べられます。会計帳簿とこれに関する資料の閲覧謄写、会計に関する報告の要求、会社や子会社の業務および財産の状況の調査は、会計限定監査役にも認められています(389条4項・5項)。通帳や残高証明書の原本の提示を取締役に求め、帳簿の基礎資料に当たることは、会計監査の範囲内です。最高裁も、帳簿と計算書類の突合だけで任務を尽くしたことにはならない場合があるとしています。ただし、業務監査権限のある監査役と同じ差止請求権や訴訟代表権はありませんから、流用が判明した後の是正は、株主の差止めや代表訴訟、取締役会での解職といった別の手段につなぐことになります。
監査役を味方にすれば、裁判で有利になりますか。
監査役は会社の利益のために独立して判断する機関であり、特定の株主の指示に従う立場ではありません。監査役が適切に調査を行い、その結果が記録として残れば、事実の解明に役立つことはありますし、監査役設置会社では監査役の差止請求や提訴の判断が争いの帰趨に影響することもあります。しかし、監査役が一方の株主の意向どおりに動いたという経緯があれば、その調査結果の信用性は下がり、監査役自身の責任の問題にもなります。監査役に対しては、判断の材料となる資料と論点の提供にとどめてください。
多数派の株主ですが、監査役を交代させたいと考えています。
現任の監査役の同意がなければ、取締役は新しい監査役の選任議案を提出できません(343条1項)。株主提案の形で選任議案を出せば同意は不要と解されていますが、現任者を辞めさせるには解任が必要で、解任には株主総会の特別決議を要し、正当な理由がなければ監査役から損害賠償を請求され得ます(339条2項)。監査役は総会で解任について意見を述べることができますし、解任後は権利義務監査役の規定が働かないため、取締役会設置会社では監査役が不在の期間が生じ、一時監査役の選任の申立てが必要になることもあります。任期満了に合わせて後任を選任する方法が最も摩擦が少なく、その場合も取締役が議案を出すなら現任監査役の同意が要ります。どの経路をとるかで、手続と紛争の形が変わります。
この講の主な根拠条文・裁判例
- 会社法〔e-Gov法令検索〕2条9号、108条1項9号、303条〜304条、309条2項、314条、327条、329条、335条〜336条、339条、341条〜343条、345条〜346条、353条、357条、360条、364条、367条、369条、371条、381条〜389条、423条、427条、429条、466条、847条、849条、849条の2、854条、911条3項17号、976条
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〔e-Gov法令検索〕24条(特例有限会社の監査役)、53条(旧商法特例法上の小会社の監査役に関する会計限定のみなし規定)
- 京都地方法務局「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の登記について」〔法務局PDF〕平成27年5月1日施行の登記事項化と経過措置
- 最判昭和61年2月18日民集40巻1号32頁弁護士である監査役が会社から委任を受けて特定の訴訟事件の訴訟代理人となることは、監査役の兼任禁止の規定に反しないとした判例
- 大阪高判平成27年5月21日判時2279号96頁代表取締役による会社資金の不当な流出について、社外監査役の内部統制整備の助言・勧告義務および代表取締役の解職の助言・勧告義務の違反を認めつつ、責任限定契約の適用を肯定した裁判例
- 最判令和3年7月19日・会計限定監査役の任務〔裁判所ウェブサイト〕会計限定監査役は、計算書類等が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば常に任務を尽くしたといえるものではなく、会計帳簿の作成状況等について取締役等に報告を求め、または基礎資料を確かめるなどすべき場合があるとした判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日